吸血姫と邪神8
………はっ!?
おお、なにやら幸せで恥ずかしい夢を見てた。
具体的にはヨミが告白してきて、顔だけ若干赤らめてる以外は平然とした顔で私に迫ってきた挙句、私を抱きしめて首筋にキスしてくるという妄想も甚だしい夢。
まったくまったく、私もなかなかに末期だな。そんなことありえないのに。
って、あれ、ここってもしかして?
「まあ、お察しの通り私の領域ですね」
あ、やっぱり。なんかお久しぶりです、イスズ様。
もしかして、私の妄想夢見られてましたか?だとしたら恥ずかしいなあ。
「あ、いえ、あれ夢じゃないですよ。というかご自分でも気づいているでしょう。現実見てください」
HAHAHA、イスズ様もご冗談が上手くなりましたね。
そそそそそそそんなばばばばばかな。
「あなたはヨミに抱き着かれて首筋を舐られて、その勢いで気絶したんですよ。そこに今介入している状態です」
あれは私の夢ではないと?
「はい、紛うことなき現実です」
ヨミが私に告ってきたと?
「そうですね、おめでとうございます」
………マジで?
「マジで」
………。
………うっそおおおおおお!?!?
え!?なんで?いつから!?いつからヨミは私のことを!?
「割と意識してたみたいですよ。決定的だったのは、あなたがヴィネルの書斎であの子を気遣う発言をしていたのを、ヨミが盗み聞きしてしまった時ですね」
あれ聞かれてたの?はっっっっっず!!
じゃあなにか?最近ヨミが私を避けてたのは、そういうこと?
「あなたへの気持ちに困惑して、マトモに話せなくなってようで」
ま、マジでか………。
「いやはや、見てるこっちは相当面白かったですよ。あの難聴鈍感天然娘ちゃん、まさか自分の恋心にすら鈍感とは。あんな積極的に、しかも人の目がある中でさらりと告白とは」
サラッと面白がってたこと白状しましたね。
「ちなみに、ヨミは今、緊急幹部会議でお説教を受けてますよ。事情を聞いた幹部総出で『さすがにない』と責められてます。フランだけは大爆笑してますが」
フラン様許せん。
※※※
「さて、リーンさんをからかって遊ぶ機会なんてめったにないので思わず遊んでしまいましたが、そろそろ本題に移りましょう」
遊びとか言わないでくださいよ、こちとら真剣に悩んでるんですよ!
「まあそれはご自分でゆっくりと考えてください。仕事の話をしましょう、ほらミルクレープでも食べながら」
私がそんなものにつられると?モグモグゴックン。
で、仕事の話でしたっけ?
「チョロ………いえなんでもありません。で、まじめな話なんですがね。いよいよ魔王軍は、聖神国の神都への道のりを確保しました。しかし、このままでは神都を落とすことはできないでしょう」
え?なぜ?
もはやあっちに残ってる戦力なんて、ルヴェルズとヘレナくらいしかいないでしょう。どっちも四魔神将で対処可能なのでは?
「ええ。しかし、懸念材料が二つあります。一つは『女神の奇跡』。自分の命と引き換えに五分の超強化を与えられる、元聖十二使徒たる二人の切り札です」
ああ、そういえばそんなのがあった。
「聖十二使徒下位すら、あれを使えばステータス上では四魔神将級の強さを得ます。それを最上位である二人が使えば、満月時のリーンさんにも匹敵する強さになるはず。侮ることはできません」
確かに。あの二人があれを使えば、僅か五分でも想像を絶する被害が出るはず。下手すれば、四魔神将すら負けかねない。
「ええ、ですから使われる前に倒すか、使わせて防御に徹し、五分稼ぐのがベストです。しかし、こちらはまだましな方です。問題はそれ以前にあります。それが二つ目の懸念、神都を覆う結界です」
やっぱりそれか。それは魔王軍でも何度も協議されてますけど、未だに結論が出ない、頭の痛い問題です。
「ええ。知ってると思いますが、神都の結界は世界最強の堅牢度を誇る、普通の結界とは次元の違うもの。フルーレティアすら解除できない恐ろしいものです。魔王ですら破壊しきれないでしょう。それほどまでに絶対的なものなのです」
神都の結界は、大昔に神器を生み出した大国をたった一人で滅ぼし、跡地にメルクリウス聖神国を創り、初代法皇となった『始まりの英雄』だとか『原初の勇者』だとか呼ばれる存在が死の間際に作ったと言われるもの。
絶対的な障壁であり、魔族である限り絶対に透過できない。
いや、正確には抜けることはできるんだけど、著しく弱体化し、平均ステータス1万を超えていないと触れた瞬間に即死する。
そう、現在の結界の魔力運用者であるルヴェルズを倒さない限りは。
「人間以外の種族を全て防ぐ絶対の壁。これ以上なく厄介ですが、対処法はあります」
ヨミですね?
「ええ。人間であるあの子は、結界の影響を受けません。あの子の強さがあれば、神都をめちゃくちゃに蹂躙するなど容易でしょう。しかし、彼女一人でルヴェルズを倒せるかと聞かれれば、正直、答えはノーです。ヘレナであれば苦戦こそすれど倒せるでしょうが、ルヴェルズの強さは圧倒的です。ヨミでも単身では敵わないでしょう」
ルヴェルズは、ディーシェ様を弱体化させ、フラン様の両足を使えなくした、最古参の魔王軍幹部を二人も仕留めた化け物。
そのレベルは、四年前に見た時点ですら、なんと290。平均ステータスは10万超え。おそらく、強さは魔王様に次ぐ世界ナンバー2。四魔神将が最低でも三人、叶うなら総出で立ち向かわないと勝てない。
「ですが、作戦はあります。結界の抜け道を使うのです」
結界の、抜け道?
「ええ、今からリーンさんの頭の中にアップロードします。ちょっと失礼してっと」
………おお!?
何か頭の中にどんどん情報が入ってくる。これが情報のアップロードってやつか!
そしてなるほど。確かにこれなら、私は結界を抜けられる。
………けどイスズ様。ルヴェルズは四魔神将総出で叩かないとって話ですよね?
これだと、私とヨミだけでルヴェルズを相手することになるんですが。
しかも、月の加護がない状態で。
「ええ、そうですね。頑張ってください」
いや頑張ってくださいじゃなくて。
無理くないですかね?
「ふふっ、大丈夫ですよ。あなたとヨミのコンビネーションなら」
ちなみに、勝率を出すなら?
「数学的に導き出せば、十五パーセントってところですね」
ダメじゃん!
「でも、私はできるって信じてます。あなたとヨミなら、きっとルヴェルズを倒せると」
………その心は?
「勘です」
勘かい。
「ええ。女神の、勘です。説得力があるでしょう?」
………確かにそうですね。
なんか、そんな気してきました。
いやでもやっぱりイスズ様だと不安、なんかこう、占い系の神様とかお知り合いに………
「じゃあリーンさん、頑張ってくださいね!ヨミとお幸せに!またなにかお菓子用意しておくので!人間の軍勢にお気をつけて!それではいってらっしゃい!」
え、ちょっと。
まだ話は、終わってない………!