吸血姫と買い物
最近物騒な話が続いてたからほのぼのとした話を書こうと思っただけなのに、なんでこんな長くなってんだ.......?
「リ、リーン!しっかりして!大丈夫!?」
薄れゆく意識、狭まる視界。
嗚呼.......でも、最後に見ているのが、ヨミで良かった。
そして.......魔王様。
最後は争うことになってしまったけど.......貴方の配下になれて、よかった.......。
最早、魔王様の顔を見ることは叶わないけど.......きっとあの方のことだ、呆れたような顔をしているんだろうなあ。
.......何故、こんなことになってしまったんだろう。
ことは、今から二時間前に遡る―――
※※※
「リーン、早く行こう!」
「なんかご機嫌だね、ヨミ。なんかあった?」
「ううん、久しぶりにリーンと出かけるの楽しみで!最近、お互いに仕事忙しかったし、こういう時間があってもいいよね!」
「.......えっ、天使?」
「?何か言った?」
「.......なんでもない。私も楽しみだよ」
「うん!」
うおっ.......ビックリした。
可愛い顔と可愛い声と可愛い性格してっから、うっかりガチ天使かと思ったじゃん。
というわけで、今日はヨミと買い物です。
多忙な毎日を送る私達は、休みが合うなんて滅多にない。
だけど、今日は昼から二人共暇だったのだ。
だから、本当に久しぶりに、二人で出かけることになった。
「あっ!鹿肉が安い!.......ああっ、鶏肉も!?.......どうしよう.......今日は何にしようかな.......リーンはどっちがいい?」
「んー.............豚肉」
「どっちかって言ったのに!?」
.......まあ、買い物とは言っても、食材とかの買い出しだけどね!
だってこちとら魔王軍最強と準最強、服に時間割いてる暇あったら特訓しようぜって人生だったもの。
吸血鬼なんで黒色がびっくりするくらい似合う私としては、もう大体黒の服でいいもの。
まあ、それはヨミも同じだ。
だって、一緒に行動するようになってから八年、この子がスカート履いてるところとか一度も見た事ないし。
もう、ズボン姿を見慣れてしまった。
やっぱ慣れてる格好が一番だよ。
慣れてる.......。
ヨミの.......スカート.......
.............。
「ヨミ、買い物終わったら服見に行こっか」
「え?いいけど.......珍しいね、リーンが服買おうなんて」
「いや、私じゃなくてね」
「えっ?」
「なんでもないよ。早く済ませちゃお」
「うん。.......あっ、じゃあ食材を置きに一回家帰ろうよ。冷やしたいものもあるし」
「そうだね、そうしよっか。.......うふふ」
「.......?」
ヨミのスカートの魔力には勝てなかったよ.......。
絶対似合う。絶っっ対似合う。だって美少女だもん。
肩まで伸ばした銀髪のセミロング、勇者時代とは打って変わったパッチリした目、黄金比ってこういう顔のことなんだろうなって思う顔立ち。やだうちの子可愛い。
というわけで、足早に買い物を終えて、家に荷物置いて、服屋に来ました。
「いらっしゃ.......リ、リーン様とヨミ様っ!?」
「こんにちはー。早速で申し訳ないんですけど.......この子に可愛いスカート見繕ってあげてくれます?出来ればそれに合わせた服とか靴とかアクセサリーも一式」
「.............えっ?」
「ヨミ様に似合う服.......ですか?」
「はい。金銭面は全っ然気にしなくていいので、とにかく可愛さ重視で」
「えっ」
「こ、これは.......やりがいがありますね.......素材が良いので、どんなのでも似合いますが、コンセプトは?」
「この子、男っぽい服しか着ないので、思いっきり可愛いのでお願いします。可愛くて似合っていればゴスロリでもメルヘン系でも、店員さんにお任せします。ただ、スカートは必着で」
「えええっ!?」
「成程.......かしこまりました。この服屋歴九十二年、ラピスにお任せ下さい。この店の総力を結集して、やり遂げてみせましょう」
「お願いします。あ、必要なら、お化粧とか髪いじってくださっても大丈夫です」
「ちょっ!?リーン、さっきから何言ってるの!?」
「ふふふ.......リーン様、言われずともそのつもりです」
「なんで!?」
話のわかる店員さんで助かる。
しかし、九十二年とは.......流石悪魔族、長命だなあ。
これは期待出来る。
「リーン!?自分の服を買いに来たんじゃないの!?」
「そんなこと一言も言ってないよ?たまの非番なんだから、可愛くなったヨミを見て癒されよっかなーって思って。じゃあ店員さん、ご武運を」
「はっ!」
「軍隊!?.......ちょっ.......ああああああ.......」
※※※
「.......お待たせしましたリーン様。我がラピス服飾店、始まって以来の大仕事でございました。当店の全店員、総力を上げ.......正直、自分達でも驚くほどの出来になったと自負しております」
「.......マジですか?」
「マジです」
予想以上にガチってしまわれたらしい。
でもありがとう。
「.......じゃ、じゃあ.......見させてもらっても?」
「はい。.......どうぞ」
そして、ヨミを隠していたカーテンが取り払われ.......
そこにはマジの天使がいた。
水玉をあしらった服に、ピンク色のカーディガン。
髪型こそいじられてないけど、薄目の化粧をしているのが何となくわかる。
そして、何より.......膝辺りまでのスカート。
可愛らしい白っぽい、所々に派手すぎない装飾をあしらった素敵なスカート。
控えめな感じが、ヨミに良く似合う、素晴らしい逸品.......
「う、ううう.......恥ずかしい.......!」
「.............」
「.......リ、リーン.......どうしたの、固まって.......や、やっぱり似合わないでしょ?だから.......」
「そんなことはございません、ヨミ様!魔王様にお許しを頂けるなら、このまま当店の美少女マネキンとして置いておきたい程でございます!」
「美少女マネキン!?.......ちょ、ちょっとリーン.......!」
「.......ごめん、ちょっと待って」
「えっ.......?.......ど、どうしたのリーン、鼻なんか押えて.......花粉症?」
違うよ。
鼻血が出てきたから抑えるのに必死なんだよ。
.......そ、想像の四倍くらい可愛い!!
えっ?待って?ヨミってこんな可愛かったっけ?
いや、美少女だったのは知ってる。私の今まで生きてきた中で最高の美少女なのは間違いない。
.......だけど、待って?このレベル?えっ?ガチ天使じゃん。
「.......いかがでしょうかリーン様、ヨミ様。当店のコーディネートは、お気に召しましたでしょうか」
「.......取り敢えず、今ヨミが着ている服はください」
「お買い上げありがとうございます!」
「ええっ!?.......い、いや.......こ、こんなの買っても、き、着ないし.......」
「それと実は、まだヨミ様に似合いそうなものが数点あるのですが.......」
「買います。全部買います」
「ありがとうございます!!」
「リーン!?」
ヨミが何か言ってるけど、気にしないでラピスさんと話を進めていった。
「お買い上げ金額は.............こちらでヨミ様をコーディネートさせて頂いた貴重な体験を踏まえ、少しお勉強をして.......このくらいです」
「お安いですね。あ、領収書貰えますか?魔王軍経理部宛てで」
「経費じゃ落ちないよ!?あと、その金額、魔王軍の中級兵士の半月分のお給料くらいするけど!?」
安いじゃん。
四魔神将、魔王軍の武の頂点である称号を持つ私は、それなりに良い給金を貰っている。その程度なら余裕で払えるわ。
あと、多分経費で落ちる。経理担当はショタロリ大好きヴィネルさんだから、ヨミの着せ替え見せれば余裕でいけると思う。
「ありがとうございました!またお越しくださいませ!」
「こちらこそありがとうございました。.......さて、ヨミ。帰るよ。で、これ着て」
「嫌だよ!ボクの意思が何一つ反映されてないんだけど!.......おかげで今日のボク、叫んでばっかじゃん!」
「い い か ら !これ着てくれたらなんっでもするから!私を癒してよ!戦場で色々やって、勇者まで殺して.......私ヘトヘトなんだよ!ヨミがこれ着てくれたら私、明日からまた頑張れるから!お願い!」
「うっ.......そう言われると.......」
まあ、勇者の件は私も楽しんでたからノーカンと言えなくもないけど、些細な問題だ。
「うう.......わ、分かったよ.......」
「よっしゃあ!じゃあ早速帰って.......」
『あー、ヨミ、リーン。聞こえるかの?妾じゃ』
...................。
『魔王様、なにか御用ですか?』
『うむ。実はのう、戦線にて奇妙なことが起きてな。それについて、今いる幹部で緊急会議を開きたいのじゃ。というわけで.......』
『今大事な用があって忙しいので無理です。幹部の皆さんに頑張れとお伝えください。では』
『.......は?おい、待』
ブチッ
.......。
「さ、帰ろっかヨミ」
「いやちょっと!?何してんのリーン!?」
はて、何とはなんだろう。
「魔王様の呼び出しを無視なんて、何考えてるの!ほら、行くよ!」
「いーやーだー!だって私、今日休みだもの!それに、手に服があって、目の前にヨミがいるのに、着せ替えない方が世界に失礼でしょ!?魔王様には大恩あれど、今回に限ってはあっちよりこっちが重要!ほら、さっさと帰るよ!」
「いや、ダメだってばあ!」
「.......何をやっとるんじゃ、主ら」
「ま、魔王様っ!?」
「くっ、どうしてここに.......」
「主が一方的に念話を切るからじゃ!忙しいとは何がじゃ、魔王軍の趨勢よりも大事な事か!?.............って、なんじゃヨミ、その可愛らしい格好は」
「こ、これは.......その.......リーンが.......」
「.......ヨミが可愛らしい格好。リーンの手には多数の衣服。.......おい、リーン。まさかとは思うが、大事な用とは.......ヨミにそれを着せることではあるまいな」
「その通りです」
「.......つまり何か?主は今後の魔王軍の方針やら四魔神将としての仕事より、ヨミの着せ替えの方が大事と、そう言いたいわけか?」
「いえまさか.......ただ、今この状況で、ヨミを着せ替えるという以外の選択肢が、私の頭にないだけですよ。仕事は明日本気でやりますから」
.......後々思うと、この時の私は、なにか邪悪なものに取り憑かれていたんだと思う。
普段の私が魔王様に逆らおうなんて、考えるわけないし。
「.......はあ.......主は本当に.......ヨミが絡むと、何故ここまで.......まあ良い。取り敢えず会議には参加を.......」
「お断りします」
「ちょっ!?リーン!?」
「.......リーン。妾が笑って許しているうちに、正しい判断をしろよ?」
「申し訳ありません魔王様、今日に限っては、ご期待に沿うことは出来ません。.......見てください、このヨミを。可愛いでしょう?こんな可愛い子を、更に可愛くするアイテムが手にあるのに、お預けしろと?無理です」
「.......そうか。言っていることは無茶苦茶じゃが、自分の意思を通そうとするその意気は気に入った。良いじゃろう、この場で妾に一撃与えることが出来れば、今日はヨミ共々帰って良いぞ」
「ちょっ!?魔王様、何を.......!?」
「ふっ.......魔王様、その言葉、後悔なさらないでくださいね?貴方の配下の中で、準最強たるこの私の力を見せて差し上げましょう」
「リーン、待ってってば!魔王様もリーンも落ち着いてよ!」
必死に止めようとするヨミを余所に、私と魔王様は臨戦態勢に入った。
「.......お、おい。あれ、リーン様と魔王様じゃないか?」
「なんでお二人共、ファイティングポーズを?.......まさか、こんな所で一戦おっぱじめる気か!?」
「おい、冗談じゃねえぞ!?逃げろ逃げろ!」
周囲の人のそんな声も、集中することによって聞こえなくなってきた。
「ククク.......リーンよ、主と出会って八年も経つが、妾の戦闘を見せるのは初めてじゃな」
「そうですね.......まさか、こんな場面で見ることになるとは思いませんでしたよ」
「妾もじゃ。いや、本当にな。.......さあ、そちらから来て良いぞ」
「.......ではお言葉に甘えて」
私は、会議なんて行く訳にはいかないのだ。
ヨミの着せ替えの為に。ヨミの着せ替えの為に!
そして、決戦の火蓋が切られた!
まずは私がキッ
「遅いわ」
「ぎゃぶえっ!?」
開始五秒。
天眼アルスの効果を用いてすら避けられない速度で放たれた魔王様の攻撃が、私の急所数カ所をほぼ同時に貫いた。
「.......いや.......強、すぎ.......」
「強くなければ、魔王などやっとらんわ.......」
呆れるような魔王様の声を聞きながら、私はその場に崩れ落ちた。
「リ、リーーーン!?」
「妾の勝ちじゃな。さて行くぞ、ヨミもこっちに来い」
「は、はい.......」
「.......おいマジかよ。あのリーン様を瞬殺したぞ。魔王様すげぇ.......」
「リーン様が負けたところなんて初めて見た.......」
「四魔神将でもこれか.......強すぎだろ、魔王様.......」
そんな感じの声と、ヨミの声を聞きながら.......私は意識を手放した。
魔王様とリーン、戦ってんじゃん!.......と思った方々。
ふははははは!騙されたな!あれは嘘だ!
.......と言いたいところだけど、これは魔王様vsリーンじゃありません。
だって戦闘にすらなってないんですもの。
ちなみにヴィネルは、ショタコンでロリコンです。幼少期のリーンとヨミに反応してなかったのは、幼すぎて守備範囲外だったからで、彼女としては外見年齢十二歳〜十五歳が理想だとか。