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転生少年と法皇

 .......俺がこの世界で初めての.......そして最悪の、転生者との出会いを果たした日から五年後。

 俺は十三歳になっていた。


 この五年間、俺は『勇者の付き人に選ばれた』という名目で両親から引き離され、勇者―――黒田ことアヴィスと共に、各地で転生者探しをしていた。


 その時間はかなり酷いもんだった。扱いが完全に召使いだからな。

 教会の連中も、アヴィスが勇者だってだけで何をしても何も言ってこないし、散々だ。


 .......だけど、それは割と序盤だけだった。

 理由は、徐々に俺達と同じ、『転生者』が見つかりだしたからだ。

 各国に渡り、あらゆる街で演説をして、日本のことを知っているか聞いて回っていると、一人、また一人と、転生者が集まってきて.......しかも、その全員が、俺らと同じ時に死んだ連中だった。やはり、転生者という存在は、あの時に死んだ人間以外はいないらしい。


 そして今。教師を含む俺のクラスメイト二十八人のうち、二十二人が集まっていた。



 ※※※



 メルクリウス聖神国、神都ミザリー。

 魔王軍との戦いから最も離れた、最も強固な結界が張られていて、世界で最も安全と言われている場所。

 その中心部にある、神都のシンボル.......ミザリー教会本部。ミザリー教の総本山。

 今はそこで、次期勇者パーティ候補者として日々訓練を続けている俺達は、現在、教会にある大広間に集められていた。


「話ってなんだろうなー、翔太」

「俺に聞かれても分からないよ。.......あと、前世の名前は控えろって何度言ったらわかるんだよジード.......」


 もう何度やったか分からない、このやり取り。

 俺の隣にいるのは、ジード。三年くらい前に見つけた転生者。

 前世での名前は北嶋斗哉(きたじまとうや)。前世から俺と仲が良かった友達だ。


「わりーわりー、ゼノ。だってさ、大広間に集められるなんて滅多に無いじゃん?勇者の黒田.......じゃなかった、アヴィスは別としてさ」

「まあな。.......噂をすれば、その勇者様が来たぞ」


「ねえねえアヴィスー。こんな所来ずに、ケーキとか食べいこうよー」

「.......そう言うな、流石に勇者の責務を放っておいたら、上が黙ってねえだろ?こういうのは来とかないとな」

「ぶー!」


 .......黒田新一。今世での名前はアヴィス・ノワライト。

 ここにいる全員を、半ば強制的に集めた、今代の『勇者』。

 それが、前世からの取り巻きと一緒に中へ入ってきた。

 アヴィスの腕に引っ付いてるうるさい女は、アメリア・スーラン。

 どこかの国の貴族として産まれ、思い切り甘やかされて育ったせいか、前世以上に我儘になったやつだ。

 他にも四人。解せないことに、あの取り巻き連中、転生者の中で、実力トップ4なんだよ。

 なんだ?実力と性格は反比例するのか?

 そんなことを考えていると、


「.......全員集まったようだな」


 大広間にある、上階へ繋がる階段。

 そこから、偉そうな男が降りてきた。

 外見はイラつく程の美形であり、二十代半ば程。降りてきた瞬間、女子達の黄色い声が僅かに上がった。

 そして、この男は実際、凄まじく偉い。



「はい、法皇猊下。私、勇者アヴィス、並びに次期勇者パーティ候補者二十一名、ここに参上仕りました」



 そう、あの上から目線のアヴィスが恭しく頭を下げ、紡いだ言葉通り。


 この男が、この外見は二十代に見えるような美丈夫こそが、人間の頂点。

 ミザリー教の主、法皇。


 そして同時に。


 聖十二使徒序列第一位―――『神子』のルヴェルズ・ヒューマンロード。


『始まりの英雄』と呼ばれる、この国を作りあげた男の直系の子孫であり、人類の大君にして人類最強。


「諸君らに集まってもらったのは他でもない。.......勇者パーティの選考を、そろそろ決めるべきと思ってな」

「.......ついに、ですか」

「ああ。勇者アヴィスよ、お前はもう十分に強くなった。そろそろ、戦場を知るべきだとは思わんかね?」

「.......おっしゃる、通りかと」


 .......ついに、勇者を戦線へ投入か。

 流石のアヴィスも、ルヴェルズ様にだけは頭が上がらないようで、本音は戦争なんて行きたくないだろうに、コクコクと頷いている。

 そして、その判断は正しい。ルヴェルズ様が本気になれば、この場にいる二十二名、十秒もかからずに全員為す術なく殺されるだろう。

 他の聖十二使徒.......序列第二位でも、彼には圧倒的に劣るという話すらある。


「勇者パーティは.......君といつも共におる、そこの五人でよかろう。バランスも悪くないし、事実としてこの中では最も強き者達だ。それに加え、聖十二使徒を数人つけよう。それで構わないな?」

「異論ございません。猊下のお心遣い、感謝してもしきれません」

「そうか。他の者は、欠員が出た際の後継者として、この教会に待機していてもらおう。.......話は以上だ。勇者アヴィス、君の初陣は一月後を予定している。少しでもレベルを上げておきたまえ」

「.......はっ!」


 要するに、俺達は予備ってことか。

 まあ、戦争なんてしたくもないから、精々こいつらが、しっかり魔王討伐をしてくれることを祈ろう。



 ※※※



 ルヴェルズ様が背を向け、戻ろうとしたが、


「お待ちくださいませ、法皇猊下」


 俺達の後ろから響いてきた声で、足を止めた。


「.......ミィアか」


 そこにいたのは、絶世の美女.......という言葉すら物足りない、それほどの美人だ。

 美しい銀髪に芸術的な顔立ち、見惚れてしまうような佇まい。


  聖十二使徒序列第十一位、『天女』のミィアさん。


 三年前に聖十二使徒入りしたばかりだが、弱冠十三歳で聖十二使徒となり、現在は十六歳、史上最年少で聖十二使徒に選ばれた天才。

 そして、男どころか女性すら魅了してしまう、その容姿。

 あらゆるものを、その美しさで支配してしまう。まるで天上人の如く。故に『天女』。


「.......君は確か、アルヴェラ王国に出向していたはずではないかね?何故ここにいる?」

「至急、法皇猊下のお耳に入れるべきと判断したお話があり、戻って参りましたわ」

「ほう.......それはこの場で、この者達にも聞かせて良い話かね?」

「ええ、是非に。.......新たな魔王軍幹部の存在を確認致しましたわ」


 人間に数こそ劣っているけど、一体一体が高いポテンシャルを持つ存在、それが魔族であり、その連合が魔王軍だ。

 その中でも、段違いに強く、魔族達からの畏敬を集めている十人の魔王軍の精鋭、魔王軍幹部。

 その十一人目.......ということだろうか。


「ほう.......新たな幹部か。その様子だと、仕留められなかったようだな」

「はい。.......といいますか、アレは私では敵いませんわ。正直、アレがこのまま進軍してくるのであれば.......アルヴェラ王国は滅ぶかと」

「.......なんだと?」


 .......国が滅ぶ?

 何かの冗談か?


「そいつの特徴と種族、名前は?」

「名前はリーン・ブラッドロード。魔王軍幹部第五位、『鮮血将』の異名持ち。吸血鬼族の生き残りのようですわね」

「.......吸血鬼族か」


 吸血鬼族の『生き残り』っていうことは、吸血鬼は絶滅したと思われてたってことなのか?

 .......いや、それは後で聞けばいい。問題はそいつがどれ程強いかだ。


「特徴は、黒髪赤目、八重歯。吸血鬼族の証ですわね。.......後は、その尋常ならざる実力。正直、二度と対面したくありませんわ」

「それ程か。具体的にはどの程度か分かるかね」

「魔法と近接戦、どちらも行える魔法拳士タイプ。しかし、その双方の完成度が尋常ではございませんでしたわ。あれは化け物です。あの実力.......月の加護による強化を考慮しても、間違いなく、厄介さはレイン、グレイ、サクラと同等以上かと。アルヴェラ王国の近衛騎士団一個大隊が、五秒とかからずに壊滅致しましたし」

「.......ここに来て厄介な輩が出てきたものだ」


 耳を疑った。

 近衛騎士団といえば、各国が保有する、エリート集団だ。

 それを、数十人単位で数秒で皆殺し?本当にそいつは生物か?


「報告御苦労、下がってよいぞミィア。.......さて、諸君。聞いただろう。君達は確かに強くなった。しかし、世界には、今話に出たような怪物もいるということをゆめゆめ忘れるな。.......精進したまえ」

「「「はいっ!」」」


 その言葉を最後に、今度こそルヴェルズ様は上階へと消え、俺達は解散となった。


 俺は、新たに見つかったという幹部.......リーンという女が、何故か頭から離れず。

 悶々としながら、再び訓練場へと向かった。

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