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元勇者と告白

 リーン・ブラッドロードという少女は、ボクにとって特別な存在だった。


 心を失い、勇者とは名ばかりの兵器として使われたボクを止めてくれた。

 人間であるボクを、例外だと言って魔族のみんなと同じように接してくれた。

 ボクが復讐のために魔王軍に入ってから九年間、ずっと近くにいてくれた。

 大好きで、大切な、ボクの親友。そう思っていた。


 けど、最近になって、ボクはその「親友」って言葉に違和感を覚えてた。

 リーンを見ていると、動悸が速くなって、うまく言葉が出せなくなっていた。バレないように必死で隠してたけど、決定的だったのはヴィネルさんとリーンの会話を盗み聞きしちゃった例の一件。

 あの時、リーンのボクに対する言葉を聞いて、以来リーンとまともに話すことすらできなくなってしまった。


 でも、それがなぜなのかは分からなかった。なんでリーンと話せないのか、なんで顔が熱くなるのか、なんでつい距離を置いてしまうのか、なんでそれでも気が付くと目で追っているのか。

 全然わからなかった。レインさんに相談してみたけど、すごい呆れ顔で「んなもん自分で考えないと意味ないでしょーが」って言われただけで何も教えてくれなかったし。

 もう、リーンとちゃんと話すことはできないのかなって、すごく不安だった。


 でも、ついさっき。ドラゴンゾンビとの戦いのとき、ボクはすべてを理解した。

 リーンがあいつにやられそうになった時、今までにないくらいの激情がボクを襲った。

 怒りで目の前が真っ赤に染まって、リーンを傷つけようとしたあのトカゲを、この世から排除すること以外考えられなくなった。

 何より、吹っ飛ばされた時にリーンが駆け寄ってくれたことが嬉しかった。


 これが恋なんだって、あの時気が付いた。今まではボクはそういう経験がなかったからわからなかったけど。


 恥ずかしいけど、ボクはリーンが好きだったらしい。

 でもそれを自覚すると、体の硬直や頭の中のごちゃごちゃした部分が、一気に無くなったような感覚を覚えた。

 体の熱は残ってたけど、それが逆にボクの体を動かしやすくした。


 そしてその次にボクが考えたのは、勿論どう告白するか。

 ボクもリーンも、いつ死ぬかわからない。だから、さっさと告白してしまうのが最善に思えた。

 いつまでもうじうじと引きずるのはボクらしくないしね。


 だけど、必ずリーンに告白するんだって思いながら戦えば、自然に自分を守りながら戦えるんじゃないかって思いついた。

 だから、全部戦いが終わって、神都を滅ぼしてから、告白しようって考えたんだ。

 けど、戦いが終わったら言いたいことがあるって伝えたら、リーンにこう言われた。


「それ死亡フラグ」


 何のことかわからなかったけど、「死亡」ってついてるんだからろくでもないことのような気がした。

 やっぱりリーンはいろいろなことを知っててすごい。そんなところも好きだ。

 だからリーンがそういうならと思って、考えを変えてもうここで言っちゃうことにした。


「ボク、リーンのこと好き」




 ※※※




「………………なんて?」

「いや、だから。ボク、リーンのこと好きなの」

「んえ?」


 目を点にして、口をだらしなく開けてポカンとするリーン。

 女の子なんだから、もっとちゃんとした顔をしないと。そんな顔も可愛いけどさ。


 おかしな顔と言えば他のみんなもそうだ。

 魔王様は口に持っていこうとしていた紅茶を床に垂れ流して、ヴィネルさんは手に持ってた小さい子が裸寸前まで剥かれた本を落とした。


「え、あ、あー!友達としてってことだよね!?そうだよね!?びっくりしちゃった、脅かさないでよ!うんうん、私も好きだよ、うん!」

「あ、あ、ああ、そっち、じゃよな?うむ、そっちのはずじゃ。何をいきなり言うと思えば、まったく!」

「え、ええ、そうですよねえ。やれやれ、一瞬私が読み違えたかと」

「んーん、違う。性的な意味で」


 勘違いを正すと、リーンは壁まで後ずさって、魔王様はせっかく入れ直して口に含んだ紅茶を吹き出し、ヴィネルさんが薄い本を勢い余って放り投げた。


「え?え?エ?せいて、え?」

「………お、おい、ヴィ、ヴィネル。ヨミが暴走しているぞ。なんと、なんとかしろ!」

「む、無理です無理無理。ていうか、え?そん、そんなことってあります?」


 皆なんでそんなにおかしな顔をしてるんだろう。

 誰かを好きになるっていうのは、生物として当たり前のことで、何も恥じるようなことじゃないじゃないか。

 ボクだって今は顔が赤いだろうし心臓もうるさいけど、何も恥じる必要はないと思うから、普段通りにやっている。

 だから普通に続けることにした。


「で、リーン。返事はどう?」

「へえ!?」

「いや、告白したんだから返事が欲しいなって。ボクと付き合う?」


「おおおおい、ヴィネル!な、なんとかしとくれええ!!」

「魔王様が何とかしてくださいよおお!あのままじゃリーンちゃんが心臓発作かなにかで死にますよ!?お孫さんでしょう!?」


 なんだか二人がうるさいな。


「で、どうするの?」

「え、あ、っと………」


 なんだかリーン、顔がすごい色になってる。


「ボクを振る?付き合う?出来れば返事は今欲しいかな」

「………………」


 リーンは焦点の会わない目で真っ赤な顔で口をパクパクさせるだけで、答えてくれない。

 むう、何か間違ったのかな。

 あ、そうか。きっとボクの気持ちが伝わってないんだ、うん。


 キスでもすれば伝わるかな?


 リーンが持ってた恋愛小説でも、そんな感じの描写があった気がする。

 でもいきなり口にするのはさすがにダメだよね。ボクとしてはすっごくしたいけど、我慢しなきゃ。

 じゃあどこがいいかな?

 あ、そういえば、前にリーンに血を吸われたことがあったっけ。首筋に牙が当たってチュウチュウ吸われたけど、今思えばあれもキスの部類に入るのかも。

 じゃあ首筋ならおあいこってことでセーフかな。


「よいしょっと」

「え?ちょ、何しようとしてるのかな!?!?」


「ちょっ!?魔王様、ヨミちゃんがリーンちゃんに抱き着きましたよ!?あのままじゃリーンちゃんがもたないのでは!?何とかしないとっ」

「………妾はもう知らん。なるようになってしまえ」

「魔王様あああ!?お気を確かに!」


 魔王様とヴィネルさん、さっきから何言ってるんだろう。

 心臓の音がうるさくて頭に入ってこない。まいっか。


 というわけで、ボクはリーンを抱きしめて、首筋にチュッとやってみた。

 ボクの気持ちが伝わってくれるといいんだけど。


「これでわかってくれた?」

「………?………!?………!?!?!?」

「結構勇気振り絞ったんだよ、今の。そろそろ答えが欲しいな」


 あれ?そういえば、リーンが昔、キスする場所によってその意味が変わるみたいな話をしてた気がする。

 なんだっけ?細かすぎて忘れちゃった。

 首筋への意味って何なんだろう?


「ねえリーン。首筋へのキスってどういう意味なの?」

「………………」

「ちょっと、リーン?リーンってば」


 あれ?力が抜けてる。これって………


「き、気絶してる!?」


 なんでいきなり?

 もしかして、風邪をひいてたのかもしれない。顔真っ赤だったのも、声が出せなかったのもそれで………


「魔王様、リーンが倒れちゃいました!医務室へ………」

「………き」

「き?」

「緊急幹部会議じゃあああ!!」

「え?なぜですか?それよりリーンが………」

「誰かに運ばせておけ!!ヨミ、お前はっ、お前というやつは!色々間違えておる!」

「ええ!?」


 なにが!?


「説教じゃ!幹部全員で説教してくれるわ!ヴィネル、さっさと全員呼び集めよ!」

「わかりました」



 な、なんで?ボク、なにかしちゃった?

ちなみに、首筋の意味は「執着」「所有欲」です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] てぇてぇ・・・尊すぎる。 ありがとうございます。
[良い点] そうかぁ、リーンの最期は尊死かwww
[良い点] あああああああああああぁぁぁぁぁああああぁぁ‼‼? (´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ..
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