とある戦士と大波乱
時間違ってすいません。
というのも、今日、一気に4話投稿します。
時間は12時、15時、18時、21時で。
『重装甲』のガルドと言えば、自分で言うのもなんだが、少しは名の知れた冒険者だった。
高い防御力と筋力を生まれ持ち、その才を与えてくださったことをミザリー様に感謝しながら、レベルを上げ、鍛えに鍛えてきた。
その甲斐あってか、齢四十を手前にして、超一流冒険者としての称号たる、『S級冒険者』に認定された。
貧しい農家の生まれである俺がS級となり、そして今は『勇者パーティ』の一員か。出世したものだ。
とは言っても、やることはあまり変わらない。俺に出来るのは、仲間を守り、魔族を駆逐する。それだけだ。
冒険者時代は、魔族の他に『魔獣』の討伐もあったが、それ以外にやっていることは変わりない。
非常にやり甲斐のある、素晴らしい仕事だ。
※※※
「そろそろ日が落ちますね」
連れの魔術師であるマリスのその声に空を見ると、確かに太陽が既に沈みかけている。あと数分で、完全に日没だろう。
今日も魔族をかなりの数減らすことが出来た。これもひとえに、勇者様のおかげだろう。
勇者様。名前は知らない。見た目はまだ幼い少女だが、恐るべき力と才能を有する、剣術の天才だ。
俺など足元にも及ばぬ、人智を超えた御方。
名前どころか声を聞いたことすらなく、お姿はいつもボロボロ。日々の訓練と、魔族との戦いのせいだと、常に一緒に同行されている『聖十二使徒』のアスバル様とスラスト様は言っておられた。
「そろそろ神都へ戻りますか、アスバル様、スラスト様」
「.......そうだな。勇者.......様もお疲れのはずだ。一度戻ろう。マリス君、《上級転移》の用意を」
「かしこまりました」
《上級転移》は、《転移》よりも長距離の転移が可能であるうえ、転移阻害結界を破壊して転移が可能という凄まじい空間魔法だ。
使える者は人間の中でも百といないだろう。
だが、その難易度故、稀代の天才魔術師と謳われるマリスですら、それなりに長い詠唱を必要とする。
この世界には、この魔法を無詠唱で発動出来る者もいるというから、世界は広いと感じる。
聖十二使徒の序列第六位、『魔哭』のノイン様などがその筆頭だ。
.......あとは、非常に不快だが.......魔王軍幹部の一角、我ら人間の間では「悪魔」と呼ばれている、エルフである『森林将』ティアナ・フォレスターや、悪魔と同等の実力を持つ『荒廃将』フェリアも、この魔法を簡単に扱えるという。
「しかし、やはりこの時間は随分と暇だな。ここらの魔族共は全て、死ぬか撤退するかしてしまったからな」
「そうっすねー。まあ、腰抜けの魔族共じゃあ、そんなもんでしょー」
「あははは、腰抜け魔族はウケる!まあ、合ってるけどね!」
「.......皆様、油断してはなりませんよ?」
そうやって俺の話に乗ってきたのは、武闘家のケイン、付与術師のキルア、神官のメイリーだ。全員元S級冒険者であり、俺とは旧知の仲だった。
共に勇者パーティの仲間として集められた時は驚いたものだ。同時に、俺だけがおっさんなことに疎外感を感じたりもしたものだが.......。
「魔族共の中にも、恐ろしい力を秘めた者はいます。ミザリー様の為になろうとするならば、慎重な行動をとるべきでしょう」
「分かってるってー。現にちゃんとこうして散開して、警戒に当たってるじゃーん」
「そーだよそーだよ!メイリーは心配性だなー!」
「まったく.......あら?」
「.......どうしたメイリー、何かあったか」
「いえ、近くに魔力反応が.............」
「んー?本当だ、俺っちの生体感知にも反応したよ」
その言葉を聞いて、その場にいる、転移準備中のマリスと勇者様を除く全員が警戒態勢に入った。
勇者様が警戒されないのは、相手がいかなる手段を取ってきても、対応出来る自信があるからだろう。立派な御方だ。
「.......こちらに近づいてきます」
「おっとー?やる気なのかねえ?」
その声に緊張感を募らせる我々だったが.......その相手の姿を目に捉えた瞬間、緊張は戸惑いに変化した。
それというのも、
「.......子供?」
相手の見た目が、どこからどう見ても幼い少女だったからだ。
森の方からやってきた少女の顔は、長い髪と薄暗さ、伏せ具合のせいで見えないが、一見人間に見える。
「森から、子供?怪しいな.......」
「警戒を解くなよ。偽装した魔族かもしれない」
そう言ったのは、聖十二使徒のスラスト様だ。
アスバル様の兄であり、『双斧』の異名が示す通り、二本の斧を操る超攻撃タイプの戦士。俺が昔から憧れる人である。
「子供!そこで止まれ!我らは勇者パーティ。君には我らの問に答える義務がある!答えよ、何故ここにいる!」
スラスト様のその言葉を聞いて、少女は素直にその場で止まり、たどたどしい口調で喋りだした。
「.......た、たすけて.......ください。まぞくの、ひとたちに、つかまってて。ママが、にがしてくれて」
ということは、この少女は魔族に捕まっていた捕虜ということか?
仮にそうなのだとすれば、森の奥地に魔王軍の基地がある可能性が高い。
「それを証明するものはあるか!」
「あ.......こ、ここに.......ママが、えらいひとに、わたしなさいって、いってた、てがみが」
「.......メイリー君、彼女に変身魔法を使っている気配は?」
「ありません。幻覚なども使っていないようです」
「.......マリス君、転移は一旦中断するんだ」
どうやらスラスト様は、少女の話を聞く気になったようだ。
「アスバル、手紙を受け取ってきてくれ」
「おう、分かった」
アスバル様が少女の手紙を受け取り、勇者様以外の全員がそれに注目した。
封筒の中から紙を取り出し、中には.......
『月を見てください』
そう書かれていた。
意味がわからず、太陽の代わりに姿が映えてきた月を見たが、何も変わらない。.......今日は満月か。
「おい少女よ、これはどういう.......」
少女を問いただそうと、森の方角に向き直った。.......だが、そこに少女の姿は無かった。
「.......どこに行っ.............え?」
辺りを見渡し、目に映ったのは。
少女が、マリスの首に手を当て.......否、首を砕いているところだった。
ゴキョッという音がして、マリスはその場で崩れ落ちた。
間違いなく、即死だろう。
「マリスっ!?」
「こいつっ.......!?」
「あー、演技とか面倒だった.......。さてさて、私にばかり注目していていいのかな?」
急に饒舌になった少女の言葉に反射的に振り返ると、刹那、二つの影が現れた。
その影には見覚えが.......
「こいつら、魔王軍幹部のっ.......」
「《転移》!」
だが、その影はすぐに消えてしまった。何かをするわけでもなく.......
.......いや、そうじゃない!
「あいつら.......アスバル様とスラスト様を!」
「クソッタレ、転移手段を封じられた!」
我らの準最大戦力である、聖十二使徒の御二人が連れていかれてしまった!
転移のマジックアイテムは、スラスト様が持っていた。
そしてマリスが殺された今、我々に転移魔法を使う術はない。
「クソー!この子供、魔族の仲間だなー!?」
「そーだけど?.......よし、作戦も佳境に入ったな。張り切って行きますか」
そう言って振り向いた少女.......否、魔族の目は、赤く光っていた。
その目、そしてあの八重歯。間違いない。
「吸血鬼族.......!」
「絶滅したのではなかったのですか!?」
三年前、相互不干渉と嘯き、魔王軍と繋がっていたと噂のあった吸血鬼族。
その噂が無くとも、邪神イスズを信仰する悪しき種族。すぐに計画が練られ、聖十二使徒のノイン様とイーディス様が出動し、根絶やしにされたはずの種族だ。
「私と、あと一人しか生き残ってないけどねー。さて、勇者の身柄をこっちに渡すなら、悪いようにはしないけど?」
.......こいつの狙いは勇者様か!
「巫山戯るな!我々人類の希望、そう易々と、魔族になど引き渡せるものか!」
「.......その希望とやらに、何がなされたかも知らないくせに」
「なんだと?」
「いや、こっちの話。じゃあ交渉決裂。全員虐殺ね。ちゃんと引き渡してくれたら極力痛みなく殺してあげようと思ってたのに、バカだねー」
そして吸血鬼は臨戦態勢に入り、それを受けて我々も戦闘準備に入った。
.......この吸血鬼、我ら6人を同時に相手する気か?
だとしたら、無謀もいいところ.......
「情報通りだねー。素の私と同じくらいか。まあ今の私の敵じゃなかったね」
その言葉の意味が一瞬分からず.......さらに言えば、仲間が私を見て顔色を悪くしている意味も分からず。
改めて吸血鬼の方面を見ると、その手には謎のぶよぶよした物が乗っていた。
「あれ、もしかしてもう死ぬ事に気づいてない?鈍いねー」
「.......え?」
.......そして漸く、彼女の手に乗っているのは俺の心臓であることを悟り.......直後に、俺の意識は暗転した。