吸血姫と臣器、ついでに昇格
多分、前話まで見てこう思ってる方いると思います。
「なんで吸血鬼のリーンが血を汚いって嫌がってるの?」と。
ですが、これを人間に当て嵌めてみましょう。
いくら好きだからって、肉とか魚とか酒とか、体にぶちまけられたら嫌ですよね!?
魔王様に連れてこられたのは、なにやら色々と関連性の無いものが置いてある、倉庫みたいなところだった。
杖や剣みたいな武器、薬、本、巻物、服、飲み物.......
びっくりするくらいごちゃごちゃと置いてある。
「えーっと、魔王様。ここは一体.......?」
「む、説明しとらんかったな。ここは魔王軍がいくつか所有している、特殊なアイテムを管理する倉庫の一つじゃ」
「特殊なアイテム?」
「そうじゃ。マジックアイテムと呼ぶ者もおるな」
マジックアイテム。
現代日本のオタク文化知識を持つ私には、聞き馴染みのある言葉だ。
魔法の力を秘めていて、それを解放することで、魔法事象を起こしてくれる道具。
「とはいっても、ここにある物は、厳密にはマジックアイテムとは言いきれんのじゃがな」
「へ?」
「リーンよ、主は『神器』という物を知っておるか?」
おいおい、また心躍る単語が出てきたぞ。
神器。神クラスの性能を持つ、最強の武器シリーズ。
文字通り神が作ったとか、神級の鍛冶師が作ったとか、作品によって設定は違うけど、大半の作品では、切り札みたいな扱いになっている。
「えーと、単語だけなら.......」
「そうか。まあ簡単に説明するとな、神器とは遥か昔に存在した大国によって作り出された、恐るべき力を持つ道具じゃ。かつて、まだ人族と魔族が争わず、共存共栄の道を歩んでいた時代。時の王は、自らの国が危ぶまれぬよう、国中の鍛冶師や薬師、学者などを集め、九十九のアイテムを作らせた」
「それが、後の神器ですか」
「左様。その国は神器によって様々な恩恵を得た。国は繁栄し、人族も魔族も住まう、理想的な国となったそうじゃ。.......しかしそれから僅か三百年後、国は滅んでしまった。当時、国の近衛騎士団の団長であり、国で唯一複数の神器を保有することを許されていた、たった一人の男の手によってな」
.......おおう、すごい話になったな。
たった一人で国を滅ぼしたとか、漫画かよ。
でも、前世では私、そういう展開好きだったんだよなー。
その男、もしかして国の圧政に苦しんでいた民を守る為に国を滅ぼしたとか、そういう話じゃ.......
「ちなみに、その男が女神ミザリーの洗脳教育を受けた最初の男と言われておる。そしてそいつが新たに興した国がメルクリウス聖神国。ついでに言うと、滅んだ大国は善政を敷いていたらしいのう」
前言撤回、聞いているだけで胸糞悪くなるこの世で一番馬鹿らしい史実だな。
「さて、ここで最初の話に戻るわけじゃが」
.......なんの話してたんだっけ。
あ、ここにあるマジックアイテムがマジックアイテムとは言いきれないマジックアイテムだという.......マジックアイテムがゲシュタルト崩壊しそうだな。
「マジックアイテムとは言いきれないアイテム.............まさか、ここにある物は.......全部神器っ!?」
「違う」
違うんかい。
「ククク、確かに魔王軍は神器も幾つか保有しておるが、ここには無い。ここにあるのはな、神器を元に作られた模造品.......言わば神器の劣化版じゃ。神器と似た性能を持ちながら、しかしそれほどの性能は持たぬ物。『臣器』と呼ばれておる」
「神器の劣化コピーってことですか。てことは、性能もかなり微妙なんですか?」
「いや、神器には遠く及ばぬというだけで、十二分に強力なアイテムじゃ。マジックアイテムの枠組みを外れた神器を劣化させたアイテム.......マジックアイテムと言えるか、微妙なところじゃろう?」
成程。納得。
「.......ところで、これ誰が作ったんですか?物凄い量ありますけど」
「人間共が魔族に牙を向いた頃、ドワーフ族が人間に追われ、魔王軍に助けを求めてきた時、匿う際に神器の模造を依頼したのじゃ。以来、ドワーフ族は代々、神器と同等の性能を持つ物を作り出すことが種の大願となっておる」
ドワーフ族っていうと、幹部第十位の『鍛錬将』ガレオンさんが率いる種族だな。
確かに前世でも、鍛冶が得意な種族という印象が強かった。
「さてさて、随分と話が逸れてしまったが.......ここに主を連れてきたのは、主に褒賞を与えるためじゃ」
そうなんですよね。私もわすれかけてました。
「この中から一つ、なんでも好きな臣器を選んで良いぞ」
.......なんて?
「.......え?この中から?神器の劣化版とはいえ、十二分に強力だっていうアイテムを?」
「うむ」
「.......私、捕虜を皆殺しにしただけですよ?」
「人間に強い恨みを持つ主には簡単な仕事かもしれんが、あれは普通は嫌な仕事なのじゃ。なにせ、魔族は温厚な種族が多い。しかも、全員が直接人間に被害を受けたわけではない。じゃから、人間を千人単位で殺せる人材というのはなかなかおらんのじゃ」
「.......でも、だからって、こんな凄そうな物を?」
「いいから受け取れ。働きに対する正当な報酬じゃ」
「.............マジで?」
「マジじゃ。ああそれとな、主の階級じゃが、中級二位まで上げることになった。というわけで寮も引っ越しじゃな」
魔王軍の階級は実にわかりやすい。
強さ、頭の良さ、統率力、その他もろもろを集計した数値で、九段階で決定される。
一番下が下級三位。そこから下級二位、下級一位と上がっていって、次が中級三位。そして一番上が上級一位だ。
厳密にはこの上に、魔王軍準幹部と幹部があるんだけど、一世代に同じ種族が被らない幹部は、正直、普通はなれない。だから、普通は最高の位は準幹部。
ちなみにこういうのを捌いてるのは、大半がヴィネルさんらしい。
.......で、私は今まで下級三位だったんだけど、いきなり中級の仲間入りだと。
「戦闘力だけで言えば、月の加護を考慮すれば既に上級クラスなんじゃがな。如何せん、主はまだ幼いし、統率能力もまだわからん。じゃから、中級二位にとどめた.......と言っておったぞ、ヴィネルが」
お疲れ様ですヴィネルさん。
過労死とかしないでくださいね、いやマジで。
「で、どうするんじゃ、臣器の方は」
「.......え、昇格の件これで終わり!?」
「当たり前じゃろう、妾は最初に言ったはずじゃぞ?主は成長すれば幹部級になれると。中級二位程度で浮かれられたら、こっちが困るわ」
.......そうなんだろうけどさあ。
「それよりも臣器じゃ。選ばぬのであればそれで構わぬが?」
「うー.......わ、わかりました」
ま、まあ?凄い武器持ってれば、それだけ人間への復讐も早まるわけだし?
決して、凄そうなアイテムを目にして、中二心がくすぐられたわけではない。そう、決して。
※※※
「この薬はなんですか?」
「飲むと目からビームが出るようになる。ただし出しすぎると目が焦げるのう」
「この槍は?」
「突いた方向に衝撃波を放てる。ただし威力は微妙で、かなり至近距離でないと使えん」
「.......この巻物は?」
「広げている時、炎魔法の威力を数倍に増幅する。ただし広げている間は他の元素魔法が一切使えなくなる」
「.......このボール.......」
「投げると爆発する。高威力で魔力消費も無く、しかも味方と判断した者は巻き込まない」
「えっ、これいいじゃ.......」
「ただし使い捨てじゃ。ちなみに成功作はそれ一つだけ」
「.............」
.......いや、いいと思うよ?
確かに性能としてはいい物が多い。
用途がニッチだというだけで。
おいどうする、なんか微妙なものばっかだぞ。
たまに凄い良さげな物があるかと思えば、種族指定があったり、とにかく癖が強すぎる。
「あー、あとこの棚しかないじゃん.......」
この棚に良いのが無ければ、あのボール貰おう。爆発するやつ。
ガチでピンチになった時の切り札には使え.......
「.......ん?これ.......」
ボールにちょっと傾いていた私の心は、別の物に興味を惹かれた。
「魔王様、これは?」
「む、それか?それは―――」
※※※
その性能を聞き、私は、
「.......決めました、これにします」
「.......それでいいのか?正直、臣器の中では下の方の.......」
「はい。ですが、私が使えば、これ以上無い効果を発揮してくれると思います」
「どういう意味.............ん?.......おお、そういうことか!なるほどのう。.......確かに主の思い描いていることも可能な筈じゃ。無論、実験は必要じゃがな」
魔王様も気付いたらしい。
これが実用化出来るなら、私の弱点の一つを埋めることすら可能だ。
人間への復讐へ、また一歩近づいたというわけだ。
いやー、思いがけず素晴らしい物をゲットしてしまった。
もしかしたら、対勇者用の切り札になるかもしれない。
来るべき勇者との戦いに備え、ちゃんと磨いておかねば。
次回から一気に時系列が飛び、三年後の話になります。
勇者編も佳境に入ってきました、今後ともよろしくお願いします。