吸血姫と勇者の決意
私達は逃げた。逃げ続けた。
『森林将』の領域である森の中で。魔王軍最強候補も同時に相手にして。
もうどれ程逃げたか分からない頃.......私とヨミは思った。
本当にこのままでいいのか?と。
確かに敵は強大。満月の夜なら兎も角、今の私ではティアナ一人にすら敵わない。
ヨミもステータス的にはティアナさんを上回っているけど、それでもサクラ君には圧倒的に劣る。
しかし、それでも。私達は、立ち向かうべきなのではないかと。
私達はまだ弱い。いや、世間一般から見れば強い部類なんだとは思うけど、人間を滅ぼすという目標は、このままでは果たせない。
「.......ヨミ、やろう。ごめん、私が間違ってた。私達は、もっと強くならなきゃ」
「うん、ボクも同じこと考えてたよ。.......あの二人に立ち向かえたら、ボク達は少しだけ、進化できるかもしれない」
そう、今こそティアナさんへの、まだ若干残ってたトラウマを克服する時だ。
「.......ほう、出てきましたか。その意気や良し!さあ、どこからでもかかってきなさい!」
「僕らが胸を貸して差し上げます!」
「行くよヨミ!」
「分かったよリーン.......やあああ!!」
※※※
.......目が覚めたのは、自室のベッドの上。
誰かが運んでくれたみたいだ。
手も足も出ずに負けました。
うん、無理。
近づけすらせずに魔法でフルボッコにされたわ。
ヨミに関しては、魔法を発現出来ずに未だに隣で気絶してるし。
何あれ?何なのあれ?
ティアナさん一人なら、苦戦こそすれど勝てたかもしれない。
けど、サクラ君がチート過ぎた。
私が魔法を撃とうが、ヨミが剣を振るいまくろうが、全て結界魔法で防がれて、あっちからは一方的に魔法をぶちかまされた。
五分でボロボロに負けたよちくしょー。
.......まだまだ弱いなあ、私。
ヨミを止められたのは、一月に一度の力に、更に力を上乗せして勝っただけ。ブーストに次ぐブーストをつぎ込んで、漸く隣にいるこの子を止められただけだ。
私は、たまたま種族的に強さを発揮出来るだけ。
私自身は大して強くない。
「んっ.......ここ、は?」
「.......あ、ヨミ。起きた?」
「.......うん」
暫く互いに無言になった後.......口火を切ったのはヨミだった。
「.......負けちゃった、ね」
「.......わかってたことだよ。私達じゃ、まだあの二人には勝てない。弱体化したヨミと昼間の私じゃ、幹部級には及ばない」
「.......うん」
「.......ねえ、ヨミ」
「?なに?」
「強くなろう。この程度でへこたれてちゃダメ。私達はまだ弱い、分かってたことだよ。.......でも、私にも貴方にも、才能はある。お互いに状況は違えど、願ったことは同じ。人間を滅ぼす。その為なら、どんな努力も惜しんじゃいけない。.......今まで以上に、訓練しよう。修業しよう。強くなって、そして人間を蹂躙しよう」
「.......勿論、言われなくてもそのつもりだよ、リーン。ボクだって、このまま負けっぱなしじゃいられない。ボクにも意地くらいある。.......これでも一応、かつては歴代最強候補とまで言われた『元勇者』だよ?そんな存在が、最近は負け続きだ。.......そんな弱者に滅ぼせるほど、人間は甘くない。だからボクは、最強になってやる。あの人間共が作ろうとした、最強の人間に自らなって、そして人間を蹂躙してやるさ」
.......傍から聞けば、私達の言葉は狂っているのだろう。
だけど、互いに復讐という野望に狂っている私達にとっては.......互いの意見は、不思議な程に噛み合った。
※※※
「.......あ、そうだ。ねえリーン、ボクさ、『勇者』の職業を失職してから、ずっと無職のままだったでしょ?」
「まあ、そうだね。.......え、まだ選んでなかったの?『復讐者』でいいじゃん、これ凄い便利だよ」
「うん、ボクもそうしようかと思ってたんだけどね.......今回の件を受けてさ、やっぱりこっちに決めたよ」
そう言ってヨミは、自分のステータスを見せてきた。
その職業欄に書かれていた職業は.......『剣士』。
オーソドックスでもないけどレアでもない、一般職。
「.......なんで?」
「勿論、身体強化魔法はグレイさんに教えてもらうよ?でも、ボクはこっちの方が合ってると思う。.......ボクは、最凶の復讐者じゃなくて、最強の剣士を目指す。アイツらがボクに見出した力で、あいつらをぶっ殺してやる。.......どう?そう考えると、『復讐者』よりもこっちの方がいい気がしない?」
.......まあ確かに。
ヨミの剣術の才能は、ぶっちゃけ世界トップだ。
本当の意味で剣を極めることが出来たのなら.......『王級シリーズ』を凌駕する、人智を超えた伝説の職業、『神級シリーズ』に到達する可能性すらある。
「.......いいんじゃない?私は素手と魔法、ヨミは剣。バランスは悪くないじゃん」
「そうだよね!」
うおっ、綺麗な顔をあんま近づけないでよ、そっちの気はないはずなのに、うっかり好きになっちゃいそうじゃん。
※※※
.......そして、私とヨミの修業の日々が始まった。
時には二人で、時には幹部の皆さんに手伝ってもらって、寝る間も惜しんで訓練した。
二人してぶっ倒れたこともあった。ぶっちゃけ死にかけたこともあった。
けど、私達は挫けなかった。
ヨミも私も、人間への復讐心がそれだけ強かった。
.......そしていつからだったか。二人がかりで漸く相手どれていた幹部を、一人で押し戻せるようになったのは。
手も足も出なかったグレイさんやレインさんを、二人がかりでならマトモに戦えるようになったのは。
けど、そこで満足はしなかった。
私は最凶を、ヨミは最強を目指して、ひたすらに自分と互いを鍛え続けた。
そして―――五年の月日が流れた。
次回は、転生少年編を一本挟んで、五年後に時系列が飛びます。