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元勇者と決断

 .......なんだか、浮いているような感覚だ。

 それでいて、すごく温かくて、心地いい。

 雲の上で寝ているのかと思う程だ。

 .......雲の上?

 もしかして、ボクは死んだのだろうか。

 とうとうあの地獄で、蘇生が出来なくなるほどに殺されて、今の現在地は天国なのだろうか。


 うっすらと目を開けると、そこは青空ではなく、ましてや天使もおらず、ただ天井があった。

 だけどそこは、天国でこそ無かったけど、あの牢屋の中でもなかった。


「.......ここ、どこ.......?」


 取り敢えず起き上がって辺りを見渡すと、ここの部屋の主はそれなりに良い暮らしを送っていると分かる、生活感に溢れている場所だった。

 周囲には誰もおらず、誰かが来る気配もない。


 何故、自分が見知らぬ場所で、見知らぬ人の部屋で寝ていたのか。

 朧げな記憶を思い起こし、自分の頭を探る。


 確かボクは、いつの間にか森で倒れていて、吸血鬼の女の子と誰かに、転移させられて.......魔王がいて.......魔王が、もうボクは自由なんだって.......


「.......ああ、思い出した」


 つまり今のボクの状況は、魔王軍の捕虜といったところなのだろうか。

 人間はボクの力を欲しているから、是が非でも取り返そうとするはずだ。大抵のものは要求出来る。


 .......まあ、戻ったところで、ボクは従うつもりなんて無いけど。

 絶対に強くなって、あいつらをぶっ殺してやる。

 その為なら、この呪ってばかりだった才能も、フルに活かしてやる。


 .......けどその前に、疑問が一つ。

 どうやって、魔王軍はボクを連れ出したんだろう?

 目が覚めたら、綺麗な森にいた。つまり、寝ている時にボクを連れ出した?神都から?.......不可能だ、ボクの周囲は、常に聖十二使徒の序列第二位と第三位、『宝眼』のヘレナと『天命』のゲイルが常に見張っていた。

 一体どうやって?何の目的で.......


「ふー.......って、あれ?目、覚めたの?」

「っ!?」


 考え事に集中しすぎて、気配に気づかなかった。

 扉を開けて入ってきたのは、森の中でボクを見下ろしていた、吸血鬼の女の子だった。


「貴方、丸一日寝込んでたんだよ?今はもう夜。.......っていうか、大丈夫?ちゃんと起きてる?」

「.......えっ、あ、はい。大丈夫、です」

「そ。ならよかった。私の名前はリーン。リーン・ブラッドロード。見ての通り吸血鬼。あ、ここは私の部屋ね。まあ今回の件で私、準幹部に昇格することになったから、もうすぐここは出ていくことになるけど」

「.......今回の、件.......?」


 こんな小さな.......ボクと同い年くらいの見た目の女の子が、魔王軍準幹部になったというのは驚きだったが、それよりもボクは、『今回の件』というのが気になった。十中八九、ボクが絡んでいる話だろう。


「うん、今回の件。貴方を私が倒した件。私、戦場に出たこと無かったから、上級一位の兵士って大丈夫なのかって声があったらしいんだけどね。勇者だった貴方を止めたから、そんな声も薄れて、晴れて準幹部」

「ボクを、倒した?貴方が?」


「.......うん?」

「.......え?」


「.......あー、えっと。もしかしてさ。覚えてないの?昨日のこと」

「その、えっと.......ごめんなさい」

「いや、謝らなくていいんだけど.......。まあ、そりゃそうか、ずっと心を壊されていたわけだし.......じゃあ、今ある中で、昨日の一番古い記憶は?」

「.......えっと、森の中で、貴方に見下ろされているところ、です」

「じゃあその前は?」

「.......一日の訓練が終わって、牢屋に入れられたところです」

「.......オッケー、分かった。じゃあ、魔王様に会わせる前に、私が簡単に説明するよ。貴方に何があったのかとか」



 ※※※



「ごめん、もう一度言ってくれる?」

「まあそりゃそうなるよね」


 .......ボクの心が壊れていた?三年も?

 その間、戦場に出されたりもした?

 それで、この目の前の.......リーンと名乗った彼女が、ボクを倒して、止めた?


「信じられないならステータス見てみれば?随分上がってるはずだよ」


 その言葉に、ボクは慌ててステータス画面を開いた。




 ***



 名称不明  人間  Lv86

 職業(クラス):無職

 状態:疲労(弱)


 筋力:14280

 防御:13950

 魔力:12460

 魔防:13520

 速度:14190


 魔法:なし



 ***



「なっ.......何これ」


 レベル.......86?前まで1だったはずなのに。

 それに、能力(アビリティ)も、前より100倍近くまで上がっている。


「リ、リーンさん。これは.......」

「.......思ってたより低い?イスズ様は平均2万超えって言ってたのに.......失職が原因?それに、名称不明ってなってるのも.......」

「.......えーっと」

「あ、ごめん。まあこれで、貴方が暫く、夢遊病みたいにさまよってたってのは分かってもらえたと思うんだけど」

「は.......はい。正直、受け入れ難いですけど、理解はしました」

「取り敢えず、そのボロボロな服とか着替えなきゃ.......ん?」


 そこで言い詰まったリーンさんは、暫く何も無いところを見つめて押し黙り、


「うん、予定変更。魔王様から念話が入った。今すぐ君を連れてきてくれだってさ」



 ※※※



 どうやって行くのかと思ったら、部屋の扉を開けると、昨日の玉座の間のようなところに繋がっていた。

 空間魔法によって、部屋の扉と魔王がいる場所を連結したらしい。


「む、来たかリーン。それに元勇者もな」

「はい、魔王様。リーン・ブラッドロード、参上致しました」

「あーあー、堅苦しいのは抜きで良い。今日は妾ら三人しかおらぬからな」

「.......三人ですか?幹部の方々は?ヴィネルさんもいないみたいですけど」

「うむ。呼び出したのは他でもない、元勇者たるそこの幼子に、その意思をもう一度確認しておきたくてな」


 .......?


「えっと、ボクの意思、ですか?」

「うむ。主は昨日、こう言ったな?『人間共に復讐してやる』と。家族も、国も、何も関係なく、蹂躙してやりたいと」

「.......はい」


 その通りだ。ボクは――――


「ボクは、あいつらを絶対に許さない。あいつらと、同じ種族に生まれたと思うだけで吐き気すら覚える。ボクが受けた苦しみを、あいつらにも味わわせてやらないと気が済まない。あいつらは、魔族を皆殺しにしようとした。なら、ボクに皆殺しにされる覚悟くらい、出来てて然るべきだ」


 《一定条件を満たしました。特殊職業(クラス)『復讐者』が解放されました》


「『人を撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ』.......か」

「なんじゃリーン、その言葉は。かっこいいな。.......ふむ、成程。焚き付けた手前、妾もそれを止める気は無い。じゃがな、主一人でどうする気じゃ?確かに主は強い。『勇者』の職業(クラス)を失職したことで弱体化してこそいるが.......現時点で既に、魔王軍でマトモに主と()りあえるのは二十とおらぬじゃろう。じゃが、一人で出来ることなど、たかが知れておるぞ」

「.......それは」


「そこで提案じゃ。主、魔王軍に入れ」


「.............え?.......ボクが、魔王軍に?」

「そうじゃ。妾らは、主と志を同じくする者。人間を滅ぼし、魔族と呼ばれる者たちで、平和な世界を築き上げる。その為には、主のその類まれなる才能が必要じゃ」

「............でも」

「かつて呪い、憎み、不要と思ったその才。これからは、自分の為に使えば良い。.......それにな、人間に激しい恨みを持っておるのは、何も主だけではない。そこのリーンも、主と同じじゃ」

「え.......?」


「.......私の暮らしてた里はね。人間によって全滅した。私達は、ただ平和に暮らしていただけなのに。お父さんもお母さんも、仲の良かった友達も、全員殺された。生き残ったのは私だけだった。.......私は、絶対に人間を許さない。最後の一匹に至るまで探し出して、根絶やしにしないと気が済まない。だから私は、その為の力を求めて、魔王軍に入った」


 .......そんな。

 人間が間違ったことをしているのではないかとは思っていた。

 けど.......なんの罪もない種族を、魔族だって理由だけで滅ぼすなんて。


「ああ、安心して。貴方は例外だから。むしろ、同じ感じで人間を恨んでることで、シンパシーみたいなのも感じてるよ」

「主が頭の良い娘で助かるぞ、リーン。.......さて、返事はどうする?」


 .......正直、迷った。

 ボク一人の復讐心に、他の人を巻き込むかもしれない。

 そう思うと、踏ん切りがつかなかった。


「.......良いか、よく聞け。復讐というのはな、本来、何も生み出さぬもの自己満足の極地のような行為じゃ。にも関わらず、妾も、リーンも、復讐に燃えている。何故か。.......たとえそれがわかっていても、許せぬからじゃ。妾は、どんな手を使っても、あらゆる非道を行ったとしても、人類を抹殺すると決めておる。リーンもそうじゃ。復讐とは、自分の為に行うもの。.......主は、十分に自分を封じ、他人の為に行動した。ならば、少しは自分の為に、他人に迷惑をかけても良いとは思わぬか?」

「―――っ!」


 .......この言葉は、ボクの心に、不思議とすんなり入ってきた。

 そして、決断のきっかけとなった。


「.......答えを聞こうか」

「.......はい」



「お誘い、受けさせて頂きます。かつては人類の物と言われ、不当に扱われてきたこの才と命。その全てを、今度は自らの意思で、魔王軍に捧げます。その代わり.......ボクの我儘を受け入れてください。ボクは、人類を滅ぼしたい。ボクを苦しめ、未だにのうのうと生きている、あいつらが許せない。あいつらが無様に地に頭を擦り付けて、命乞いをする姿を目に焼き付けないと気が済まない。.......ボクの復讐を、手伝ってください。そうして頂けるなら、ボクはいかなる非道も喜んで行いましょう」


「よかろう。『魔王』フィリス・ダークロードの名において、主の魔王軍加入、及び我儘を許可してやろう。存分に暴れろ。好きなだけ蹂躙しろ。妾が全て認めてやる」



 .......こうして、稀代の才能を持って産まれ、歴代最強の力を持っていたにも関わらず、人間によって人生を狂わされた、元勇者であるボクは。


 今度は、人間の人生を狂わす側へと回った。

昨日、今日で最終回と言ったな。あれは嘘だ。

.......思ったより長くなったので、二つに分けました。もう一つは、0時くらいに投稿します.......。

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