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邪神の復讐

「ぐううっ!」

「粋がっておいてこの程度ですか。まあ予想の範疇の強さですが、あなたにしては頑張ったと言っておきましょう」




 物語なら、ここで邪神である私がミザリーを追い詰めた時、彼女が真の力を発動して私を封印するとか、そういう展開になるのでしょう。

 ですがこれは現実であり、私は何のひねりもなくミザリーを圧倒していました。

 それもそのはず。




「ぬうっ………おのれ、おのれええ《破壊(ブレイク)》!!」

「《抵抗(レジスト)》。いくらモニアがいるとはいえ、彼しか頼みの綱がないうえに中位神の眷属とのつながりであれば、まあこの程度の実力でしょう。管理者権限による究極魔法もうまく使いこなせていないようですし」




 神の実力は、地上に生きる眷属や統治している種族の強さに比例する部分が多くあります。

 ミザリーは全盛期こそ私に近い実力を有していましたが、今は違う。

 勇者を失い、ゲイルを失い、ヘレナを失い、ルヴェルズを失い、聖十二使徒も自らの手で廃止させてしまった。

 一方私は、ヨミの才覚、リーンさんの万能力、魔王の純粋な強さ、フランやサクラの魔力、グレイの体術、その他あらゆる屈強な魔族たちの力をこの一身に取り込んでいる。

 しかも、先程ヘレナを眷属にしたことによって、右眼の力まで私がコピーしました。

 これが非常に便利で、ミザリーの動きが面白いほど読めます。


 モニアという圧倒的強者が味方に付いていようと、所詮は個人。集団の力を結集させている私には敵いません。


「なんだ………なんなんだ貴様は!いつまでも我の邪魔をしおって!挙句には我を粛清するだとお!?どこまで我の機嫌を損ねれば気が済むのだ、貴様はぁ!《消滅(ディストラクション)》!!」

「《無敵(パーフェクト)》。………使いましたね。使用許可がない限り使うことを許されない、神すら消し去る魔法を。今の映像記録したので、もう言い逃れはできないと考えてください」

「ふざけるな!貴様をここで始末すれば、後々の言い訳なんてどうとでもなるわ!死ねええ!」


 ミザリーは、神同士の殺し合いを禁じるために使用が制限されているはずの、神をも殺す究極魔法を連発してきます。

 しかし、上位神の管理者権限がないと使用できない《無敵》の力によって、それらはすべて無効化できました。


「なっ………」

「終わりですか?じゃあ《幻痛(ペイン)》」

「!?ぎゃああああああ!!」


 圧倒的すぎる?戦いとしてつまらない?知ったことではありませんね。

 当然の結果です。眷属や生み出した種族を駒としか見ていないようなこの女に、私が負ける道理などない。

 というわけで、遠慮なく正面から堂々と、痛めつけ続けます。

 私の可愛い眷属たちが受けてきた苦しみに比べれば、どうってことないでしょうがね。



「ぐあっ………がっ!………や、やめ………」

「今更やめろとは、さすがに虫が良すぎるのでは?」



 さて、そろそろいいでしょう。

 まだまだ気は晴れませんが、時間をかけすぎるとリーンさんたちがモニアに厳しい戦いを強いられているやもしれません。

 早いところこの女とモニアのつながりを断ってしまわねば。



「名残惜しいですが、そろそろ………っと、どうやらヘレナがルヴェルズを消滅させたようですね。いよいよあなたの希望も失われてきましたか」

「なっ、人間が人間の魂を消滅させたのか!?」

「そのようですね。いやはや、まさか私の『死』の力をあそこまで使いこなすとは」



 本来、魂同士のぶつかり合いで、魂そのものが消滅することはあり得ません。

 しかし、私は死と憤怒をつかさどる神。その死の力は、応用すれば魂にすら通じます。

 魂という存在自体を殺す。それが私の加護の真骨頂なのです。



「あ、ありえん!この我の『生』の力をあれほど詰め込んだ人間が………」

「神としての地力の差が出ましたね。あなたの生きる力では、私の殺す力を相殺できなかった。それだけのことですよ」



 ヘレナは力を使い切ったようで、しばらくは動けないようですね。

 ですが、ここまで頑張ってくれたんです。ちゃんと願いは叶えてあげないといけませんね。







「ぐああっ………ふ、ふふふふ………」

「なんですか。痛がるのか笑うのかどちらかにしてくださいよ」

「ふははは………イスズ、この程度で我が止まると思うな。最後に笑うのは、この我だ!!」



 いきなり気持ちの悪い笑い声をあげたミザリーは、ガクリと倒れました。

 いえ、この表現は正確ではありませんね。どうやら、体を捨てて逃げたようです。

 神の体は着脱可能。一定距離離れれば元の体は消滅し、新たな体が魂をまといます。

 ですが、自らの意思で体を捨てるこの術は、非常に高度かつ複雑な技。

 私すら安易に使えない術をミザリーがいとも簡単に使ってくるとは。これは分かっていなければ捕まえられない。


「はははは!!このまま大神様の元へ行く、あんな無能の説得などどうとでもなる!あれは我を信じ切っているからな!これで貴様も終わりだァ、イスズ!!」

「初めて意見が一致しましたね。あのジジイがド無能なのは私も同意見です。ですが」

「っ!?な、なんだ?」

「あなたもまた、私の中では無能の域であることをお忘れなく」

「か、体が………いや魂が、動か、ない………!?」



 分かっていなければ捕まえられない。

 裏を返せば、分かっていれば対処可能です。



「これは………わ、我と貴様の魂を、つなげているのか………!?い、いつから!」

「最初からです。あなたが私を次元ごと葬ろうとした時にちょちょいと」

「ふ、ふざけるのも大概にしろ!そんなもの、事前に我が魂解放の術を使えるとわかっていなければ、仕掛けられるはずがない!」

「ええ、そうですね。わかってましたから普通に対処できました」

「はあ………!?」



 まあ、我ながら反則技を使ったんですけどね。



「私の統治する悪魔族の中に、ヴィネルという『知恵神』がいましてね。その知識と頭脳を拝借して、あなたがとりそうな計二百十三パターンの行動をすべて分析し、その対応策を練っておいただけです。他に逃げる術がいくつかあるでしょう?すべて試してみてくれていいですよ。どうせヴィネルの智謀からは逃れられないでしょうけど」



 ヴィネルの頭脳は極めて恐ろしく、野心あるものが悪用すれば世界すら滅ぼしかねないものです。

 リーンさんやヘレナのいたかつての世界には、IQなる頭脳測定の基準値があり、それで測定してみたところ、ちょっと信じられない数値が出ました。



「あの重度の変態性さえなければ完璧超人なんですがね、彼女」



 彼女が野心家でなくて本当に良かった。

 ある意味、フランよりもはるかに恐ろしい女です。



「で?どうするんですか、ミザリー。顕現化している体を捨ててしまった以上、もう物理戦闘力は無に等しいでしょうし、魔法も私には通じません。それでもまだあがく術があるというならば、どうぞ」

「く、くそおおっ!」


 往生際の悪いことで、また逃げようとしましたが、私の魂で縛っている以上、万に一つも逃げられることはありません。

 これで安心……





「わ、我が何をしたというんだ!地上を生きる人間は、我が生み出したものだぞ!なら我の好きに使っていいではないか!我の生み出した人間によって少しばかり被害を被ったからって、偉そうに我に説教など垂れ流しおって!我の作りし人間たちに嫉妬でもしたのか!逆恨みも大概にしろ、この邪神が!」





 ———カッチーン。



「………なんですって?逆恨み?私の愛する、エラシィが愛した子供たちを大した意味もなく虐殺しておいて、自分に非がないと主張しますか」

「当たり前だ!我は優れている!こんな世界など我一人に任せておけばいいのに、貴様やエラシィが余計な手を加えたせいで、我の世界に傷がついたのだ!言うなれば、我がやったことは貴様らのしりぬぐいだ!感謝こそされど………ひっ!?」



 ———ブチッ。



「………許さない」

「ま、まてイスズ!わ、悪かった。何か気に障ることを言ってしまったようだな。だが、我の主張もわかるだろう?ここは我の言葉を重く受け止めて、今後は我の言う通りに世界を運営してくれれば、悪いようには………」



 ああ、ダメですね。

 この女はもう腐っている。



 私はミザリーの魂を、瓶型の封印結界にぶち込みました。



「!?お、おい出せ!」

「その結界は、あなたの生み出した種族が傷つけられるたび、あなたも同じだけの痛みを味わうように設定してあります」

「はあ!?お、おいまて、そんなことをしたら!」

「モニアとあなたのつながりは、その封印で切れました。魔王たちが優位に立ったと言えます。モニアさえ殺すことが出来れば、あとは残った人間の掃除のみ。そしてあなたは、その掃除の過程で起こるすべての人間の痛みを共有しなければならない」

「な………ま………」



「本来ならこんなもの、使いたくなかったんです。あなたが降伏の姿勢を見せれば使わないつもりでした。ですがやめです。もうあなたに慈悲などないと思いなさい。あなたの「駒」たちが今までどんな苦痛を味わってきたのか、一度あなたは知りなさい」



「ふざけるな、やめ………ぎゃあああああ!!??い、いた、痛いいいいいい!!」



「ああ、リーンさんたちがモニアを攻撃し始めましたか。頑張って耐えてくださいね」

「や、やめてくれえ!わかった、この世界はお前にやる!だからああああぎゃあああおおおお!!」

「うるさいですねえ………」



 私はミザリーを囲う瓶を操作して、中からの音を防ぎます。

 この女に作り出された種族。そんなもの、欠陥品で当然だったというわけですね。


「………………!………!!」

「さて、リーンさん。皆さん。私がここまでしたんですから、勝たないと許しませんよ?」


 今頃地上では、最後の決戦が繰り広げられていることでしょう。

 モニアが死に、地上の人間が一掃されていく、そして、その度にミザリーが痛みと苦しみを受ける。

 そして、痛みも苦しみも消えた時。それがミザリーの最後の時。

 さあ魔王軍の皆さん。この世界を蹂躙してしまいなさい。

 自分たちの理想郷を創りなさい。


 願わくば、この世界が。

 誰にも虐げられることのない、永遠の平和な世界となりますように。

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