元勇者と復讐2
お待たせ致しました.......この時を。
「あ、あ、あな、貴方.......あの、時の.......!?」
「漸く思い出してくれたんだね。.......その様子だと、ボクの名前もすっかり忘れちゃったみたいだけど」
まあ、それはボクもなんだけどさ。
かつての名前なんて、思い出したくもないってのもあるから、ボクの名前を覚えてないのは好都合だ。
「な、なんで.......なんで人間のお前が、人間を殺して、魔族を助けるような真似してるのよっ!?」
「.......口調、素が出てるよ?」
「あっ.......!?」
「うわあ.......あの『ですわ』口調、やっぱり作ってたんだ。田舎出身だってバレないように取り繕いでもしたの?涙ぐましいね」
「こ、こ、このっ.......!そもそも、なんであんた生きてるのよ!死んだって聞いたわよ!?」
死んだ.......か。
まあ、間違いではないかもね。
「そうだね。.......家族や村の連中に見捨てられ、お金で売られて。酷い仕打ちを受けて心を壊されて.......そして、リーンと魔王様に救われた。その時、『勇者としての』ボクは死んだ。そして新たにこうやって生まれ変わったのさ。魔王軍の剣士としてね」
「なっ.......!?に、人間のくせに、魔王軍に手を貸しているというの!?そんなのっ.......そんなの、ミザリー様がお許しになるはずがないでしょう!?」
「知らないよそんなこと。ボク、女神ミザリーなんてどうでもいいし、むしろ大っ嫌いだ。勇者になってから心を壊されるその時まで、助けてくれなかった、そんな女神のことなんてね。ボクを助けるように魔王様に助言してくださった、イスズ様の方が何百倍もマシだよ」
「こ、この.......罰当たりの背徳者.......!そうか、そういう事だったのね。お前が魔に堕ちて、勇者としての使命を放棄したから、他の人間が勇者の力に覚醒した.......人間が魔王軍に身を委ねるなんて誰も考えないから、上はお前を死んだと考えたのね!」
アハハ、もう素を隠す気すらないみたい。
まあいいか。あの口調をこの女がしてるって気持ち悪かったし、こっちの方がまだマシ。
「うん、正解。それで姉さん、そろそろ話を変えなきゃね。今のボクは魔王軍の戦士で、姉さんは聖十二使徒。どう足掻いたって相容れないよね。.......でも、姉さんはボクには勝てない。勇者の力を失ったとはいえ、姉さん如きの力で、ボクは殺せない」
「ふざけるんじゃないわよ!お前なんかに、私が殺せるとでも!?一度も私に逆らうことなんて出来なかったくせに!.......《精神崩壊》!」
.......確か、対象者の脳を崩壊させて、命があるだけの抜け殻にする魔法だっけ?
ボクの心を壊す時に、この魔法を使おうって話もあったけど、結局脳を崩壊させた後にボクを操る術が無くなるから断念した.......って話を聞いたことがあるから覚えてる。
「.......それで?もう気は済んだの?」
「っ!?な、なんで.......」
「単純に、姉さんの魔力じゃボクの魔防を貫けないだけ。姉さんはそろそろ、ことステータスに関しては、ボクに圧倒的に劣ることを自覚した方がいいと思うよ。ああ、他にも試したい魔法があるならいいよ?どうせ効かないけど」
「こ、このガキィ.......!いいわ、その言葉、そして姉に逆らったことを後悔しながら、地獄へ落ちろ!!」
※※※
「ハアっ.......!ハアっ.......!ハアっ.......!」
「うん、これも効かない。.......どうしたの、姉さん。もっとやってみなよ。次は効果あるかもよ?」
十分後。
ミィアは、最早どっちが精神魔法をかけられたのか分からないくらいに憔悴していた。
魔力切れが近いのと、足からの出血だろうね。出血の方は、ボクが綺麗に斬ったから血の量こそ少ないけど、結構重度の貧血にはなってるんだと思う。
あとはまあ、精神面かな。ボクにいくら魔法をかけてもケロリとしてるのが、かなり心にくるんだと思う。
「な、な、なんで.......なんで、効かないのよぉ.......聖十二使徒の力なのに.......ミザリー様の御力で強化されているのに.......」
「その強化された力以上に、ボクの魔防が高いんだよ。.......ていうかさ、さっきから随分と、ボクを殺す.......精神破壊系の魔法を使ってきてるよね。姉妹の情とか、本当に無いんだね。よかった、もしボクに罪悪感とかを感じていたりしたら、流石のボクも斬りにくかったし」
ここまでミィアに好きにさせたのは、勿論理由がある。
一つが今言ったように、ボクに対しての情が無いことを確かめるため。
もう一つは、これもまたボクの復讐であるため。
ボクとリーンは、同じ.......人間という種を根絶やしにするという目的を持っている。けど、個人的な恨みを持つ相手に対しての復讐の方法が些か違うみたい。
リーンは、相手に対して、圧倒的な力で、思いつく限りの苦痛と絶望の中で相手を殺したい、残酷かつ無慈悲な物理タイプ。
対してボクは、相手が本気.......本気の本気、百二十パーセントの力を出して挑んで来て.......それを簡単に正面から捩じ伏せて、少しずつ、少しずつ追い詰めて、絶望させてから一思いに殺したい、精神タイプ。
今この女は、自分の持つ全てが、ボクに一切通用しないことを悟った。
.......ああ、それだよ。その顔が見たかったんだ。
傲慢で、強欲で、この世の全てを自分の物と勘違いしてるかのようなその顔が、絶望に歪んだその顔を見るのを、どれだけ待ち望んだことか。
.......でも、まだ足りないな。じゃあ、更に絶望させてみよう。
ボクは足を失ったミィアに目線を合わせて、
「そうそう、姉さん。そういえばさ、ボク、今の名前を教えてなかったね」
「は.......?」
「ボクさ、昔の名前を忘れちゃったから、リーンに新しい名前を付けてもらったんだよ。『ヨミ』っていうんだけど、いい名前でしょ?」
「ヨ、ミ.......?」
そう、言い聞かせるように話した。
ミィアは、その場で数秒固まり.......そして、青白くなっていた顔を更に悪くし、すっかり怯えた表情になってくれた。
「そ、その.......その、名前.......!?」
「ああ、やっぱり魅了した人達から聞いてたよね。イスズ様が封じた記憶は、あくまでボクの種族や出自に関する情報だけだから、名前は流出してると思ったよ」
「魔王軍四魔神将第一席.......つまり、四魔神将筆頭。『戦神将』ヨミ。魔王軍最強、魔王様の剣、それが今のボクだよ。これで、頭の足りない姉さんでも、圧倒的な力の差を理解出来たと思うけど.......どうかな?」
「ひっ、ひいっ、ひいいいいっ.......!」
アハハハ、そんなに後ろに下がったって、ボクからは逃げられないのに。
ああ、最高だ。そのみっともない姿、それに縋るようにボクに立て続けに精神魔法をかけ続ける無様な姿。
「さて、そろそろ満足したし、姉さんには死んでもらおうか。これだけボクを殺そうとしたんだ、ボクに殺されても、文句は言えないよね?」
「ひっ、あ、ああああ!た、助けっ.......ねえ、やめて!やめてよ!私達姉妹でしょう!?姉を殺す気なの!?私、貴方のこと誰にも言わない!もう聖十二使徒も辞めるし、田舎に帰る!だから、命だけは助けてよぉ!」
.......ああ、姉さん。
貴方に感謝したのは、これが生まれて初めてだ。
こんなに.......ボクが望む復讐を果たさせてくれるなんて思わなかったよ。
「.......じゃあ姉さん、取引しようよ」
「と、取引?」
「うん。.......ボクと姉さんの、両親の今の居場所について話してよ。そうすれば.......ね?」
「わ、分かったわ!あの二人は、まだあの村にいるわよ!貴方を売った時のお金と、私が聖十二使徒に抜擢されたお陰で、悠々自適で裕福な暮らしを送ってるけど、あの村からは出てないわ!都会の喧騒に晒されるより、ここでの暮らしを優先するって言って.......」
「ふーん、成程ね。.......ちなみに、ボクはあの村の位置を正確に知らないんだけど、どの辺なの?」
「メルクリウス聖神国の首都から、西北西に三十キロ程進んだところにある筈よ!」
はい、これでもう一つの復讐を果たすための情報ゲット。
アハハ、姉さん、自覚してないのかな。これが、自分の両親への裏切り行為だってことに。
「ありがとう、姉さん。.......じゃあ、そろそろお別れの時間だね」
ボクは一旦しまっていた魔剣を抜いて、姉さんの首近くまで持っていった。
「.......え?.......な、なんで!?さっき、助けてくれるって言ったじゃない!」
「そんなこと言ってないよ。取引しようって言っただけだ。.......情報を出し渋ったら、姉さんの手の指を斬り飛ばして、そのあと少しずつ皮を削ぐ予定だったんだよね。けど素直に教えてくれたから、一撃で殺してあげる」
「ひっ.......い、いやあああ!!」
リーンに聞いた、嘘をつかずに、情報を得るだけ得て最後に絶望させて殺す、有用な方法の一つ。
凄いなあ、リーンは。なんでこんな、素敵で悪辣なことを思いつくんだろう。
「いやよおお!なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの!?私は成功者でしょ!?美しい容姿、美しい体、才能、何もかも完璧だったのに!魔族を殺して徳も積んだし、ミザリー様への感謝だって忘れたことないのに、こんなのあんまりよぉ!とっくにくたばったはずだった無能な妹に殺されるなんていやあ!!助けてよ!誰か助けてぇ!ミザリー様ああ!」
「.............遺言はそれでいい?じゃあさようなら、姉さん」
「いやああ、やめて!やめて!お願い、お願いします!やめてください!お願いします!お願いします!お願いします!やめてください!やめてください!やめっ............」
※※※
血で汚れちゃったディアスを手入れしながら、ボクは念話のマジックアイテムを起動させた。
『あ、リーン?今終わったよ。もうすぐ帰るね』
『ヨミ!よかった.......怪我とかしてない?』
『かすり傷一つないから安心して。それよりもお腹空いちゃった.......帰ったら何かある?』
『ええ.......私、料理スキルは皆無だから.......じゃあ私が奢るから、何か食べに行こうか』
『え、奢ってくれるの?やった!ステーキ食べに行こうステーキ!高いやつ!』
『ちょっとは遠慮してね!?.......まあ、いいか。ヨミの復讐が終わったところだし、奮発しちゃおう』
『本当に!?リーン、大好きだよ!』
『ぐはっ!?』
『えっ、リーン?』
『.............ううん.......な、なんでもない.......早く、帰ってきてネ.......』
『うん!』
通話を切って、魅了が解けた魔族の皆をまとめて、最後にサクラ君に大規模転移魔法を頼んで、ボクの仕事は終わりだ。
取り敢えず、外の皆と合流しようと、礼拝堂を去ろうとして.......ボクの目に、その最奥で首を斬り落とされて死んでいる、ミィアの姿が写った。
.......凄いなあ。一応、血の繋がった実の姉を殺したっていうのに、本当に何も感じない。
強いて言うなら、仕事を成し遂げたという達成感と、これ以上あの絶望した顔を見れないという僅かな虚無感。
「.......これなら、両親や村の連中を殺す時も、なんの心配も要らなそうだね」
いやー、良かった良かった。
実験させてくれたミィアには、本当に頭が上がらないよ。
お礼に.......ちゃんと、両親も村の奴らも全員ぶっ殺して、地獄で再会させてあげなくちゃ♪
「それを楽しみに、仕事頑張ろう.......っと、その前にステーキステーキっ!楽しみだなあ!」
来る日の復讐と、帰った後のステーキに思いを馳せ.......ボクはスキップしながら、砦の外へと向かった。
あー.......自分で書いといてなんだけど、ヨミのこの、ちょっと壊れちゃってる感じ好き.......。
人肉を数千単位で斬った後に、ステーキ所望するかね普通!?
あと、作者は自らの凄い肩書きを名乗ってそれだけで相手を絶望させる展開が大好きです。