吸血姫と衝撃の事実
「本当にすみませんでした.......」
「いや、正気に戻ったようで何よりじゃ」
目が覚めると、会議室だった。
何故私がこんなところにいるのかと記憶を探り、自分のあまりの暴挙に魔王様にスライディング土下座を敢行して今に至る。
.......ヨミの可愛い格好を見て、どうも頭の何かが外れてしまったらしい。
今のヨミは、元の格好に戻っているので、辛うじて正気を保つ事が出来た。
「リーン、お前.......ガチだな.......」
「何ですかアロンさん、どういう意味ですか?喧嘩なら買いますよ」
「お前、強くなってから俺に対しての当たり激しくないか!?」
この八年、アロンさんにはデリカシーが欠如した発言を多々されてるし、幹部の中でもぞんざいに扱っていい部類の相手だと思ってる。
「まったく.......まあ良い。さっさと座れ、始めるぞ」
「は、はい.......はあ.......」
「リーン、大丈夫?体痛くない?」
ああ.......隣に天使がいる!
あれだけ色々とやらかした私の心配を!
「ヨミ、甘やかすな。たまにはしっかり叱らんと、将来人生舐めたような大人になるのじゃぞ」
「えっ、子供扱い!?」
※※※
「.......さて、ではもう始めるぞ」
現在集まっているのは、四魔神将から私とヨミ。
幹部から、ヴィネルさん、ルーズさん、アロンさん、ナツメさん、ガレオンさん。
他の全員は戦場。まあ、私ももうすぐ行かなきゃいけないんだけど。
「昨日の事じゃ。現在、メスト公国の攻略に着手しておる、ティアナとゼッドから連絡が入ったのじゃが.......妙な聖十二使徒と遭遇した、と」
妙な聖十二使徒.......?
「リーンも一度遭遇しておるじゃろう。『天女』の二つ名を持つ、ミィアという女じゃ」
ああ、やっぱり。
「ミィア.......?」
「ヨミ?どうしたの?」
「え?う、ううん、なんでもないよ」
そう言いながらも、首を傾げるヨミ。.......気にするなと言う方が無理な話だけど、今は魔王様の話に集中しなければ。
「ミィアは、五年前に殺した、アスバルとスラストの後任の一人じゃ。.......序列こそ低いが、かなり面倒な相手でな。というのも、得意とする魔法.......精神魔法。その中でも、《魅了》系の魔法が群を抜いておるらしい。そのせいで、魔王軍の兵士がかなりの人数、洗脳に近い状態にされておるそうじゃ」
そういえば、私にもかけてきてたね。
私は抵抗してやったけど、中級以下.......下手したら上級の兵士でも、あの女の魅了に抵抗するのはキツイかも。
「魔王軍の兵士は仲間意識が強いからな。洗脳された仲間を切り捨てるのは難しいだろう。.......となると、ミィアを直接叩くしかないな」
「じゃが、それも難しくてな.......何せ、あやつは忌々しいことに、魅了した魔族を自らの周囲に侍らせておるのじゃ。いざという時に、人質や盾にする気なのじゃろう。......更に言えば.......ティアナとゼッドの話によると、その女を見た瞬間、何故か攻撃を躊躇ってしまったのだそうじゃ。まだ何か力を隠している可能性がある」
あのクソ女。
.......ああもう、なんであいつの顔がこんなに頭にチラつくんだ。
ああ、もう美人なことは認める。この私が、そう感じてしまったことも。
.......だけど、それは私が攻撃を一瞬でも躊躇してしまった理由にはならない。必ず、なにか別の要因があるはずだ。
「おかげで、無事な兵は撤退せざるを得なくなった。.......このままだとまずい。魅了された魔王軍の兵士が、新たな勇者の経験値にでもされれば、かなり厄介なことになる。それだけではなく、ヨミの情報が流出しかねん。何としてもここでミィアを殺して、兵を奪還せねばならん」
とは言っても、どうすれば。
魅了された魔王軍の兵士.......あの女から感じた魔力からして、二、三百人位だろうか。それを回避しつつ、あの女を仕留めるしかない。.......かなり面倒だ。
魅了は、この世界において最悪の状態異常の一つだ。何せ骨の髄まで魅了されてしまえば最後、「死ね」と命じられればなんの躊躇いもなく自害するのだから。
さて、本当に対策を考えないと.......。
だけど、実行可能そうな案は結局出ない。
武力系の聖十二使徒なら問題ないんだよ。四魔神将やレインさんが出れば、上位でなければ簡単に制圧出来る。
けど、こういう特殊タイプは本当に厄介だ。なまじ強い力を持っているせいで、こっちが後手に回ると対策が面倒になる。
会議は長続きしたけど、有力な案は今の所思いつかない。
「ヨミ、何か.......ヨミ?」
「.......え?.......ああ、ごめん。何?」
.......?ヨミがボーッとするなんて珍しい。
これは何かあるのか?
「ヨミ、さっきから首傾げたり唸ったりしてばかりだけど、どうかしたの?」
「い、いや.......その.......」
「何じゃヨミ、なにか思いついたか?」
「ほう、それは聞かせて欲しいな」
「あ、そうじゃなくて.......その、ミィアって名前.......どこかで聞いたような気がして.......」
「今聞いたのだろう?」
「いや、それとは違くて.......ずっと昔に、何度も聞いたような気が.......」
ヨミが昔に?
.......それはもしかして、魔王軍加入前.......もっと言えば、勇者になる前ってことなのだろうか。
ヨミは、五歳までの記憶が曖昧だ。勇者時代に受けた仕打ちのせいで、自分のかつての名前すら思い出せていない。
「うーん.......何処でだっけ.......ミィア.......ミィア.......昔、何度もその名前を呼んだ気がする.......」
「ふむ.......顔を見れば思い出せるかもしれんのう。しばし待て、今映像を写すからの」
そう言って魔王様が腕を振るうと、映画みたいな感じでミィアの顔が映し出された。
.......クソっ、今見ても美人だって思う自分がむかつくわ。
あれ?でも.......改めて見ると、この顔.......なんか、既視感が.......
「この顔.......確かに、昔.......がっ.......痛っ.......!?」
「ヨミっ!?」
「ヨミちゃん!?」
「おい、ヨミ!どうした、しっかりしろ!」
映像を見た瞬間、ヨミがその場で頭を抱えて蹲ってしまった。
え、どうしたらいいのこれ!?ヨミ!?
「だ、大、丈夫.......!ちょっと、頭が痛くなった、だけ.......!それより.......何か、思い出せ、そう.......!」
「無理しちゃダメ、ちゃんと意識保てる!?」
「うん.......!あっ.......!.............そ、そうだ.......あの顔.......ボクをいつも、冷たい目で、見てた.......あの、顔.......」
冷たい.......目?
ミィアが?
「あいつは.......人気、者で.......ボクは.......厄介、者.......いつも、美人だって、綺麗だって.......ボクとは大違いだって、言われてた.......」
誰だその見る目が腐ってる連中は!?
あんなんよりうちのヨミの方が可愛いに決まって.......
「ミィア.......ミィア.............姉、さん.......?」
そんな奴はこの私が鉄槌を.........................今なんて?
姉さんとか聞こえたんだけど?
「ね.......姉さん?この者、主の姉なのか!?」
「は、はい.......間違い、ありません」
.......ああっ!?
確かに.......髪色同じだし、顔立ちも何処と無く似てる.......。
そうか、私があの女に攻撃を躊躇ったのは、ヨミに似た顔立ちのせいで、無意識に血の繋がりを感じ取ってたからか!
ティアナさんとゼッドさんが躊躇ったっていうのも、多分同じ理由で.......!
※※※
『はい、予定通り進んでおりますわ、法皇猊下』
『そうか。流石だな、ミィア』
『うふふ、当然でございますわ。無能だったあの愚妹とは違いますから』
『.......そうだな。引き続き頼む』
『かしこまりました』
「うふふふ.......。さあ、話して頂きますわよ、下賎な魔族の皆さん。件の、四魔神将という存在.......特に、その第一席について、詳しく.......ね?」
ふぅ.......第二章の、ヨミの姉に関する伏線回収完了.......。
次回の転生少年編で第三章『蹂躙編』最終回です。
それと、もしかしたら今日、0時の投稿が出来ないかもしれません.......そうなったらすみません.......