転生勇者の誕生
あっぶね、間に合った.......
予定変更して、ここから第四章にしました。
「.......ゼノ君。まだ体調は治らない?」
誰かが扉を叩いて俺に声をかけてきてくれている。
けど、今の俺には、誰かに会う心の余裕が無い。
「.......ああ、ごめん。食事はそこに置いておいてくれ」
「.......分かった」
.......黒田達の死が確認されてから、既に一週間が経った。
その間、俺は殆ど部屋にいたけど.......外は、大変なことになっているみたいだった。
まず、俺に『あの事』を伝えた.......S級冒険者ジュリアさんの死亡。
体内に毒物が仕込まれていたらしく、爆弾と毒による二重の罠だったようだ。
他にも、いくつかの国が同時に魔王軍に襲われ、多数の街が落とされたらしい。
.......けど、少なくとも今の俺には、それよりも重要なことを考える必要があった。
そう、ジュリアさんが死ぬ前に俺に伝えた、あの事。
魔王軍四魔神将―――未だ殆ど情報が無い、謎の階級。
その第二席.......黒田達勇者パーティを単身で全滅させた吸血鬼、リーン・ブラッドロード。
―――『そう、確か.......センジョウと呼ばれていました』
ジュリアさんのあの言葉が正しいのなら、そのリーンという吸血鬼は.......俺が前世で片思いしていた人.......千条夜菜である可能性が極めて高い。
「.......なんで、吸血鬼に.......?」
俺達と同じタイミングで死んだのなら、彼女は何故、人間に転生していない。
.......いや、神の事情を考えても仕方が無い。一番に考えることは、リーン=千条さんだった場合、俺はどうすればいいかだ。
今の彼女は、人類の敵だ。勇者である黒田、他にも多数の人間を虐殺したことから、それは確定だろう。
そして、俺は人間だ。
どうしたらいい。どうしたら.......
―――コンコン。
「ゼノさん、申し訳ありません。お体の具合が悪い所、申し訳ないのですが.......魔王軍に関する、新たな情報が掴めました。大丈夫そうであれば、来ていただけますか?」
.......もしかして、彼女についての事だろうか。
そう考えると、無理とは言えず、俺は重い身体を起こした。
※※※
今日も円卓の会議室に通されたが、いつもと様子が少しだけ違った。
中心に水晶が置かれていたのだ。多分あれは、念話の有効範囲外の相手とも通話出来る、水晶型のマジックアイテムだろう。
「.......全員揃ったな。よし、繋げ」
法皇様がそう言うと、近くに控えていた魔術師が水晶に魔力を注いだ。
『.......皆様、聞こえますでしょうか?私です、ミィアですわ』
どうやら通話の相手は、ミィアさんのようだ。
確か、今はメスト公国での作戦に出向してるはず。
「四魔神将に関して、新たな事が分かったと聞いたが」
『はい。その構成メンバーと、実態について。.......まず、その実態ですが.......我々の予想通り、魔王軍最強の精鋭四人を結集した者共だそうですわ。元々、魔王軍の幹部及び準幹部に名を連ねていた者の中で、群を抜いて強かった四人を選出したのだとか』
「やはりか。それで、メンバーは?」
『はい。まず、第四席ですが.......信じ難いことに、あのグレイ・クリストだそうで』
その言葉に、その場の大半がザワついた。
「馬鹿な、グレイが第四席だと!?」
「かつて、魔王軍最強と呼ばれていた男だぞ!?」
『ですが、私が魅了した上級兵士から聞き出したことですので、信憑性は高いと考えますわ。現在は撃砕将ではなく、武神将と呼ばれているようで』
.......魔王軍最強だった男が、第四位にまで下がっている。
この事実は、確かに驚くべきものだろう。
「.......静まれ。第二席に我々の知らぬ者がいた時点で、四魔神将というのが十二分にイレギュラーな存在だというのは、わかっていた事だろう。.......ミィア、続けてくれ」
『はい。.......第三席が、あの呼吸する災害、『賢神将』サクラ・フォレスター。魔王軍最強の魔術師ですわ。そしてこれは皆様もご存知の通り、第二席の『鬼神将』リーン・ブラッドロード。吸血鬼の生き残りである魔法拳士ですわ』
.......その名が出た瞬間、俺に緊張が走ったが.......残念ながら、それ以上の情報は無かった。
「そうか。.......それで、第一席に関しての情報はあるか。グレイとサクラが選ばれているということは、やはりレインか?」
『.......それなのですが』
四魔神将第一席。魔王軍最強の戦士。
いくらリーンについての情報が無かったとはいえ、これを聞かないで戻るのは無理だった。
.......だが。
『.......分からなかったのですわ』
「.......なんだと?どういう事だ」
『.......正確には、大まかな情報は入手致しました。第一席は、あのレインではありません。.......『戦神将』ヨミという、魔王軍最強の剣術使いだそうですわ』
「レインじゃ、無い?」
「どういう事だ.......リーン・ブラッドロードに引き続き、また事前情報のない輩が出てきたぞ.......」
周りの人の反応からも、『戦神将』ヨミという存在を知っている人間はいなさそうだった。
「それで、分からなかったとは?」
『はい。ヨミという者の、その種族や出で立ち、風貌が、全く分からないのです。私が魅了した者に聞いても、何故か口を閉ざすのですわ。魅了が浅いのかと思い、一匹に死を命じてみたところ、しっかりと自害しました。つまり、これは.......』
「何らかの方法で、そのヨミという者に関しての発言を禁じたか.......あるいは.......死よりも秘匿すべき情報だった、と」
『.......もう一つ。実は試しに、一匹の魅了を解き、ヨミに関する情報を教えれば生かしてやると脅したのですが.......その者、屈するどころか笑って、こう言ったのですわ』
―――俺が教えなくとも、お前達は近いうちに、あの御方の姿を目にすることになる。ヨミ様は、お前達が生み出した厄災だ。お前達人間がやり方を間違えなければ、あの御方が魔王軍に加入することは無かった。精々、自分達のしたことを後悔しながら死ぬんだな。俺は一足先に、地獄で待ってるよ。
『.......そう言って自害しましたわ』
.......魔王軍最強の正体が、人間が生み出した厄災?
意味が分からない。他の全員も、ピンときていないようだ。
「.......情報はこれだけか?」
『はい。四魔神将に関する情報はこれで全てですわ』
「分かった。引き続き、お前はそこで任務に当たれ」
『かしこまりました』
※※※
「では、これにて終了する」
.......結局、リーンに関する情報は得られなかった。
落ち込んだ気分が拭えぬまま、俺は戻ろうと.......
「全員待って。私から話があるわ」
引き止めたのは、聖十二使徒序列第二位、『宝眼』のヘレナさんだった。
「.......なんだ、ヘレナ」
「ルヴェルズ様。.......ついに見つけました。新たな勇者を」
「なんだと!?」
新たな、勇者?
占術のエキスパートであるヘレナさんが言うなら、確かなのだろう。
「そしてその勇者は.......この場にいます」
この場にいる。.......ということは、やはり転生者の中に?
その場の転生者全員が、不安そうな表情をしていた。
当然だろう、勇者だったアヴィスが、あんな悲惨な死に方をしたのだから、勇者になりたい人間なんて.......
《一定条件を満たしました。》
《『勇者の素質』が芽吹きました。これにより、特殊職業『勇者』が解放されます。》
《『勇者』は全ての職業よりも優先されます。》
《ゼノの職業が『勇者』に変化しました。》
.......は?
.......何だ今のは。なにかの冗談か?
どうなっている?.......他のみんなは聞こえていない?俺だけが聞こえた.......つまり、レベルアップとかの時に聞こえてくる、あれと同類の声。
俺が勇者になった?
.......俺が混乱しているのを他所に、ヘレナさんがこちらに歩いてきた。
.......そして。
「この方です。.......この方.......ゼノ様こそが、新たなる勇者。人類の希望となるべき御人です!」