吸血姫と告白
開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。
魔王軍最強と準最強、四魔神将が二人がかりでようやく相手できるほどの強敵。
ドラゴンゾンビというイレギュラー。
それを、魔王様が来たと思ったら、一瞬で倒してしまわれた。
「ヨミ。主も《神速》は習得しておったようじゃが、真の身体強化魔法とはあれだけではないのじゃ。限界以上に攻撃力を底上げする《神撃》、究極地点まで防御力を上昇させる《神鋼》。これを完璧に習得してこそ、身体強化魔法を極めたといえよう。参考になったか?」
「お、御見それしました………」
そうじゃろうそうじゃろうと言って、満足そうにうなずく魔王様。
きっと、身体強化魔法を使えるのが今までグレイさんしかいなかったから、自慢したかったんだろうなあ。
いや、でも実際、あれはやばい。
なにせ、元から魔王様は素のステータスが高すぎる。
天眼アルスで確認した、そのヤバすぎる力がこちら。
***
フィリス・ダークロード 真祖 Lv348
職業:魔王
状態:健康・邪神の加護・邪神の契約・魔力無限
筋力:247650
防御:187560
魔力:∞
魔防:198230
速度:215690
魔法:身体強化魔法、回復魔法、闇魔法、結界魔法
***
ちょっと意味が分からないですね。
全ステータス20万前後?魔力無限?レベル350弱?
普通に世界最強でしょこれ。
「しかし、消すのはもったいなかったかのう。限界まで弱らせて、ゼッドの支配下に入れられたやもしれぬのに」
「い、いやー、これが街中で闊歩するのはさすがに………」
「近所迷惑ですよね」
普通サイズのアンデッドならともかく、あれを住まわせる場所はさすがになかった。
巨人族の家なら何とかなったかもしれないけど、彼らが迷惑だろうし。
何はともあれ、私たちはディーシェ様の依頼を完遂したのだった。
※※※
「本当にありがとう!助かっちゃったよ!」
「い、いえ。私たちは何も………」
「は、はい。魔王様がいなければ危なかったかもしれないので」
「まあ、こちらとしても有益な成果が得られたし今回は良しとするが、その瘴気とやらは定期的に光魔法で浄化するのじゃぞ。また魔獣アンデッドが出たらたまらん」
「はい、そうします。まさかドラゴンまでアンデッド化してるとは。これからは定期的にここに来て、フランかティアナちゃんあたりに浄化してもらうことにします」
魔王城に戻ってきた。
つ、疲れた………。変なところで体力使った。
「最終決戦も目前だというのに、余計なところで体力使わせるでないわまったく」
「ほとんど体力なんて使っていなかったじゃないですか。相変わらずの無双は健在で安心しました」
その後、いくつか魔王様と言葉を交わした後、「いつでも遊びに来てね」と私たちに言って、ディーシェ様は帰っていった。
「魔王様。先ほど、最終決戦も近いとおっしゃっていましたけど」
「おお、そうじゃ。先ほどサクラから連絡があってのう。聖神国に繋がる、最後の国と砦を落としたそうじゃ」
ついに。ついにか。
私が魔王軍に入ってから十二年。ヨミが加入してから九年。
魔王軍のために身を粉にして働き、人間への復讐にこれまでの人生を費やした。
全てはヨミ以外の人間のいない、魔族だけの平和な世界のため。
「しかし、やはりさすがに敵の軍も手練れ。こちらにも相当な被害が出ておる。再編成にそれなりの時間がかかってしまうのう。じゃがまあ、空間魔法を駆使すればそう長い時間ではなかろう。当然じゃが、主らにも存分にその実力を振るってもらうぞ」
「もちろんです!」
「かしこまりました」
「では、もう行ってよいぞ。ご苦労じゃったな」
いよいよ、最後の戦いが近い。
神器の調子とか、修行とか、常に万全の状態を維持できるようにしておかないと。
「………」
「ん?ヨミ?」
なんだろう。何やら熱い視線を感じるんだけど。
「どうしたの?」
「んー………」
なにか、うんうんと唸って悩んでいる。
こっちをちらちらと見て、やがて意を決したように私に詰め寄ってきた。
「リーン」
「え?え、あ、なに?」
「戦いが終わったらさ。言いたいことがあるんだ」
すごく一見いつも通りの顔だけど、どことなく真剣さがにじみ出ている。
なにか、すごく重大な話ってことは、私でも感じ取れた。
………ただ、ね。
「ヨミ、ごめん。それ死亡フラグ」
「へ?」
『この戦いが終わったら大事な話があるんだ』。この言葉を吐いたやつは、その直後の戦いで高確率で死ぬ。
『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ』の亜種みたいなもの。純然たる死亡フラグ。
そんな言葉を残さないでほしいんだけど。縁起悪すぎる。
「何か言うことがあるなら、ここで言っちゃってよ。気になるじゃん」
「うーん………どうしよっかな。正直、それでもボクはいいんだけど」
なんだ、今言っていいってことは、大した用事じゃないのかな。
お皿を割ったとか、お風呂壊したとか、そんな感じ?
「うん、決めた。今言うよ。しぼうふらぐ?って何か知らないけど、リーンが言うなら、なにかまずいものなんだろうし」
「そうそう、負のフラグは最初から叩き折っておくのが一番だよ」
別に、何を壊してたって怒りはしないよ。
あ、でも前に買ってあげた超フリフリの服をこっそり返品したとかなら、さすがにちょっと怒るかな。
罰として、超かわいいゴスロリ服ファッションショーやってもらおう。そうしよう。
「ねえ、リーン」
「なに?」
あ、そういえば、ヨミがちゃんと私に話しかけてくれるようになってる。最近様子がおかしかったけど、何だったんだろ。
ははーん、やっぱり、何か壊しちゃったんだな?それでいたたまれなくて、私と距離を置いたってことだ。
どうよ、この名推理。これなら辻褄が、
「ボク、リーンのこと好き」