吸血姫と最終段階
「.......さて、どうしようか」
いや、勇者を止めたはいいけど、これからどうすりゃいいんだ?
だって私、転移魔法なんて使えないし、転移のマジックアイテムも持ってないし。
ここ、普通に森の中だし。どっから来たか覚えてないし。
え、ようするにこれ、私、遭難状態.......
『リーン!よくやってくれたぞ!』
「うわあっ!?」
と思ってたら、いきなり頭の中に声が響いてきた。
この声は.......
『えっと、魔王様?』
『左様!素晴らしいぞリーン、本当によくぞ勇者を倒してくれた!暫くそやつを見ておいてくれぬか、数分したらティアナを向かわせるからのう』
『.......その間、勇者が起きて怪我関係なしに暴れ回ったりしそうで怖いんですけど.......』
『安心せい、今の状態では、動こうにも動けぬじゃろう。すまぬ、今すぐに送ってやりたいんじゃが、ちょっと立て込んでおってな。もう少しだけ待っとくれ』
立て込んでる?ティアナさんが?
『何かあったんですか?』
『誘拐した聖十二使徒の二人.......アスバルとスラストが思ったよりもしぶとくてな。ティアナとフェリア、それにゼッドとナツメが追い込みまくってるんじゃが、なかなか死なないのじゃ。じゃが案ずるでない、主が勇者を倒した事で、いざという時の対応が必要なくなったからな。今、待機させていたレインとグレイを向かわせた』
.......うわー、えげつないなー。
序列第九位と第十位じゃ、幹部と一対一が関の山だろうに、それが四対二になって、更に魔王軍最強クラスが二人も加勢に来るとか涙目ものだ。
『というわけじゃ.......おっ、レインが出会い頭に雷を食らわせたな。それに合わせてティアナも.......グレイが突進して.......あ、スラストが死んだぞ』
『.......いや、実況しなくていいですから』
『む、そうか?ではあと少しの辛抱じゃ。終わったらすぐにそちらにティアナを寄越すからな』
その言葉を最後に、念話は切れた。
「.......ふう、大丈夫そう.......」
いや、一時はどうなるかと思ったわ。
まあそりゃそうだよね、あの魔王様が私の戦いを見ていないはずないし、決着がついてそのまま放っておく.......わ.......け.......ん?
勇者、目開いてない?
.......いやいや、気のせいだ。あんな大打撃を負ったんだぞ?
そんな、ものの数分で目覚めるわけあーいやあれ目開いてるわバッチリ開いてるわ。嘘だろ勇者.......。
.......あ、でも起き上がる様子はない。やっぱり相当なダメージは受けてるみたいだ。
取り敢えず遠くから見張って.......
「.......このまま、目覚めなければいいのに」
.......え、喋った?
※※※
「何言ってるの貴方?.......っていうか、喋れたの?」
迷った末、私は勇者に話しかけてみることにした。
勇者は私の声に振り向き、少し目を見開いたけど、返事は無かった。
.......なんだろう、なんか勇者に違和感を感じる。
なんというか、ぬいぐるみが寝た時と起きた時で位置が違う気がするような、そんな謎の違和感だ。
それに目にも、なんだかちょっとだけ、生気を感じる。
.......もしかして、心が戻った?
.......いやないないない、三年も壊れていた心が、そう簡単に修復されるはずなんてない。
私の気のせいだろう。
「あー、取り敢えず貴方を誘拐.......もとい、保護しなきゃね。痛たた.......体中痛い.......《中級治癒》。.......ふう、少しはマシになった」
取り敢えず痛みを堪えていたことを思い出して、体に強めの回復魔法をかけた。
まあ、ステータス低下と勇者の力のせいで、効果は微妙だったけどね。
「リーンさん」
「うわっ!?.......あ、ティアナさん」
いつの間にいたんだろう。後ろに転移してくるのはやめてほしい。
「本当にお疲れ様です。聖十二使徒の二人はもう事切れていますのでご心配なく。取り敢えず転移致しますね」
「はい、ティアナさーん。転移お願いしまーす」
「.......何故かテンションが高いですね?」
そりゃ、勇者倒した後だし、変なテンションにもなるよね☆
※※※
ティアナさんが私と勇者を連れて転移して来たのは.......あれ?
ここ、会議室じゃない。私も三度くらいしか来たことのない.......魔王の間だ。
玉座みたいな席には、例によって魔王様が座っていて、幹部も全員集まってる。
その魔王様は、それはもう威厳に満ち溢れていて.......
「帰ってきたか、リーン!いやー、本っ当によくやったぞ!流石は妾の.............部下じゃな!」
.......いや、気のせいだったっぽい。
魔王様、一応皆の前なので、抱きつくのはやめて貰えませんかね?本気で恥ずかしいし戸惑うんで。
他の幹部の皆さんも私を労ってくれて、小っ恥ずかしい思いをめっちゃした後、改めて私達は作戦の最終段階に直面した。
勇者の心の修復。
今回の作戦における最難関と言っても過言じゃない。
これが失敗すれば、妥協的な成功を余儀なくされる。
即ち.......勇者を殺す。
「ふーむ、難儀な話じゃのう。武力でどうとでもなる戦と違い、心理的な問題じゃ。強さ云々が介入しない、このような問題は実に難しい.......」
そうなんだよなぁ.......
さっき、勇者が喋ったと思ったんだけど、空耳だったのかな?さっきからずっと、殆ど身動きしないし.......
「.......と、思うじゃろう?」
ん?
え、なに?
「実はのう、勇者の心を治す.......というより、再び活性化させる方法はある」
「ええっ!?」
そんな方法が!?
「そして、その鍵もリーンが握っておった。リーン、主、もしかして一連の戦いの中で、『復讐鬼』に上位転職したのではないか?」
「え?はい、しましたけど.......何故それを?」
「こやつ、先程言葉を発したじゃろう?それは主の空耳ではなく、本当にこやつの心が僅かながら復活し、かつての意識が戻りかけておるのじゃ。『復讐鬼』の効果でな」
え、なに?『復讐鬼』にはそんな便利機能が?
どんなご都合主義展開っすか?
「厳密に言えば.......『復讐鬼』には、『復讐の志を同じくする者を判別し、その復讐心を煽る』という常時発動型の権能がある。心を壊され、意識を失い、人形のようになった勇者も、ほんの僅かに残っていた心に、人間への復讐の念を抱いておったのじゃろう。それがリーンの力で強まり、多少の心の修復が出来たというわけじゃ」
「な、成程。でも、少しだけなんですよね?完全に治すにはどうしたら?」
「なーに、話は簡単じゃ。後は、こやつに残された.......いや、人間共に植え付けられた、任を果たしてやれば良い」
.......?
どういうことだ?
「まあ、百聞は一見にしかずじゃ。見ておれ」
そう言うと、魔王様はおもむろに勇者へと近づき.......
「《最上級治癒》」
「.......ちょっっとお!?何やってるんですか魔王様!?」
何をとち狂ったのか、勇者の怪我を最上級の回復魔法で治した魔王様は、私のツッコミを無視して勇者に話しかけた。
「おい勇者、聞こえておるか?聞こえておるじゃろう?」
「.............」
やっぱり、喋らない。
ちょっと心が治った程度じゃ、やっぱり限度が.......
「妾は魔王。魔王フィリスじゃ」
「.......まお、う?」
喋った!?
「そうじゃ。魔王じゃ。勇者である、主の最大の敵。そして、最後の敵じゃ。妾を殺せば、全てが終わる」
「.......まお、う。まおう。魔王。.......コロス。ころす。殺す。殺せ。ころせ。コロセ.......」
.......え、これやばくないか。
心を壊され、無理矢理刷り込まれた『魔王を殺す』って目標が活性化して.......
「.......コロス」
.......そして勇者は、私達が止める間もなく、魔王様の胸に、剣を突き立てた。
※※※
「魔王様あっ!?」
「こいつ.......っ!?」
「全員落ち着け!その場から動くことは許さん!」
勇者の所業に、私と幹部全員が飛びかかろうとしたが.......しかし、魔王様がそれを止めた。
心臓を貫かれ、血を吹いているにも関わらず、いつにも増して、その態度は毅然としていた。
「.......勇者よ。これで主の役目は終わった」
「.............ぇ」
「よくやったな。魔王を殺したぞ。主に与えられた最後の任務は、『魔王を殺す』じゃろう?終わりよければすべてよしと言うではないか。妾を一度殺した。ならば、主の役目は終わりじゃ」
「.............おわ、り.......?」
「そうじゃ。もう、主は勇者ではない。ただの人間じゃ。もう、殺したくもない魔族を殺す必要も、聞きたくもない命令を聞く必要もない。何処に行っても良い、何を言っても良い。主はもう、自由じゃ」
「...................じゆう.......」
「家族から見放され、心を壊され、人生を奪われ.......辛かったろうな。もう良いんじゃぞ?自分の『心』をさらけ出しても」
「こころ.......さらけだす.............」
「そうじゃ。誓おう、ここにいる者は、誰も主を傷つけぬ。誰も主を痛めつけぬ。じゃから、言ってみよ」
「.......じぶん、は.......私わ.............ボク、は.......」
「.......なんて.......」
「勇者になんて.......勇者になんて、なりたくなかった!!!」
なんかここで止めるの嫌なので、0時にまた投稿します。
投稿速度守るとか言った矢先にすいません。
あと、最後気になった方いると思うんで言っときますね?
勇者はボクっ娘です。心が死にかけていて一人称がブレただけで、元々勇者はボクっ娘だったのです。
作者はボクっ娘が大好きなんです。初期案ではリーンがボクっ娘だった程です。