吸血姫と最終作戦
「イスズ様がミザリーを止めるじゃと?起きてきたと思ったらいきなりなんじゃヤンデレメンヘラ娘」
「次その名前で呼んだらマジで四魔神将辞めますからね。言った通りですよ、イスズ様がミザリーを何とかするまでモニアを足止めしろって」
イスズ様に作戦概要を聞いた私は、飛び起きて魔王様に伝えた。
そしたらこのあだ名だよ。ヤンデレはまだいいけどメンヘラはないだろ。
「リーン、どういうことなの?」
「ちゃんとヨミに謝ったか?隠れヤンデレでごめんなさいと」
「いつまでその話引きずるんですか!ちゃんと土下座しましたよ!そうじゃなくて、イスズ様の話聞いてきたんで言わせてくださいよ!」
※※※
時は少しさかのぼって、神の領域。
「私がミザリーをぶっ飛ばすので、その間モニアを足止めしてください」
いや、ミザリーをぶっ飛ばすって。イスズ様が?
「はい、モニアさえいなければ後は残った人間を掃除してめでたくチェックメイトでよかったんですが、そうもいかなくなったので。
倒す倒さないの話を抜きにしても、あの女さえ抑えれば、少なくともモニアに与えられている女神の力は減衰します。その隙を突けば、あるいは倒せるかもしれません。
先ほども申しました通り、神の実力は眷属の強さも影響します。今はモニアという絶対的な強さを持つ男がいるために今は私と同格に近い実力を持っていますが、モニアを始末してしまえば私にとって敵ではなくなるでしょう。あとはふん縛って、人類を皆殺しにしてこの世界から追放して、いろいろ根回しして消滅させてやります」
なるほど。
モニアとミザリーは今、完全に持ちつ持たれつの状態ってことですか。
「ええ、どちらかが負ければもう一方も弱体化しますからね。神と人々、両方面から攻める二正面作戦と行きましょう」
でも、それって大丈夫なんですか?
イスズ様がミザリーを抑えるって、なにかの神の規約とかに違反するとか。
「私が今まで規約に気を使っていたのは、規約違反をミザリーにチクられてこの世界から追放されるのを防ぐためです。その根本のミザリーを仕留めに行くんですからいいんですよ。勝ちさえすれば規約違反の言い訳はどうとでもなりますしね。歴史なんて勝者が作るもんですから」
そ、そうですか。
「今まではあの女、与えられた権限を悪用しまくって巧妙に姿を隠していたせいで、私もしかけられなかったんですがね。流石に聖十二使徒級を全員殺され、モニアを出陣させざるを得なくなったせいで焦ったのか、神隠しの術が雑になったんですよ。住所特定したので、ちょっと行ってきます」
神隠しってそういう時に使う言葉だっけ?
「まあとにかく、私はミザリー、皆さんはモニア。二正面からの最終作戦です。戦うのとか面倒だから嫌いな私まで出るんですから、失敗は許されませんよ?」
※※※
「というわけでして」
「はー、そういうことなら妾に直接言ってほしいものじゃ。じゃが作戦自体は最善と言わざるを得んの。よし、それでいくぞ」
魔王の間には、対モニアのメンバーが集められていた。
メンバーは、勿論魔王軍最強メンバーだ。
ヨミ、私、サクラ君、グレイさん、フラン様、フルーレティア様、そして魔王様。
魔王軍最強の七人。これでも、多分モニアは対応してくる。
それどころか、数日戦い続ければ間違いなく私たち側が全員死ぬ。
「モニアには、『戦いたければ三日待て』と言ってある。あやつも三日待てば戦えるという条件があるのに、妾たちを引きずり出そうとするようなバカはさすがにやらかさんじゃろう。それまでに全員回復に努め、万全の状態にしておかねばな。ヴィネルに最善の作戦を考えてもらい、当日はそれと同じように行動する。異論はあるかの?」
「異論っていうか、フィリスも戦うのかしら?いくらなんでも、これ以上魔王が前線に出るのは危険なんじゃないの?」
「じゃあ貴様ら、妾抜きでモニアと戦えるのか?月の加護が働かぬ昼に戦うのは大前提じゃが、それでも奴は妾を遥かに上回るステータスを持っておるんじゃぞ」
「ま、まあそれはそうだけど………」
フルーレティア様は顔を伏せてしまった。
多分、フルーレティア様は心配なんだと思う。いくら魔王様でも、あの化け物を相手にして無事でいられる保証はない。
そうしたら、魔王様はもう二度とリンカさんに会えない。
「………ハア。おいフルーレティア。まさかとは思うが、妾が死んだらとかそんなことを考えているのではなかろうな?」
「うっ………」
「主、本当にその根っこの優しさが変わらんな。安心せんか、妾があやつごときに後れを取るとでも?それにこうして動けるようになった以上、あの強敵と主らが戦っているのを指をくわえてみているほど、妾は薄情ではないつもりじゃ」
「でも………」
「でもも何もあるか。リンカと同じくらい、お前らだって大切に思っておるということじゃ。言わせるな恥ずかしい」
「フィリス、それはちょっと重くね?」
「お、お母さーん!?」
「よし、貴様は別じゃ。この場で塵芥にしてくれるわ!」
でも、心配は杞憂だったみたい。
そうだ、魔王様が死ぬところなんて想像できるか?
あの御方の心配をするくらいなら自分の身を案じてた方がまだ生産性がある。
「待たんかこのバカエルフ!!こっちが下手にでていればつけあがりおって、貴様は一度本気で消し飛ばしてくれるわ!」
「あははは、だってフィリスのリンカに対する思いって重いじゃん。それをあたしらに向けてるってさあ。うわ重っ」
「よーしそこを動くな、魔王城の力が解除されたことによって魔法の制約は解けておる。妾の最大魔法で引導を渡してくれるわ!」
「ごめんなさい!うちの母が本当にごめんなさい!だから勘弁してあげてください、僕が代わって謝りますから!」
………サクラ君も大変だなあ。
私たちが滅ぶか、モニアが死ぬか。
私たちの悲願を達成するか、モニアの恐怖が世界を包むか。
泣いても笑っても、これですべてが終わる。
モニアさえ殺してしまえば、もう強い人間はいない。ゆっくり殲滅していけばいい。
さあ、これが本当に最後の戦いだ。