吸血姫と四魔神将、そして神器
「.......諸君らに今日集まってもらったのは、他でもない。新たな幹部枠.......四魔神将の創設において、その人員を発表するためじゃ」
新たな幹部枠.......魔王軍四魔神将の創設が発表されてから三日後。
現在、魔王の間では、ヨミの魔王軍入りの時みたいに各種族の上層部が集まって、発表を今か今かと待ち続けている。
「では、早速発表していこうと思う。まず.......第四席、グレイ・クリスト」
その声と同時にグレイさんが前へ出て、同時に大きな歓声と拍手が起こった。
流石グレイさん、人気者だな。あの寡黙な感じがたまらないって言うファンクラブとかあるらしいし。
「グレイ、主を魔王軍四魔神将の第四席に任命する。.......かつて魔王軍最強と言われていた主が、四席というのは不満もあるかもしれんが」
「そのような.......ことは、ない.......俺より、上の.......三人が.......強かった.......ただそれだけのこと.......」
「む、そうか?」
「.......だが.......俺とて、武人.......このまま.......停滞する気は.......無い.......」
「ククク、いいぞその姿勢。気に入った。そんな主の武人としての矜恃を称えて、新たに『武神将』の名を与えようではないか。これからも、魔王軍の為にその力を尽くせ」
「承った.......」
ここで再び大きな歓声。
.......かっけえ、グレイさん。憧れるわー。
「では次.......サクラ・フォレスター」
「ひゃ、ひゃい!!」
「サクラ。主は第三席じゃ。今まではティアナがいたこと、それに主には、その.......軍を率いる才があまり.......無くてな.......それで幹部入りを保留していたわけじゃが」
魔王様を言い淀ませるレベルの才能の無さって、どんだけなんだろうサクラ君。
「.......じゃが、主自身の魔法の実力は、間違いなく魔王軍トップじゃ。これからも、存分にその力を奮っとくれ」
「か、かしこまりました!こ、これからも.......えと、人間を、燃やしたり爆破したり、溺れさせたり、色々やります!」
「お、おう。.......では、主のその魔法に関する稀代の才能と賢さにちなみ、『賢神将』の名を与えよう」
「お、お言葉、頂戴致しましてゃ!」
噛んだ。
「では、次.......リーン・ブラッドロード」
お、私か。
私は前の二人と同じように、魔王様の前まで行って姿勢を正した。
すると、グレイさんやサクラ君に負けず劣らずの歓声。うわ恥ずかしい。
「.......リーン。我が同胞の唯一の生き残りよ。主を第二席とする。.......まさか、ここまで強くなるとは思わなかったぞ」
「幹部を始めとする、魔族の皆さんのお力あってこそです。私一人では、既に死んでいたかもしれませんから」
「.......主は、謙虚なのか強欲なのか、よく分からなくなることがあるぞ」
どっちもだと思います。
「まあ良い。主の戦場での暴れっぷり、聞かせてもらった。つい数日前も、レインと共に国を一つ落とした。誰にでも出来ることでは無い」
アルヴェラ王国の件か。
これを聞いて、後ろからおおっ.......という、感心の声が上がった。やめて恥ずかしい。
「そんな主には、新たに『鬼神将』の名を与える。これからも、吸血姫としての役目を果たせ」
「かしこまりました」
私が下がると同時に、最早怒号にすら聞こえる歓声が上がった。
だからやめてってば、褒められたり讃えられたりするの苦手なんだって私!
「そして最後じゃ。まあ、ここにいる全員が分かっておるとは思うが.......ヨミ、こっちに来い」
「はい、魔王様」
お、ヨミ来た。
何あのちょっと緊張してる顔。可愛い。誰かカメラ。
「ヨミ、主を第一席.......つまり筆頭。妾に次ぐ、魔王軍第二位の実力者として認めよう」
「はい。.......人間の身でありながら、魔王軍に入れてもらったこと。本当に、感謝してもしきれません。魔王様やリーンに拾われたこの命、全ては魔王軍の為に使います」
「ククク、少しは自分の分の命もとっておけ。.......さて、ヨミ。主の無双の戦いっぷりには、この異名が相応しいじゃろう。.......『戦神将』。この名を主に与える。これからも、その最強の力を魔王軍の力としとくれ」
「勿論です!」
そこで、今日一番の歓声が上がった。
流石はヨミだ。え、何あの恥ずかしそうな顔。超可愛い。
こうして、新たな幹部―――魔王軍四魔神将が創設された。
第四席―――『武神将』グレイ・クリスト。
第三席―――『賢神将』サクラ・フォレスター。
第二席―――『鬼神将』リーン・ブラッドロード。
第一席―――『戦神将』ヨミ。
魔王軍最強の四柱。
私を含むこの四人が、人間達にとっての絶望となる日は、そう遠くないだろう。
※※※
四魔神将の創設から一日明けた次の日、私達四人は魔王様に呼び出されていた。
「え、えと、.......魔王様、なにかその、御用、ですか?」
「うむ。まあ、主らは今回、魔王軍最高戦力として活躍していくわけじゃが.......そこに選ばれるまでの努力やらなんやかんやの褒美に、ちょいとプレゼントをと思ってな」
「プレゼント?なんですか、お金?スイーツ?ヨミに好きなだけハグする権利?」
「最後のなに!?」
「違うわい。まあ、大したものでは無い。ちょっと主らに神器をくれてやろうと思っただけじゃ」
なんだ、神器かー。
神器ねー。
.............。
神器いっ!?
「じ、神器って.......あの神器!?」
「他に何があるのかは分からんが、多分それじゃ」
「なんと.......神器、とは.......」
神器。
かつて、魔族と人間が争わず、共存共栄の関係を築いていた時代。
時の大国の王は、自らの国を守り、繁栄させる為、九十九のマジックアイテムを創らせた。
一つ一つが、恐ろしい性能を秘める最強のアイテム。それが神器。
「とは言っても、長い歴史の中で消失した神器もかなりある。現在魔王軍が保有している神器は、僅か十三。その中から、主らに合ったものをやる」
「や、やるって.......」
「このまま腐らせておくのも勿体ない性能じゃからな。主らに託す」
.......おお。
本当にいいんだろうか。
私の手首には、神器の劣化版である臣器、『保守の腕輪』が煌めいている。
これも私の奥の手なんだけど、更に私を強化出来るなら、受け取らない理由はない。
「まずグレイ。主はこれじゃ」
「.......これは.......服.......?」
「『強服グラボラス』という。効果は至ってシンプルじゃ。主の筋力と防御力を数倍に引きあげる。ちなみにデザインを自由に変更出来る効果もある故、好きなように改造しろ」
「.......おお.......」
神器すげえ。
デメリット無しでステータス補正とか。
「サクラ、主はこっちじゃ。『王杖ハーティ』。大事に使えよ」
「えっと、これは、どういう.......」
「魔法威力向上、必要消費魔力減少。それだけでなく、魔法の完全簡略化も出来る」
「簡略化.......?」
「どのような大規模魔法だろうが、儀式を必要とする魔法だろうが。その杖があれば、例え発動までイラつくほど時間がかかる魔法でも、ものの数秒で行える、と言えばわかるか」
「えええっ!?」
魔法チートにチートアイテムが授けられちゃったよ。
「リーン、主は.......おおあった、これじゃ。『天眼アルス』という」
天眼アルス?
なんだろうこれ、ペンダント?
「これはどういう物なんですか?」
「視覚に対するあらゆる方面に対する絶対的なバフが与えられるというものじゃ」
「.......えーっと?」
「つまり、吸血鬼の眼ですら見通せないような煙幕や、閃光を食らっても、関係なく見えるようになる」
.......ん?まあ便利だけど、ちょっと前の二人に比べたらしょぼくない?
「それだけでは無い。視線を飛ばす千里眼、一秒から十秒までの未来を先見する未来視、断片的に相手の心を覗き見る読心眼。果てには、相手の『ステータス』を盗み見る力もある」
前言撤回、やべぇアイテムだった。
何それ凄い、本当にこれくれるの?
※※※
「さて、最後はヨミじゃが.......主はこれじゃ」
「これは.......剣ですか」
.......ん?この剣、どっかで見覚えが.......
.......あ。
「これ、『魔剣ディアス』じゃないですか。勇者時代のヨミが使ってたやつ」
「え、そうなの!?」
「左様じゃ。効果は極めて強力。相手の防御を貫通して斬る力、炎や水といった、実体のないものを斬る力、斬った箇所を治癒困難にする力。この三つじゃな」
改めて聞くとガチのチートじゃないすか。
特に防御貫通。防御特化の前衛の天敵じゃん。
「主に返しておくぞ。存分に振るえ」
「.......はい、ありがとうございま.......」
「あとこれもやる」
「.............え?」
ん?
なんか魔王様が、もう一本剣を持ってるんだけど。
「魔剣ディアスは、元々主の持ち物じゃからな、妾は返しただけじゃ。それとは別に、もう一つやると言っておる」
「えっ.......!?ちょっ、そんな.......二本なんて受け取れませんよ!」
「言ったじゃろう、このまま腐らせておくのがもったいないと。主なら二刀流くらい出来るじゃろう?」
「いや、それは、まあ.......出来ますけど.......」
出来んの!?
あれ、超難しいって聞いたことあるけど!?
「銘は『終剣アリウス』。その性能は―――」
.......性能を聞いて、その場の全員が口をあんぐりと開けた。
やばいじゃん。何それ、ヨミが使ったらマジで敵と呼べる存在がいなくなるんじゃないの?
「では、終わりじゃ。わざわざ呼び出して悪かったな。解散」
言うだけ言って、魔王様は転移してしまった。
思わぬ力を得た私達は顔を見合わせ.......取り敢えず、各々力を試す為に、闘技場へ向かい。
一時間後、その異常な性能に絶句することになった。
ついでに闘技場は壊れ、ゼッドさんが聞いたことの無いような叫び声を上げた。
『ちょっとどうでもいい裏話』
四魔神将の第四席は、レインにするかグレイにするかでギリギリまで悩みました。
だけど、流石に魔王軍最強が女3と男の娘1って魔王も女の子なのにどうなのって思って、グレイにしました。
彼も個人的に結構お気に入りのキャラなので、レイン好きな人御容赦を。彼女もちゃんと活躍させるので。