吸血姫vs勇者3 決着
特殊上級職業『復讐鬼』。
取得条件は、一定以上の復讐対象を苦しめて殺すこと。そして、魔族であること。
その主な効果は、『才能の増減』。
復讐対象に対する恨みや憎しみが強ければ強いほど、才能が増加する。逆に恨みが薄まると、才能は下がり、むしろマイナスの職業になってしまう。
だけど、私の人間に対する恨みは、それはもう尋常ではない自信がある。
それ一点に関しては、魔王軍でも十指に入るだろうとすら自負している。
まさに、私にうってつけの職業。
加えて、『復讐者』の時の復讐対象に対する優位性も、完全上位互換となって反映されている。
つまり、元々『復讐者』の状態ですら拮抗していた、互いに対する優位性が、ここに来て私の方が上回った。
対して、勇者はどうだ。
仲間は全員私に殺され、頼みの綱の聖十二使徒も今はいない。
付与術によるバフも、神官の支援ももう無い。
あるのは、圧倒的な剣術と、破壊されて無慈悲の怪物と化した心だけ。
.......さて、第2ラウンドだ。今晩で、絶対に決着をつける。
※※※
「さあ始めよっか.......勇者っ!」
沈黙を最初に破ったのは私。
それなりに長かった距離を一気に詰めて、裏拳を放った.......けど、勇者はそれを横ステップで避けて、カウンターの居合い切りを放ってきた。
マト〇ックスみたいにそれを避けた私は、そのままムーンサルトキックを食らわせようとしたけど、ジャンプして回避され、そのまま木を蹴って勢いつけて、突き技で容赦なく私の眉間狙ってきた。
後ろに下がって避けたけど、それを予知してたのかそのまま突進してきたので、ギリギリで躱して首トンで気絶させよう.......と思ったけど、慌てて中断して、横に身を投げ出した。うん、あれは無理。ギリギリで躱そうなんて考えたら、普通に真っ二つに斬られる。
「っ.......ほんっと、化け物だね」
「.............」
今の攻防で分かった。あいつ、技術もだけど、なにより剣を振る速度が尋常じゃない。速度のステータスが8万を超えているはずの、私の初速を完全に上回っている。
人間の一般人どころか、魔族の一般兵ですら、この速度には対応出来ないはず。多分、剣を抜く所すら視認出来ずに首を落とされる。
流石は才能値全世界第一位。レベルは定かじゃないけど、今日が満月じゃなければ、私も今頃首と胴が泣き別れ状態だったろうね。
.......彼女が、普通に勇者として持て囃され、他の人間共と同じようなクズになっていたなら、きっと魔王軍は大打撃を負っていただろうに。
時間を惜しんで、希望であるはずの勇者を、こんなに才能溢れる女の子を、廃人同然にして.......愚かすぎる、人間。
「.......貴方がどんな仕打ちを受けてきたのかも、どんな思いで勇者になる道を選んだのかも、私は知らない。.......けど、なんだか、私と貴方は似てる気がする。なんというか、壊れたはずの貴方の心から、人間への憎しみが染み出てきているような気がするんだよね」
「.............」
『復讐鬼』となり、同志を見分ける力でも身に付いたんだろうか。
根拠は無いのに、何故か勇者は人間を恨んでいると確信出来る。
壊れているはずの勇者の心から、「復讐したい」という叫びが聞こえてくるような感覚さえある。
「だからこそ。私は、ここで貴方を止める。.......長引いてもあれだし、下手したら勇者パーティが戻ってこない事を気にした人間共が刺客を送ってくるかもしれないしね。手っ取り早く行こっか」
.......そして私は、切り札を起動させた。
※※※
三年前。
私は当時、聖神国に見放された人間の捕虜を駆逐する任務を与えられ、それを完遂したことで、魔王様に褒賞を貰うことになった。
その褒賞とは、臣器。神器の劣化コピーであり、性能は正直ニッチなものが多いが、強力なマジックアイテムたち。
どれでもひとつ選んでいいと言われ、悩む私の目に飛び込んできたのは、一つの腕輪だった。
『魔王様、これは?』
『む、それか?それは、保守の腕輪じゃな』
『保守の腕輪?』
『うむ。それを装着している者は、自分にバフ効果がかけられた時、それを今受けるか任意で選択出来るのじゃ』
『.......えーっと?』
『つまりじゃ。ステータスを強化するバフをかけられ、それを今受けることを拒否したとする。するとバフはその腕輪に吸収され、その後、装着者の好きなタイミングで、そのバフを発動出来るということじゃ』
『へえ』
『その腕輪は無限にバフを貯めておけるし、本来重ねがけが出来ぬ同じバフも、その腕輪ならば制限を無視出来る』
『え、じゃあこの腕輪をして付与魔法をかけまくって、それを全部拒否って.......全発動すれば、その辺の一般兵でも幹部くらいの強さを出せるってことでは!?』
『理論上はな。じゃが、その腕輪にも弱点があってのう。発動したバフの数とその使用時間、バフ自体の強力さに比例して、効果を切った直後から、ステータス低下、及び全身へ疲労と痛みが襲うのじゃ。まさにハイリスク・ハイリターンの臣器と言ったところじゃな』
.......正直、そのハイリスクを聞いて、これにするかはちょっと迷ったけど、私はこの臣器を貰うことに決めた。
以来、保守の腕輪は腕時計の如くずっと私の左手に付いている。
何故私がリスクを承知で、この臣器を選んだか。
その効果が、余りにも私向き.......というより、吸血鬼向きだったからだ。ぶっちゃけ、何故魔王様が装着していないのか分からないレベルだ。
『全てのバフ効果を吸収し、好きなタイミングで発動出来る臣器』。
つまり、それは―――
※※※
「満月の月の加護ですら、吸収出来るってことでね?」
そう。
満月の夜、私のステータスは二十倍化する。
だけど、その力を保守の腕輪に吸収させておいて、別の満月の日に発動したら?
答えは、20²=400。つまり、私はほんの僅かな時間だけ、ステータスの400倍の力が出せる。
我ながらインフレにも限度があるだろと言いたいけど、これにも勿論欠点はある。
それは、月の加護があまりにも強力すぎるバフ効果だということだ。一度、別の日に400倍を『1分』経験して、その後保守の腕輪を切った時.......瞬間、満月の夜の痛覚麻痺すら突破する、気が狂いそうな痛みが全身を襲った。
なんとか正気を保っている間に痛みは引いたけど、あれは本当に忘れられない。
その後、痛みを我慢して何度も実験を繰り返し.......結果、私に耐えられるのは.......なんと、僅か『5秒』と結論づけられた。
『1ヶ月に5秒だけ、魔王様すら超える力を得る腕輪』。
これが私の、保守の腕輪への総評だ。
そしてそれを、今、発動させた。
「安心してね、加減はするから」
―――残り4秒。
「じゃあ、いくよ」
「.............」
―――残り3秒。
「.......ふっ!」
「.............っ!?」
―――残り2秒。
私の拳は、勇者が剣を抜く速度を、ついに上回り。
勇者の鳩尾を、正確に捉えていた。
―――残り1秒。
勇者の骨が折れる音と感触がして.......直後、勇者は吹き飛んだ。
木々を薙ぎ倒して、それでも勢いは弱まらず.......4キロほど離れた森の中央地帯あたりで、漸く止まった。
―――残り0秒。
「保守の腕輪解除.......ぐうっ!?」
解除した瞬間、全身に凄まじい.......体中に千枚通しをぶっ刺されたような痛みを感じた。
「はあっ、はあっ、はあっ.......ぐぎっ.......!」
.......少しの間歯を食いしばって耐えていると、痛みは引いてきた。
が、今ので緊張がほぐれたのか、今度は勇者に刻まれた細かい傷が痛みだした。
まあ、さっきまでのに比べれば軽いもんだけど。
※※※
低下したステータスでも、4キロ程度なら20秒もあれば到達出来る。
勇者の元へたどり着いた私は、勇者を見下ろしてみた。
間違いなく意識は無い。けど、死んでもいない。絶妙に力を加減したし、勇者の高いステータスの効果もあったのだろう。
「はあ.......はあ.......本当に、我ながらよくやったよ私は.......!」
勇者は生きてはいるが、全身の粉砕骨折がかなり酷いはずなので、仮に起きてもマトモには動けないはず。
まあ、私もさっきの痛みとか斬られたところとか諸々で、割と満身創痍だけどね。
《中級治癒》による回復にも限度があるし、何より今の私は保守の腕輪の反動で、ステータスが著しく下がっている状態。しかも、さっきは慌ててたから気づかなかったけど、なんだか斬られた箇所の治癒に凄まじく力を持っていかれるんだよね。
多分、勇者の特殊効果か、剣の特性なんだろうけど。
何はともあれ.......私は、悲願の一つだった、勇者を止めることに成功した。
今日1日、更新4回に付き合って頂きありがとうございます。
勇者との戦いは区切り区切りでやると気持ち悪いなーと思って、今回の1日4回更新に踏み込みましたが.......
ぶっちゃけ、これで書き溜めストックが切れました(笑)
ですがご安心ください、これからも1日1回、15時更新のペースは守っていきます!応援よろしくお願いします!
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