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邪神と女神

「………ふう。さて、このあたりのはずですが」


 リーンさんを地上に戻して、私はすぐにミザリーのいると思われる場所に向かいました。

 かなりの力で抵抗されましたが、この程度の力押しでは私を止めることはできません。


 四千年。私がミザリーを追い続けた期間です。

 勿論、神と地上の生物たちでは時間の感覚も違いますが、それでも四千年は長いと言わざるを得ないでしょう。

 大神に取り入って得た力を乱用して、巧妙に姿を隠す。本当に忌々しい。

 それさえなければ、魔王を誕生させる前にあの女を仕留められていたというのに。

 あの子がリンカを殺されることなく、魔王などという重荷を背負うこともなく、平和に暮らすことが出来ていたというのに。


 しかし、やはり所詮は借り物の力。詰めが甘い。

 モニアを出撃させる必要が出た時、神の力を再び与えるためとはいえ、その術をおろそかにするとは。


「ふむ、さすがに既に気配は消していますか。面倒な」


 ですが、手はあります。

 魔力に神の力を付与し、弾に変えて無数にそれを生み出し、周囲に発射します。

 ああ、一か所だけ不自然に魔力が途絶えた個所がありましたね。ここですか。

 隠蔽された次元を強制的にこじ開け、内部に侵入します。

 ふむ、このいかにも『高級なものとりあえず集めました』みたいな品のない調度品ばかりの趣味の悪い領域。間違いなさそうですね。


 おっと、向こうから攻撃が。どうしても私に会いたくないようですね。

 ですがぬるい。モニアがいるとはいえ、聖十二使徒も勇者も失った今のミザリーではこの程度ですか。


「《削除(デリート)》」


 私自身が生み出した魔法で周囲の魔力をすべて消し去り、奥に進みます。

 自棄になったようで、多種多様な魔法が飛んできますが、フランとサクラの魔力適性を併せ持つ私には通じません。


 やがて無駄だと諦めたのか、今度は領域そのものが変動し始めました。

 次元ごと私を閉じ込める算段でしょうか。


「くだらない」


 次元や空間の概念など、上位神である私はとっくの昔に超越しています。

 むしろ、次元が歪んだことによってミザリーを見つけやすくなりました。


「ああ、そこでしたか。全く手間をかけさせてくれる」


 即座に自分の座標位置を書き換え、ミザリーのいる領域最奥まで移動します。

 そしてとうとう見つけました。諸悪の元凶を。




「お変わりないようですね、四千年ぶりですか。本音を言えば二度と見たくなかった顔ですが、今回に限っては会えてうれしいと言っておきましょう。どうせ今後は二度と見ないでしょうし」


「イスズぅ………!やってくれたな、貴様!」


 膝裏近くまで伸びた金髪、美しいは美しいが化粧の濃い顔。

 顔は性格を表すと言いますが、まさにその典型ですね。

 実に不遜で、周りすべてを見下しているような顔です。まあ男性体の神が見ればえげつないほどの美女に見えるのでしょうし、地上にいれば戦争を起こすレベルの美女ではありますが、私が見ても殺意しか浮かんできません。


「やってくれた?それはこっちのセリフです。数千年前の怪物を復活させるなど、これはあなたが世界に与えられる制限を逸脱しています」

「黙れ!黙れ黙れ!何度も何度も我の邪魔をしおって!」


 ああ、実にやかましい。

 大神がこの女に篭絡さえされていなければ、神の規約の元この女を何とかできたかもしれないのに。

 あの木偶の坊が使えない以上、私が直々にこの女を追放するしかありません。

 さすがに神の世界追放ともなれば、大神よりさらに上位、最高位神様が出てこざるを得ないでしょう。

そうすれば後はミザリーの件と大神の無能っぷりを上に知らしめることが出来ます。

 そうなれば私があの世界をしっかり運用できるようになる。


 もともとこの世界は、私とミザリー、それに亜人族を作り出したエラシィという女神によって統治していました。

 エラシィは心優しくて、本当に世界の平和を望む、神の鑑でした。

 しかし、唯一神となって自分の思いのままに世界を操ろうとしたミザリーの策略によって、四千年前にミザリーの罪をなすりつけられ、この世界から追放されてしまったのです。

 私の親友だったのに。彼女は、ミザリーを信じていたのに。

 だから私は、亜人族の統治権をミザリーに奪われないように、先んじてその権利をかすめ取りました。

 そして今、エラシィの生み出した種族たちは、彼女の無念を晴らすように、ミザリーの生み出した『人間』という害悪を滅ぼそうとしている。


 私もまた、エラシィから亜人族の統治権を継いだものとして、その仇であるこの女を逃がすわけにはいかないのですよ。


「貴様さえいなければ、我はとうに馬鹿な地上人どもを手懐け、上位神への転生を果たしていたのだ!それなのに、貴様は亜人族を引き抜き、魔王などという化け物を生み出して、我に立ち向かってきた!死と憤怒などという禍々しいものを司る邪神の分際で!」

「それで私を見下し、吸血鬼族を滅ぼしたり無理やり勇者を覚醒させたりとやりたい放題ですか。私とエラシィの平和な世界をぶち壊して、彼女を追放し、あまつさえ私の可愛い魔族たちを絶滅させようと目論んだ。

 生と慈悲を司る女神が聞いて呆れますね。私は四千年近くも猶予を与えたんですよ?それを無視したのはあなたです。だからもういい。もう慈悲など与えない。あなたはここで私が拘束しましょう。神の権限を一切封じられた状態で、人間が殺され、少しずつ自分の存在が消えていく恐怖をもって、あなたへの罰とします。抵抗はお勧めしませんよ。無駄な怪我をするだけです」


 いくら大神に上位神並みの力を与えられているとはいえ、それはあくまで表面的なものであり、ミザリー自身は中位神に過ぎません。

 いくら力を与えられていても、それを完全に制御する術は持っていません。

 完全な上位神である私や天照ちゃんとの実力差は明らかです。


 ですが、ミザリーは少し歯をかみしめたかと思うと、その顔に傲岸不遜な笑みを浮かべました。


「ふっ………ふははは。しかしまったく愚かな女だ」

「あなたにだけはそれを言われたくありませんが。なんですか藪から棒に」

「認めてやろう、貴様は強い。なにせ邪神とはいえ、貴様は上位神だ。一対一では我が不利だろう」

「邪神認定を勝手にしたのはあなたなんですがね。まあその通りです、私と貴方がまともに戦えば、まず私が勝つでしょう」


 苦戦はする。手傷もおそらく受けるし、時間もかかる。

 けど、九十六パーセント以上の確率で私が勝ちます。


「ああ、貴様は強いとも。だがこの我が、何の策もなしに貴様を領域内に入れるとでも?」

「ほう、一応は何らかの勝算があったのですか」

「貴様さえ消滅すれば、あの忌々しい元勇者や女吸血鬼、それに魔王も力を失う。そうすれば我が最強の下僕の独壇場だ」

「忌々しいねえ。魔王はともかく、ヨミとリーンさんに関してはあなたの自業自得でしょうに」

「なんだと?どういう意味だ」


 ああ、この女本当に気付いていないんですか。

 ヨミが心を壊されたきっかけとなったのはこの女の言葉です。ですが、そうして心を壊されたたことによって、ひいては自分のせいでヨミが生まれたなどと、微塵も考えていないんでしょう。

 リーンさんに関しても、彼女が自分の策によって起こったガス爆発の余波によって死んだ被害者なんだってことも知らないんでしょうね。

 この女は、地上を数字と自分の利益でしか見ていませんから。


「まあいいです、あなたがクズなのはわかりきっていたことですし。それで?私を仕留める策っていうのは何なんですか?」

「ははは、後悔しろよイスズ。この私に身の程知らずにも立ち向かったことを。いずれ最上位神となる者に歯向かったことをな!」


 ミザリーはそう言うと、右手を近くにあった水晶にかざしました。

 するとそこから、光の玉が現れます。

 玉は非常に不明瞭というか、決まった形をしていないというか、とにかく不安定です。


「魂、ですか。誰のものかは大体予想できますが」

「モニアが復活する前は、私の一番の下僕だった男の魂。しかも、我の力をふんだんに与えてある。地上から出て、ステータスの制約から解かれた今、その実力は中位神に匹敵すると言っていい」


 ミザリーが行ったのは、転生の術を応用した魂の具現化でしょう。

 精神体しか存在できないこの神の領域。ここでは、死んだ魂は四十九日の期間残留します。そうして次の転生先が振り分けられるのです。

 ミザリーはその期間を利用し、あの男の魂を拾って加護を与えたのでしょう。

 しかし、精神体と言えど生前の強さはそのまま。

 さらに肉体がないので、体が耐え切れないほどの力を与えても、精神力次第でいくらでも強くなる。

 なるほど、中位神に匹敵というのもあながち間違いではないかもしれませんね。


「さあ出でよ、我が従僕よ!我の邪魔をする悪しき邪神を滅ぼせ!」


 無駄にキラキラした光が発せられ、数秒後に収まったかと思うと、そこには姿を与えられた魂が立っていました。


「おお………これがミザリー様の御力。おお、おおおお………!素晴らしい………!感謝致します、ミザリー様。死してなお、この余………いや、わたしめの力を頼っていただけたこと、光栄の極みでございます!」

「ああ、信用しているぞ。聖十二使徒第一位の男よ」


 聖十二使徒序列第一位『神子』のルヴェルズ。

 つい先日、フランに敗れ、モニアの復活と引き換えに死んだ、現代における最強の人間だった男。


「………貴様が邪神イスズか。なるほど、ミザリー様とは比較するのもおこがましい。ミザリー様、このわたしにお任せください。あなた様を苦しめるこの女狐の首、必ずやミザリー様に献上いたします」

「ははは、素晴らしい。我への忠誠心はここまで高まっていたか。くるしゅうないぞ」

「も、もったいなきお言葉でございます!」


 地上にいた頃は、それなりの威厳があったものですが。

 小物のミザリーを信仰し、仮にも神である私にこの暴言。ズルズル引きずられて、カリスマ性が駄々下がりですね。

 まるで、何度も何度も手を変え品を変え復活して、その度に主人公にぼこぼこにされるかませ犬敵キャラみたいです。

 天照ちゃんに貸してもらった漫画で、こんな奴読みました。


 とはいえ面倒ですね。二対一でかかられると、やられることはないでしょうが一定以上のダメージを負いかねません。

 そうしたら大変です。邪神の加護が揺らいで、魔王やヨミ、リーンさんに支障が出ます。

 それだけは避けなければ。


「………邪神よ。偉大なるミザリー様に歯向かう愚かな神よ。今ここで、わたしが引導を渡してやろう」




 まあ、想定内なんですけどねこんなの。

 ミザリーが思いつくことを私が思いつかないわけがないじゃないですか。

 ちゃんと策も用意してますし、ね。

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