吸血姫と元勇者と最古参の過去
「も.......元恋人おっ!?それって.......え?ヴィネルさんとフルーレティア様があっ!?」
「ほ、本当に.......?」
「本当じゃぞ。昔は、それはもうところ構わずイチャイチャと.......」
「ちょっと、嘘つかないで!ヴィネルが一方的にワタクシに引っ付いてきただけよ!」
「.......レティ?魔王様にそんな無礼な言葉遣い.......お仕置きを増やされたいですか?」
「ゴメンナサイ」
.......この二人が?
なんというか、恋人っていうより.......主従関係?
「.......フルーレティア様ってMだったんですか?」
「違うわよ!?」
「あら、そうだったんですか?それならそうと言えばいいのに.......鞭で叩いてあげましょうかねぇ」
「結構です。あと、そろそろどいてくれないかしら、ヴィネル」
「おやまあ、うちの現最強二人をこんなに傷だらけにして、まだ反省していないんで.......」
「このままで大丈夫です!反省してますので!」
.......。
「魔王様、ご説明をお願いしても?」
「ボクもちょっと興味あります」
「うむ。こやつらはな、数百年程前まではたいへん仲がよかったのじゃ。そして、やがて二人はなんやかんやあって付き合うようになってな」
「そのなんやかんやが気になるんですけど」
「じゃが、恋人になってから、異変は起こったのじゃ」
「なんやかんやの詳細は.......いえ、続き気になるからやっぱいいです」
「恋人になってから分かったことなんじゃがな。.......ヴィネルがショタコンでロリコンなことは知っておろう」
「そりゃまあ」
「有名な話ですね」
ヴィネルさんのショタロリ属性は、魔王軍でもかなり浸透している話だ。
「付き合い始めた当初は、フルーレティアはこんなに大人びた姿ではなくてな。精々が妾と同い年くらいの外見じゃった」
「なんかもうオチが見えた」
「そしてその姿は、ヴィネルのどストライクだったらしくてのう.......それで、ヴィネルはフルーレティアを誰にも渡すまいと、得意の魅了魔法を改良し、惚れ魔法を完成させ、それをフルーレティアに使ってこやつを自分がいなければ生きていけない、というレベルまで惚れさせて.......」
「想像してたオチの三十倍くらい濃い話が出てきた!?」
魅了魔法は、ヨミの姉であり既に死んでいるミィアも得意としていた魔法であり、対象を自らの命令をなんでも聞くレベルまで籠絡する魔法。
確かにあれを改良すれば、惚れ魔法くらいは出来そうなものだけど.......。
てかヴィネルさん、まさかのヤンデレ属性!?
「.............え?じゃあ、フルーレティア様.......ヴィネルさんがいないと生きていけないレベルまで、ヴィネルさんに惚れてるんですか?」
「今は違うわよ!《異界結界》を完成させて、魔法封じを試した時に、一緒に惚れ魔法も解けたのよ.......」
ああ、なるほど。
それで、自分に魔法をかけていたヴィネルさんをこんなに恐れているのか。
「な、なんだか凄い話だね、リーン.......」
「私はヴィネルさんが今回の件で一気にティアナさん以上に恐ろしくなったよ」
惚れ魔法で究極地点まで強制的に自分に惚れさせる人よりは、まだあの天然無自覚ドSの方がマトモだわ。
「お、お話はわかりましたけど.......一つだけ分からないことが」
「む?なんじゃ?」
「ヴィネルさん.......どうやって、フルーレティア様の結界を破ったんですか?」
そう。
確かにヴィネルさんはとびきり優秀だけど、フルーレティア様よりも強いかと聞かれれば答えはノーだし、なんなら魔王軍幹部でも下の方のはずだ。
フルーレティア様の最上位結界を破れるほどの力があるとは思えない。
「あー.......それな.......その、なんじゃ.......」
ん?なんだ?
魔王様が言い淀むなんて珍しい。
「《異界結界》は、あれはですねぇ。あらゆる魔法を消し去ることが出来ますが、例外があるんですよ」
「「例外?」」
「はい。精神魔法というのは、永続タイプの魔法は、かけている時間が長ければ長いほど、効果が強まっていきますよねぇ?」
「そうですね」
「つまり、超長いことかけていた魔法は、もう完全に.......術者である私ですら解けないほどに、体に浸透してしまうんですよ」
.......なんだろう。
この続きを聞いたらなんかやばい気がする。
「この子には、随分と長いこと魔法をかけていましたからねぇ.......。もう、《異界結界》でも消しきれないほど、魔法の残滓が残ってしまってましてねぇ?惚れ魔法、及び魅了魔法の効果が、まだレティにも適用出来てしまうんですよねぇ」
.......ダメだ嫌な予感しかしねえ。
「そのせいで、レティってば.......」
「.......ヴィネルの言葉とか思念、 .......そういったものに逆らえないのよ、ワタクシ.......」
ただの主従関係じゃないすか。
「それで、私がこう願うんです。『レティ、結界を解いて?』って。そうしたら解けます」
「ワタクシの意思とは関係なくね.......」
なんて哀れな。
「まあ、とはいえ、ここまで外見が成長しちゃったレティじゃ、私は萌えませんからねぇ。この子が引退して、竜人族の街に帰るって言うので、それを機会に別れて、今に至るわけなのですよ」
「.......どうしようリーン。ボク、一瞬だけヴィネルさんのこと、『うわっ、最低.......』って思っちゃった」
奇遇だね、私もだよ。
※※※
「というか、フルーレティア様のことを『レティ』って呼んでたり、昔のことを知ってたり。もしかしてヴィネルさんって.......」
「あら、言ってませんでしたかねぇ?私はレティと同じ、最古参の魔王軍幹部の一人ですよ」
ああ、やっぱり。
「ふむ、懐かしいのう。あれから早数百年.......かつて、あんなに少なかった魔王軍が、今はこんな大規模なものになるとは思わなんだ」
「悪魔族と魔人族、アンデッド族しか、仲間にいませんでしたねえ。それに加えて、私とレティ、魔王様。.......それに、ディーシェにフラン。今も楽しいですけど、あの頃もやはり、良いものでしたねぇ」
「.......ワタクシ、殆どヴィネルに襲われた思い出しかないのだけれど」
すごい気になるなその話。
名前的に全員女の人みたいだけど.......五人の女魔族が、どうやって魔王軍を作ったのかとか、一本小説が書けそうじゃん。
その後、思い出話に花を咲かせ始めてしまった三人。
話に混ざるのも無粋と考えたので、私とヨミは静かに.......
.......ん?
「ねえ、ヨミ。私、なーんか忘れてる気がするんだけど.......気のせい?」
「あれ、リーンも?実はボクも、すごく重要なことを忘れてる気がしてさあ」
「だよね?なにを忘れてんだっけ?」
「.......さあ?」
んん?
いや、すごく大切なことだった気がするんだけど.......。
なんだ.......?
.......。
「.......あああっ!?」
※※※
―――ドォォォォオオオオオン!!!
破壊系魔法の雨あられが、結界の解けた扉に向かって放たれていく。
放っているのは私。
「ええい、とっとと出てきなさい、往生際が悪い!!魔王軍幹部としてのプライドを持て、早く出ないと扉ぶっ壊すぞこら!」
「リーン、一応相手は先輩だからね!?口悪いし、なんなら現在進行形で扉ぶっ壊しかけてるから!」
「嫌だあ!やめてくれ、リーン、ヨミ!ワレはもう嫌だ!幹部なんてやめる!もう負けたくないんだもん、ワレ!」
「なーにが『負けたくないんだもん』だ気色悪い!あんたが引きこもったせいで、フルーレティア様に私とヨミがどんだけ痛めつけられたのかわかってんのか!おら、扉から離れんかいボケ!」
「リーン、抑えて抑えて!」
そうだよ、私達は何やってたんだ。
このバカ引きずり出すのが、元々の目的だったじゃん!!
「ひいいい!リーン、頼む!そうだ分かった、ワレが作った陶器をやろう!ワレの炎で作ったオーダーメイド品だ、ヨミも是非.......そ、それで何とか.......」
「「いるかあああ!!」」
―――ドゴォォォォオオオオオン!!!
よっしゃ壊れた。
「うわあああ!助けてぇぇぇぇ!」
「観念しなさい!貴方が戦場から抜けたせいで、どんだけの迷惑被ったか分かってんのかコラ!ほら、とっとと行きますよ、このまま戦場に直行しますから!ほら、ヨミも行くよ!」
「分かった。ほらルーズさん、そろそろ覚悟を決めてください」
「嫌だああ!フルーレティア様、助けてくれ!もう戦場なんて行きたくない!ワレは部屋と結婚するんだあああ!」
「そうですか、それなら部屋に引きこもっててください、戦場のど真ん中に転移させて差し上げましょうか!?」
※※※
「そういえばフルーレティアよ。何故、主はあんなにルーズのことを気に入っとったんじゃ?」
「えっ?.......そ、それは.......その.......」
「簡単ですよ、魔王様。ルーズの性格やらなんやかんやを、全て反転させてみてください」
「むっ?.......ふむ。本能に忠実、短絡的、暴力が得意、男.......反転させると.......理性的、慎重、解析が得意、女.......おお、なるほど。見事にヴィネルじゃな」
「恐れている私と真逆なのが、安心だったんですねぇ?レティ?」
「ヒイッ.......」
ぶっちゃけヴィネルはクズなところがあります。
そういう所も含めて作者は結構好きです。