吸血姫&元勇者vs界断将2 陥落
「それそれぇ!」
「ぐうっ.......!」
フルーレティア様の猛攻に、私は完っ全に防戦一方だった。
天眼アルスの未来予知と読心が無ければ、とっくの昔にやられていた。
必要最小限の動きで、かつ距離を取りつつ、隙があればカウンター、という戦法を取ってるけど.......ダメだこの人、隙を全く見せない。
武術の心得も怪物級だ。これ、体術勝負だけでも、グレイさんと良い勝負出来るんじゃないの?
「どうしたの、リーンちゃん?攻撃しないと勝てないわよ!」
「今攻撃なんかしたら、腕持っていかれる、でしょうっ!」
反撃しようとしても、逆にやられる未来が、天眼アルスを通じて私には見えてるいる。
厄介すぎるし強すぎるわ、この人。
ヨミは.......
「グルウウウウウウ!」
「こいつ、速っ.......!?きゃっ!」
.......まだダメそうだ。
月の加護が働く日没まで、あと十五分。それまで、一人でこの人を捌くしかない。
「いや.......無理くね?」
※※※
危ない場面も多々ありながらも、なんとか十分、時間を稼いだ。
ヨミは.......もうすぐ終わるかな?少しでも目線をそらすと隙を突かれるので、ヨミの方をみている余裕流石に無い。
けど、私もアルスの力を用いてすら、何回か攻撃を受けてしまった。
「うん、大体理解したわ。リーンちゃんの動きの癖とか、神器の使い方とかね。.......次で決めるわよ?」
「.......それは怖い。でも私、結構強いですよ?」
「それは分かってるわよ。何せ、あのフィリスが選んだ子だもの。.......でも、リーンちゃんが四魔神将第二席に選ばれているのは、月の加護を含めた戦闘力を考慮してのこと。昼間や新月、屋内、曇り空の時の強さは、末席のグレイちゃんにも劣る。.......なら、あっちのヨミちゃん程は警戒する必要は無いと思わない?」
.......悔しいけど正論だ。
昼間の私の平均ステータスは、2万強。ヨミやグレイさんには全く及ばない。
日没まであと.......五分か。それまで凌げるか?
未来予知で予測しつつ、読心で何を考えてるか読み取り.......それで漸く、今までギリギリ凌いできた。
今夜は三日月。強化率は二倍。心許ないけど、ヨミと一緒に戦えば多分勝てる。
けど、この人に、身体強化魔法を失ったヨミ、魔法を封じられた私が一人で勝てるかと聞かれれば、答えはノーだ。
つまり、私がここで負けたら、必然的にヨミも多分負ける。
「申し訳ありませんが、相方は極力痛めつけて欲しくないので.......耐えさせて貰います」
「あらあら.......ヨミちゃんの事が大好きだって話は聞いてたけども」
おい、こんなところまでその話広がってんの!?
「じゃあ、月の加護に働かれると面倒だし、早めに終わらせるわよ.......はあっ!」
「っ!?危なっ.......」
突っ込んで来て脇腹を狙ってきたフルーレティア様を、体を捻って回避。
そのまま左手で手刀を繰り出そうとしていたので、しゃがんで避け、脚でのスタンプも首を曲げて避け、そのまま地面を蹴って距離を.......
「はい、捕まえた♪」
「!?足.......!?」
距離を取ろうとした瞬間、足が動かないことに気づき.......見ると、足に謎の透明な四角い物体が取り付いていた。
これは.......
「結界.......!?小規模な結界で、私の足を固定するなんて.......!」
「そう、事前に罠をしかけておいたの。.......天眼アルスをかつて使っていたのはワタクシよ?その弱点も全て知っている」
そう。
私は、自分が動けなくなる未来は見えていたし、心を読んで、それをフルーレティア様が狙っているのも知っていた。
.......けど、その『方法』が分からなくて混乱し、結局捕まってしまった。
「天眼アルスによって見える未来は、貴方が今見ている視点の場面の未来。つまり、今現在の貴方の視界に入ってない部分に罠を仕掛ければ、未来予知の性能は半減する。.......読心は言わずもがなよね。あれ、断片的にしか心を読み取れないもの」
「ぐっ.......!こんなもの、すぐに.......」
「ええ、一分もあれば貴方なら破壊出来るわ。ただ.......その間、ワタクシが何もしないとでも?」
「っ.......!ああ、もう!」
.......ごめんヨミ、これは無理だわ。
流石に、この場から動かずにこの人を捌く自信はない。
.......極力時間は稼ぐから、その間にその魔獣は倒して。
「.......次は絶対負けませんから」
「あら怖い。.......じゃあ、行くわよ」
そして、フルーレティア様は襲いかかってきた。
予知によって全て先読みして、急所を狙った攻撃を優先的に捌いて細かい攻撃は無視して受けた。
.......けど、流石に急所狙いの攻撃が多すぎて、捌ききれなくなった。
三十秒。それが、私がフルーレティア様を凌げた時間だった。
ついに未来予知を駆使しても捌ききれない攻撃が私を貫き、鳩尾に拳が入った。
「がっ.......」
「ここまで凌がれるとは思わなかったわ。.......また頑張ってね、リーンちゃん」
ああ.......ごめん、ヨミ。月の加護が無いと、こんなに弱くて、ごめん.......。
そして、フルーレティア様が、私を気絶させようと、首元に手刀を.......
「やらせる、かあああ!」
「なあっ!?」
「えっ?.......ヨミ?」
その手刀は、ヨミのディアスによって防がれていた。
「なっ.......あの魔獣は!?」
「もう倒したよ!」
慌ててヨミがいた方を見ると.......完全に縦に一刀両断された、虎の魔獣が目に映った。
「平均ステータス2万を超える超上級の魔獣を、身体強化魔法無しでこの短時間で.......どうやら、まだ過小評価していたようね.......流石、現魔王軍最強と言うべきかしら」
どうやら、フルーレティア様の警戒はヨミに移ったっぽい。
今のうちに足の結界を.......
「リーン、大丈夫?」
「う、うん。.......ありがとう、助けてくれて」
「今のうちに足の結界、壊しちゃって。もうすぐ日没だから、それまで時間を稼いでおく」
「け、けど.......!」
それじゃ、ヨミが.......
「大丈夫。リーンはボクが守るから」
え?
.......えっ?
.............えっ???
.......誰?
誰なの、この、私に微笑みかけてるイケメンは?
あの可愛くて愛らしいヨミは一体何処へ?
私に「守ってあげなくちゃ」って思わせていた、あの美少女は何処へ行っちゃったの?
.......え、なに。なんなの、この気持ち。心が外側から引っかかれるような、人格がねじ曲げられるような、この滅茶苦茶な気持ちは。
可愛かったヨミが、かっこいいヨミに変貌して、でも顔は可愛くて、けど顔つきはかっこよくて.......
えっ、あ.......好き.......
「.......はう」
「え?.......ちょっ、えっ!?リーン!?」
「うわー.......この子、噂に聞く天然タラシってやつね.......初めて見たわ.......」
「リ、リーンに何かしたんですか!」
「いや、ワタクシじゃなくて貴方がね.......まあいいか.......」
そんなやり取りを、頭が理解出来ないままに聞いて、私はそのまま意識を手放した。
タイトルに「陥落」って付けたんですけど。
陥落したのはリーンでした。ヨミに。
おっかしいなあ.......こんなにバリバリの百合作品にするつもりなかったのに.......