吸血姫と邪神5
うん、もうこの感覚慣れた。
「こんばんはリーンさん。.......ちょっと待ってくださいね、もうすぐマカロンタワーが出来上がるので.......」
何やってるんですか貴方は。
暇とは聞いてますけど、それならせめてトランプタワーとかにしてくださいよ、なんでマカロンタワー作ってるんですか。
「トランプタワーは無理だと諦めました。マカロンタワーならいけるかなと.......」
どういう発想?
.......まあ、マカロン食べられるっぽいのでいいですけど、取り敢えず中断して食べちゃいましょうよ。
「そうですね。あ、これ、数的に余るマカロンです。飲み物はダージリンでいいですか?」
はい、お願いします。
そして、恒例のお茶会が始まった。
終わった。
.......うん、ぶっちゃけ、どうでもいい話しかしてなかったからね。割愛割愛。
※※※
「さて.......改めまして。リーンさん、元勇者.......ヨミを救ってくれた件、ありがとうございました。本当に助かりました」
いえ、別にそんな。私もヨミのことは気になってましたし。
「ほう、気になっていたと。それはどういう意味が詳しく」
可哀想な勇者的なあれに決まってるじゃないですか、なんですかそのニヤニヤ顔は!それ以外に何があるって言うんですか!
「お風呂場で五分間裸をガン見し続けた人が何を言いますか。.......まあ、揶揄うのはこれくらいにして。ヨミの件については、もう大丈夫のはずです。人間達は、彼女の事を死んだと判断したようですから」
.......?人間共、やけにあっさり勇者の死亡を認めますね。
あの子の殺しても死ななそうな化け物っぷりは、人間共も認めるところでしょうに。
「まあ、あの時のヨミですら、魔王軍の最強候補三人には劣っていましたから。周囲の転移魔法の痕が綺麗に消されていたことで、人間はその魔法の手腕から、サクラの仕業と考えたのでしょう」
あー.......確かに、サクラ君ならあの時のヨミでも倒せるな。
魔王軍準幹部最強、サクラ・フォレスター。あのフェリアさんをして、「ティアナと二人がかりでもかなわない」と言わしめ、人間の間じゃ『呼吸する災害』なんて呼ばれてる超級の魔術師だ。
しかも、未だレベルリミッターにすら至っておらず、まだまだ発展途上の天才。
「こちらとしては好都合です。魔王軍の次期幹部候補である貴方の存在を隠せたわけですからね。.......そして、ここからが本題です」
あれ、今回って労いに呼び出されたんじゃないの?
「以前.......三年前になりますか。私は貴方に、勇者についてこう話したと思います。『勇者の素質を持つ者が三人同時期に生まれた』と」
はい、覚えてます。ヨミだけはこの世界のルールの中で生まれた存在で、あとの二人は、私と同じ.......転生者.......まさか!?
「そのまさかです。ヨミが『勇者』の職業を失職したことで、その力が例の転生者に移りました。勇者は同時期に二人以上は生まれない.......これにより、人間の上層部は先代、つまりヨミの死を確信したようですね。まあ生きてるんですけど」
.......転生者。
私と同じ、あの高校の理科室でガス爆発で死んだ、元クラスメート達。
.......そして、私をいじめていたクズ共と、それを傍観して、助けてくれなかった連中の集まり。
互いに前世の記憶があるってだけで、なんっの同情心も愛着も湧かない奴らだ。
けど、その逆。怒りや復讐心だったら、有り余るほどある。特に、私へのいじめの実行犯に関しては。
.......ちなみに、そいつの強さと、前世での名前は?
「強さや才能に関しては、ヨミほどではありません。というか、ヨミが異常だっただけで、満月の貴方であれば、普通は同レベル程度の勇者であれば余裕で倒せます。.......そして、前世での名前ですが.......」
.......頼む、私の願い、叶ってくれ。
どうか、『アイツ』であってくれ。
「.......『黒田新一』。かつて貴方へのいじめを行っていた者達の主犯格の男です」
.......っしゃあ!!
「ええっ!?.......あの、なんでガッツポーズなんですか?普通嫌がるものでは?」
え?なんで?
前世で散々色々やられた男が、私より弱くなってこの世界に転生した。しかも敵同士。もっと言えば、ヨミを例外として、本来は魔族の最大の敵である勇者。
体中ボロッボロにして、心もズタズタにして、前世で受けた仕打ちを数百倍にして返してやるチャンスじゃないですか。
『勇者』に選ばれたともなれば、あの男は調子に乗ってるでしょうから、そのプライドをズタボロにして跪かせて、その後で頭踏み砕いてやる。
「一つ訂正を入れるなら、彼が貴方より弱くなったのではなく、貴方が彼より圧倒的に強くなったんですがね。.......まあ、そういう見方もありますか。もう一人の素質持ちはまだ不明です。ですが、ヨミに比べれば大したことないでしょう」
それで今度こそ、『勇者の素質』持ち.......人間の蹂躙に一番邪魔な存在は消えるんですね?
「そうなのですが、油断なさらないよう。聖十二使徒も未だ十人は健在。しかも、後に新規で入ってくるでしょうし.......それに、忌々しいことに、ミザリーが聖十二使徒に新たな力を与えたのですよ」
新たな力?なんで?
「意図せずして生まれた神才、ヨミを失ったことで焦ったのでしょうね。自分の利益になるならと、彼女の兵器化を黙認していたツケです。.......そして肝心のその新たな力なのですが、更なるステータスブーストに加え、『不老化』、『全盛期肉体維持』、『レベルリミッターの底上げ』など、中々に面倒なものが揃っています。これまで以上に攻略が困難になるでしょう」
ちっ、マジか。
聖十二使徒とマトモにやりあえるのは、魔王軍の中にも二十前後しかいないはずだ。そこから更に強化されるか。
「まあぶっちゃけ、全盛期のヨミや満月の夜の貴方ほどではありませんし、グレイやレイン、サクラもいます。警戒はするべきですが、過度にする必要は無いかと」
なんだ、そうですか。
「他に質問はありませんか?無ければ、送還してしまいますが」
あ、一つだけ。
次代の勇者.......黒田の転生体も、やっぱり生物兵器にされるんですか?
「ああ、いえ。今回の件を受けて、人間側も生物兵器化は大した効果がないと判断したようで、普通に教育を受けています」
なんだ、良かった。
心が壊れてたら、いたぶり甲斐がないし。
「たまに恐ろしいこと言いますね貴方は。では、送還してしまいますよ。それではまた、お会いしましょう」
※※※
「.......ーン。リーン、起きて」
目を開けると、天使がいた。
.......あ、間違った、ヨミがいた。
あっぶね、美少女すぎて一瞬天使と見間違えた。
「ああ、ヨミ.......おはよ」
「うん、おはよう。魔王様からさっき念話があったんだ」
え、マジか。
寝てたし、イスズ様に干渉されてたせいか、全然気づかなかった。
「オッケー、すぐ行く。魔王様はなんて?」
「えっとね.......ボクの存在を、魔王軍のみんなに伝えるから、なるべく綺麗な服を着て会議室に来てくれって。空間連結は済んでるみたい」
えっ、早くね?もう発表するの?
『ちょっとどうでもいい裏話』
実は、イスズ様はプロローグで出すのを終わりにする予定でした。けど、解説キャラ兼情報提供者としてこれ以上ない逸材だと閃いて準レギュラーキャラにしました。個人的にお気に入りのキャラです。