元勇者と安堵
目が覚めると、見知らぬ部屋で、見知らぬベッドに寝ていた。
.......なんでボクはこんな見知らぬところに?
取り敢えず、寝る前のことを.......思いだ.......して.......
「あっ!?薬っ.......!」
「ああ、ヨミ様!目を覚まされましたか!」
「えっ.......?あっ.......店長さん」
部屋に入ってきたのは、ケーキ屋の店長さんだった。
ということは、ここはあのケーキ屋か。
「ヨミ様!.......本当に.......本当にっ、ありがとうございました!」
「え.......?あっ、てことは、間に合って.......」
「はい!ヨミ様が採取してきてくださった花から、ヴィネル様が解毒剤を作ってくださって.......お陰で、妻の容態は回復してきています!感謝してもしきれません!」
「ああ、いえいえ.......もう、ボクのケーキに塩はかけないでくださいね?」
「も、勿論です!いつでもリーン様とお越しください!」
.......良かった.......間に合ってた。
街の危機も、ここの奥さんも、救えた。
※※※
「.......随分無茶をしたのう、ヨミ」
「えっ?.......あ、魔王様」
「へ?ま.......ま.......魔王様あああっ!?!?はうっ.......」
あ、店長さん気絶した。
.......まあそうだよね、自分の家に王様来たらキャパオーバーするよね。
「具合はどうじゃ?」
「あ.......大丈夫、です。まだちょっと、体がだるいですけど」
「そうか。ちなみに今は午前八時じゃ。主は半日以上寝ておったぞ」
「.......そんなに寝ちゃってましたか.......」
「ゼッドとヴィネルも心配しておったぞ。まったく.......リーンといいサクラといい主といい、何故魔王軍最強候補共はこう、度々無茶をしでかすのじゃ」
「あ、あはは.......すみません」
「.......まあとはいえ、今回は本当にご苦労じゃった。主のおかげで、この街と、そこで倒れとる男の嫁は救われた。主がいなければ、主が気づくのがもう少し遅ければ、恐ろしい被害が出ておったじゃろう。.......よくやってくれた」
「え、えへへぇ.......」
褒められちゃった。
最近、色々と壊したり壊したり、あと壊したりで怒られてばっかりだったから、やっぱり褒められると嬉しいな。
「ところで、ヨミ。例の魔獣はどうした?」
「え?」
「魔獣じゃ。黒豹のような姿の、強いやつがおったじゃろう」
「ああ.......強かったですよ?多分、全滅させましたけど.......」
「おい待て今なんと言った?.......全滅させたじゃと?あの数を?あの強さの魔獣を?一人でか?」
「え、はい.......なにかまずかったですか」
「...................いや、それについてもよくやった.......。『スズネ』は、『ミゼル』の解毒以外にも、魔族にとって有益な様々な効果を齎す。.......じゃが、ここ数年はあの魔獣があの場を縄張りとしておったせいで、採取が出来んかったのじゃ」
「幹部クラスを複数投入するのはダメだったんですか?」
「スズネは確かに便利じゃが、戦争よりも重要かと聞かれればそうでもないからのう。いやまあ、正直に言えば、すっかりその存在を忘れておった」
忘れてたのか.......。
「妾が出動出来れば早いんじゃが.......そうも行かぬのでな.......」
魔王様は強い。当たり前だ。
ボクも魔王軍最強って言われているけど、それはあくまで魔王様を除いた場合の話だ。
魔王様には、魔王軍最精鋭.......ボク、リーン、サクラ君、グレイさん、レインさんで束になっても、多分勝てない。
けど、魔王様はその力の代償として、大きな制約を背負っている。
魔王様は、魔王城周辺や、各地にある街や村、その他様々な場所に存在する結界や付与を全て一人で賄っている。
しかし、それは魔王城から供給されている魔力を、魔王様が代行して操っているにすぎない。
つまり、魔王城周辺.......約五キロ圏内でしか、魔王様は活動出来ないんだ。
でもまあ言い換えれば、『半永久魔力供給器』である魔王城の内部、あるいは周辺にいる限り、その魔王城と繋がってる魔王様はほぼ無敵。
無限の魔力を持ってるようなものだからね。
「取り敢えず、今は休め。今日の修業の類もやめておけ、休むのも修業の内じゃ」
「うう.......はい」
「ああ.......それと一応教えておこう。リーンじゃがな、戦争参戦早々、昨日の夕方に街を一つ落としたそうじゃ。付近にいた人間は全滅らしいぞ」
「えっ、早っ!?.......何したらそんなに早く街が落ちるんですか?」
「捕虜の体内に魔力爆弾を仕掛けて解放し、街を火の海にしたらしい」
「うわお」
えぐいことするなあ、リーンは。
でもいい気味だ。
「じゃあ、妾はもう行くぞ。体がマトモに動くようになるまで、ここで介抱してもらうがよい。まあ主ならば、数時間もあれば大丈夫じゃろう」
「はい、わかりました」
「ではな。《転移》」
魔王様が行き、周りにはボクと、未だ気絶してる店長さんが残った。
(リーンはやっぱり頑張ってるんだ.......ボクも強くなって、ビックリさせてやらないと)
そう決意したが、まずは、まだ微妙に残る疲労と全身の痛みを治すため、ボクは再びベッドに横になった。
程なくして睡魔に身を委ね、やがて意識は途切れた。
※※※
「.......予想以上じゃ。あの魔獣を全滅させるじゃと?グレイでもそんなことは出来ぬのではないか.......?どうじゃヴィネル?」
「そうですねぇ。.......いえ、グレイさんでも出来るとは思います。ですが、どう考えても、数時間はかかりますねぇ」
「それを四十分か.......」
「サクラきゅん.......じゃなかった、サクラ君であれば、超大規模魔法の雨あられを降らせて、短時間での殲滅は可能でしょう。リーンちゃんも半月以上の月の加護があれば。.......問題は、『剣だけで』それをなしえてしまったことですねぇ」
「主、今サクラをなんと呼んだ?.......いやそれは今はよい。ここ十年足らずで、魔王軍は大きく前進した。特に、ヨミとリーン。あやつらは別格じゃ。それを追うようにして、サクラ、グレイも、以前よりも遥かに強くなっておる」
「おや、レインちゃんは?」
「あやつもいい線いっておるが、既にレベルリミッターに至っておるからのう。あれ以上の強さが見込めぬ。.......じゃが、先程挙げた四人は、あれ程の強さを持ちながら未だ発展途上じゃ。最早、幹部の枠組みを外れておる」
「しかし、幹部序列はトップ4というわけではない。.......サクラ君に関しては、幹部ですらありませんしねぇ。どうなされるおつもりで?」
「幹部は、総合的な貢献度によって序列が決定される。じゃから、主がいる限り一位になることはなかろう」
「え、さらっと凄い褒められた.......」
「ならば.......新しく作るしかなかろうな」
「はい、私も同意見ですねぇ」
「魔王軍への貢献度ではなく、純粋な武力のみで序列が決まる、新たな幹部枠。魔王軍最強の四人の精鋭。名称は.......そうですねぇ.......『四魔神将』なんてどうですか?」