吸血姫と元勇者の適性
「ふふふふふ、何処ですかー?逃がしませんよぉー.......?」
「アハッ、ティアナ様、そんなに怖いこと言っちゃダメですよ可哀想じゃないですか〜」
「おやおや、そうですか?.......さて、何処なんでしょうか?リーンさんも気配を隠すのが上手くなりましたね.......ですがまだ甘い。《雷撃拡散》!」
「ひいいっ!?」
「きゃあっ!?」
「ちょっ.......リーン!?あの二人凄い怖いんだけど!ティアナさんってあんな人だったっけ!?」
「あれがティアナさんの本性!本人気づいてないみたいだけど!.......それより問題は、サクラ君もアレだったなんてっ.......!」
「うふふふふ.......どうしたんですか?さあもっと逃げてください.......」
「逃がしませんよお二人さあん.......?」
「「ひいいいっ!?!?」」
この、何処かデジャブ感溢れるやり取り。
笑顔で追ってくるティアナさんと、逃げる私。
ただ、前と違うのは、追う側と逃げる側に一人ずつ追加されていること。
あれ、なんでこんな目にあってるんだっけ。
確か私たちは―――
※※※
ことは、二時間ほど前まで遡る。
ヨミのお披露目が行われ、彼女の存在が認められ、同時に時が来るまで、全力で人間共からその存在を知られないように処置が施された日から、一週間が経った。
.......え?なんで人間共にヨミの存在を知らしめないのかって?
死んだと思ってた歴代最強候補の勇者が、魔王軍に寝返ったなんて知られたら、あっちも守りを強化するだろうし、なにより後に知った方が絶望も大きいでしょ?
大手を振って魔族の街を出歩けるようになったヨミは、私と一緒に訓練帰りの散歩をしていた。
「リーン、あれはなに?」
「エルフ族の八百屋だね。美味しくて安い野菜が有り余るほど買えるよ」
「あれは?」
「人馬族の競馬場。誰が一番早いかをお金かけて競うんだよ」
「あれはあれは??」
「ドワーフ族のおもちゃ屋。種族的に手先器用だからああいう小物も作ってるんだよね。まあ主に作るのは武器だけど」
目を輝かせてキョロキョロするヨミ。可愛い。
「凄いね!凄いね!見たことの無いものいっぱいだよ!」
.......思えば、ヨミは辺境の村出身だって言ってたし、神都ではずっと幽閉されていた。
世間では当たり前のものを知らなくて当然か。
「あっ、あそこは本屋?ボク、字と魔法を覚えたいって思ってたんだけど」
「それはいいね、書類とかもいつまでも私が読み上げるのもあれだし。魔法はティアナさんかフェリアさんに教えてもらうとして、絵本とかなら読めるかも」
「でしょでしょ?寄ってもいいかな?」
「いいよ、私も買いたいものあったし。魔王様に『街にヨミを連れていきます』って言ったらお小遣いをくれたし」
しかも二人分でも余るほど。
孫をひたすら甘やかすおばあちゃんみたいだなあって思ったけど言うのはやめた。
「じゃあ行こう!.......あっ、あんな小さい子が物凄く分厚くて難しそうな本読んでる.......魔族の間じゃ、あれが普通なの?」
その言葉に本屋に目を向けると、なるほど確かに、すんごい魔導書を重そうに持ってるエルフがいた。
「なわけないでしょ。かなり珍しい部類.......って、あれ?あの子.......」
しかもその子、多分知り合いだ。
「.......サクラ君?」
「ヒッ.......!?.............あっ.......リーン、さん」
綺麗な金色の短髪に、あどけない綺麗な顔立ち、外見年齢は十二、三歳くらいのオドオド系女の子.......じゃなかった、男の子。
パッと見もじっくり見も、どう見ても女の子にしか見えないけど、ちゃんと下には生えてる.......所謂『男の娘』の彼は、サクラ・フォレスター君。
魔王軍幹部、ティアナさんの甥っ子にして、エルフ族の次期王候補。
.......そして、こんなオドオドしてる可愛い感じのショタだけど、魔王軍最高の魔術師にして、『撃砕将』グレイさん、『災禍将』レインさんと並ぶ、魔王軍最強候補の一人。
この世界に存在する多種多様な魔法、その九割以上を究めた
魔法に愛された少年。
「リーン、知り合い?」
「うん、魔王軍準幹部のサクラ君だよ。.......珍しいね、引きこもり気質の君が街にいるなんて」
「あっ.......えと.......その、本が、ボロボロに.......なっちゃって.......代わりを買いに.......」
「ああ、成程ね。ティアナさんは?一緒じゃないの?」
「ティアナ様は、今.......マジックアイテムを、買いに.......」
「お待たせしました、サクラ.......おや、リーンさんにヨミ様?」
「あ、ティアナさん」
「こんにちは、ティアナさん。.......あの、『様』はやめてください.......」
「これは申し訳ございません。ではヨミさんと呼ばせて頂きますね。.......そういえばこの会話、どこかで覚えが.......」
「前に、私が同じこと言ったじゃないですか。それで『じゃあリーンさんで』って似たようなことを言ってましたよ」
「おお、そうでしたね。.......ところで、お二人は何を?」
「ただの散歩です。.......あ、丁度よかった。実は.......」
そこで私は、ヨミが魔法を覚えたいと考えている趣旨を話した。
「.......成程。それは責任重大ですね。なにしろ、元勇者であるヨミさんに魔法を教えるわけですから」
「そうですよね.......やっぱり、ヨミは魔法じゃなくて剣を「《転移》」.......は?」
気がついたら、転移魔法で森に移動していた。
.......いや、対応早すぎでしょ。私、今すぐ教えてあげてなんて言ってない。
「では、ちょっと適性を調べさせて頂きますね」
「え、適性って.......ちょっ、ティアナさん、何を!?」
そう言ってヨミに顔を近づけるティアナさん。
あー、なんだろうこの度重なるデジャブ感。
三年前を思い出すなー。
「ちょっと.......あっ.......ティアナさん.......ダメぇ.......」
コツン。
「.......え?」
「.......これは.......かなり特殊ですね.......さて、どう伸ばすべきか.......」
「.......リーン、これは?」
「魔法適性検査だよ。おでこをくっつけるだけ。簡単でしょ?」
あ、顔真っ赤にして伏せちゃった。可愛い。
※※※
「結論から言えば.......ヨミさんの適性のある魔法はたった一つだけでした」
なんとか落ち着きを取り戻したヨミと、サクラ君と一緒に、私はティアナさんの話を聞いていた。
.......適性が一つだけ?あらら。やっぱり剣の才能がありすぎて、魔法の才能が低かったんだろうか。
「ただ、その一つというのが.......『身体強化魔法』なのですよ」
.......身体強化魔法?
前世ではオーソドックスな魔法だけど、この世界では聞いたことないな。ヨミもピンときてないみたい。
そもそも、付与魔法とは違うの?
「身体強化魔法とは、言うなれば『自分にしか使えない付与魔法』です。その適性を持つ者がかなり稀であり、サクラですらこの魔法の適性は持ってません。.......自分にしか効果を与えられない分、その効果は凄まじく、魔法戦士職の者にとってはまさに夢のような魔法ですね」
なにそれ凄い。
「ただ、問題は.......この魔法を使える者は、魔王軍にヨミさんを除けば一人しかいないことです」
「え、誰ですか?」
「グレイさんです」
あの人かー.......今ガッツリ戦争に出向いてるわ。
「というわけで.......私には残念ながら、魔力の使い方を教えることは出来ますが、細かい身体強化魔法の使い方を教えることが出来ません」
成程、じゃあ無理だ.......
「しかし、手はあります。聞いた話によると、身体強化魔法というのは、その適性を持つ者は、自らに危険が及ぶと無意識に身体強化を、行うそうです」
.......ん?
「.......成程。僕たちがヨミさんを追い詰めて追い詰めて、そうして発現させればいいんですね、ティアナ様?」
「そういうことですサクラ」
サクラ君、なんで急に饒舌になってんの?
.......え、これまずい展開なのでは?
「ヨミ、逃げるよ。ティアナさんから一刻も早く」
「.......え?なんで?」
「いいから早く!死にたくなければ.......」
「《暗黒砲》」
「《青き炎》」
「「ちょっ!?」」
極太の黒い光線が光り、上からは青い炎が降り掛かってきた。
.............わー、容赦ねえ。
「ちょっ.......何を.......!?」
「だから逃げるんだって!!ティアナさんに火ついちゃったよ!!というかサクラ君も.......ひいっ!?」
「うふふふふ.......さあ、行きますよお?」
「アハッ、お祭りの始まりだね.......」
「マジで早く走ってヨミ!ティアナさん一人ならともかく、サクラ君もあっちにいたら、昼間の私と弱体化してるヨミじゃ勝ち目ないから!!」
「わ、わかった.......きゃあっ!?」
「逃がしませんよ〜.......?」
「もっと遊びましょうよ〜.......!」
「.......サクラ君も無自覚天然ドSかよおおおお!!!」