吸血姫&元勇者vs界断将3
「さて.......リーンちゃんは気絶しちゃったし、起きるまでは貴方一人ね。どうする?降参して、このまま立ち去るって言うなら.......」
「いえ、そんなことしませんよ」
なんでリーンが気絶しちゃったのかは分からないけど、多分そう長くないうちに起きるはず。
なら、それまでボクがリーンを守っていれば、月の加護が発動したリーンと一緒ならこの人にも勝てる。
ここで降参なんてありえない。
まあ、もう一つ、降参出来ない理由はあるけどね。
「ふーん.......?じゃあいいわ、ワタクシが相手ええっとあっぶなああっ!?」
近づいてきたので、手に持っていたディアスを、回転させながら投げた。
ギリギリで避けられたけど.......避けたってことは、魔剣ディアスの特性を知ってるってことか。
魔剣ディアスの特性の一つ、防御貫通。相手の防御のステータスを、完全に無視してダメージを与えられる。
今避けなければ、左肩をディアスが斬り落としていたはず。
飛んで行くディアス.......だけど、ボクはそれより速く動けるから、普通に回り込んでキャッチした。
「お、恐ろしいことする子ね.......普通、神器を投げる!?」
「まあ、ボクも、普段はこんなことしません。こんな事しなくても、《飛撃》で事足りますから。.......でも、貴方にはこれくらいの事しないと、勝てないですよね?」
ボクは、この人に、なんとしても勝ちたい。
「正直.......ボク、なんの恨みもないフルーレティア様に剣を向けるって、ちょっと抵抗があったんです。その迷いが、ボクを若干鈍らせていたのかもしれません。.......けど、今ならそんな迷いは無い」
そう、ボクは.......
「.......何が言いたいのかしら?」
「アハハ、簡単ですよ。.......無礼を許してくださいね」
「.......よくも、ボクの親友を傷つけたな」
ボクは、怒ってるんだ。
「ふ、ふふふ.......そうね。じゃあ、仇を取ってみなさいな!現魔王軍最強の力、見せてもらいましょうか!」
「言われずとも、見せますよ.......!」
※※※
「はっ!」
「あぶなっ.......!」
「てあ!」
「ぐっ、《反射結界》!」
跳ね返ってきたボクの斬撃を、体を捻って躱して、再び何度も剣を振るう。
《反射結界》は、一度使うと、その後の発動までに二十秒程度のタイムラグがある。多分、術式編纂が面倒な魔法なんだ。油断さえしなければ、ボクなら対処出来る。
「ふうっ.......貴方、本当に人間なの?正直、現役時代ですら、ここまで苦戦した経験は片手で数え切れるほどしかないわよ?」
「不本意なことに、れっきとした人間です。そちらこそ、ボクが今まで戦ってきた中では、準最強ですよ」
これは本音だ。
ステータスはほぼ互角、ボクには剣があり、あちらには結界がある。条件はほぼ互角なはずなのに、ボクが全力なのに対して、フルーレティア様はまだ若干余裕があるように見える。
つまり、ボクが押されている。こんな感覚は久しぶりだ。
けどフルーレティア様はその返答が気に入らなかったようで、
「.......準?ワタクシより強い者がいたのかしら?」
と、聞いてきた。
そりゃ、勿論.......
「ここにいるリーンですよ。半月より上の月の加護があるリーンなら、ボクや貴方よりも強い」
「ああ.......なるほどね。確かに、吸血鬼の月の加護は凄まじく厄介だわ。フィリスがそうだったもの。懐かし.......」
隙あり!
「ちょっ.......!危ないわね!?堂々と隙を突いて来たわね!」
「生憎こっちは、悪逆非道の魔王軍最強ですから。どんな手を使ったって勝ちに行きますよ」
「本当に、怖い子ねっ.......!」
そして再び、ぶつかり合いが始まった。
ボクの横薙ぎをバックダッシュで躱したフルーレティア様が、ボクの剣を足でかち上げて、もう一方の足で蹴りを入れてきた。
ジャンプして回避したボクは、そのまま一回転しながら斬りつける。
横ステップで回避したフルーレティア様は、ボクの着地地点に拳を放ってきた。
それをボクはディアスの刃を向けて中止させ、そのまま腕を引っ込められる前に腕を斬り落とそうと試みる。
けど刃と同じ速度で回転されて斬り損ねて、逆に剣を持つ腕を両足で掴まれ、そのまま腕に取り付かれた。
「くっ.......!?」
「やっと捕まえた.......!流石最強の剣士、ここまで油断出来ないとは思わなかったわ。けど、ワタクシの勝ちよ。このまま腕をへし折られたくなければ、降参なさいな!」
「誰、が!」
右腕を折られたって、左腕で剣を振るえばいい。
そっちも折られたら、口でも足でも、なんでも使って剣を持つ。
四肢の一本くらい、くれてやるさ。
「腕くらい持っていけば!?最終的に勝つのはボク達だからね!」
「威勢のいい事ね!けど、勝つのはワタクシよ!」
腕を折られたら、一瞬相手は力を抜くはず。
その隙にディアスを手放して左手に持ち替えて、そのまま斬ってやる!
「ぐうううう!」
「ふふふ、腕を折られるっていうのは、痛覚に対する耐性が低い若い子はキツいわよね!ちゃんと綺麗に折るから安心して.......」
「あのさあお二人さん、私の事忘れて盛り上がらないでくれない?」
気がつくと、フルーレティア様はボクの腕から離れて、距離を取っていた。
そして、耳からは血が.......!
「痛た.......!もう、だから吸血鬼の爪は嫌なのよ!ちゃんと切ってって言ってるのに!衛生的にもよくないでしょう!?」
「仕方ないじゃないですか、切っても切っても生えてくるんですから。しかも尖って」
この声は.......!
「リーン!」
ボクの相棒であり、恩人であり、親友。
リーンが、数分の時を経て復活していた。
「リーン、無事だったんだね!体、大丈夫!?」
見た感じ、ダメージはそれほどでもなさそう。
良かった.......
「.............あ.......う、うん.......だ、大丈、夫.......」
ん?
どうしたんだろう、なんだか様子が変だ。
ボクに目線を合わせないし、何となく顔が赤い気が.......
「ど、どうしたの?なんか.......変.......まさか病気!?それとも、さっきの攻撃のダメージが!?」
「あ、い、いや.......ヨミ.......近っ.......!ああ.......」
(ワタクシは何を見せられてんのかしら.......)
「.......んんっ!.......ヨミ、心配させてごめん。もう大丈夫」
「そ、そう?それならいいんだけど.......」
まだ若干顔は赤いけど、体幹もしっかりしてるし、問題なさそうだ。
「フルーレティア様、お待たせして申し訳ありません。そして、ここからは、再び二人で挑ませてもらいます」
「ええ、構わないわよ。ご夫婦でどうぞ」
「?夫婦って.......なんのこと?」
「ふ、ふふ、ふう、ふう、夫婦うううっ!?いいいいや、落ち着け私.......あれは作戦.......こうやって私の心を掻き乱して戦力を落とす作戦.......!落ち着け.......明鏡止水.......泰然自若.......沈着冷静.......」
(別にそういう意図は無かったのだけど.......)
「ど、どうしたのリーン!?なんかやっぱりおかしいよ!?」
(絶対あの子、心の中で『貴方のせいでしょ!?』とか叫んでるわね)
「だだだ、大丈夫.............ふう。さて、改めて.......お待たせしました、フルーレティア様」
「顔真っ赤よ」
「うっさい!.......です!」
※※※
「ふふふ.......まあいいわ。どうぞお二人でかかってらっしゃい?.......私の全力を持って相手してあげるわ」
「リーン、気を付けてね.......あの人、ボクよりも遥かに強い」
「分かってるよ、ヨミ。.......あ。フルーレティア様、たった今、貴方にとって悲報が出来ました」
「.......何かしら?」
「日没です」
「あらあら.......月の加護が働いてしまうわね。確かに感じるわ、貴方が強くなっていく雰囲気を」
「そうですか?.......では、最終ラウンドですよ。.......大先輩にこういう無礼を言ってはなんですが.......全力でぶっ潰す」
「ふふふふふ.......そう来なくちゃね!さあ、かかってらっしゃい!」
いつも感想など、ありがとうございます。
結構多くて全部に返せませんが、全て目を通してます!