転生少年と吸血鬼の正体
七話くらい前の、『転生少年と訃報』の続きです。
.......その場にいる誰もが、耳を疑った。
アヴィス達は、強かった。俺達の中で間違いなく最強だったし、人類最高戦力とも言える聖十二使徒も、三人もいたはず。それに、S級冒険者も。
.......それが、たった一人の吸血鬼に全滅させられた?
「.......ジュリア、それは何かの冗談かね?」
「じ、冗談ではございません!本当なのです!恐ろしい強さを有する吸血鬼に、聖十二使徒の皆様も、私と同じS級冒険者も.......勇者様達も、全員っ.......!」
「リーン.......ミィアが話していた吸血鬼と同じ名.......そこまでの戦闘力を.......?」
.......本当、なのか?
勇者パーティ.......総勢十三人もの人類の精鋭が、為す術なく?
「.......分かった、信じよう。君の身に起きたことを、詳細に話せ」
「は、はい!.......まずは.......」
「待って!」
「ひっ.......!?な、なんでしょうか.......?」
ジュリアさんの話に待ったをかけたのは.......聖十二使徒序列第二位、『宝眼』のヘレナさん。
先天的に、『あらゆる物事を看破出来る』とすら言われるほどの、魔法現象とも違う不可思議な眼を生まれ持ったという女性。
「.......ジュリアさん、ちょっとこちらに」
「は、はい.......」
ジュリアさんがヘレナさんの傍に行くと、ヘレナさんは彼女のお腹の辺りを、ジーッと見つめて.......
「.......ジュリアさん、貴方、体に爆弾が仕掛けられているわ」
「えっ.......?」
「恐らく、そのリーンという吸血鬼にかけられたものね。.......《魔法解除》。.......うん、これで解除出来たわ」
「ば、爆、爆弾.......!?あ、ありがとうございますヘレナ様!もし気づいてくださってなかったら、私.......」
.......逃がした人間にすら、罠を仕掛け、後に殺そうとする。しかも、爆弾というジャンルを選んだことから、周囲も巻き込むつもりだったんだろう。
リーンという吸血鬼、恐ろしく残虐で非情なやつみたいだ。
「で、では、お話させて頂きます.......」
※※※
ジュリアさんの話を一通り聞き終わり.......全員が絶句した。
その、リーンという女のあまりの戦闘力の高さに。
「なんだ、その化け物は.......」
「下位とはいえ、聖十二使徒が三人同時に相手して傷一つ付けられないだと.......?」
「さ、更に、言わせて頂くなら.......や、奴は.......自らのことを、四魔神将第二席、『鬼神将』と名乗っておりました.......」
「四魔神将.......?聞いた事がない。どのような.......待て。今、第二席と言ったか?」
「.......仮に、四魔神将とやらが、魔王軍最強を集めた集団だとして.......まだ、上に一人いるというのか.......!?」
「わ、分かりません.......その、ただ.......奴は、あの呼吸する災害.......サクラ・フォレスターと、親しげに話しておりました.......少なくとも、準幹部最強と、対等な関係にいるということ.......」
.......俺は、甘く見ていた。
魔王軍という存在が、いかに強大か。
勇者パーティを単騎で壊滅させる鬼神、リーン・ブラッドロード。その同格前後が、あと三人もいる。
.......悪夢だ。そんなのが出てくれば、本当に勝てる可能性があるのは、聖十二使徒の第一位であるルヴェルズ様くらいになる。
「.......奴は.......私に、こう言いました。『この場では見逃すから、代わりに条件を飲め』と。.......私は、奴の情報を持ち帰ることを最優先と判断し、それを承諾しました.......」
「条件.......だと?」
「一つは.......自身の情報を、上に話すこと。一つは.......我々の情報を私の知る限り話すこと.......これは、断りました.......そして最後に.......伝言を.......」
「伝言.......だと?」
自分の情報を上に話させる意図は、恐らく、自分の存在を知らしめることによって、人間の恐怖心を煽る為だ。
だけど、伝言とは?
「伝言を.......聖十二使徒の、ノイン様と、イーディス様に、伝えろと」
「.......私とノイン殿に?」
「ぐすっ.......はて、なんでしょうか.......?」
聖十二使徒序列第六位『魔哭』のノインさんと、第七位『白剣』のイーディスさん。
ノインさんは、常に泣いている大柄な魔術師。俺に魔法を教えてくれたのもノインさんだ。
イーディスさんは、人類の平和を誰よりも願う高潔な騎士。美人で、あらゆる剣士の憧れとなっている。
「.......そのリーンという女は、吸血鬼だったそうだな。.......成程、大体内容は察せたぞ。ノイン殿。確か貴方.......八年前、吸血鬼を一匹逃したという話をしていなかったか」
「グスッ.......ああ、あの時の、幼き少女.......まさか、彼女が.......!?嗚呼っ、ミザリー様!愚鈍な私を、どうかお許しくださいっ.......!」
.......?どういうことだ?
ピンと来ていない俺達転生者組に気づいたのか、ルヴェルズ様が説明をしてくれた。
「.......吸血鬼族は、本来は八年前、ここにいるイーディスとノインによって滅ぼされたはずの種族なのだ。魔族と人族、相互不干渉を騙り、魔王軍と密かに繋がっていたことが判明したことによってな。.......だが、その際に一匹だけ、吸血鬼の子供を逃していた。その子供は異常な強さを持つ突然変異とすら言える程の吸血鬼であり、里に残っていた騎士を二十人以上殺し.......そして、今に至るまで行方を晦ましていた」
「.......つまり、その吸血鬼が、リーン・ブラッドロードだと?」
「その通りだ。.......それでジュリアよ、伝言と言うのは?」
「は、はい.......『次はお前らだ。私のお父さんとお母さん、友達、仲間達を皆殺しにした罪、絶対に後悔させてやる。絶対に私が殺してやる』、と.......」
「はっ.......逆恨みもいいところだな」
「ううっ、悲しい.......!あの時、しっかりと母親と共に冥府へ送ってあげるべきだった.......!」
.......いくら魔王軍と繋がっていたとはいえ、一つの種族を女子供関係無しに滅ぼすというのは流石に可哀想なんじゃないか、というのは、この世界では通用しない常識なんだろうか。
「.......兎も角、目下の敵は定まったな。『魔王軍四魔神将』.......まずは、この連中の情報を得る事が最優先だ。暫くは、聖十二使徒の上位を戦線に出すことも厭わん。.......各員、これまで以上に気を張るのだ」
「「「はっ!」」」
.......こうして、新たな脅威が発覚した、人類の先行きを決める会議は終了した。
※※※
「.......あの.......ゼノさん」
俺がアヴィスの件を考えながら廊下を歩いていると、先程まで会議室にいたS級冒険者.......ジュリアが声をかけてきた。
「どうしたんですか?」
「.......確か、ゼノさんは.......勇者アヴィス様と、親しかったですよね」
「.......まあ、親しかったかどうかは別として、共にいることは結構ありましたよ」
大っ嫌いだったけどな。
「.......その。これは、私の薄れ意識の中で聞いた話であり.......全く確証の無い、曖昧な記憶なもので。だからこそ、あの場では話せず.......ですが、もしかしたら貴方なら.......」
.......?なんだろう。
「なんですか?俺に力になれることなら、なんでも言ってください」
「.......本当に、私の勘違いの可能性が高いのです。ですので、深く考えずに聞いて頂きたいのですが.......あの、アヴィス様とそのお仲間様と、リーンという吸血鬼.......知り合いだったかのような会話をしていた気がするのです」
「.......なんですって?」
「アヴィス様達とあの吸血鬼は.......互いの名前を、別の名で呼んでいたような.......」
「その話、詳しく!」
「えっと.............確か.......」
「あの吸血鬼は、アヴィス様のことを.......『クロダクン』と呼んでいたような記憶が.......」
クロダクン。黒田君。
前世でのアヴィスの名前。
それを.......何故、リーン・ブラッドロードが知っている!?
.......聞いた話だと、黒田達は.......恐ろしく残酷な殺し方をされたという。
俺の最悪の予想が正しければ.......黒田達を苦しめて殺した事に、綺麗な筋が通る。
だけど、間違いであって欲しい。俺の予想が外れていて欲しい。
『彼女』が、リーン・ブラッドロードと同一人物だなどと、そんなことはあるはずが.......
「.......アヴィスは.......その吸血鬼のことを、なんと呼んでいたんですか」
「え、えと.......すみません、記憶が曖昧で.......」
「思い出してください!お願いします!」
「うううっ.......!」
頼む、どうか違っていてくれ。
頼む.............!
「あっ.......!た、確か.......せ.......せん.......そう、『センジョウ』と.......センジョウと呼んでいたと思います」
.............それを聞いた瞬間。
俺の頭は、真っ白になった。
一応吸血鬼族の名誉の為に言っときますと、彼らは魔王軍と繋がっていませんでした。そもそも、魔王であるフィリスが吸血鬼だということ自体、彼らは知りませんでした。
あの話は、吸血鬼が生きていることそのものが許せないクソ人間共が後ででっち上げたデタラメです。