吸血姫と最凶コンビ
「フラン様、フルーレティア様!」
最古参の魔王軍幹部にして、魔王軍歴代最強と謳われる最強の二人。
『暴魔将』フラン様と『界断将』フルーレティア様が、ルヴェルズの前へと降り立った。
「リーンちゃんにヨミちゃん、よく結界を解除してくれたわね。おかげで無事に進軍出来ているわ。まあワタクシはフランを追いかけるという名目でフェリアちゃんに指揮を丸投げしてきたけど」
「あ、やっぱり丸投げたんですか」
フラン様は言わずもがな、フルーレティア様もそういう面倒なことが嫌いだからなあ。
でも、正直助かった。フルーレティア様があの魔法を跳ね返してくれなかったら、正直死んでいたかもしれない。
「リーン!大丈夫!?怪我は!?」
「だ、大丈夫。ありがとうございました、フルーレティア様」
「ええ、いいのよ。二人はとりあえず、失った魔力を回復させることを優先しなさいな」
「で、でも。あの状態のルヴェルズ相手に、二人じゃ………」
『リーンさん、フルーレティアの言う通りです。ここは彼女たちに任せましょう』
「うっ………」
確かに、今の私たちじゃ足手纏いになりかねないかもしれない。
せめて、魔力をフルにしてから挑まないと、女神の奇跡によって超強化されたルヴェルズとは戦いにもならない。
「リーン、ここは引いておこう。少しでも魔力を回復しなきゃ」
「………そうだね。わかりました、お言葉に甘えて、少し回復に専念させていただきます」
「ええ、そうしなさい。よっと」
そう言ったフルーレティア様が指を鳴らすと、私たちを赤い結界が包み込んだ。
「これは?」
「中にいる間はいくつかのステータスを低下させる代わりに、魔力が急速回復する結界よ。防御系の結界も混ぜ込んであるからちょっとやそっとでは壊れないわ。そこで休んでいなさいな」
流石は『結界神』。結界魔法だけで言えばフラン様すら上回ると言われている、最強の防御系魔術師なだけあるわ。
「ああ、忘れるところだったわ。リーンちゃん、少しの間だけ天眼アルスをワタクシに返してくれないかしら」
ん?アルスを?
あっ、そういえばこれは元々フルーレティア様のものだっけ。
あのルヴェルズを相手にする上では、確かに必須かもしれない。
私は首に下げていたペンダント型の神器を外し、フルーレティア様に渡す。
「どうぞ」
「ありがとう。ああ、この感覚久しぶりね。しっくりくるわ」
フルーレティア様は満足げに頷くと、フラン様とルヴェルズがにらみ合う教会頂上に目を向けた。
「………フラン・フォレスター。それにフルーレティア。老兵共が何の用だ」
「あらあら、老兵とは言ってくれるじゃないの。生憎まだまだ現役でも行けるのよね」
「そうだそうだ。見なよこのピチピチ美肌!これを見てまだ老兵と言えるかな!?」
「フラン、あなたちょっと黙ってなさい」
軽口をたたき合ってはいるけど、あの場の三人は全員意識を敵に集中させている。
特にルヴェルズは、いつフラン様が魔法を放っても避けられるように身構えている。
「さーて、そろそろ始めようか。………サクラ!!」
フラン様が息子さんの名前を叫ぶと、それに呼応するように直後にサクラ君が転移してくる。
「な、なに?お母さん」
「サクラ、杖返せ」
「へ?」
「だから、その手に持ってるやつ。ハーティ返せっての」
サクラ君の持つ神器、王杖ハーティ。
魔術系の神器の中でも最上位の性能を誇る、あらゆる魔術師の憧れである最強の杖。
サクラ君が使う前はフラン様が長年愛用していたものだ。
「う、うん、わかった。こ、壊さないでね?」
「当たり前じゃん。あたしを誰だと思ってんの」
「お、お母さんだから言ってるんだよ………」
びっくりするくらい息子に信用されてないな、フラン様。
ちょっとショック受けてる顔してるし。
「だ、大丈夫だって。いいからサクラは軍の方戻ってな」
「わかった。き、気をつけてね?」
そう言ってサクラ君は転移魔法で姿を消した。
指揮の才能が皆無なサクラ君は、今回の作戦でとにかく広範囲魔法の雨あられを降らす役目だ。
周辺更地に変えて、行軍できるスペースを増やしつつ、隠れている人間を殲滅する。えげつない。
「フン………本当に余を相手にする気なのか?」
「当たり前でしょーが。あたしの足を使い物にならなくしてた分、礼はたっぷり返さないとね!」
「まあ、貴方はディーシェを行動不能にしたり、他の魔族たちを数え切れないほど手にかけた男だし、手加減はできないわね」
「………愚かな」
瞬間、ルヴェルズの姿が消える。
転移の神器でフルーレティア様の後ろに即座に移動した。
「危なっ」
「《反射結界・倍化》」
「へ?」
「っ!?」
瞬きの瞬間に起こった、信じがたい現象だった。
フルーレティア様は真っ先にルヴェルズが自分の後ろに転移してくることをアルスで察知して、前もって反射の魔法を設置していた。
ルヴェルズは跳ね返されることを察知して超速で後ろに飛び、再度攻撃を仕掛けた。
けど、《倍化》によってルヴェルズが放った攻撃の衝撃が再び跳ね返り、ルヴェルズは吹き飛んだ。
そこにすかさず、フラン様が魔法を放つ。
「《氷絶界》!」
超高位の範囲系氷魔法が、ルヴェルズを襲う。
即座位に転移して逃れたみたいだけど、やっぱりフラン様を異様に警戒している。
考えてみれば当たり前。フラン様はこの世で唯一、単身でルヴェルズに重傷を与えた魔術師。
しかもその才能は滞るところを知らず、足を奪われてからも多くの魔法を開発し、古代の魔法すら再現してきた。
多分今の彼女の実力は、百年くらい前にルヴェルズと戦った時よりはるかに上だ。
「やっぱりあの呪い、あたしの魔力を抑制する力もあったんだね。あの呪いを受けて以来、魔法の質が悪くて悪くて。でも今となっちゃ結果オーライだからいいんだけどね。《紅炎収束》!」
フラン様の魔法を、再びルヴェルズは避ける。
「避けるってことは、いくら今のお前でも、あたしの魔法は受けたらやばいってことだよね?あの呪いが今まで強制ギプスみたいな役割をしてくれてたおかげで、あたしの魔法の質も随分とあがったよ!さーさー、年貢の………年貢の………なんだっけ」
「『納め時』よ………」
「そうそれ!だぜ、ルヴェルズ!」
「………調子に乗るな。《女神の慈悲》」
私に放った魔法。それも十倍以上の威力になった魔法が、フラン様に襲い掛かった。
月の加護がない状態の私だったら、魔力満タンでも多分防げないほどの威力。
しかし。
「《完全保護結界》」
フルーレティア様の結界が、あっさりとその魔法を打ち消す。
「なに………?」
「『結界神』を甘く見ないで頂戴。ワタクシの結界を正攻法で貫きたいなら、それこそ神でも連れてくることね」
………わかり切ってたことだけど、あの人やべえ。
そしてフルーレティア様にルヴェルズの意識が向いた一瞬の隙に、フラン様の魔法がドンドン放たれる。
「やっぱりハーティは手になじむねえ!」
「ねえフラン」
「なに、レティ。あたしのかっこいい姿に惚れた?」
「寝言は寝て言いなさい。そうじゃなくて、何してるのよ」
「何って、まじめに戦ってんじゃん」
「まじめ?今のが?冗談も大概にしなさい。いつまで遊んでるのよ」
………は?
遊び?今のが?
「あー、やっぱりばれてた?」
「当たり前じゃない、何百年組んできたと思ってるの。全然本気じゃないでしょう?」
「なはは、もうちょいじらして、驚かせてやろーと思ってたんだけどなー」
ほ、本気じゃない?
さっきのですら、サクラ君と同等かそれ以上の強さだったと思うんだけど。
「………ねえリーン」
「なに?」
「いや、今更なんだけどさ。もしかしてあの二人って、ボクたちの想像の何十倍も強いんじゃない?」
「………やっぱりそう思う?」
『当然です。フランとフルーレティアは、魔族の中でも魔王が本気を出さないと勝てない、たった二人の逸材ですよ?
確かにステータス的にはリーンさんもヨミも劣ってはいませんが、生まれ持った才と数百年に渡る戦いの経験から、それを十全に使う能力があの二人は桁違いです。二人で組んで戦えば魔王すら超えかねない究極のコンビ。
ルヴェルズが勇者をしていた頃、当時の法皇を殺したのもあの二人ですしね』
それ、もはや私たち必要あるか?