吸血姫と捕虜
いつも喧嘩してる女の子って百合だと思うんですよ。
嫌よ嫌よも好きのうち百合。
「元素魔法が苦手でも、生憎私は貴様と違って回復等も可能なのでな。破壊と殲滅しか出来ない貴様と違い、私は万能な魔術師なのだよ。分かったらさっさと負けを認めろバカティアナ」
「ちょっと何を言っているのかよくわかりませんね。貴方が一体いつ、万能な魔術師になったのでしょう。ちょっと回復が出来る?ちょっと攻撃が出来る?それは万能ではなく、器用貧乏と言うのですよ。負けを認めるのは貴方の方ですポンコツフェリア」
「貴様、口には気をつけろよ?ハイエルフだかなんだか知らんが、甥に負けている程度の魔法しか使えん二流が。本来私と話をすることすら烏滸がましい程度の生物なんだぞ貴様は?」
「おやおや、その私の甥に身の程を知らずに挑んで、傷一つ付けられずに敗北した無様な女がいた気がしますね?ああ、貴方でしたか。彼我の戦力差も見極められない三流だからこそ、貴方は第六位なんですよ、分かりますか?第三位のこの私に喧嘩を売ろうなど、千年早いと思いますけどね」
「ほう、序列の話を持ち出してきたか。それを言ったら戦争だな貴様。いいだろう、表に出ろ!」
「貴方ごときに時間を割くなど無駄の極みですが、この際立場というものをハッキリさせるのもまた一興。いいでしょう、では早速行きましょうか。リーン様、暫くお待ちいただいてもよろしいでしょうか」
「よろしくありませんよ!?怖すぎて口出せなかったけど、どんだけ仲悪いんですかあなたがた!!」
※※※
好戦的なダークエルフと、何故か受けて立とうとしたエルフを取り敢えず頑張って仲裁した。
「も、申し訳ありませんでした、リーン様。お見苦しいところを.......」
「い、いえ.......別にいいんですけど.......」
あの後、フェリアさんは「そのアホの所にいたら、強くなれるものもなれないぞ!私の所に来い!」と言って去っていった。
ティアナさんが「貴方は強くないでしょう」とか余計なことを言ったのでまた喧嘩になりかけたけど、なんとかした。私偉くない?
「あの.......その.......ティアナさんにも、嫌いな人っていたんですね」
「勿論いますよ、知的生命体として何ら不自然なことではないでしょう」
まあそうなんだけど、なんというか、ティアナさんってそういう感じがしないっていうか。
まあ、隠れドSだけど。なんなら実は今もちょっと怖いから、若干離れて歩いてるけど。
「.......もしかして、エルフとダークエルフって、仲が悪いんですか?」
「いいえまったく。むしろ種族ぐるみで昔から付き合いがありますよ」
そんな『家族ぐるみで』みたいな。
「森を拠点とするエルフと、荒野に文明を築くダークエルフ。互いに無いものを交換しあってきた、友好的な種族です。ダークエルフそのものには感謝と敬意を持ちこそすれど、険悪さなどは持っていません。ただ単に、フェリアが嫌いなだけです」
「い、いっそ清々しいですね.......」
何があったのか気になるけど、なんか怖いから聞かないでおこう。
※※※
緊急幹部会議から一週間が過ぎたある日の夜。
いつものようにティアナさんから指導を受けて、魔法の訓練をしていると、
『リーン、ティアナ、聞こえるか?』
え、ちょっ、なにこれ?
『魔王様。如何なさいましたか』
『うむ、ちょっとな。出来れば妾の部屋に来とくれ。ああリーン、これは単なる念話じゃ。気にするでない』
気にするわ。
何処ぞの邪神を思い出すんだけど。
.......まあ、それは置いといて。
教室の扉を開けると、案の定別のところに繋がっていた。
魔王の間でも会議室の円卓でもなく、もっと狭い。まあそれでもかなり広いんだけど。
本棚やクローゼット、机にベッド。
成程、ここが魔王様の部屋という訳か。
キョロキョロと辺りを見渡していると、ソファの上にあぐらをかいている魔王様がいた。
「おお、早かったのう。まあ座るがいい」
言われるがままに魔王様の対面にあるソファに座った。
部屋の中には、私とティアナさん、それに魔王様。そして、もう一人先客がいた。
「一週間ぶりですねぇ、リーンちゃん、それにティアナさん。あ、リーンちゃんは私のこと覚えてます?」
覚えていますとも。
その特徴的な翼とツノ、忘れるものですか。
魔王軍幹部第一位、つまり幹部筆頭。『謀殺将』ヴィネル。
魔王様の側近であり、魔王軍参謀。『謀殺将』の名が指し示す通り、えげつない戦略で敵を仕留める、魔王軍随一の頭脳の持ち主。
青い髪を後ろでひとつに束ねた、ポヤポヤした感じの美人顔。よく言えば不思議ちゃん、悪く言えば何を考えているかわからない顔だ。
「おや、ヴィネルさんもいたのですか。他の幹部はどうなさるので?」
「他の幹部は呼んでませんねぇ。まあ大局的に見ればちょっとした事なんですが、魔王様にとってはそうではないことが起こったと言いますか」
なるほど。
わからん。
「.......人間共が、我が軍の捕虜を皆殺しにしおったのじゃ」
ああ、成程。それで魔王様が不機嫌だったのか。
また人間共か、下衆が。
「元々、妾たちが捕らえた人間共と、奴らが捕らえた我等の同胞を交換するという話だったのじゃ」
人質交換、この世界でもあるのか。
まあ、確かに互いに人質を気にしながら戦うよりはいい策だとは思うけどね。
「しかし、捕虜となっておった皆の、生命反応が消えおった。総勢百名弱。.......なんということじゃ」
「恐らく、勇者の経験値にされたんでしょうねぇ。ここで人質交換を行うよりも、我々の所にいる人間共を見捨てて、勇者を強化した方がメリットは大きいと判断したんだと思います」
「なんと.......それだけの同胞が命を落としましたか.......それで、勇者はどうなさるおつもりですか?我等の同胞を始末してしまいましたが。計画を変更致しますか?」
「いや、計画は予定通りじゃ。勇者の保護は行う。そも、勇者に罪は無いからのう」
「今の勇者は『道具』になり果ててます。文字通り無心に、言われた通りに殺しを行っただけなんでしょうねぇ。許されざるは命令した人間です」
.............凄い。
何が凄いって、この人たち、極めて理性的なんだ。
普通は仲間を殺されて激昂して、『勇者殺す!』みたいな展開になっててもおかしくないと思う。
「それでのう、妾らが考えなければならぬのは、こちらで捕虜としておる人間共の後始末じゃ。情報はあらかた吐かせたし、あちらの捕虜を殺した以上、連中を生かしておく理由はない」
「はい、そこで提案なんですけどー。その捕虜を、リーンちゃんの戦闘訓練のお人形代わりに使えないかと思いまして」
.......え?
「こちらには、人間共が千人ほど捕らえてあるんですけど、ほら、リーンちゃんはレベル上げが必要でしょう?それに実戦を経験しないと、やっぱり腕って鈍りますからねぇ。吸血鬼の里での『二十一人殺し』の件を聞いて思いついたんですが、どうでしょうか?」
「.......成程。リーン様の実戦能力の向上と、レベルアップを同時に行える。しかもリーン様は、復讐対象である人間を殺害した際の獲得経験値が上昇しているため、非常に効率的。更に言えば、リーン様は人間を殺し、復讐をほんの僅かにしろ進められる.......一石三鳥ですね」
確かに、私にとってレベル上げは最優先して行うべきことだ。
レベルが上がれば魔力も多くなってより魔法の訓練が捗るし、我流でやってる近接戦闘訓練も、より使えるようになる。
私は、魔王軍の中で数少ない、完全夜行性の存在だ。夜に起きて朝に寝る。
その生活リズムにティアナさんを巻き込んでしまっているのだから、やっぱり成果は出したい。
その為にも、レベル上げは必要だし、実戦の中での魔法も経験しておきたい。
「それで、主はどうじゃ、リーン?嫌なら断っても良いぞ。正直、5歳の幼女にやらせることではないからのう」
「.......いえ、やります。やらせてください」
「クククっ、主ならそう言うと思っておったわ。早速準備じゃ。ヴィネル、準備をしてきとくれ」
「かしこまりましたー」
さあ、久しぶりに、人間共を鏖殺しようか。
次回、リーンちゃん人間虐殺回!
みんな絶対見てくれよな!