吸血姫と最後の幹部会議
日にち一日勘違いしてて、昨日更新してなくてごめんなさい!
会議室に集まっているのは、十六人の魔王軍筆頭格。
幹部九人に、四魔神将全員。そして最古参幹部のフラン様とフルーレティア様。そして私たちの王、魔王様。
全員が張りつめた、けどどこか期待しているような顔で、魔王様の方を向いていた。
これから始まる、人類絶滅への最終計画立案のためだ。
「イスズ様が我らに人類抹殺を命じられて以来、多くのイレギュラーが起こった。滅ぼされた吸血鬼の里で、世界トップクラスの実力を持つ娘が生き残り、魔王軍に加わった」
魔王様は私の方を向いてそう言った。
そうだ。私の復讐のために、人類を滅ぼすために魔王軍に入ったんだ。
「そして、立て続けに三人の勇者が現れた。被害こそ最小限に抑えたが、まーどいつもこいつも暴れまわってくれたもんじゃ」
「す、すいません!ごめんなさい!」
「わはは、冗談じゃ。その一番最初の奴、歴代最強の勇者がこちらに寝返り、妾の片腕となってくれた」
勇者時代のことを申し訳なさそうにするヨミ。気にしていないと言わんばかりにからからと笑う魔王様。
「そして、かつての仲間が再び戻ってきてくれた。まあどっちもバカじゃが、腕は立つ。期待しておるぞ」
「ちょっと!となりのバカエルフは兎も角、なんでワタクシまで同じくくりにされてるのよ!?」
「お?喧嘩かな?あたしに一度も勝ったことないレティがいい度胸してるじゃん」
「お、お母さん!」
悔しそうにするフルーレティア様と、ケラケラ笑いながら挑発するフラン様、そしてそれをなだめようとするサクラ君。
周りを見渡せば、ティアナさんやアロンさん、路頭に迷いかけていた私を助けてくれた、魔王軍のみんなが勢ぞろいしていた。
頼もしい。かすかにあった不安が取り除かれていく感覚。
「では、人類蹂躙計画の最終段階へ移行する。そのための最後の話の場じゃ、有意義に使っとくれ。ヴィネル、あとは任せたぞ」
「かしこまりました。では話を進めましょう。メルクリウス聖神国の神都への侵攻作戦についての計画立案。なにか提案がある方はいらっしゃいますか?」
その質問で、私は手を挙げた。
※※※
時は少しさかのぼり、イスズ様の話を聞いていた時。
『たしかに、メルクリウス聖神国の結界は強固です。しかしリーンさん、あなたならやりようはあります』
イスズ様はそう言われた。
『この結界は、簡単に言えば魔族のステータスを急激に弱らせるものです。入ってしまえば最後、全てのステータスが通常の百分の一以下まで低下し、さらに追加効果で、平均ステータスが三桁を切ってしまったものは浄化の力で死に絶えてしまいます』
つまり、平均ステータスが1万を超えていない人は結界に触れただけで死亡。私でも平均500まで下がると。
『たとえあなたが満月の月の加護を使っていようと、強化率は二十倍。平均ステータスが1万まで低下します。民衆を殺すにはそれで十分ですが、ルヴェルズには手も足も出ないでしょう。そこで、結界には結界で対応します』
結界には結界?
となると、フルーレティア様?
『その通りです。魔族が発動した魔法すら弱体化させてしまう究極の結界。ですが「結界神」であるフルーレティアは、その制約を多少は無視できます。彼女のフルパワーの状態異常無効化の結界であなたを覆えば、神都の結界をある程度軽減することができるでしょう』
それはどの程度の軽減が可能なんですか?
『1%しか本気を出せなくなる結界の効果を、まあ彼女であれば5%出せるようになるくらいには軽減できるでしょう』
いや、たった5%じゃ話にならないでしょう。
………5%?
!?そうか、そういうこと!
『はい、そういうことです』
※※※
「5%。つまり二十分の一。満月の月の加護のリーンの強化率は二十倍。なるほどのう、月の加護の力とフルーレティアの力で、神都の結界を相殺するということか」
「はい。この方法なら、ヨミだけじゃなくて私も中に入れます。そこでルヴェルズさえ倒せれば………」
「神都の結界がぶっ壊れるってわけか」
そう。この方法なら、私とヨミの二人は結界に侵入できる。
月の加護を持たない、パワーアップの種族能力を持たない他の種族じゃ無理。
月の加護を持つ私にしかできない。
けど、問題もある。
「さ、さすがに危なすぎるんじゃない?だって、相殺するってことは月の加護が働かないってことでしょ?昼間と変わらない状態でルヴェルズとぶつかるってことよね?」
「いくらリーンさんが強いといえど、ルヴェルズは姉様すら封じた怪物。ヨミさん以上のプレイヤースキルの化身です。しかも複数の神器で身を固めていて隙もありません。人の身でありながら数百年を生き、経験してきた修羅場もかなりのもの。やはり二人では厳しいのでは………?」
そう、四魔神将三人に匹敵すると言われてるルヴェルズを、二人で仕留めなきゃならない。しかも月の加護がない状態で。
「そうじゃな。さすがの二人も、厳しい戦いを強いられるじゃろう。しかも忘れてはならぬことに、ヘレナもまだ生きておる。間違いなくヨミとぶつかることになるじゃろうな」
「うっ………すみません、私が逃がしてしまったせいで」
「それはもう良い。過去の過ちをいちいち掘り下げておればきりがないわ」
でも実際、ヨミがヘレナとの戦いで負う疲労を考えると、さらにルヴェルズ戦の勝率が落ちる。
やっぱり、この作戦は却下かな………?
「じゃが、これが一番勝率が高いのもまた事実じゃ。ほかに効果的な作戦がなければ、これで行くしかない」
そう思っていたら、魔王様がそう言った。
「ヨミとリーンがいるなら、ルヴェルズを外に出すくらいはできるんじゃない?結界の外に出せれば、リーンの月の加護も使えるし結界は消滅するだろうしで一石二鳥じゃない。そこから四魔神将で袋叩きにすれば?」
「それも考えたんですけどねえ、無理なんですよ。結界の現在の操作権はルヴェルズが持ってますからねえ。結界の「質」を変えて、ルヴェルズが自分を結界の中に閉じ込めてくるでしょう。そうすれば絶対に外には出てきません」
「あー、そりゃそうか」
「ゼッドのアンデッドを使うってのはどうだ?あれにはもともと人間だったやつも多くいるだろ。結界の対象外になるんじゃねえか?」
「それはもう随分前に試した。ダメじゃった。どうやら人間以外の種になった時点で結界の弱体化を受けるようじゃ。そもそも、元人間の強力なアンデッドなどディーシェくらいじゃろう」
「マジかよ」
その後いくつか案は出たけど、結局有力な案は出なかった。
「やむをえん、か。正直危険すぎるから、気は進まんが………」
魔王様は私とヨミの方を向き、申し訳なさそうな顔を作った。
「魔王様、そんな顔しないでください。大丈夫です、ボクとリーンならできますから!」
「ヨミの言う通りです。私たちが組んで、できなかったことなんてありましたか?」
「一度勇者を逃がしたじゃろう」
「………と、とにかく大丈夫です!こっちはイスズ様のお墨付きなんですよ?私たちなら大丈夫だってあのお方も言ってましたから!」
「むう………そうか。そうじゃな。わかった、二人に任せよう。主らがこの最終作戦のかなめとなる。頼んだぞ、ヨミ、リーン」
「わかりました!」
「了解です!」
さあ、いよいよ始まる。
魔王軍の最終作戦。泣いても笑ってもこれが最後。
人類の、最後の蹂躙の始まりだ。
実は、このたびファンアートを描いていただきました!
上から二番目にあるのでぜひ見てください!