表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/248

転生少年と勇者

キリのいい所で終わらせようと思ったら、過去第二位の長さになってしまった.......

 この国.......メルクリウス聖神国では今、二つの話題が持ち切りになっている。


 先代勇者の突如とした失踪。そして、新たな勇者の誕生だ。


 先代の勇者は、人前に出ることを嫌い、ボク達の前には一切姿を現さなかった.......が、少なくとも、聖神国のトップである『ミザリー教会』が、歴代最強の実力を持つと言っていた。

 その勇者が消え、新たな勇者が誕生した。これの意味するところはつまり、最強の勇者ですら敵わなかった、強大な力を持つ魔族がいたことを意味する。

 それに対する、人々の不安の声が上がっていた。


 だが、その直後に、教会は新たな勇者が誕生したことを発表した。

 これにより、人々は大いに湧いた。

『勇者の素質』を持つ者は、極めて数が少ない。それが、同時期に二人いたというのだから、これを奇跡だ、ミザリー様のお導きだと言う者も少なくなかった。


 そして今日は.......その、新たな勇者のお披露目式だ。


 この神都に住んでいる殆どの住民が集まって、教会の前で、今か今かと勇者の登場を待ち続けている。


 暫くすると、なんとなく偉そうな神官服を着た、中年の神官が現れた。


「.......皆様、今日はお集まり頂き、感謝の念に耐えません。.......先日、卑劣で残忍な魔族の手によって、先代の勇者様はお亡くなりになられました。.......しかし、悲しんでばかりもいられません!短い時間とはいえ、我ら人類のために剣を振るってくださった先代様の為にも、我々は魔族共を討ち滅ぼさねばなりません!そして.......皆様もこの御方を目当てに来られたことでしょう。早速ご紹介致します。新たに『勇者の素質』を覚醒させ、ミザリー様に選ばれた『勇者』.......アヴィス・ノワライト様です!!」


 長いようで短い演説の末に、『彼』は現れた。

 白銀の甲冑を身にまとい、長剣を腰に刺した、今の俺と同い年くらいの子供。

 彼の登場によって、その場は黄色い歓声に包まれた。


「.......初めまして。ご紹介にあずかりました、アヴィス・ノワライトです。私のこの力が、人類の希望となれるよう、精進していきたいと思っております。よろしくお願いします」


 ありきたりな一言だったが、それでも歓声の音量は一段階上がった。

 なんて凄まじい、これが勇者のカリスマというやつなのだろうか?

 などと考えていた俺の思考は、


「.......ああ、それと.......この中で、『ニホン』という国に聞き覚えのある方は、この後私の元へ来てください。では、これで挨拶を終わらせて頂きます」


 この言葉で完全に隅へと追いやられた。

 今、あいつはなんと言った?

『ニホン』.......日本。日本国。

 前世の俺が住んでいた国。.......何故勇者が、その名前を知っている?

 いや、答えは簡単だ。つまり.......彼も、俺と同じ『転生者』なんだ。


 その後に続いた中年神官の説法を聞くのも忘れ、俺は勇者のことを考え続けていた。



 ※※※



 神官の話も終わって、その場が解散となると、俺は両親からはぐれるフリをして、教会へと向かった。

 勇者の姿は.......無い。どうやら中にいるようだ。

 なので俺は、教会の門番に話をつけてもらうことにした。


「.......あの、すみません」

「ん?なんだ少年」

「その、勇者様が言っていた『ニホン』という国に、心当たりがあって」

「なんだと?.......君のような子供が?冗談はよしてくれ」

「いえ、本当なんです。勇者様に会わせて下さい」

「馬鹿を言うな。どうせ勇者様に憧れただけだろ?ほら、帰った帰った!」

「いえ、本当なんですって!お願いです、会わせて下さい!」

「.......ちっ、そこまで言うなら問題を出してやる」


 .......問題?


「勇者様が出した問題だ。これに答えることが出来たら勇者様に会わせてやる。ただし、答えられなければ.......勇者様を暗殺しようとする刺客かもしれん。あとは分かるな?」


 ゾッとした。

 つまり、答えられなければ俺は捕まるかもしれないということだ。

 .......けど、諦めたくなかった。漸く掴んだ、転生者の足がかりだ。


「.......はい、お願いします」

「.......本気か?引き返すなら今のうちだぞ」

「大丈夫です」

「.......はあ。答えられるわけないだろうに.......じゃあいくぞ。『ホンノウジノヘンで殺されたブショーの名を答えよ』。.......どうだ、意味不明だ.......」

「織田信長」

「.......は?」

「だから、織田信長ですよね。合ってるでしょう?.......あの勇者様とは知り合いかもしれないんです、通してください」

「あ、合ってる.......意味は全然分からんが.......こ、これは失礼致しました、今すぐ勇者様とお取次ぎしますので!」


 成程、日本人.......高校生なら尚更、誰でも知っている武将を自分に会うための鍵にしたのか。考えたな。

 これで、勇者が転生者だということがほぼ確定した。


「お待たせしました!すぐにお会いになるそうです.......どうぞこちらへ」



 ※※※



 .......通された部屋は、凄まじく広い一室だった。

 その中心に佇む人影.......勇者だ、間違いない。


「私と彼を、二人にして頂けますか」

「承知致しました」


 その声に、使用人やメイドが一斉に引いた。

 てか、メイドさんいるのかよ、羨ましい。


「.......さて、これで()達以外は誰もいない。存分に色々と話そうじゃないか。『前世』についてとかな」

「.......やっぱり、お前も転生者なんだな」

「ああ、そうだ。いやいや、まさか俺も、こんなに早く転生者が現れるとは思ってなかったぜ。割と近くにいるもんだ.......まあ、今のところお前が初めてだけどな」

「ちなみに、お前の前世の名前は?」

「おいおい、人に名前を尋ねる時は、まず自分からって言うだろ?まずはお前が言ったらどうだ?」


 .......この、どこかこちらを見下している感じ。

 そして、演説中との性格の差。これらから、俺はこいつの前世を半分くらい確信していたが、ここは素直に従っておくべきと判断した。


「.......『城谷翔太』だ」

「.......あー、いたっけそんなやつ.......イマイチ思い出せねえ」

「.......で、お前は?」

「ん?ああ、俺は『黒田新一』だ。俺がお前を覚えてなくても、お前は俺のこと覚えてるよな?」


 .......ああ、やっぱり。

 覚えているとも。

 俺の好きだった人をいじめていた、最悪の男。

 財閥の御曹司という肩書きを盾にして、好き放題やっていた最低なやつ。

 .......そして、俺達が死んだ事故を引き起こした男でもある。

 そう思うと怒りが込み上げてきたが、なんとか抑え、理性を取り戻すことに成功した。


「それで?転生者を呼び寄せて、なにかするつもりなのか?」


 だが黒田.......いや、アヴィス・ノワライトは、その質問には答えず、代わりに前世とそっくりな嫌な笑みを浮かべた。


「お前さ.......おかしいと思わねえか?」

「.......?何がだ?」

「前世で死んだ日、俺らが起こした事故だよ」

「.......俺らは、あの時お前らが起こした、その事故で死んだんだぞっ.......!」

「ああ、それに関しちゃ悪かった。.......だがよ、冷静に考えてみろよ。いくら俺らだって、あそこまで危険な真似をすると思うか?小学生のガキじゃねーんだ、ガスに火を近づける危険性くらい分かってる。今考えりゃどうもおかしい」

「.......なんだ、責任転嫁か?」

「ちげぇよ。それに、ガスの回る早さもおかしかった。俺らの近くにあるコックを捻っただけのガスの量で、クラス全員がおっ死ぬような爆発になるのは、どう考えても不自然だ」

「.............」


 言われてみればそうだ。

 その程度のガスの量じゃ、精々が黒田達のいた付近が吹っ飛ぶ程度のはずだ。


「それで、俺が出した結論だ。.......あの事故を起こしたのは、多分神だ」

「.......は?」

「まあ聞けや。『偶然』俺らが事故で死んで、『偶然』この世界に.......少なくとも俺とお前は転生した。そして『偶然』、俺は極めて稀な素質である『勇者の素質』を持っていた.......こんなことあると思うか?十中八九、なんらかの意志が介入してる」

「.......その意志ってのが、神.......女神ミザリーのものだって言うのか?」

「そうだ。理由は分からねえが、予想は付けられる。例えば、あの世界の住民は、全員が『勇者の素質』を持っていた.......とかな」


 .......こいつの面倒なところは、こんな風に頭の回転が早い事だ。

 これを別のところに使うところが出来れば、素晴らしい人間だっただろうに。


「それで、最初の質問に答えてもらってないんだが?.......どうして転生者を集めるような発言をした?」

「あん?.......ああ、それな。ちょっとお前、ステータス見せろ」

「は?」

「いいから見せろ」

「.......《ステータス》」

「.......へぇ、成程な。やっぱり、この世界の平均よりは高い.......だが、俺には及ばねえ。比べるのも烏滸がましい雑魚だ」

「.......そりゃ、()()()()には勝てないだろ」

「当たり前だろ。.......質問に答えてやるよ。あれはな、俺が勇者として旅に出ることになる時、俺と一緒に行くやつを選別するためだ」

「.......どういうことだ?」


「俺はな、死にたくねえんだよ。聖神国の有力者の長男として生まれ、勇者として覚醒した。わかるか?この世界の主人公は俺なんだ。だけどよ、現実ってのは漫画みてーに甘くねえ。俺だって無茶やらかせば死ぬ。.......だが、そこに俺並みとは言わねーまでも、強いメンバーがいたらどうだ?俺の死亡率はグッと下がるだろ?.......そして、その強い力を秘めているやつに、俺は心当たりがあった。礼を言うぜ?お前のおかげで、転生者が強力な力を持ってるって可能性が高まった」


 .......つまり、パーティメンバー募集ってわけか。


「いずれは、転生者を全員俺の元に集める。そこから、強い力を持つ何人かを選んでいくってわけだ。お前はその第一号だ」

「.......嫌だと言ったら?」

「は?」

「嫌だって言ったんだよ。お前に従うなんてごめんだ。俺は前世から、お前が嫌いだったんだよ。なんの罪もない女の子をいじめて、それでも罰せられないお前がな」

「なんの罪もない女.......?ああ、千条か。あいつもこの世界に来てるんだったら、また色々と遊んでやるんだけどな」


 こいつっ.......!


「あとさ、お前なんか勘違いしてるぜ?」

「.......なに?」

「俺はな、勇者なんだ。この世界で最も尊重されるべき存在なんだよ。そして、教会もそれに同意見だ。俺がこの場でお前をクロと言えば、シロだとわかり切っててもクロになる。俺はそういう権力の持ち主だ。勿論、お前だけじゃなくて、お前の今世での家族だって、簡単に処刑出来るんだぜ?」

「―――っ!?」

「てなわけだ。流石にこれを聞いて、俺に逆らう程バカじゃねーよな?.......ま、これからよろしくな、兄弟」


 俺の肩に手を置いて、ニヤニヤ笑うアヴィスに.......俺は、何も言えなかった。こいつの機嫌を損ねれば、俺も家族も、危険だって分かってしまったから。


 .......畜生っ.......!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あのガス爆発で死んでたほうが翔太にとって幸せだっただろうに…
[一言] 外道な匂いがするアヴィス・ノワライトこと黒田と、いい人そうな城谷翔太
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ