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吸血姫と天女

「魔王軍幹部だとおっ!?」

「.......『鮮血将』など、聞いたことがない。しかし、魔族が魔王軍幹部を騙るというのも考えにくい。.......しかも、数年前に絶滅したはずの種族.......吸血鬼族か」


 この近衛騎士団の先頭にいるジジイ、鋭いな。

 面倒だから早く殺そう。


「さて、手っ取り早く行くか。《爆炎(エクスプロード)》」


 任意の場所に中規模の爆発を起こす魔法が、結界内部に轟いた。

 近衛騎士団とやらの中心部分にぶちかましたので、これで大半が死ぬか大怪我を負うだろう。


「なんだあっ!?」

「おい、あそこに誰かいるぞ!あいつだ!!」


 うるさいなあ.......。

 さて、結界術師と付与術師は何処かな?

 .......ああ見つけた、全員同じところに集まってるな。

 結界は.......ないね。街を守るのに必死で、自分達を守る結界なんて作れないだろうし。

 ちゃっちゃと全員殺そう。


「《暴風大刃(テンペストブレード)》」


 無数の見えない刃を乗せた暴風を指定位置に発生させる魔法が、密集していた結界術師と付与術師を容易に斬り刻んだ。

 何ヶ所か、似たように密集してる所があるみたいだ。一気に全員殺しちゃおう。

 結界内部に既に敵が侵入しているなんて夢にも思ってないようで、結界術師と付与術師は、結界の維持に力を注ぎまくっている。

 はい、不意討ちっと。


「《暗黒砲(ダークネスカノン)》《消えぬ炎(イモータルフレア)》《氷光線(フリーズレーザー)》《拡散付与(エンチャント)雷球(ライトニングスフィア)》」


 月の加護によって五倍に強化された私の魔法が、人間共の命を容易に刈り取っていく。

 ああ、気分が良い。これだ、この感覚だ。


「ふふふ.......あはっ、あははははははは!!」


 最っ高だ。

 前の街では殆ど配下に任せてしまったから不完全燃焼だった。けど今回は.......


「私がっ.......私が人間を殺している!蹂躙している!なんて清々しい気分!あははははは!!あははははははは!!」


 ハリウッド映画の悪役の如く、笑いながら敵を殺していくその様は、人間共にはどう映っただろう。

 悪夢の化身?絶対的強者?.......それを考えるだけでテンションが上がってくるよ。


 .......あ、結界壊れたみたい。

 もうすぐレインさんたちが突入してくるだろう。


「さて、お楽しみタイムは終わりか.......」


「これだけの人間を殺して、罪悪感を感じている様子すらなしか。残虐な幹部のようだな」


 .......ん?


「.......なんだ、生きてたんだ。やるじゃん」

「魔族になど褒められたくもないがな。儂の部下を甘く見るな」


 私に話しかけてきたのは、例の近衛騎士団のジジイだった。

 後ろを見ると.......成程、近衛騎士団の半分くらいがまだ動いてる。

 流石は国の精鋭級といったところかね。


「聞け諸君!敵は魔王軍幹部!魔術師系!強い!.......だが、所詮魔術師、近づければ勝機はある!近衛騎士団の意地を見せろお!」

「「「ウオオオオオオオ!!」」」



「じゃあお望み通り近づいてあげるよ」



「.......え?」

「ほら、どうしたの?近づけば殺せるんでしょ?私が『魔法拳士タイプ』だったとしても、近づくことが出来れば殺せるわけだ。やってみなよ」

「ひっ.......!?」


 近づければ勝てるなんて哀れで儚い期待を持った近衛騎士団ズ。

 ジジイ以外の総勢六十八匹、私は三秒で蹂躙した。



 ※※※



「馬鹿だねー、あのまま転移阻害結界が壊れたタイミングで、魔術師に転移魔法使わせて逃げればよかったのに。私に勝てるわけないじゃん」

「.............これほどとはな」


 ジジイは全てを諦めたかのような顔で、その場にひざまづいた。


「.......殺せ」

「潔いいじゃん。いいよ、私の手を煩わせないことを選んだご褒美に、痛みなく殺してあげるよ.......っと、一つ忘れてた」

「なんだ?」

「いや、あんたにじゃなくてさ」



「そこの。騎士団の最後尾で死んだフリしてる女。あんた生きてるでしょ?無駄だから早く起きなよ」



「なに.......?」

「.......ふふふ。流石は魔王軍幹部、容易に暴いてきますか。流石ですわね」

「そりゃどうも」


 そう。

 私が最初に、警戒に値しないはずの近衛騎士団を結界術師よりも優先して攻撃したのは、この女がいたからだ。

 目の前のジジイも、決して雑魚ではない。感覚からして、平均ステータス3000は超えている。人間としては十分な超人だ。


 .......けど、この女は格が違う。勿論私ほどじゃない。けど、この場にいるどの人間よりも強い気配を感じた。

 恐らくこの女は.......


「初めまして、『鮮血将』リーン。私は聖十二使徒序列第十一位、『天女』のミィアと申しますわ」


 .......やっぱり聖十二使徒か。

 一人だけ、魔力感知が異様に強い反応を示すからおかしいと思ってた。

 序列第十一位ってことは、多分、五年前に魔王軍で殺した、アスバルとスラストの後任の一人だろう。


「せ、聖十二使徒様っ.......!?お、お会い出来て光栄で.......」

「あ、あんたもう要らない」

「あ゛っ゛」


 ジジイ殺した。


「それで?聖十二使徒とはいえ、序列が二桁の雑魚が、なんでこんな所に来たの?私に殺されに来た?」

「とんでもございませんわ。私は少々、貴方とお話をしようと思って来たのです」

「.......あ゛?」


 お話?

 今更人間と話すことなんて無いっての。いいや、殺そう。

 聖十二使徒の首一つ持ち帰っておこう。


「.......話すことなんて無い。早速だけど、死ね」

「うふふ、野蛮ですわね。ですが、私、これでも多少は強いですわよ?いくら月の加護が働いている吸血鬼族だからといって、油断は良くないと思いますわ」

「ご忠告どうも。ああ、あとさ。さっきから()()、うざったいからやめてくれない?」

「ソレとは?」

「言葉に乗せて私にかけてきてる、()()()()に決まってるでしょ」

「.............」


 この女、さっきからちまちまと、私に精神魔法の一つである魅了魔法をかけてきていた。

 私の魔防はこの女の魔力より数倍高いので、簡単に弾けるけど、不快なことに代わりはない。


「.......気づかれておりましたか。そうして洗脳してしまえば良い戦力が出来ると思ったのに、残念ですわ」

「この狸女.......」


 気分悪い、殺そう。

 美人だから勿体ないけど、仕方ない。


 .......。

 .............。



 ()()()()()()()()()



 美人?勿体ない?なんで?

 吸血鬼の里を滅ぼされて以来、ヨミ以外の人間の美醜なんて、道端の石ころの形より興味無いと思っていた私が、勿体ないって思ったのか?


 .......魅了魔法にかかった?いや、あれ以来魔法を使っている気配はない。

 つまり.......この女を、純粋に私が美しいって思ったってこと?

 この私が?


「ふふふ.......戸惑っている様子ですわね。どうやら貴方も、私の美しさに見惚れてしまったようで」

「.......ナルシストかよ」

「違います、事実ですわ。この世で最も美しい生物、それが私。私を見た者は、どんな人物であろうと私に魅入られる。それがこの世界のルール」


 .......言ってることはくっそナルシストの気色悪い自画自賛なのに、少し納得した自分をちょっと殺したくなる。


 .......違う。私はこの女の顔に魅入られたわけじゃない。

 いや、負け惜しみじゃなく.......()()()()()

 この女に対して、攻撃しようという意思が薄れるのは.......もっと、何か.......別の要因がある気が.......でもそれが分からない。


「では、今日のところは退却させて頂きますわ。魅了が通じないのならば、私が貴方に勝てる見込みはありませんし。.......では、失礼致します」

「っ.......逃がす、か!」


 どうにか理性を戻し、私は女へ襲いかかった。


 だが一歩遅く.......ミィアと名乗った聖十二使徒は、転移のマジックアイテムで、まんまと逃げ去った。

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