吸血姫と帰宅
「で.......伝、言.......?」
「そそ。まず、あんたを生かす条件ね。一つ、あんたが今日見た私の情報を、余さず人間共の上層部に伝えること。一つ、聖十二使徒や、勇者達と一緒にいた人間について私に全て情報を吐くこと。.......そして最後に一つ、私が望む伝言を私が望む通りに伝えること。分かった?」
私が捕らえたS級冒険者.......ジュリアは、青い顔をしてガタガタ震えながらも、返答してきた。
「い、一番最初と、最後のことは、了承、出来ます。ですが、二番目は、出来ま、せん」
「.......へぇ?」
「ミ、ミ、ミザリー、様を!う、う、裏切る、わけっ、には.......!」
「うん、合格」
「.......え?」
「いやー、これで全条件を呑みますって言うやつだったら速攻殺す気だったからね。女神ミザリーの狂信がある人間にとって、二番目の条件は受け入れ難いもののはずなのに、それでも呑んでくるやつは、間違いなく偽の情報を流そうとするやつだろうし。というわけで、メッセンジャーとして生かしてあげるよ。貴方、聖神国へ転移出来る?」
「え、あ、出来.......ます」
「じゃあ、お願いね?伝える奴と内容は―――」
※※※
「グ、グ、《上位転移》!!」
ジュリアの転移を見届けた後、私はサクラ君に向き直って、
「さーて、仕事終わりっと!ごめんねサクラ君、長いこと付き合わせちゃって.......」
「い、いえ.......大丈夫、です」
「魔王様も心配してるみたいだし、さっさと帰ろ!.......あ、その前にあの鉄の処女持って帰らなきゃ。多分まだ生きてるし」
「あ、あの、リーンさん.......」
「ん?どうしたの?」
「め、珍しい.......ですね、そのぉ、あの.......人間を、見逃す.......なんて」
「え?.......ああ、それね。メッセンジャーとしての役割を果たして貰いたかったし。.......あと、別に見逃してはないよ?」
「.......え?」
「あいつ掴んでる時に、どさくさに紛れてお腹のなかに時限爆弾の魔法仕掛けたからね。私が伝えて欲しいメッセージとか、私の情報とか、そういう情報を全て話し終えたら自動的に爆発するように術式を編んだやつ。.......聖神国の連中に、少しでもダメージ与えてくれるといいんだけど。あと、聖神国のやつに爆弾見つかって魔法解体された時の為に、三日後に解けきるくらいの丈夫さのカプセルに入れた、えげつない威力の毒薬を、あいつの体内に《物質転送》で入れといたし」
(リーンさん.......こんなに綺麗な顔してるのに、なんでそこまで怖いこと思いつくんだろう.......)
「さてさて、じゃあサクラ君、お願いねー」
「あっ.......。わ、分かりました.......《上位転移》」
さて、戻ってきましたよ魔族領首都『パンデモニウム』。
取り敢えず魔王城に戻らなきゃ.......
「.......リーン!!」
魔王城から飛び出す影。
なんだあれ、なんかこっちに近づいて.......
「わっぷぁっ!?」
「リ、リーンさーん!?」
「リーン!主、怪我などしとらんか!?帰りが遅かったが、どうした!?何があった!?」
「ま、魔王様っ!?」
「み、見た目は怪我しとらんようじゃが.......毒でも盛られたか!?大丈夫か!?勇者はどうした!?.......あと、後ろのその謎の女の箱はなんじゃ!?」
「お、落ち着いてください魔王様、全部説明しますからあ!」
飛び出してきたのは魔王様だった。
いつまで経っても過保護が抜けないなこの人.......
※※※
「.......あー、つまりなんじゃ。要するに、勇者を嬲って楽しんでたら、こんな時間になったと?」
「.......まあ、そういうことですね」
「.......その女型の棺の中に、まだ生きてる勇者の仲間の女が入っておると」
「そうですね」
取り敢えず今夜の経緯を説明すると、魔王様は、超大きな溜息を吐いた。
「.......まったく、心配して損したわ.......妾はてっきり、主が油断して怪我でもしたかと.......」
「油断するわけないじゃないですか、鼠を狩るにも全力が私のモットーですよ」
「せめて兎で止めておけ。鼠て。.......まあ、兎に角ご苦労じゃった。もう勇者は死んでおるのじゃな?」
「はい。確かに殺しました」
「そうか。これで残りの『勇者の素質』持ちはあと一人.......。そやつを殺せれば、人間共にとっての希望は潰える。少なくとも、再び勇者の素質持ちが現れるまではな」
「そうなったとしても、こっちには四魔神将もいますしね。ヨミ以外は長命種ですし、次代が現れたとしても大丈夫だと思います」
「そうじゃな。取り敢えず、次なる目標は勇者の素質持ちを再び見つけ出すことか.......まあ早くても数年後の話になるじゃろう。改めて、よくやってくれたな、リーン。今日は体を休めよ」
「はい、ありがとうございます。じゃあ、失礼致します」
「うむ。ヨミも心配しておった故、早く帰ってやれ」
.......ヨミが心配?
.......やべっ、マジか。やっちまった。
※※※
魔王軍準幹部以上のみが住まう、超高級住宅街。
そこに、私とヨミの家はある。
.......そう、私とヨミは未だに一緒に住んでいるのである。
というのも、魔王様が何年か前に、「主ら仲良いしリーン一人ではあのでっかい家は持て余すじゃろうから一緒の家でいいじゃろ」とか言って、同じ家に押し込んだせいだ。
まったく.......魔王様にも困ったものだ。
確かにヨミにおかえりって言われるとキュンってするし一緒にごはん食べるの超楽しいしお風呂入ると鼻血吹きそうになるし基本的にあの子体温高いから冬場は湯たんぽとして重宝するけど、他の幹部の皆さんが一人一つのプライベート空間を持ってるのに、魔王軍最強と準最強が同棲ってどうなの?
本当に、とても面倒な話.......
「リーン、おかえり!遅かったけど大丈夫?」
「ヨミぃ〜!疲れたぁ〜!」
「うわあっ!?.......だ、大丈夫?怪我はしてないみたいだけど.......勇者、ちゃんと仕留められたの?」
「うん。でも血めっちゃかかって気持ち悪い。お風呂入りたい.......」
「もー.......じゃあ沸かしてくるから待っててよ。ボクもまだ入ってないし、一緒に入っちゃお。その後ご飯作ってあるから」
「.......天使か?」
「え?なに?」
「いや、なんでもない.......ありがとうヨミ」
「うん!」
ごめんなさい嘘です。
ヨミのいない生活とかもう無理です。
だってこの子、魔王軍最強とはいえ、まだ表立って行動させられないから家にいること多くてさ。
だから私が疲れて帰ってくると、ご飯とかお風呂とか用意してくれてんの。
最高かよ。もう貴方戦わなくていいから、私が養うから、私が貴方の復讐したいやつら全員ここに連れてきてあげるから、ずっと家にいてくれない?
ちなみにこれを魔王様に打診したら、物凄く残念なものを見るような目で見られて却下された。解せぬ。




