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吸血姫と邪神4

 .......うーむ、この感覚にも随分と慣れてきたな。

 もう、どんな感覚なのかを模索するのはやめて久しい。



「こんばんは、リーンさん。喜んでください、天照ちゃんが有名な洋菓子店のプリンを差し入れてくれたんです。かぼちゃプリンと抹茶プリン、どっちがいいですか?」


 抹茶プリンで。あ、ハーブティーありますか?


「ありますよー。カモミールかラベンダーです」


 じゃあカモミールで。

 いや、毎回用意してもらっちゃってすみません。


「いいんですよ。最近は暇ですし、こういう準備も、こういうティーパーティーの楽しみですからね」


 分かりますよその気持ち。

 あ、凄い良い匂い。高い茶葉ですよこれ。


「おお、本当ですね。流石天照ちゃん、良い目利きをしています。では頂きましょう」


 そうですね、いただきまーす。

 .......うん、美味しい。

 口に甘みが広がり、ちょっと後にしつこくない程度の抹茶の苦味が来る。

 これがあるおかげで、全然甘さに飽きない。いくらでも食べられる味。


「それはそれは。あ、かぼちゃプリンも美味しいですね。かぼちゃの味がしっかり出てて、でもプリンの風味もしっかり残ってて。非常に良い逸品です」


 マジですか。.......抹茶プリン、ひとくち食べますか?


「こっちも食べたくなったんですね。じゃあ交換ということで」


 ありがとうございます。

 .......おお、本当だ。こっちも美味しい。


 ふう.......ご馳走様です。あ、やっぱハーブティー美味しい。


「プリンに合いますね。紅茶もいいですが、やはり私はハーブティー派です」


 私もです。あ、すいません、一つ質問いいですか?


「はい、なんなりとどうぞ」



 .......なんで私、呼び出されたんですか?イスズ様。



「しっかりとプリン食べて、お茶飲んだ後にそれを言うんですね。もうここに馴染みすぎて、ツッコミすら来ないのかと思いました」


 いやもう、お茶とお菓子出されたらツッコミは後回しにしようと心に決めておいたんですよ。

 取り敢えず無粋な声を挟むのは、満足してからにしようって。


「まあ、お呼びしたのは、勿論理由があるのですが。そもそも、経過報告という名のお茶会を三ヶ月周期で開いてたのに、今更感は否めませんね」


 ええ、まあ、そうなんですけどね。

 この三年間、十回以上ティーパーティーを開いてましたもんね、私達。



 ※※※



「さて、では真面目な話に移行しましょうか。現在の勇者についてです」


 その前に、もうプリン無いですか?


「プレーンならありますよ。.......食べながらでいいので聞いてください」


 了解ですモグモグゴックン。


「.......続けますよ?現在の勇者は、戦場に駆り出され、無心に魔族狩りを続けています。しかし、幹部の姿を確認すると、すぐさま転移で逃亡。弱い魔族をひたすら殺して、レベルを上げ、それから幹部を安全に討ち取る算段なのでしょう」


 てことは、今の勇者は、予想通り幹部と同じ程度の強さなんですね。今の私でも、満月の夜だけなら幹部の皆さんよりも強いはずなので、割と楽に行けるかもしれません。


「.............それが...................」


 え?


「これは私のミスなのですが.......勇者の才能が、想像を遥かに上回っていたのです。それはステータス面でも、技術面でも。正直、今の状態でも、幹部一人程度であれば普通に倒せるでしょう」


 .......は?

 え、待って待って。てことは何、私は作戦の前段階が成功しても、幹部以上の強さを持つ勇者と、その取り巻き四人を同時に相手しなきゃ行けないってこと?満月でも厳しくね!?

 え、ちなみに勇者の力ってどれくらいなんですか?


「戦場での映像からの推定ですが.......ほぼ間違いなく、平均ステータスが2万を超えています。魔法を使った形跡が無いので、恐らく武力一辺倒タイプ。しかし、遠距離から攻撃しようにも、速すぎて魔術を使う前に近づかれて殺されます。かといってこちらから近づいても、剣術が尋常では無いので、大抵の者は一秒もかからずに斬られます」


 ただの化け物じゃん。

 え、マジでどう対応すればいいのそれ?

 .......いやいや、心配するな私。満月の夜なら、1対1の戦いに持ち込めば勝てる。

 何せ、私の満月の夜のステータスは既にその勇者を遥かに上回っている。ならば.......


「リーンさん、その、言い難いのですが.......戦いの有利不利を決めるのは、ステータスだけではありません。ステータスでは、技術面の強さはわからないからです。たとえ死ぬ気で体を鍛えて、超人的な肉体を手に入れても、武の達人には勝てない。同じように、リーンさんは武技の方面において、勇者にかなり遅れをとっています」


 .......そんなにヤバいんですか、勇者の剣術とやらは?


「三年で習得したとは思えないレベルです。某一日が一年になる部屋に入っていたのかと目を疑うレベルですね」


 なんで知ってるんですかその部屋のことを。

 いや、そんなことツッコんでる場合じゃない。

 嘘だろ勇者。正直舐めてたかも。

 満月の夜なら、私は誰にも負けないとタカをくくっていた。

 けど、神であるイスズ様が警戒するほどの技術を持つ勇者とか、ぶっちゃけ勝てる気がしない。

 私だってアロンさんに色々と教えてもらったり、ゼッドさんの所で実践をしたりしてるけど、イスズの様子からして、やはり私は劣っているんだろう。


「齢八歳にして、末恐ろしい幼女です。いえ、貴方もなのですが.......勇者は間違いなく、貴方以上です。ティアナですら、勇者には勝てないでしょう。魔王軍で貴方以外に可能性があるとすれば、幹部最強のグレイか、準最強のレイン。それに、準幹部最強のティアナの甥っ子.......サクラくらいでしょうかね」


 魔王軍武闘派トップ3だよその人達。


 サクラ君はこの世界に存在する魔法の9割以上を扱える魔法の天才。

 レインさんは天候による現象を自在に操る最強の妖精。

 グレイさんは魔族に伝わる全ての武術を体得したと言われる超越級の武人。


 全員の戦いぶりを見たことがあるけど、感想は等しく、「チートだろこれ」だった。

 あのPSチート3人と互角くらい?どのレベルの化け物だよ。

 あの3人には、満月の夜でも勝てないなーって最近感じたばかりなんだぞ!


「それと.......」


 まだあんの!?


「知っての通り、『勇者』という職業(クラス)には、魔族に対する優位性を付与する効果があります。その優位性は、貴方の『復讐者』と同等級。つまり、勇者には『復讐者』のステータス倍化等が通用しません」


 もうどうやって勝てばいいんだよ!?


「.......まあ、長々と勇者の脅威について語っておいてなんですが、リーンさんにも勝てる可能性はあります」


 今までのチート勇者についてを聞いて信用しろと。

 無理です。


「最後まで聞いてください。確かに勇者は凄まじいですが、貴方がステータス面において、満月の夜に限れば勇者の倍以上になるのもまた事実なんです。加えて、アロンやグレイから学んだ体術、ゼッドに教わった実戦経験、そしてティアナから授かった魔法。勇者の剣術は驚嘆に値しますが、裏を返せば()()()()()()のです。勿論一芸特化は時に多芸を超えますが、それでも、今回に関して言えば、総合的にはリーンさんが上回っていると思います」


 ほ、本当に?


「本当です。そもそも、勝ち目がなければ、あの魔王が貴方を送り込むわけないではありませんか」


 ま、まあ.......確かに魔王様は優しいですからね。


(そういうことではないんですがね.......)


 じゃあ、私が勇者に勝てる可能性はあるんですね?


「ええ、勿論。ぶっちゃけ、取り巻きはそこまで強くないので、適当な魔法で巻き込んで殺してしまえば良いと思います。その後、ゆっくり勇者を攻略しなさい」


 おお、それは嬉しい情報!

 取り巻きがどれくらい強いか気になってたけど、私の魔法で死ぬ程度なら全然大したことないわ。


 あ、ちなみに今回の件、私の勝率はどれくらいですかね?


「.............」


 アレ?イスズ様?

 おーい。


「それではリーンさん、勇者撃退、頑張ってくださいね!またお茶会しましょう!それではまた!」


 ちょっ.......まだ話終わってな.......



 ※※※



 目を覚ますと、上級兵士用の寮のベッドの上だった。

 取り敢えず起き上がって、常備してある水をコップに注いで一気に呷る。

 そして心を落ち着け、イスズ様との会話を振り返る。

 そして一言。



「.............無理くね?」

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