吸血姫と蹂躙
「おお、よく来たなリーン嬢。歓迎するぞ」
「はい。よろしくお願いします、ゼッドさん」
今後の方針が決定され、捕虜の人間共には私の経験値になってもらうことが決定した翌日。
私は魔王軍幹部第八位、『行軍将』ゼッドさんの元を訪れていた。
ティアナさんや魔王様はいない。何でも今日は大事な打ち合わせがあるとかで、私一人で来た。
『妾らは行けぬゆえ、ゼッドに面倒を見てもらうが良い。捕虜の管理を統括しておるのは彼奴じゃし、彼奴の治める地には闘技場があったはずじゃ。しかもあそこは天井が無い。加えて言えば明日は満月、絶好のコンディションじゃのう』
吸血鬼族は月に愛された種族。月下であれば、ステータス向上だけでなく、治癒能力の上昇、昼よりも見通せる暗視能力など、様々な恩恵が与えられる。満月ともなれば尚更だ。
.......あの日、吸血鬼の里が滅ぼされた日。
あれが満月の夜であれば、人間共は為す術なく私たちに全滅させられていたはずだ。《聖十二使徒》の例の二人も、苦戦こそすれど負けることは無かったと思う。
むしろ、それを警戒して、連中は白昼堂々の戦いに踏切ったんだろうけど。
「.......どうした、リーン嬢。恐ろしい顔をしていたぞ」
.......おっと。
思わずあの時のことを思い出して、怒りが頭を出してしまっていた。
まあ、あの日から一秒だって人間への恨みを忘れたことなんてないんだけど。
「いえ、なんでもないです。ごめんなさい」
「そうかね?ならばいいのだが。捕虜の準備は部下たちにさせているので、しばし待ってくれ。ああ、中へ入って構わないぞ」
そう言われて入った闘技場は、もうザ・闘技場という感じの王道な感じの場所だった。アニメとかでよく見るヤツ。
前世の世界ではコロッセオという、かつて奴隷や囚人闘士なんかに殺し合いをさせて楽しんでいた施設があったらしいけど、その中はこんな感じだったんだろうか。
「さて.......今日は小手調べとして、君と戦うのは15人としてもらおう」
「あれ、今日で全部済ませてしまうわけじゃないんですね」
「ああ。今回の件は、君の実戦経験を積むことも兼ねているからな。満月の月の加護を受けた君の前では、そこらの騎士を幾ら並べたって勝てんだろう。という訳で、一日に処分する捕虜の数を決めておき、その数に沿って殺すことで、長期に渡る実践練習を行えるというわけだ」
今のレベル10の私ですら、満月の夜の実力は全ステータス4000オーバー。『復讐者』の効果で、人間に対しては更に倍化。何人雑魚が集まったって、一息に殺せる。
前世では、戦争は数が重要な要素と言われていた。だが、ステータスという力の差が顕著に現れるこの世界では、質こそがものを言う。
どんなに数を揃えても、圧倒的強者.......魔王軍幹部の皆さんや、認めたくはないが《聖十二使徒》なんかの前では、弱い者は烏合の衆と成り果てる訳だ。
そして、満月の夜に限れば、今の私もその強者の類の生物である。
「成程。満月から徐々に力を落としていって、最終的には新月の状態で敵を倒しまくれるようになろう、と」
「そういう事だな」
これはありがたい。
身体能力のバラつきに慣れておかないと、いざという時に取り返しのつかないことになりかねないから、吸血鬼の武闘派にとってその訓練は必須だって、お父さんが言ってたんだよね。
暫くして人間共が出てきて、ゼッドさんが対応に向かった。
吸血鬼は五感が優れているので、話も全部聞こえていたけど、なかなかに面白かった。
何が面白いって、最初は殺されないと高を括ってイキってた人間共が、話の内容を聞いて徐々に青ざめていく顔。
中には顔を蒼白にして泣きそうになってる奴もいて、実に気分が良かったよ。
ゼッドさんの話は進んで、ゲームの説明に入った。
ってか、ゼッドさんエグいこと言うなあ。魔王様は慈悲に溢れた御方って。
間違っちゃいないけど、それは魔族に対してであって、人間共に対する慈悲なんか欠片も持ち合わせてないでしょうに。
「では開始しようか。リーン嬢、中へ入って良いぞ」
おお、もういいのか。
「はーい、ありがとうございますゼッドさん」
さて、蹂躙の始まりだ。
※※※
「.......ぶっ。ぶはははは!おいおい、魔族は人手不足かよ!?こんなガキに俺たちの相手させようとか、無謀もいい所だろ!?」
「なんだ、何かあるのかと疑っていたが、どうも魔族というのは頭が足りなすぎるだけらしい。さあ、こいつを始末して本国へ戻るぞ」
「あーあ、不安になって損したわ。.......でも、こいつ何の種族だ?まあなんでもいいか」
入って数秒、早くもゲーム関係なしにぶち殺したくなる声が聞こえてきた。
ゼッドさん早く開戦の合図。あー、イライラする。声うるせえ。マジで早く死ね。てか殺す。
「では、今から五分だ。始めて良いぞ」
おお、やっとか!
さあ、早く殺しちゃおう!
「あーあ、マジでムカつくぜ。一瞬でもビビらせやがって.......おいお前ら、手出すなよ。俺が殺るからな!」
あん?
本当に愚かだなあ。彼我の実力差も見極められないのか。
もう声を聞いているだけでストレスが溜まるので、さっさと殺そう。
「おら死ねやガキっ.......ぇ?」
なんの策も無しに突っ込んで来たので、私は遠慮なく顔面にストレートを決めた。頭爆散した。うえっ、汚っ。
「なっ.......!?こ、こいつ.......」
もうちょい綺麗に、血とか脳漿が付かないように殺したいな。
色々と試してみよう。次は里でやった時みたいに、首ねじ切ってみよう。早くやれば血が付かずに殺せるかも。
「クソがぁ!.......ウギっ」
ゴキョッという音がして一瞬抵抗があったけど、その後は問題なく皮が千切れて、首が取れた。
.......あっ、ダメだ。血が吹き出してかかるわ。
でも気持ちいい。.......いや血のシャワーがじゃなくて、人間を殺すというこの感覚が、凄く良い。
世に蔓延る害虫を一匹一匹駆除していっているような、なんかこう、世界に貢献しているような気分になる。
まあ、やってる事は殺しなんだから、私自身も外道な事は当たり前なんだけど、気分に浸るのは自由だよね。
「こ、こいつっ.......ヤバい.......!」
「こんなガキが、嘘だろっ!?」
実験台はこんなにいる訳だし、綺麗な殺し方を色々と研究してみよう。
まず、頭を砕く。
「ぐきゃっ」
力が入りすぎて手が脳漿だらけになった。
じゃあ首の骨を折る。
「ごひゅっ」
あ、これいいかも。血が出ない。
次、下半身の急所を砕く。
「あぎゃああああ!!!!!」
うわ五月蝿い。しかも即死しないし。いいや、鳩尾踏み砕いちゃえ。.......よし、死んだ。
あれ、一人武器捨てて逃げてやんの。どうせ逃げられるわけないのに。ちょっと本気で蹴ってみよう。
「うわああああ!やめて!やめて!助けっ.......」
.......うわお、爆散しちゃった。
やっぱり、満月の夜だと力が強すぎるなあ。速度に関しても、勢い余って、ちょっとたたら踏んじゃうし。
さてさて、あと9人か。どう殺そうかなあ。
.......あ、でも、やっぱりナニ潰されると痛いんだね、男の人って。この世のものとは思えないような絶叫上げてたし。
五月蝿かったけど、あれはあれで悪くなかった。
もう一回やってみよう。
「え?.......うぎゃぁぁぁぁあああああああ!!!!」
おお、なんか新しいなにかに目覚めそう。
でも、殺す時に二度手間なのはあれかな?全人類を苦しめながら殺すのは流石に時間かかりすぎるし、出来れば一撃で壊した方がいいのかも?うーん、難しい問題だ。
「があぁぁぁぁ!!ぐぉあああああ!!」
「あーもう、五月蝿い!」
人が考え事してんのに!死ね!
というわけで、頭を踏みつぶして殺した。靴が汚れちゃったよもう.......。
もういいや、一気にやっちゃおう。残り8人。
骨を砕く。
内蔵を抉り取る。
腰辺りで分断する。
足掴んで投げ飛ばして壁にぶつける。
地面に頭を叩きつける。
縦に引きちぎる。
首筋に牙を立てて血を吸い尽くす.......のは時間がかかりそうだったので、断念して腹パンで内臓潰した。
「.......あ、ああ.......ああああ.......」
「んー、まだイマイチ、満月の力には慣れないなあ。十秒で終わると思ったのに、一人余っちゃった」
満月の力と『復讐者』の力は、私の予想より遥かに強くて、未だに制御が難しかった。
その制御に頭使っているせいで殺し方を考えるのに時間かかっちゃって、十五秒もかかってしまった。しかも一人、殺し方を思い付かなくて未だに殺せてないし。
「いやいや、中々のものだったぞリーン嬢。流石は吸血鬼族の姫、満月の夜は無敵という訳か」
「そうですか?.......っていやいや、無敵って。今の私でもゼッドさんやティアナさんみたいな、幹部の皆さんには勝てませんよー。まだこの速度と力にも、全然慣れてませんし.......」
実際、殺し方に拘らず、かつこのステータスに体が慣れていれば、二秒で決着はついていたと思う。
「っと。もう一人残ってるんだった。殺しとこ殺しとこ♪」
「ひっ.......!?」
最後の一人の騎士は、すっかり戦意喪失していた。
ガクガク震えて、顔は汗びっしょり、剣すらもう持ってない。
んー、どうやって殺そうかな。もう殆どやっちゃったし。
「た、助けてくれ!何でもする!情報だって話す、だから、どうか.......頼む.......!」
なんか土下座しだした。
えー.......そんなことされても、1ミリも心動かないし、殺す気満々なんだけど。
あ、そうだ。殺すという結果じゃなく、殺すまでの過程を重視してみるとか?殺されそうになって、一瞬助かるかと思ってから死ぬとか、結構絶望してくれるかも。
ちょっとやってみよ。
「ねえ、死にたくない?」
「も、勿論だ!いや、勿論です!」
あ、これいいわ。
ちょっと殺すの待ってあげただけで、凄い縋るような目になってる。今だけは、女神ミザリーのことも忘れてるんだろうなあ。
「あっそ。じゃあ死ね♡」
「え?.......ぁ゛」
というわけで、首をぶち抜いて殺した。
これで全員。時間は三十秒。
いやー、すっきりした。
さて、リザルトを確認しますかね。
「リーン嬢。君はその、非常に容赦が無いな?」
「容赦?里を滅ぼされた日から、人間共への容赦とかそういった感情は、崖下あたりにオーバースローで投げ飛ばしましたよ。さーて、どれくらいレベル上がったかなー、と」
「.......恐ろしい幼女だ」
2/24、最後をちょこっと直しました。