吸血姫と五年後
常日頃から思ってる事なんだけど、人間だった時に比べて、時が経つのが本当に早く感じる。
よく、異世界系ラノベであるじゃん。『エルフは長命種だから人間とは時間の感覚が違う』とか。
でもずっと思ってたんだよ、体感時間が同じなら、百年生きようが千年生きようが時間の感覚は同じなんじゃないのかって。
.......いや、全然違うわ。だって、ヨミを倒して仲間にしたのが、数ヶ月前みたいに感じるもの。
実際はもう、五年も経ってるのに。
.......そう、ヨミが魔王軍に加入してから、既に五年。私とヨミは十三歳になっていた。
あれからてんやわんやだったよ、本当に。
ヨミに文字を教えたり、訓練で死にかけたり、サクラ君やグレイさん、レインさんにボコボコにされたり。
でも、私とヨミは、尋常じゃない鍛錬の末、ついに―――
※※※
いきなり街中に轟く爆発音。
一つの建物が倒壊し、バラバラに砕け散った。
.......しかし、周辺の住民は一瞬動きをとめたが、その後に呆れたような表情になり、再び歩き出す。
私の吸血鬼の鋭い聴覚が、こんな会話を聞き取った。
「.......おい、また闘技場が崩れたぞ。これで四回目だ。誰か止めてやれよ、ゼッド様がいい加減キレるんじゃねえか?」
「.......無理だろ.......あのヨミ様とリーン様だぞ?ゼッド様の全兵をぶつけても止められねーよ。グレイ様かサクラ様か、せめてレイン様を呼んで来ねえと」
「全員今は出払ってんな。どうすんだ、巨人族とドワーフ族の修理組が泣くぞ」
ごめんなさい、名も知らぬ大工さんたち。
私達もわざとじゃないんです。
「.......ヨミ、どうしよ。また壊しちゃった」
「.......ゼッドさんに謝らなきゃ.......ああ、また魔王様に怒られる.......」
ダメだなー、もっと力の加減を練習しないと。
闘技場も壊れる度に強化しつつ修理してくれているはずなのに、ちょっと本気出しただけですぐ壊れちゃう。
.......おや?これはもしかして、闘技場が悪いのでは?
「ヨミ、聞いて。これってさ、私達の成長に合わせて成長してくれない、闘技場が悪いんじゃないかって思うんだけど、どう?」
「あ、成程。確かにそれならボクらは悪くな.......」
「悪いのは主らに決まっておろうが!!何回目だと思っておる、このドアホ共!!!」
.......ですよねー。ごめんなさい魔王様。
「工事費もタダではないんじゃぞ!しかも、今回はこんなに派手に壊しおって!.......はぁ。.......この五年で、主らは確かに、以前とは比べ物にならぬほど強くなった。じゃが、力のセーブがド下手すぎじゃろう.......」
「いやあ」
「照れるなあ」
「照れとる場合か、褒めとらんわ!ここを拠点としておるゼッドが、最近やつれて見えるんじゃぞ!」
「(.......アンデッドなのに?)」
「(見た目骸骨なのに?)」
「おい、聞こえたぞ!アンデッドなのにやつれて見えるという状況がまずいと言っておるのじゃ!主ら、全然反省しとらんじゃろう!!」
※※※
「.......修理、ちゃんと保険入っててよかったね」
「そうだね、危うく全額負担になるところだったよ」
「流石にやりすぎたか、ちょっと反省かな」
「.......ちょっとじゃなくて、猛省しとけよ、お前ら」
まさか、アロンさんからマジトーンのツッコミを頂く日が来るとは思わなかったわ。
ここは魔王軍の会議室。魔王様と幹部、議題の関係者しか入れない、魔王軍の重要事項を話し合う場だ。
闘技場をうっかり壊しちゃった次の日、私達は幹部会議でここに集められていたのだ。
議題の関係者として.......ではなく、幹部として。
そう、この五年で、私達は幹部に昇格した。
魔王軍幹部第五位、『鮮血将』リーン・ブラッドロード。
魔王軍幹部第六位、『剣戟将』ヨミ。
それが今の肩書き。
ちなみに戦闘力はぶっちゃけヨミより私の方が下。けど、どうも統率力と指揮力が私の方が上だったみたいで、私が序列上。
他の幹部の皆さんも、アロンさん以下は序列が二つ下がったけど未だ健在だ。
「.......お前らは確かに俺らより強いけどよ.......。こんなに早く追い抜かれると、なんかこう、悔しさとかより寂しさが込み上げてくるんだよな」
「それー、分かりますー。あんなにちっちゃかったー、二人がー、今はー、私達より序列が上なんてー、なんか心にくるものがー、ありますよねー」
そんなことを言われても。
現在、この場にいる幹部は六人。私とヨミ、それにヴィネルさん、アロンさん、フェリアさん、ナツメさん。
他の全員は現在戦場だ。三日後にゼッドさんとグレイさんが戻ってきて、代わりに私とアロンさんが向かうことになっている。
ちなみにヨミは出ない。ヨミが出るのは、その場にいる全員を皆殺しに出来る場合だけ。彼女の存在を知られるわけにはいかないからね。
「む、揃っておるな。では、幹部会議を始めるぞ」
魔王様が入ってきて、毎回のように会議が始まった。
兵糧や作戦、罠に関してなど、話し合う議題は尽きないので、結構長時間に及ぶ。
今回も四時間もかかってしまった。
※※※
「.......ふう。さて、会議は終わり.......と、言いたいところじゃが、実はもう一つ、議題が余っておる」
おや?
大体のことは決まったと思うけど。
ということは、『あれ』か。
「.......察している者も多いと思うが、『勇者』についてじゃ。勿論ヨミの事ではない、現在のじゃ」
今代の勇者。アヴィス・ノワライト。
ヨミと違って、普通に勇者として祭り上げられている男。
そして―――私と同じ、転生者。
転生前の名は『黒田新一』。私に対していじめを行ってきてやがった連中の主犯格。
うん、早くぶっ殺したい。
「あやつは現在、やはり神都で大切に育てられておるようじゃ。捕らえられた我が同胞達を経験値稼ぎに使ってな。.......実に忌々しい。さっさと仕留めるべきと思うが.......」
「神都に乗り込んで、育つ前に殺してしまえば良いのでは?」
「無理じゃな。神都には、『始まりの英雄』―――メルクリウス聖神国を創り、初代法皇となった男が死の直前に作りあげた、対魔族用の強力な結界が張られておる。無策に突っ込めば、リーン、主ですらそこらの一般兵に殺されかねんぞ」
んなやばいもんあんのかい。
「魔王様。ならば、ヨミを派遣すれば良いのではないだろうか?人間であるヨミならば、結界の影響を受けることもないだろう」
「勇者を殺す為だけに、我々の切り札であるヨミを投入するのは勿体ないじゃろう。それに今のヨミですら、聖十二使徒の序列上位が集団で襲ってくれば流石に勝てん。特に、神都には序列第一位のあやつがおるしな」
「むっ.......確かに」
ヨミはぶっちゃけ、純粋な実力なら既に魔王軍最強だ。
この五年で恐ろしい程に実力を身につけ、剣士系職業の超上級職、『剣王』にまでなった。
しかも、魔族ではないヨミは、魔族に対して有効打を与えるタイプの人間の魔法攻撃の影響を一切受けない。
平均ステータスも既に3万をゆうに上回っていて、最早今では並の幹部ですら手に負えない。
.......まあ、満月の夜の私ほどじゃないけどね?
「じゃあー、どうするんですかー?」
「なに、簡単じゃ。捕虜を殺して得られる経験値には限界がある。いくら大切に育てられているとはいえ、もう暫くすれば、比較的戦いの濃度が薄い戦場に来るようになるじゃろう」
そして魔王様は、悪い顔を浮かべ、
「そこを叩く。転移阻害結界はサクラに破壊させ、魔王軍最強クラス.......リーン、ヨミ、グレイ、レイン、サクラの誰かを送り込む。聖十二使徒がくっついてくるなら複数を投下すれば良い。いやあ、簡単じゃのう」
.......最初のフィールドには弱いスライムとかを送り込み、徐々に魔物を強くして、最後は自分と戦えるくらいの勇者に育ててくださる、ドラ〇エのボスを全否定するような作戦をサラッと言った。