吸血姫と邪神6
.......久しぶりだなあ、この感覚。
本当に久しぶりだ。半年ぶりくら.......
―――パアアアン!
うわ何事っ!?
「リーンさん、四魔神将就任、及び勇者討伐、おめでとうございます!ワーパチパチパチ!」
.......何やってるんですか。
てか、どっからクラッカーなんて持ってきたんですか。
あとその頭に乗ってるとんがりボウシのパーティーグッズ。
「むう.......せっかく準備したのですから、ちょっとくらいノってくれてもいいじゃありませんか。ちなみにこれは、天照ちゃんに買ってきてもらいました。この.......クラッカー?結構高いんですね、一個千円なんて。まあ、猛獣誘き寄せたりとかに使えそうですものね」
日本に猛獣なんざ熊くらいしかいませんし、それ百均で売ってるやつです。騙されてますよイスズ様。
「なんと!?.......天照ちゃん、あんなにいい子なのにっ.......私が何か悪いことをしたのでしょうか!?あの子の楽しみにしてたプリンをうっかり食べたこと?こちらのミスであっちの世界が崩壊しかけて、調整に三徹する羽目になったこと?.......どっちだと思いますか?」
どっちもだと思います。
それだけのことしてるのに、未だに色々と差し入れてくれて、せめてもの嫌がらせが九百円の損害て。天照大御神様には一回土下座しといた方がいいと思いますよ。
「そうします。.......さて、その天照ちゃんに、今度も色々と差し入れてもらったんですよ。食べますか?」
まあ、最近甘い物食べてなかったし、やぶさかではありませんね。
今日はなんですか?
「えっと.......これは、生八ツ橋って書いてありますね」
八ツ橋!?
京都の銘菓!私の好物!
お茶は緑茶で!
「.......へえ、そんなに美味しいんですか?どれ。.......これは失敗作ですね。私が処理します。リーンさんはちょっと待っててくださいね」
嘘つけ、美味しいから独り占めする気だ!
それでも神か!
※※※
.......ふう、美味しかった。
ケーキとかも最高だけど、やはり元日本人、あんこの味が恋しくなるよね。
「はあ、やはり日本の和菓子は絶品ですね.......外れがありません」
まったくです。前世とはいえ、故郷の味は良いものですね。
「さて、そろそろ真面目な話に移行していいですか?」
どうぞー。
あー、お茶が美味しい。
「.......もうちょっとのんびりしてからにしますか。.......はあ、やはり緑茶は落ち着きます.......」
あー.......嫌な事を全て忘れそう.......
「忘れられたら呼び出した意味が.......まあ、良いでしょう。ではそろそろ、本当に真面目な話にしますよ」
あ、お茶飲み終わっちゃった。
仕方ない、真面目な話聞きますか。
「今仕方ないって思いました?.......ま、まあそこは今は置いておいて.......改めて、勇者討伐、ご苦労様でした、リーンさん。これで、勇者の素質を持つ者はあと一人となりました」
確か、もう一人も転生者なんですよね?
「そうなんですが.......どうも、未だに勇者の力に覚醒していないようで、私にも誰が勇者かまでは分からないのですよ」
覚醒していない?
どういうことですか?
「勇者の力というのは、個人では判明しないのです。誰か第三者に観測されて、自分の力を自覚し、初めて勇者として覚醒するのです」
シュレディンガーの猫じゃあるまいし.......。
でも、ということは、一生このまま覚醒しない可能性も?
「それはありませんね。人間には、聖十二使徒の第二位、『宝眼』のヘレナがいます。あらゆる物事をその眼に写すとすら言われている彼女の宝眼があれば、勇者はすぐに見つかってしまうでしょう」
ちっ、面倒くさい.......。
しかも二位ってことは、かなり強いのか。
「半月の貴方と互角くらいでしょうか。ああでも、防御に徹されると満月でも数時間レベルで攻めあぐねるかもしれませんね」
マジか.......。
.......それで、私はこれからどうすれば?
「今まで通り、人間の殲滅を進めて下さい。勇者が出てくる前に、兎に角、数を減らしておくのです。.......今回の件で、貴方の存在とその戦闘力が人族に伝わりましたからね。貴方が来ている、それだけで人族の戦意を削げることすらありえます」
まあ、その為にあの冒険者の女を、あの場では生かして帰したわけでわすし。
でも、一つ心配なのは、何らかの対策とか打たれたらってことなんですけど.......
「今の人間にそんな力はありませんよ。あるならば、とっくに広範囲攻撃の申し子、レインとサクラを何とかしているはずです」
あ、たしかに。
「恐らく、最後の勇者が現れるのは.......早くて二年後、遅くても四年後、といったところでしょう。立て続けに勇者を失い、向こうも相当に焦っているはず。それならば、少しでも勇者を強くしてから、と考えるはずですから」
まあ、そうですよね。
.......その頃になるかなー、あいつらへの復讐は。
「ノインとイーディスですか。そうなると思いますよ。.......まあ、ノインに関しては.......貴方の手で葬れるかは分かりませんが.......」
.......え?
どういうことですか?
「あっ.......いえ、ほら.......魔王がいるではないですか。彼女も吸血鬼ですから、あの二人を激しく恨んでいるはずですから、どちらかをくれと言うかもしれないなーと思いまして」
ああ、成程.......。
あれ、でもなんでノインって断定を.......
「それでリーンさん!他に質問はございませんか?無ければ送還させて頂きますが!」
えっ?
あ、別に、無いです、けど.......
「それでは、そろそろお別れしましょう!次は最中用意しておきますので!」
マジですか!?
最中大好き!黒あんはこしあんでお願いします!
「注文!?.......ま、まあいいでしょう。それでは、また!」
※※※
目が覚めると、ベッドの上。
時間は.......昼の二時。
「最近、ますます睡眠時間減ったなあ.......」
まあ、レベル100を超えたあたりから、ぶっちゃけ寝なくても普通に活動出来るようにはなってんだけどさ。
やっぱり寝れる時には寝ときたいよね。
「あ、リーン、起きたの?おはよう!」
「あっ.......おはよう、ヨミ。待っててくれたの?」
「うん。.......今日はリーン、仕事無かったよね?ボクもちょこっと書類やったら今日は終わりだから、後で一緒に買い物行こう!」
嗚呼.......神様。さっきまで会ってたけど、取り敢えず祈っときます。
私の傍にヨミがいるように運命を作ってくださってありがとう.......。
「うん、いいよ。行こっか」
「やった!じゃあ、急いで仕事やっちゃうね!あ、お昼ご飯は作っておいたよ!」
そう言って自分の部屋に走っていくヨミ。なんだあれ可愛い。
.......さて、イスズ様の話によると、私は今まで通り仕事してていいらしい。
それで、ノインとイーディスへの復讐は.......
「.......あれ?」
なんだろう、あの二人への復讐の件で、なんか重要そうな話をイスズ様がこぼしていたような.......気のせいかな?
.......まいっか。どうせ、あの二人を嬲り殺しにすることには変わりないんだし。
.......ああっ!?
イスズ様に、ミィアとかいうあの変な女の件を聞くの忘れた!
※※※
「危ない危ない.......リーンさんには申し訳ないですが、若干記憶を操作してしまいました.......まあ、魔王の為です、仕方ありませんね.......」
「ミネア・ブラッドロードを.......自分の母親を殺された者と、娘を殺された者.......どちらが復讐を譲るのでしょうかね?」
リーンvs魔王とかは今のところ考えてないです。そもそも、んなことやったら五秒でリーンは負けます。