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吸血鬼少女と人間

 この世界の人間とは、どんな感じなんだろう?


 そんな疑問を持ったのは、私の誕生日からしばらくした、三日月が綺麗な夜だった。


 本で読んだ話だと、基本的には()()()()と変わらない。《ステータス》という神からの恩恵によって、いくらかの超人はいるが、それだけ。


 対して吸血鬼は、月の満ち欠けによる能力強化を筆頭に、優れた暗視能力、長命な寿命、高い再生能力、吸血による眷属の創造といった、強力な力を先天的に秘めている。しかも前世の知識と違って、昼間でも普通に活動可能。まあ、大半は寝てるけど。

 つまり吸血鬼は、人間の上位互換とも言える種族なのだ。


 けどまあ、それは置いといて。

 この世界で最も数が多い知的生命体。わたしの前世(かつて)。気にならないといえば嘘になる。


 なので、『人間を見てみたい』と、親バカ.......もとい、お父さんに相談してみることにした。



 ※※※



「ダメだ」


 意外や意外。お父さんは私の『お願い』を即拒否した。

 だって、お父さんだよ?仕事中はともかく、家では吸血鬼王の威厳の欠片もない、私がちょっと上目遣いでお願いすれば即オチするチョロパパだよ?


 お父さんは、今まで見たことがない厳しい顔で、私を見下ろしていた。


「リーン。お前が何故、人間に興味を持ったのかは知らない。.......だが、人間は。あれは、ダメだ」


「.......どういうこと?」


「お前にも分かるように説明するのは難しいが.......」


 こういう時、5歳児の体なのが不便だわ。

 全部理解できるのに、向こうが子供にもわかるように面倒くさい言い回しをするから、逆に分かりにくくなる。


「そうだな.......リーンは、吸血鬼が信仰している.......つまり、信じている女神様が誰か知っているだろう」


「うん、イスズ様だよね」


 知ってるどころか、会ったことがあるよ。


「そうだ。私達がイスズ様を信仰するように、人間はミザリーという女神を信仰している。.......だが、このミザリーという女神が、私達吸血鬼のような、魔族をとても嫌っているんだ」


 .......ん?

 なんか、この話聞いたことあるぞ。

 そうだ、イスズ様に教えてもらった内容とそっくりだ。


「.......ここまで、分かるか?」


「うん、わかるよ」


 そう言うとお父さんは少しだけ表情を崩して、「お前は本当に賢いな」と言って頭を撫でてくれた。嬉し恥ずかしい。


「それでな。女神ミザリーが私達のことを嫌いということは、彼女を信じている人間も、私達のことが嫌いなんだ。だから、私達は人間の前に出られないんだよ。襲われてしまうからな」


「吸血鬼のみんなは、無意味に戦うこと、嫌いだもんね」


「ああ。だからこそ、私達は人間と魔王軍.......魔族の集まりと、その王の戦いには参加しないんだ」


 うーむ、話を聞いた感じ、概ねイスズ様から聞いた通りだな。

 人間が女神ミザリーを唯一の神だって言って、イスズ様を信仰する魔族を滅ぼそうとしてて。それを阻止しようと、魔族が奮戦してる。

 で、人間より魔族の方がポテンシャル高いから、人間はどんどん不利になって。それで、苦肉の策として、高い才能を先天的に持つ異世界人.......つまり私の元クラスメイト達を、運命操作で殺して、こっちの世界に転生させたと。

 ついでに私も巻き込まれてここにいると。まあそれは、ぶっちゃけ結果オーライなんだけど。


「それに正直に言うとな。お父さんは、この里では一番強いが.......世界全体から見て強いかと言われれば、そうでもないんだよ」


「え?あんなに凄いステータスなのに?」


「ああ。お父さんより強い人達は、この世界に沢山いる。吸血鬼は意味の無い争い事が嫌いだから、里を守れる最低限の強さだけ持つのが普通だ。それでも、満月の時はどんな敵もなぎ倒せる自信があるけどね」


 マジか、どんだけインフレ激しいんだこの世界。

 え、なに?下手したら、素のステータス1万オーバーとかいるのかな。


 私も別に、必要以上に強くなる気は今のところしないけど、いずれは族長を継ぐことになるかもしれない。

 そうすると、みんなを守るために強さは必須だ。しかも、まあ、その.......結婚とかして?子供とか.......産むことに、なったら.......そのお世話で、レベル上げなんかは出来なくなるし。

 つまり、それまでにある程度は強くなっていなきゃならない。

 幸い、私の才能は並の勇者を上回るほどらしいので、あんまり急がなくてもレベル上げでそれなりに力を付けることは出来るだろう。


 しかしそれにしても.......人間、この世界では思った以上に危険視されてるみたいだなー。元人間だけに、ちょっと複雑。



 ※※※



 強さが多少は必要だと知った私は、思い立ったが吉日と森に出かけて、獣を何体か狩った。

 その結果、レベルが3に上がって、前よりも体が動かしやすくなった。


 私としては、そのうち魔法も覚えたい。お父さんみたいな脳筋戦法じゃなくて、かといって純魔ビルドでもなくて、こう.......魔法も格闘も出来る万能な吸血鬼!.......みたいな感じになりたいんだよね。私、前世のRPGとかでも、必ずキャラの1人は魔法戦士にするタイプだったし。


 だから、正直未だに職業(クラス)を決めあぐねてるんだよねー。『武闘家』と『魔術師』を極めれば上級職解放になる気がするんだけど、確証がないし。

 平和なこの里で、急いで決める必要は無いって分かってるんだけどね。やっぱり早く決めるに越したことはない。


 しばらくすると、太陽が昇ってきた.......つまり、能力強化が効かなくなったので、狩った獣を全部運んで、家に戻った。

 あとはお母さんに解体してもらって、ご近所さん.......まあつまり、里の全員にお裾分けだ。

 ちなみに、狩ってきた獣を見せたら結構な数の人がビックリしてた。考えてみればそりゃそうだ、月による能力強化があったとはいえ、5歳児がでっかい獣を仕留めてきたんだもの。


 で、その日の朝はその獣肉でバーベキューして過ごした。

 実は、バーベキューを前世でもやった事がなかったので、初体験だった。途中からカナちゃん達も呼んで、小さなパーティみたいになってて、すっごく楽しかったよ。


 たらふく食べて、みんなが帰った後、私は流石に眠くなってきてベッドに入った。

 今日も楽しかった。

 本当に、私はこの世界に転生してきてよかったと思う。

 大切な友達、大好きな両親、優しいご近所さん、どれも前世には無かったものだ。


 そして私は、まだ来ない今日の夜に思いを馳せながら、眠りについた。

 明日もまた、この平和で楽しい日々が続きますようにと、願いながら。



































 この、僅か1週間後。吸血鬼の里は滅んだ。



 この時の私は、勘違いをしていたんだ。



 この世界は、平和なんかじゃなかった。



 傲慢で、残忍で、自分達が全て正しいと思っている。そんなどうしようも無い『怪物』が蔓延る、地獄だったんだ。



 あの日のことを、私は生涯忘れることは無い。


 あの時の絶望、痛み、苦しみ、怒り、無力感、屈辱、後悔、憎しみ、殺意。



 ――――その日、私は、『人間』という名の悪意に、復讐を誓った。

※注意!

今後数話、今までの明るい雰囲気とは一変した鬱展開、胸糞展開があります。苦手な方はご注意ください。

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