吸血鬼少女とステータス
次の日.......じゃないや、その日の夜。
吸血鬼は昼に寝るから、寝てる時に日が変わらないんだよね。
私が起きて時計を見ると、既に23時50分だった。
私の誕生日まであと10分。めっちゃ寝たな私。
寝すぎて逆にだるくなった体を無理やり起こして、私は部屋を出る。
案の定、お父さんもお母さんも起きていて、
「.......寝すぎよ」
「.......寝すぎだな」
と、呆れの一言を頂いた。
仕方がないじゃないか、子供は寝て過ごす生き物なんだ。
冷蔵庫を適当に漁って、ブラッド牛乳を引っ張り出す。
要するにあれ。コーヒー牛乳とかいちご牛乳の血液版みたいな感じの、吸血鬼の中ではお馴染みのドリンクだ。
それを飲み干し、足りなかったので、どれもう1本と手を伸ば.............
パンパカパーン!!
そうとして、頭の中になんかファンファーレが響いてきた。
『リーン・ブラッドロード様、あなたはこの度5歳の誕生日を迎えました。おめでとうございます!つきましては、神からの贈物として、ステータスが付与されます』
.......ええっと?
「どうしたのリーン?.......あら、日にちが変わってるじゃない!お誕生日おめでとうリーン!」
「おお、本当だ。おめでとうリーン」
いや、それは嬉しいんだけど。
「.......なんか、頭の中に変な声が聞こえてくる」
「ああ、それはステータスを貰う時にみんな聞えるのよ。イスズ様のお声だとも言われているわ」
.......ああ、確かによく聴いたらイスズ様の声に似てる。
でもなんか違う感あるな。頭の中に響いてくるからだろうか。
「これで、リーンにもステータスが与えられたはずだ。《ステータス》と唱えてみなさい」
口に出すのは定番なんだな、とか思いつつ、
「《ステータス》」
と言ってみると、不思議な透明の板が出てきてーーーーーー
***
リーン・ブラッドロード 吸血鬼 Lv1
職業:未定
状態:健康
筋力:45
防御:35
魔力:60
魔防:50
速度:55
魔法:なし
***
.......は?
ちょっと待って。なんで私の前世の名前が?
えっ、ヤバい、これどうやって説明すれば.......!
「おおお!凄いぞ!流石俺たちの娘だ、リーン!」
「どれどれ.......まあ、本当に!」
.......あれ?
「お父さん、お母さん。私の名前の上に、別の文字が見えない?」
「.......?見えないが、何かあるのか?」
「何も無いわよ?」
.......私以外には見えてない?
それならまあ、よかった。多分、イスズ様が気を利かせてくれたんだろう。
「なんでもない!それより、私のこのステータスって、凄いの?」
「それはもう凄いぞ!Lv.1の平均は10やそこらなのに、リーンは全てのステータスがそれを遥かに超えている!」
「1つが突出してるっていうなら少なくはないけど、全ステータスがここまで高いなんて.......」
平均が10ってことは、最低値の防御でも3倍以上ってこと?我ながらそれは凄いな!
「Lv1のステータスが高いと、やっぱりレベルが上がったらみんなより能力は上がるの?」
「その通り.......と言いたいところなんだが、実はあながちそうとも言えない。Lv1の時の能力値が高くても、レベルが上がることによる上昇率が低いということも有り得る。だからこそ、それを確認するために.......」
そこまで言って、お父さんは立ち上がり、
「森に行くぞ、リーン。簡単な獣を一緒に狩ろう」
そんなことを言ってきた。
※※※
「うわわわわわああっ!?!?」
「はっはっは!大丈夫かー?」
「大っ、丈夫っ、.......じゃない!!」
私が今、何をしているか?
森に向かって走っている。以上。
でもそれだけじゃないんだわ。
至って単純な話で、要するに、ステータスが与えられたことによって上がった速度に対して、私自身がついていけてないの。
5歳児の女の子の平均的な速度は、ステータスに換算すると大体7くらいらしい。私は随分早かったから10くらいあったらしいけど、それでも私の速度は5倍以上になってるんだ。
しかも、今は半月。月の満ち欠けによって能力が上昇する種族である私たち吸血鬼は、完全な満月の時だけ、桁違いにステータスが上昇する。
そこまでではないにしろ、半月なら、大体3倍まで上昇する。つまり、現在の私の速度は、150を超えているのだ。
ステータスを前世の人間の数値に無理やり当てはめると、成人男性の速度が大体25〜30くらいだと思う。その約5倍。
......50メートルを走りきるのに2秒程度と言えば、その非常識な速さが伝わるだろうか。
というわけで、今の私は身体能力だけ見れば完全に超人だ。
まあ、体はついていかないんだけどね!
「よし、森が見えてきたぞ」
どうやら、自分のステータスと悪戦苦闘している間にどんどん近づいていたらしい。
嘘でしょ、いつもは歩いて30分はかかるのに、5分もかからずに着いてしまった。
「ここからは速度を落とすぞ。出来るだけ音を立てずについてきなさい」
そう言ってお父さんは森の中に入っていった。当然私も続く。
余談だけど、夜の種族である吸血鬼は、どんな暗闇も見透せる目を生まれつき持っている。むしろ昼間の方が見えにくいくらいだ。
ばっちりくっきり見える森の中を進んで行くと、
「リーン、そこで止まりなさい」
お父さんがそう言って止まった。
小さい体を傾けて奥を見ると、でっかいイノシシがいた。
「リーン、まずはお父さんがあいつの動きを止める。そうしたら、リーンがトドメを刺すんだ」
「わかった!」
お父さんは頷くと、イノシシの方に向き直り。
次の瞬間にはイノシシは仰向けに倒れていた。
.......What?
え、なに、今の。
お父さん、強っ!?
いや、よく良く考えればそりゃそうだ。
お父さんの種族は、吸血鬼族の王の証したる『吸血鬼王』。ただでさえ最強クラスの種族である吸血鬼の中でも、最強と言われているんだ。
しかも長命で、数百年を生き、その間に恐ろしい程にレベルを上げている。そりゃ強いわ。
「さあ、頑張れリーン」
そう言ってお父さんはナイフを差し出してきた。
うん、5歳の娘にやらせるようなことじゃないね。
でも、不思議と全く抵抗感はなかった。
まあ、これは吸血鬼の種族性というかなんというか。
元々、血が主食となるような種族なので、グロいものに対する耐性が他の種族より強いんだよね。
私も前世ではグロ系はマジ無理だったけど、今なら多分、ゾンビとか見ても平気だと思う。
だけどまあ、生物の命を奪うわけだから。
ここはちゃんと、ね。
「.......ごめんなさい」
そう言って、私はナイフを振り下ろした。
※※※
『経験値が一定値に達しました』
『レベルが上昇しました』
さっきとは違って機械的な音が響く。イノシシが絶命した証拠だ。
「リーン、レベルは上がったか?」
「うん、そう聞こえたよ」
「そうか。なら、ステータスを確認してみなさい」
「わかった!《ステータス》」
***
リーン・ブラッドロード 吸血鬼 Lv2
職業:未定
状態:健康
筋力:50(+5)
防御:45(+10)
魔力:70(+10)
魔防:60(+10)
速度:60(+5)
魔法:なし
***
おおお、なんかすごい上がってない?
「お父さん、これって凄い?」
「どれどれ?.......おおお!?凄いぞリーン!!凄まじい上昇率だ、こんなの見た事がないぞ!!」
お父さん曰く、普通はレベルが上がっても上昇するのは2か3程度らしい。5くらいなら稀に見るけど、10は滅多にないんだって。
「.......そうか、これ程か.......本当に凄いなあ、リーンは」
そう言って、お父さんは頭を撫でてくれた。嬉し恥ずかしい。
「そ、そうだ!お父さんのステータスは、やっぱり凄いの!?」
「ん?おお、まあリーンならいいか。《ステータス》」
***
レイザー・ブラッドロード 吸血鬼王 Lv92
職業:格闘王
状態:健康
筋力:1100
防御:950
魔力:280
魔防:360
速度:750
魔法:なし
***
「どうだ、リーン。お父さんは凄いだろう!」
.......凄いなんてものじゃありません。
お知らせがあります。我が父が、アホほど強かったです。