吸血姫vs勇者2
本日三話目!
「.......っ!?痛っ.......!」
右手を斬られた。
想像を絶する痛み.......ってほどでは無いけど、やっぱり超痛い!
痛みがそれほどでもないのは、月の加護による恩恵の一つ、痛覚麻痺効果だと思う。
「あー!ケインさんまでやられた!」
「ですが、片手を斬り落とせました!これならばっ.......」
神官が言い終わる前に、私は速度全開で斬られた右手をキャッチしつつ距離を取り、断面にそって右手をくっつけ、
「《中級治癒》.......!」
今私が使える、最大の回復魔法を何度も唱えた。
「.......ふう。よし、くっついた」
本来、《中級治癒》は骨折くらいの重傷を治す程度の魔法なんだけど、私の高い魔力にものを言わせて、強引に性能を引きあげた。
「嘘おっ!?」
「まさかそんなっ.......!?」
「満月の夜の吸血鬼をっ、甘く見るな!」
とはいえ、ピンチなことには変わりない。
.......分かってはいたことだけど、勇者の強さが尋常じゃない。
ほんの僅かに油断すると、致命の斬撃を放ってくる。ステータス面では私より遥かに下のはずなのに、そのステータスの使い方が私よりも上なんだ。
「.............」
「相変わらずだんまりですかそうですか.......いや、心壊れてんだから当然だけどさ.......
このまま黙ってやられると思わないでよ?」
※※※
どれくらいの時間戦ってたろうか。
体感的には.......20分くらい?
戦場は移動し、森の中での戦いへと突入している。
私は、未だに勇者どころか、付与術師と神官すら倒せずにいた。
というのも、勇者が二人を庇うせいだ。
.......多分、戦士と武闘家は、そこまで重要視されてなかったんだと思う。勇者本人の力を底上げ出来ないからね。露払いくらいに考えられてたのかも。
でも、付与術師と神官は違う。さっきから付与術師はドンドン勇者に付与魔法を付けていくし、勇者に細かいダメージを与えても、すぐに神官が治してしまう。
それの有用性が分かってるから.......もしくは教えられたから、勇者は二人を庇い続けている。
「.............」
「ぐっ!?」
勇者の斬撃が再び私を捉え、脇腹を裂かれた。
「《中級治癒》!」
すぐさま治すけど、これがめっちゃ必要になるせいで、過剰に攻撃魔法が撃てない!
「あーもー、しぶといなー!勇者様、さっさと殺しちゃえー!」
「.......動きが早すぎます。なんとか足止め出来れば.......」
ああもう、煩わしい!
なんとか殺せないかあの二人っ.............
.......あ、閃いてしまった。
なんでこんな簡単なことに気づかなかったのか。
「《油生成》」
大量の魔力を込めて、周辺一帯に油の雨を降らせた。
「うわっ、何これ!?」
「これは油.......しまっ.......!」
ほい、じゃあ点火っと。
「《着火》!」
大量の油を撒いた所に火を放ったらどうなるか.......火を見るより明らか.......いや、今火を見てるんだけどね?
「ぎゃああああああ!!」
「熱っ、熱いいいいいいい!!」
うわー、うるさいなー。
さっきから大声ばっかで煩わしかったから燃やしたのに、もっとうるさくなっちゃった。まあもうすぐ死ぬんだしいいか。
.......と、考えていると、おもむろに勇者が火の海の中へ飛び込んだ。
そして、燃えている二人のところまで寄ると、何度も剣を振り.......すると、二人とその周辺の火が消えてしまった。
「.......あー成程、剣を振って一瞬だけ真空を作りまくったわけね。それを超スピードでやったから火が消えたと」
本当にチートだなあ。
「た、助かったあ.......」
「ありがとうございます勇者様.......!」
そして勇者は、再び私の元へ戻ってきた。
あーあ、燃やしきれなかったか。
.......まあ、ここまで想定通りなんだけどね。
「.......え?ぐ、があっ.......!?」
「なんっ、これは.......!?」
あれれー?どうしたんだろー。
二人が急に苦しみ出したぞー?あ、倒れたー。
勇者は付与術師と神官の方に意識を向けたが、助けに行くことはしなかった。
勇者は、心を破壊されている。確かにそれは、生物兵器として利用するためなら、合理的な処置なのかもしれない。だけどそれは逆に言えば、「助け方がわからないからって諦められるものか!今助けるぞ!」.......みたいな殊勝な心も壊されているということだ。
勇者には、二人がなぜ苦しんでいるのか、それが分からなかったんだろう。だから対処出来ない。救出不可能。下手に近づいたら二の舞になりかねない。だから助けに行かない。そんなとこだろう。
「あ.......ひぃ.......」
「勇者様.......助け.......」
私がやったのは、風の元素魔法の一つ、風操作による気体の操作。
油を使って、広範囲で火を燃やした。ということは、当然、その過程で大量の一酸化炭素が発生する。
その一酸化炭素を風を操って移動させ、あの二人の周辺に風で閉じ込めたのだ。
すると当然、二人は一酸化炭素中毒を起こし、やがて死に至る。
そりゃまあ、普通は八歳の子供が知るわけないよねえ?
火事による死因の大半が、煙による一酸化炭素中毒によるものだなんて、さ。
.......あ、魔力反応が消えた。二人とも死んだな。
「.......さて、これで1対1だね、勇者。どうする?もう仲間はいないけど?」
「.............」
仲間が皆殺しにされたのに、顔色ひとつ変えない、か。
本当に心が死んでるんだな。
「じゃあ、さっさと倒れてもらいますかね.......《睡眠》」
精神魔法の一つ、対象を眠らせる魔法を放ってみたけど、平然としている。普通に抵抗されたらしい。
「まあ、無理か.......っとお!?」
いきなり勇者が斬りかかってきた!
避けれた.......けど、追撃してきたっ!?
「仲間がいなくなって守るものが無くなったから.......戦法を切り替えてきたか!」
しまった、さっきの二人、どっちかは眠らせるだけに止めておくべきだったか!?
私の動体視力を持ってしても、かわせるかギリギリの攻撃が滅茶苦茶に飛んでくる。
.......いや訂正、滅茶苦茶に見えるけど、恐ろしい程に正確に、私の急所を狙ってきてんだこれ!
「ぐっ.......調子に、乗るなっ!」
細かい傷を受けながらも、剣を持つ勇者の手を抑え、ローキックを食らわせたが.......ダメだ、直前で後ろに飛んで威力を弱められた。
※※※
「ほんとっ.......PSチートは嫌になるねっ.......」
実力は.......本当に、この時点でグレイさんに迫るレベルだ。
ここで逃したら、再び力をつけて、今度はグレイさんや他の武闘派ですら手に負えない程に成長してくるだろう。
そうなれば、止められるのは今度こそ魔王様しかいなくなる。
「あの方の配下として、そんな情けないのは勘弁だよねえ.......」
なんとしてもここで捕らえる。
絶対に。
その為の切り札も、一応ある。
.......そして、それとは別に、私の頭に響いてきた言葉。
《上級職解放の条件を満たしました。特殊職業『復讐者』から『復讐鬼』への上位転職が可能です。実行しますか?》
条件は.......復讐対象を一定以上殺したとかかな?
勿論転職しますとも。
《意思を確認しました。リーン・ブラッドロードの職業が、『復讐鬼』へと上位変化しました。》
さあ、第2ラウンドの始まりだ。
これからも職業は進化させていく予定なんですけど、最初の進化は鬼にちなんで「復讐鬼」にしよう!って決めてたんですが.......
感想ページで名称当ててきた人いてチビりました(小並感)