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吸血姫と開幕

 その日、魔王軍の全部隊が一堂に会した。

 全員が気を引き締めた顔で、最後の戦いに臨もうとしている。

 メルクリウス聖神国神都「ミザリー」。世界で最も巨大で、最も堅牢な要塞都市。


 その大きさは、魔王軍全部隊で囲っても余りあるほどだった。

 何しろ、面積的には前世で言う東京二十三区より広い。

 元々の住民、他国の亡命者、S級の冒険者、その他。この中には、人類にとっちゃ絶対に失いたくない人材がごろごろいる。

 逆に言えば、ここさえつぶしてしまえば、もう人類に希望はない。


「じゃあリーンちゃん、結界を付与するわよ」

「はい。お願いします、フルーレティア様」


 フルーレティア様は頷き、全身の魔力を練り上げ、小規模な結界を作り出した。

 しばらくすると、私の周りに魔力の反応が出た。成功みたいだ。


「ハアッ………ハアッ………つ、疲れたわ。こんな強力な結界をこんな小規模で張ったのは初めてよ」

「お手数おかけしてすみません。ありがとうございます」

「いいのよ。これでリーンちゃんも神都に侵入できるわね。あとは満月が出るのを待つだけ」


 既に月の加護のフル活用のために、レインさんの天候操作で周辺の雲は完全に散らしてもらっている。

 準備は完璧。もうすでに夕方で、完全な日没まであと一時間もない。

 最後の作戦。絶対に失敗できない。

 もし万が一、ここで私とヨミが死んだら、結界を破れる存在はいなくなる。


「死んじゃだめだよ、リーン」


 同じことを思ったのか、隣にいるヨミがそう言った。


「当たり前でしょ。ヨミに返事するまでは死ねないっての」

「うん。約束だからね」


 ヨミにわずかに残っていた緊張もほぐれたみたいで、完全に突撃可能な状態になった。

 あとは陽が落ちるのを待つのみ。


「じゃあヨミちゃんかリーンちゃん、兵士たちの鼓舞をお願い」

「「えっ?」」

「えっじゃないわよ、当然でしょう?フィリスがここにいない以上、ここで一番偉いのはあなたたちなんだから」

「え、いや、フルーレティア様かフラン様の方が偉いんじゃ」

「だってあたしたち引退してるし」

「こんな年寄りの老兵に大声出させようなんてひどいわ」


 四魔神将と同等以上の実力を持つ現役復帰後バリバリ活躍した若者がなんか言ってる。


「いいからやってよ。ほれほれ、先輩命令」

「ぐっ、さっき一番偉いとか言ったくせに、都合のいい時だけ先輩って………」


 まあ仕方ない。士気の高さってのは重要だ。


「ヨミ、出来る?」

「え、えーっと………さすがにこの人数相手だと緊張が、ね」


 私に告白した時は随分と積極的だったくせに。

 長年一緒にいるけど、やっぱりこの子の羞恥のツボはよくわからん。


「じゃあ仕方がない、私がやるか………」


 私は用意された高い台に乗って、手渡された拡声のマジックアイテムを口に当てた。


「総員、注目!いよいよ我々魔王軍は、人類を追い詰めた!今まで、魔族の安全で幸福な生活と、人間という害悪の掃討のため、我々は戦い続けてきた!そして今日、ようやくそれが終わる!ここさえつぶせば、残る人間はもはや塵芥に等しい!」


 正直私も恥ずかしいけど、こういうのは偉そうな感じで話すのが重要だって魔王様が言ってた。


「魔王軍の勇敢な戦士諸君!これより私、四魔神将第二席『鬼神将』リーンと、第一席『戦神将』ヨミが神都の結界内に侵入し、結界を破壊する。君たちの仕事は、万が一人間が外に逃げようとしてきた場合に、それを決して通さないことだ!そして結界が破壊された瞬間に、神都に侵入し、中の人間を皆殺しにする!これで、長年の魔王軍の悲願は達成される!………日没と同時に、すべてをかけた最終作戦の決行を宣言する!」


「「「「「ウオオオオオオオオ!!!」」」」」


 まさしく士気高揚という言葉が似あう雰囲気に戦場は包まれた。

 私は壇上から降りて、そのままヨミに抱き着く。


「は、恥ずかしかった………」

「ご、ごめんね。ボクがこういうの苦手だから」

「いい演説だったわよ、リーンちゃん」


 私だってこういうの苦手なのに………まあなんとか士気の爆上げには成功したみたいだからいいけどさ。




 ※※※




 そして、その時が来た。

 陽が落ち、それと同時に月が昇り、私の力が発動する。


「月の加護発動です。イスズ様の計算では、これで神都内部でも昼間のわたしと同じくらいには力が出せるはず」


 今宵は綺麗な満月。しかも赤い月だ。人類の最後にはふさわしい、不吉な夜じゃないの。


「ヨミ、行くよ」

「うん!」


「気張っていけー!」

「気をつけてね」

「………油断は………するな………」

「よ、よそ見厳禁、です!」


 最古参幹部と四魔神将の激励を背に受けつつ、私とヨミは神都の門に向かった。

 その瞬間、他の兵士や幹部からも歓声と声援が上がる。


「や、やっぱり恥ずかしいね、こういうの」

「仕方ないよ、やっぱり」


 とにかく、身を引き締めなければ。

 深呼吸をして、過去の自分の経験を思い出し、心を落ち着かせる。


「じゃあやろうか。リーン、派手にお願いね」

「わかってるって」


 私は、神都を守護する門の一つの前に立った。

 この門の先から、神都の無敵結界は発生している。逆に言えば、門には結界が適用されていない。

 つまり、私の月の加護を受けた魔法の威力がダイレクトに伝わるってことだ。


「《完全粉砕(オールクラッシュ)》」


 触れたものすべてを粉々にする魔法が、神都の強固な門を粉塵に変えた。

 そのまま私とヨミは、神都に突入する。



「撃てええ!」



 そこに、一気に魔法が放たれた。どうやら待ち伏せされていたらしい。

 けどその程度の魔法、まして集中砲火なんて、


「ふんっ」


 うちのヨミに「斬ってください」と言ってるようなもんだ。

 魔法すら断ち切るヨミの魔剣ディアスが、私たちに向かってきた魔法をすべて切り裂いた。


「なっ………」

「リーン、お返ししてあげなよ」

「わかってる。《効果範囲拡大付与(エンチャント)爆裂火炎(フレイムバースト)》!」


 触れた瞬間に爆発を巻き起こして連鎖燃焼する私の魔法が、人間たちの町を巻き込んだ。


「威力はどう?」

「問題ないね。昼の私よりほんの少しステータスが落ちてるけど、誤差の範囲。うん、これなら私も戦える」


 よかった、イスズ様の助言はやっぱり正しかった。


「さあ、最終作戦開始!目標は神都の中心、ミザリー教の教会本部!」

「全部ぶっ壊してあげないとね。それに、あそこには因縁もある」


 そう。教会本部の地下には、ヨミがかつて捕らわれ、心を壊された牢屋がある。

 過去を完全に捨てたヨミにとっては、一刻も早く破壊したい場所のはず。

 そしてきっと、向こうもヨミがそう考えることを読んでいる。

 だからだろうね。教会の地下に、()()()の隠しもしてない強い気配を感じるのは。


「さあ、いくよヨミ!」

「了解!」


 私とヨミは、夜の神都を勢いよく走り出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ最終決戦って感じでてますね! [一言] 何かここの世界の人間、一部除いてすごんごくムカムカする最低やろうどもだからサックリ絶滅させてやって下さい!リーン、ヨミ!頑張れ! 魔族に幸ア…
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