表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/248

吸血姫と元勇者と最古参

 竜人族の街は、魔族の国の首都『パンデモニウム』から数百キロ離れた、谷の下にある。

 未だ訪れたことがなくて転移出来なかった私とヨミは、一度行ったことがあるというフェリアさんに頼んで、転移してきて貰った。


「.......では、私は戻るぞ。武運を祈る」

「え、フェリアさんは行かないんですか?ここまで来たら観光がてら一緒に来ては?」

「すまないな、仕事が残っている。.......それに万一、フルーレティア殿に目をつけられたら.......」


 ブルッと身を震わせて、慌てるように転移の準備をするフェリアさん。本当にどんな人なのだろうか。



 ※※※



 最古の魔王軍幹部の一柱、フルーレティア。

 魔王軍発足から百年以上を魔王軍の為に尽くし、数多の戦果を上げた、魔王軍の英雄的存在。

 その鬼気迫る強さについては、魔王様より聞いていた。


 竜人族は種族進化が頻繁に起こる、珍しい種族。生まれた時は皆『下位竜人』だけど、そこから中位、上位と上がっていく。竜人族の種族進化の条件は極めて単純、『一定以上強くなること』。

 ただし、レベルリミッターまでレベルを上げてしまえば、それ以上は地道なトレーニングしか強くなる方法はない。そのため、生涯を中位竜人で終える者が殆どだとか。

 ルーズさんは幹部以上の中では私とヨミに次いで歳若い.......未だ二十代の若者にも関わらず、上位竜人に進化している強者。竜人族の大半が、中位竜人でレベルリミッターへと至り、上位への進化を断念する中で、天才の部類に入るだろう。


 .......だけど実は、この話には続きがある。

 竜人族の寿命は、約三百年。それなりの長命種だけど、千年を生きる吸血鬼族や、ほぼ無限を生きる妖精族に比べれば早死の部類だ。

 けどそこに例外があり、上位竜人まで進化した竜人は、極々稀に、死の直前.......『古竜』という、超上位の種族に進化し、全盛期の肉体を取り戻し、数千年の寿命を得るらしい。



「.......その古竜が、フルーレティア様.......なんだよね?」

「らしいよ。その後は暫く魔王軍幹部に復帰して無双してたけど、やがて引退して、後進の若手を育てる立場になったんだって言ってた。.............で、今は何故かルーズさんのメイドやってんだってさ」

「.......なんで?」

「.......知らない」


 ダメだ、どんなに経歴を回想しても、ルーズさんのメイドになる要素が見当たらない。

 竜人族にたった一人しかいない古竜ともなれば、吸血鬼にとっての『真祖』、つまり魔王様みたいに、現人神のような存在として崇め奉られてもよさそうなのに。


「.......まあ、取り敢えず街の中に入ろうか。ここにいてもあれだし」

「そうだね。私達が四魔神将だってのはすぐに分かるはずだから、早々に偉い人に会わせてもらえるだろうし」



 ※※※



 予想通り、街の検問で私達の顔を知っていた人が、上に通達してくれて、すんなりと街の中心、竜皇が住まう屋敷に通してもらえた。


「ようこそいらっしゃった、リーン殿、ヨミ殿。私が竜皇、ヴァベル・ドラグレイだ。息子が世話になっている」

「いえ、こちらこそ。.......それで、お伺いしたのは、その息子さんの件なのですが」

「ああ.......分かっている。噂に名高い四魔神将のお二人が来たということは、そういうことなのだろう?」

「はい。申し訳ありませんが、力づくで息子さんを引っ張りださせていただきます。これ以上ルーズさんが抜けるようであれば、魔王軍全体の損失となりますので」

「.......やむを得ない、か。出来れば、あいつが自力で出てきてくれるまで待ちたかったのだが.......」

「んなもん待ってられるか」

「リーン、抑えて抑えて」

「.......仕方がない、案内しよう。こちらへ」


 竜皇ヴァベルさんの案内で、ルーズさんが引きこもっているという扉の前までは来た。

 うん、扉の前。

 .......扉.......


「.......扉っていうかこれ、門じゃない?」

「私もそう思った。.......ルーズさんは本当にこの中に?」

「ああ、間違いない」


 扉って、普通にガチャって開けられるあれかと思ったら.......十メートル近くある、どデカい代物だった。


「さて、じゃあぶち抜きますか。ヨミ、手伝って」

「分かった」

「あ、ちょっ.......やめた方が.......」


 この期に及んで、まだごねるのか、この親バカは?

 私が少し睨むと、言いたいことを察してくれたようで、


「ああいや、そうではなくてね。.......その扉を破壊するのは、不可能だという話だ」


 と言った。.......扉の破壊が不可能?


「どういうことですか?」

「その扉には、フルーレティア様の結界が張ってあるのだ。下手に攻撃を加えると、それが全て自分に跳ね返る」


 なんだって。

 フルーレティア様は、武にも優れていると同時に、世界最強の結界術師だって話は魔王様から聞いてたけど。


「じゃあ、どうすればいいんだろう?」

「方法は三つ。一つ、なんとかしてこの扉を破壊する。二つ、フルーレティア様を説得して解除してもらう。三つ、二人がかりでフルーレティア様を倒して、結界を無理やり解く」

「一つ目は無理だな、この結界はフルーレティア様の持つ力でもトップクラス。サクラ殿でも破壊出来ないはずだ」

「何その防御チート。.......じゃあ二つ目は?」

「ルーズを何故か溺愛していて、あいつの願いは可能な限り叶えようと考えるフルーレティア様が、説得に応じるとは思えん」

「じゃあ三つ目.......なんとかフルーレティア様を倒すしかないか.......」

「そうなるが、いくら四魔神将とはいえ、大丈夫かね?あの御方は.......」



「あらあら、ワタクシがどうかしたの?」



「んなっ.......!?」

「なん.......!?」

「フ、フルーレティア様っ!?」


 全然気配を感じなかった.......!?


 この人が.......最古の魔王軍幹部『界断将』フルーレティア。

 魔王軍の英雄の一人、魔王様の始まりの仲間。

 見た目は.............十八歳くらい、だろうか。私達よりは歳上に見える。

 白髪の髪を足首まで伸ばした、超ロングヘアー。

 そして、お尻の辺りから生えるトカゲのような白い尻尾に、小さな二本のツノ。竜人族の特徴だ。


「初めましてね、四魔神将の御二方。ワタクシがフルーレティアよ。以後よろしくね」



 ※※※



「.......お初にお目にかかります、フルーレティア様。私達のこと知っていて下さるとは、光栄です」


 取り敢えず挨拶しておかねば。

 大先輩だからね。


「あらあら、礼儀正しい子は好きよ。そっちのヨミちゃんもよろしくね」

「えっ.......あ、は、はい!よ、よろしくお願いしまゅ!」


 ヨミ、可愛くて顔がにやけるから噛まないで!


「それで?魔王軍の現ツートップが、なんでこんなところにいるのかしら?ねえ、ヴァベル.......まさかとは思うけど、ルーズちゃんを引っ張りださせようなんて、考えてないわよねえ.......?」

「ヒイッ!?.......し、仕方ないんです!ここここれは魔王様の決定でえ!」

()()()()()()の決定を実力で覆しても罰せられないくらいの経歴は、ワタクシ持ってるわよ。しかしまあ、あの子ったらこの二人まで送り込んでくるなんて.......ルーズちゃんは繊細なんだから、少しくらい待ってもよさそうなものじゃない。せっかちなのは相変わらずね、フィリスのやつ」


 魔王様をチビッ子呼ばわりしたり名前で呼んだり.......本当に最古参なんだな、この人。


「.......お言葉ですが、フルーレティア様。ルーズ様が居なくなった戦場で、早くも人間共が勢いを盛り返しております。早々に戻ってきて頂かないと、魔王軍にとって大きな損失となるのです。ですので.......」

「そうは言っても、ルーズちゃんが出てくる意思がないなら、引っ張りだしたって同じじゃない?ずーっと戦場でもいじけて、ろくに指揮もしない姿が目に浮かぶわ。そんな姿も可愛いけど」

「うっ.......そ、それは.......」

「.......引っ張りだしてから先は、ボクとリーンがなんとかします。絶対に。.......だから、この結界を解いてください」

「ヨ、ヨミ.......!」


 おお.......なんだ、この頼もしい天使は。

 あれ、なんだか翼と輪っかが見える。


「ふーん.......そう。けど、結界は解かないわ。どうしてもと言うなら、ワタクシを倒すしかないわね」

「うう.......やっぱり、そうなりますよね」


「四魔神将とはいえ、ワタクシ.......最古の魔王軍幹部たるこのフルーレティアに、勝てるかしら?さあ.......始めましょうか!」


 え、ちょっ、展開早くね!?

 こうなる予感はしてたけど!


「ちょっ、待っ.......フルーレティア様、落ち着いてください!私が.......」

「すっこんでなさいヴァベル。あんたじゃこの戦いについていけないわよ」


 メイドに睨まれてすごすごと帰っていく竜皇という、大変珍しいものを見た。


「はあ.......やるしかないか。行こう、ヨミ」

「うん。.......けどリーン、大丈夫?」

「あー、日の入りまであと二十分?まあなんとかなるでしょ」


 そして、出会って間もない最強の竜人との戦いが、望んでもないのに始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 珍しく苦戦する戦いになるかなぁ 楽しみ! [一言] これからも頑張ってください
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ