表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/248

吸血姫と元勇者の名付け

「.......という訳で、この元勇者は、晴れて魔王軍に加入することになった。三年越しのヘッドハンティングは、最高の形で実を結んだわけじゃ」

「えっと.......よろしく、お願いします」

「いやー、長かったねー。リーンが加入したくらいの時からだと思うと.......あれ、そう考えるとそんなに長くないわ」

「そりゃお前が長命種だからだろ妖精女王(レイン)。俺ら獣人みたいな、百五十年くらいしか生きれねー短命種にとっちゃあまあまあな時間だっつーの」


 元勇者が魔王軍に加入し、その次の日の朝、幹部と私、それに元勇者が会議室に集められていた。


「静粛に!こやつを仲間に引き入れたはいいが、火急の問題が一つある。それについて、今のうちに決めておいてしまいたいのじゃ」


 .......火急の問題?


「人間共の動きが活発化したとか?」

「違う。そもそもそんなもん、ゼッドのアンデッド兵でもぶつけとけばどうにでもなるわ」

「勇者を失ったことで、人間が再び勇者の素質持ちを探し出し、再び生物兵器化を.......?」

「ええっ!?」

「違う。少なくとも、今現在はそのようなことは確認されておらぬ」

「便秘か?」

「アロン、ちょっと来い」


 どうやら、デリカシーという言葉を戦場に忘れてきたらしいアロンさんは、魔王様の手によって地下へ落とされた。床を突破って。


「まったく.......さて、その火急の件についてじゃが」


 その場の全員が、息を呑んだ。

 一同の顔を見渡したあと、魔王様はコクリと頷いた。

 そして、勇者の手を取り.......


「こやつの名前、どうする?」



 .............へ?



「えっと、魔王様?どういうことなのでしょうか?」

「どうもこうもないわ。元勇者なんて呼び名、毎回毎回、呼びにくいし堅っ苦しいじゃろう。知っての通り、こやつはかつての名前を忘れておるし、思い出したとしても、自分を売った両親がつけた名前を名乗らせるなど、酷な話というものじゃ」

「火急の問題ってそれなの?」

「そうじゃが。さあさあ幹部諸君、そしてリーンよ。今こそ、主らの頭脳が試される時じゃ。こやつにピッタリの名前を考えてやっとくれ」


 そんなんで頭脳試されたくない。

 .......という言葉をグッと飲み込み、仕方なく、元勇者名付け選手権が始まった。



 ※※※



「.......主ら、ネーミングセンスが死んどるのか?」

 

 一時間後。

 割とマジトーンでそのセリフを言ったのは魔王様である。

 テーブルの上には、候補である名前がズラっと並んでいる。


 ソード、モトユーシャ、ペレきち、マイケル、ぽんこ、アメリカン、ダークネスライトストリーマー.......エトセトラ。

 最後の書いたのマジで誰だ?


「も、申し訳ございません魔王様。何分、誰かに名付けを行うというのをしたことが無いもので.......」

「俺も.......こういうのは.......わからん.......」

「元々出生率が低い、長命種が多い弊害ですねぇ。さて、この中から、元勇者ちゃんには名前を選んでもらうことになる訳ですが」

「ええええっ!?」


 気の毒すぎる。

 でも残念、さっき気づいたんだけど、私もネーミングセンス無いんだわ。

 だって、ペレきちとアメリカンは私の案だもの。

 思いついた時はいいかなーって思ったけど、冷静になるとかなり酷いネーミングだった。


「.......全部却下じゃ。主ら、もう少し真面目に考えとくれ」

「ま、魔王様.......!」

「真面目に考えているんですがねぇ.......」



 ※※※



 .......会議開始から、()()()()

 私達は、未だに頭を悩ませていた。


「まさか、魔王様もネーミングセンスが無いとは.......」

「どこが悪いというのじゃ!ヤミヒメってかっこいいじゃろう!?」

「中二くさすぎる.......」


 私たちは既に満身創痍だった。

 元勇者も、自分のせいでこうなったのかと考えたようでワタワタしてる。

 レインさんなんかは、考えるふりして寝てるし。


「.......リーン、何かないか」

「なんで私に振るんですか.......はあ。もう、『ヨミ』とかでいいんじゃないですか」


 そんな適当な返事を.......


「.......む?良さげな名前ではないか」


「.......え?」


「ヨミ.......言いやすくて可愛い名前じゃない。私はさんせー」

「人間を『黄泉』に落とすというのと、魔王軍の戦士として『よみ』がえったをかけてるんですかねぇ。流石リーンちゃん、良いセンス持ってるじゃないですか」

「えっ」


 ちょっと待って。


「ヨミ.......ヨミ.......なんか、凄くしっくり来ます」

「本人が気に入っているようだな。では、これで良いのではないか?」

「そうじゃな。では、これで決定じゃ」

「ええっ!?」


 ちょっ.......本当に待って.......


「では、主の名前は、今日から『ヨミ』じゃ。これからは、その名を名乗るが良い。なーに、すぐ慣れるじゃろう」

「はい、魔王様.......!えっと、リーンさん、ありがとうございます!!」

「.............あ、はい」


 .......キラキラした目で、元勇者.......いや、ヨミにお礼を言われてしまった。

 もう、これは訂正出来ない。


「いやはや、主には毎度助けられるなリーン。他の幹部共ときたら、どいつもこいつもイカれた名前しか寄越さぬし.......」

「ヤミヒメとかツキノカミとか、痛々しいネーミングしか寄越さねえあんたに言われたくねえよ!」

「ほう!どうやら、再び地下に潜りたいようじゃな!」


 やめてください、そんなに褒めないでください。


「やっぱりー、すごい子ですねー、リーンちゃんはー」

「うむ、儂らも負けておられぬな。追い抜かれぬよう、精進しなくては」


 なんで名前考えただけでこんな賞賛されてんの私。

 .......言えない。


「リーン嬢、礼を言うぞ。しかし、よく咄嗟にあんな名前を思いついたものだ」

「そうだな。ワレのダークネスライトストリーマーよりも少し上だったかもしれんな」

「あれ、ルーズさんだったんですね.......」


 .......絶対に言えない。


 .......前世で飼ってた猫の名前だなんて。



 ※※※



「勇者が消えただとお!?」

「は、はい.......定時になっても戻って来ず、小隊を派遣したところ.......聖十二使徒のお二人と、勇者のお姿が、何処にも.......」

「一緒にいた、S級冒険者共はどうした!?」

「そ、それが、4名全員殺されており.......何があったのかも分からない状況で.......」

「クソがあっ!.......魔族共め、一体何をした!?転移魔法の痕を探知することは出来ないのか!?」

「それも、巧妙に消されているようで.......あの高度な魔法技術、恐らくは、幹部のティアナかフェリア、あるいは.......」

「サクラか!!忌々しい、エルフ如きが我々を謀るなど!!」

「.......それと.......」

「今度はなんだ!」


「ひっ.......し、城の占い師が、新たな『勇者の素質』を持つ者を捉えたと連絡が.......しかも、既に勇者の力に目覚めているようで.......」


「.......ということは.......あの化け物のような力を持つ勇者は.......死んだか.......」

「.......そう考えるべきかと。勇者の素質は極めて稀なもの。すぐに見つかったのは、非常に喜ばしい事なのですが.......やはり、()()に比べると、数歩劣るようで」

「畜生っ.......あのガキ、すぐに死にやがって.......!」

これで、第二章『勇者編』は終わりです!お付き合いありがとうございました!

次回は短めのお話を一つ挟んで、第三章、『蹂躙編』がスタートします!!


あと、超どうでもいいんですけど、実は『ヨミ』って名前は初期にすこーしだけ出しました。確認してみてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ネーミングがデスマ次郎のノリだけど、あやつとちがって不快感が一切ない+114514点
[良い点]  ペットの名前というお約束のオチが良かった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ