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吸血姫と真の最終決戦2

「これをヨミに?」

「左様。それさえあれば、ヨミも月の加護を使えよう」


 名案だとは思う。

 ただでさえ恐ろしく強いヨミが、私の月の加護によって二十倍に強化されるなら、凄まじいほどの強さを手にすることが出来るはず。

 満月の夜の使わなかった分の月の加護はすべてこの中に充填してあるし、余裕はある。

 けど難点が一つ。


「こう言っちゃなんですけど、これデメリットやばいですよ?私一回死にかけましたし」

「ああ、ソイツを使って長い間月の加護を発動した時じゃろ?のたうち回る主を見た時は生きた心地がしなかったわ」


 この『保守の腕輪』は、神器を劣化させて再現した、臣器と呼ばれるものの一つ。

 自分にかけられた強化の効果を吸収して、好きな時に発動できる臣器。

 つまり多くのバフを吸収して一度に発動すれば、一気に強くなることが可能というわけだ。


 ただしデメリットが一つ。それは使用したバフの強さと使用時間に比例して、発動後に激痛とステータス低下が発生する点。

 そんな臣器で月の加護を吸収して使うとどうなるか。


 一分も使えば、発狂して死にたくなるような痛みが同じ時間全身を貫く。


「こんな危ないもの、ヨミに使わせたくないんですが」

「主、いい加減その過保護を何とかせんか。妾とてヨミに痛い目を見せるような指示をしとうないが、それしか方法がないじゃろう」

「といっても、使うにしたって数秒しか使えないんですよ?ステータス低下を考慮しても、ここは堅実に行った方が………」


「おい、もういいだろ?作戦タイムは終了だあ!!」


「「「うわっ!?」」」


 しびれを切らしたモニアが一気に助走をつけて飛んできた。


「作戦タイムを設けてくれるとは、殊勝な心がけじゃのう!」

「ははは!お前らの作戦を正面からぶっ飛ばしてこその完全勝利だからな!」

「言ってくれるではないか………リーン、ヨミ、さっき言った方法で行くぞ!リーン、さっさとそれをヨミに渡さんか!」


 もうやむを得ない。それしか方法はなさそうだ。

 私は左腕にはめていた腕輪を、ヨミに投げた。


「ヨミ、発動方法は付けたらわかるはず!」

「了解!」

「おっ、なんだなんだ?見たことねえアイテムだな!」


 ヨミは保守の腕輪をはめ、剣を構える。


「それがお前らの切り札か?それが俺に通じなければ、俺の勝ちはほぼ確定ってことだな!」

「そうかもね」


 息を吐き、鞘に戻したアリウスを腰に携え、柄を握りしめている。居合の構えだ。


「いいねえ………お前らやっぱり最高だぜ」

「あんたは私たちにとって最悪だけどね」

「同感じゃな」

「まったくだよ」

「ははは、随分嫌われたものだな!」


 私たちの言葉を意に介さず、モニアはヨミに集中していた。

 私たちも動かない。仮にしびれを切らしたモニアが私たちを殺そうとすれば、ヨミが即座にモニアの首を落としてくれるはずだから。


「ふーっ………」

「居合か。俺の我流の流派にはねえ技だ。お前のっ………!?」


 モニアの言葉は最後まで続かなかった。

 途中で、ヨミが『保守の腕輪』を発動したからだ。


「なんだ、これ………ヨミの実力が十倍、いや二十倍?まさか月の加護?いやそんな馬鹿な、どうなってやがる………!?」


 モニアが生きていた時代は、神器が武のすべてを席巻していた。

 臣器という存在は知らないはず。

 いや、正確には神器『叡智ヴァサゴ』の力で知識にはあるんだろうけど、一瞬でこの数千年の情報を頭に叩き込んだせいで、その知識を取り出すのに時間がかかるんだろう。

 モニアが混乱している。今しかチャンスはない。


「《身体強化(フィジカルブースト)―神速・神撃》」


 かつて魔王様が見せてくれた、最強の身体強化魔法。

 一つにつき四つのスロットを使う大技ゆえに、身体強化のスロットが八つのヨミは、まだ魔王様と違って二つ同時発動が限界。

 けど、限界以上に速度を引き出す《神速》と究極の破壊を齎す《神撃》によって、ヨミの実力は限界を超えた。


「う、おっ………!?」


 刹那。

 まさにその言葉がふさわしい速度で、ヨミは力を解放した。

 瞬きすら間に合わない速度で剣を振るい、剣速と同じ速度でモニアに迫り、胴体を狙う。


「はああああっ!」


 私どころか、魔王様すら反応しきれるかわからないほどの速度。

 全世界才能第一位、成長すれば魔王様すら超えかねないと言わしめた元勇者の全身全霊の一撃。



「………舐めるなあああああああ!!!」



 だけど。

 モニアはそれにすら反応した。

 自身が編み出した身体強化魔法をフル活用して、ヨミに対応した。

 ヨミの剣と自分の胴体の間にバアルを挟み、不壊の性質を利用して一撃を防いだ。


「認めてやるぜ、ヨミ………お前は強い。俺が今まで戦った中じゃ間違いなく最強候補だ。人によるだろうが、俺は魔王よりお前の方が恐ろしい。

 ………だがそれでも、俺の方が強いって事実は覆らねえんだよ!!」

「うわあっ!?」

「ヨミ、早く保守の腕輪を解除して!!」


 私の言葉に、ヨミはハッとして腕輪の力を解除した。


「うぐううっ!?」


 ヨミが使っていた時間は十秒。つまり十秒間、ヨミは凄まじい痛みと半分以下に低下するステータスと戦わなきゃならない。


「俺の、勝ちだな………!」


 息も絶え絶え、体のあちこちから血が噴き出しているけど、それでもモニアは立っている。


「はははあ、ヨミのステータスが低下してるな!流石にアイツを生かしておくのはダメだ、せめて………!」


「阿呆か、貴様は」


「はっ!気づかないとでも思って………は?」


 ヨミと入れ替わるようにしてモニアに飛び掛かった魔王様の一撃。

 《神速》《神撃》《神鋼》、最強の三つの身体強化魔法を、ヨミの力に紛らわせて発動していた、それでもモニアには阻まれるであろう拳。


 それは、反応していた筈のモニアの意識をすり抜け、あっさりとモニアの脇腹に突き刺さっていた。




 ヨミが強くなる。凄まじいほどの強さで、モニアに迫る。

 そして、もう少しのところで、その頂に届かない。


 そんなこと、最初から全員わかっている。


 ヨミ一人で事足りるなら、最初から私が保守の腕輪をヨミに渡して、グレイさんたちの回復の手伝いに行っていた。

 三人必要だと全員分かっていたから、私たちは残ったんだ。


 ヨミに保守の腕輪を渡した瞬間。モニアが襲い掛かってくるまでの一瞬の間に、私はヨミのアリウスに《痛覚無効化》の付与魔法をかけておいた。

 本来は自分にかけてゾンビのごとく戦ったり、武器や自分の拳にかけて、相手に与える痛覚を遮断したりする、暗殺用の魔法だ。



 モニアはこの付与のせいで、ヨミの一撃を受けたことにより、自分の右腕が再起不能なレベルで粉砕されていることに気づかなかった。



 気づきさえしていれば身体強化魔法で無理やり動かせたはずの右腕。

 だけど、気づかなかったがゆえに、魔王様の拳があっさりと奴を襲った。

 さすがのモニアも、多少の身体強化はしていたと言えど、魔王様の最強の一撃を食らって無事ではいられない。



「がああああっ!?」

「やっとマトモに入ったか………」


 そのまま魔王様は軽く跳躍し、モニアの頬に膝蹴りを食らわせて吹き飛ばす。


「リーン!」


 モニアが飛ばされた先には、天眼アルスで状況を先読みしていた私。

 私の腕には、《物質転移(アポート)》によって引き寄せた保守の腕輪がある。

 久しぶりに起動すると、昼でも夜の力が戻ったように感じる。


「でやあっ!」

「ごばっ!?」


 必死に体制を立て直そうとしていたモニア。

 だけど立て直せる時間も予知している私は、それより早くモニアを蹴り上げ、上空へと打ち上げた。

 二十倍化した私のステータスから繰り出される攻撃は、さすがのモニアにも効いたようで、尾てい骨が砕け散る音がした。


 そして上空には既に、魔王様が転移し、構えをとっている。


「ふっ!」

「げぼっ………!」


 魔王様の攻撃によってさらに上空へ吹っ飛ばされ、転移した私に今度は叩き落される。


「くたばれ!」

「ごぶっ!」


 この瞬間、十秒が経過した。

 それは、地上にいるヨミが力を取り戻し、再び保守の腕輪を使えるようになったことを意味する。


 私は即座に地上に転移して戻る。

 ヨミの近くには寄らない。巻き込まれかねないし、それに信じているから。

 保守の腕輪を解除し、激痛に耐えながら、《物質転移(アスポート)》で腕輪をヨミの腕に戻す。


「任せた、よ!」

「うん。任された」


 そして上空を見ると、私によって叩き落されたモニアが、魔王様と交錯した。


「これで、最後じゃ!!」

「ぐっ………!」


 流石に体制を立て直しきったようで、魔王様の最後の攻撃は防いだ。

 けど勢いは殺せず、モニアはヨミの元へと飛んでくる。


「やれ、ヨミ!!」


 再び、ヨミは居合の姿勢をとる。

 あと一秒もしないうちに、ヨミとぶつかる。


「ヨミ、お願い………!」


 体が痛くてまともに動けない私じゃ、力になれないけど。

 信じている。


 そして。



「はあああっ!!」


 再び、ヨミの剣がモニアを狙った。


「………どらあああああ!!」


 モニアも、両腕の剣で迎え撃つ。

 けど、右腕は身体強化魔法で無理やり動かしているモニアは、即座に右腕をはじかれた。


「あああああああ!!」

「おおおおおおお!!」


 ヨミのアリウスと、モニアのウァレフォルが火花を散らせる。


 そしてやがて、二人が同時に剣を離した。

 モニアは着地し、ウァレフォルを捨て、左腕にバアルを持ち直す。

 ヨミはその隙をつくかのように、アリウスでモニアを斬り裂こうとする。



「消えろおおおおお!!」

「俺が最強だあああああああ!!!」



 そして、二人が交差した。


 どれほどの時間、止まっていただろうか。五秒くらいだったかもしれないし、一秒未満だったかもしれない。あるいは本当に時間が止まっていたんじゃないかと、そんな錯覚すら覚えた。


 倒れたのはヨミだった。


「ヨミぃ!」

「ヨミ、生き………」


 私と魔王様は一瞬焦り、そして気づいた。



「大、丈夫………」



 軽傷だ。脇腹辺りを斬られてこそいるけれど、十分治癒可能なレベル。


「よかった………!」



 そして。



「………ボクらの、勝ちだよね」


「………ああ。見事だ」


 不敗を誇った最強の人間、モニア・ヒューマンロードは。




 その体を、二つに裂かれていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] そう言うことだったんですね! 申し訳ございません
[気になる点] 物質転移のルビが 保守の腕輪をヨミ→リーンの時はアポート リーン→ヨミのときはアスポートになっています
[一言] いくらにモニアが化け物だとしても人間に変わりないんだし体が両断されてまで生きてないと思うし流石にこれは決着したかな
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