吸血姫と最凶コンビ3 決着
ルヴェルズが攻め、フラン様もひたすら攻め、フルーレティア様が守る。
一進一退の攻防が延々と続いた。
そうしている間に、だんだんと雄たけびが聞こえ始めた。
「進めえええ!!」
「「「うおおおおおおお!!」」」
間違いなく、近くまで魔王軍が進軍してきている。
まずいな、近くまで来すぎると、この三人の無茶苦茶な戦いにみんなが巻き込まれかねない。
「リーン、ボクはもう少しで魔力全快だけど、リーンはどう?」
「私も。あと三分弱かな」
もう少しで、私たちの魔力も回復する。
そうなれば、月の加護によってルヴェルズに最も近いステータスを持つ私と、ステータスが仕事しない反射神経と動体視力と剣技と魔剣ディアスを持つヨミが参戦できる。
二対一でもやっとの今のルヴェルズが、四対一で何とかできるとは思えない。
「ごあっ………!」
そうしている間にも、ルヴェルズに再び魔法が入る。
「ぐぬうっ………《氷隕石》!」
ルヴェルズも負けじと、氷の最上位魔法を放つ。
「あ、ごめん。それ契約違反」
「っ!?」
しかし、フラン様に命中する直前で、氷の隕石は消失した。
フラン様の《強制契約》に違反したらしい。
「あたしが氷の魔法を使ってないのに気付かなかった?『氷の元素魔法禁止』の契約をしてたのだよ!罰則は『次に放たれる相手の魔法をノーガードで受ける』ね」
してやったりという顔で、フラン様は古代魔法を準備する。
「《神狼の牙》!」
「ぬあああああっ………!」
フラン様の魔法がルヴェルズに炸裂し、血だらけになって落下する。
「ぬ、ぐ………!」
「はっはっは!解せないって顔してるねえルヴェルズ!なんであたしがこんなに強いのか!ついこの間まで自堕落な生活をしていた筈のあたしが、なんで百年前までは互角だったあんたよりこんなに強くなっているのか!」
「………!」
フラン様もまた地上に降り立ち、ルヴェルズに得意げに話しかける。
「教えてあげよう!あたしとあんたの違いを!」
胸を張り、フラン様は誇るような顔で、
「お前とあたしの違い、それは!暇か!暇じゃないか!そこなのだ!」
そんなことを高らかに言い放った。
………はあ?
「あたしはこの百年!政治もティアナに任せてすっぽかし、家事も全部魔法任せ!やることと言えばサクラの子育てくらい、そんな生活を送ってきた」
全く胸を張れることでも誇れることでもない謎の自慢を、フラン様は一片の曇りもない笑顔で進めていく。
「政治や聖十二使徒の運営、教会の統制、そんな雑務が多くなったあんたと違い、あたしは一日のほとんどを魔法に費やすことが出来たわけだ。そのうち『エルダーハイエルフ』にも進化して、ますますあたしの魔法の行使能力は上がっていった。呪いによる魔力制限があっても、いつしかあんたと戦った当時のあたしより強くなったあたしは、それからも魔法の研究をし続けた」
なんだろう、この。
『引きこもりがゲームし続けたらいつの間にかネトゲで有名になってました』みたいな、すごいようで残念なエピソードは。
「そして今、古代に失われた魔法の再現にも成功し、呪いから解き放たれ、名実ともに歴代最強の魔術師となった天才フランサマは!アホな雑事に身を投じてたルヴェルズ君を、正面からねじ伏せることが可能となっているわけだよ!わかってくれたかね?」
あまりの暴論に、私たちどころかルヴェルズすら呆気に取られていた。
要するに何か?この人は何も仕事せず、ただただ暇つぶしで魔法を極め、それをサクラ君に教える傍らで自分はもっともっと魔法の深いところまで探求し、いつの間にか最強をさらに超えていたと。
なんというマイペース。きっと、魔王城にいる魔王様も頭を抱えていることだろう。
「てなわけで、あんたじゃあたしにはもう勝てなーい。あたしとの一対一でも厳しいのに、レティがいる上にもうすぐリーンとヨミも復活する、勝ち目はなーい。大人しくフィリスの理想のいしなんちゃらになってくれたまえ!」
いしなんちゃら?
「もしかして『礎』って言いたいのかな」
「たぶん」
なんであの人、魔法以外ではバカ丸出しなんだろう。
百年も暇してたのに、魔王様から聞いてた人物像と一ミリもイメージが変わらないんだけど。
「ぐっ」
そうこうしている間に、ルヴェルズがフラン様の近くから脱出。
何とか体制を立て直そうと、一旦フラン様の魔法圏外にに出るつもりみたいだ。
「《魔結界》」
けどそこにすかさず、フルーレティア様の結界が展開される。
「安心なさい、拘束の魔法じゃないわ。自由に動けるでしょう?ただし」
フルーレティア様は、ルヴェルズに語りかけながらフラン様の方面をちらりと見て、
「この結界の特性は『範囲拡大』。《魔結界》が展開された結界内部すべてが、フランの魔法の発動起点となりうる」
そんな絶望的なことを言った。
「じゃっ、行きますかねー!あたしとレティの切り札!」
そして今この瞬間、私たちの魔力が回復した。
けど、魔力に余裕ができた今だからこそわかる。
あ、あそこ行ったら死ぬわ、と。
フラン様がハーティを掲げると、空中に無数の魔法陣が展開される。
「《隕石招来》《氷隕石》《炎神の息吹》《雷神の赫怒》《大地鳴動》《重力崩壊》《万物切断》《死の都》《龍撃》《漆黒の聖剣》《新星爆発》《暴虐のかぎ爪》《腐り落ちる集落》《閃光の尖撃》《破滅の軍隊》《邪神の憤怒》《火山弾》《呪歌》《戦神の神槍》《爆裂する太陽》」
多重化した多種多様な魔法が、一気にルヴェルズに襲い掛かる。
ハーティの真骨頂は『魔法の最適化』。いかなる高難易度魔法だろうと、最適化し、より強く、より早く、より消費魔力は低くしてくれる。
それにより、魔術師は強い魔法を低い魔力で打てる、ローリスクハイリターンの神器。
だけど、さすがにここまで超高位魔法を連発した魔術師は、おそらく歴史のどこにも存在しない。
恐ろしすぎる。味方である私すら、恐怖を覚えるレベルだ。
あまりの魔力集中に、空間すらねじ曲がって見える。
これを食らって生きてられるはずがない。
転移の神器にも限界はある。間違いなく数十発は直撃した。
一般人ならあの無数の魔法の一発を食らっただけで余裕で百回は死ねる魔法だ。
やがて高密度の魔力集中と魔法同士のぶつかり合いによって潰されていた視界が晴れていく。
「………しぶといねえ」
「はあっ、はあっ、はあっ………………グオアアアアっ!」
信じがたいことに、ルヴェルズは生きていた。
全身血まみれで、魔力も防御に回しすぎたのかほとんど失い、左手が引きちぎれ、両足が炭と化し、それでも生きている。
でも終わりだ。あの状態から逆転するすべはないはず。
生命力の消費に伴って、『女神の奇跡』も効果を失っている。
さすがに、あれほどの超強化では連発はできないはず。
「じゃあ、トドメさしたるかー」
「油断しちゃだめよ。何か隠し玉があるかも」
「わかってるって」
フラン様はハーティをルヴェルズに向ける。
「ぐあっ………くっ………くくくく………!」
「?なにがおかしいのさ」
「………認めよう、フラン・フォレスター。それにフルーレティア。余の、敗北だ。今の、衝撃で、神器も全壊し………も、もう、余に、残された時間は………長くない」
「だろうね」
なら、やつはなんで、あんな不敵な笑みを浮かべている?
「だが………ミザリー様の、怨敵の、作り出した、忌々しい魔族共。この身朽ちようと、滅ぼさねば、ならぬ………!」
そう言った瞬間、ルヴェルズは最後の力を振り絞るように、教会の中へ逃げ込んだ。
すかさずフラン様が範囲魔法を発動し、教会ごと破壊しようと試みる。
けど、魔法耐性が強い教会は多少ダメージを受けただけだった。
「あらあら、どうする?」
「中に行くしかないっしょ」
「月の加護が使えなくなりますけど、まあ素のステータスに戻ってるし、なによりあのボロボロだし、大丈夫だとは思います」
「ボクも行けます」
私たちはルヴェルズを追って、教会の中へと突入した。