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転生吸血姫と元勇者、人類を蹂躙する  作者: 早海ヒロ
第六章 転生勇者編
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転生勇者の最後

 斬られた。

 それを理解した瞬間、俺は全身に力を込めた。

 すると、斬られた首と両手両足がくっつき、瞬時にその場を離脱することができた。


「うぐあっ………………!はあ………はあ………」

「ああ、そっか。細切れにしないと死なないんだっけ。すっかり忘れてたよ」


 ヨミはたいして驚いた様子もなく、つまらなそうに二本の剣を抜き、こちらを見据えてきた。


「困るんだよね。ボクは昨日ようやく仕事を終えて、久しぶりの休暇を楽しもうと思ってたのに、君が現れてくれたせいで台無しじゃないか。寿命が尽きるまで引きこもってくれてればよかったのにさ」


 二本目の剣、『魔剣ディアス』を抜いた。未確認の俺の神器があるのに。ということは、ヨミはもう、次で俺を完全に殺す気なんだ。

 俺はどういう選択をすべきか。勇者の特殊能力である思考加速を使い、考えた。

 そして俺がとった行動は、


「じゃあ、サヨナラ………え?」


 ()()()()()()ことだった。



 ※※※



「どこ行った?ああもう、予想以上に速いし隠れる場所多すぎだし最悪!」


 俺は森の木の裏に身を隠し、神器『鈍剣ヴァレル』の奥の手ともいえる技を使うことにした。

 決意したら即行動に移し、俺は鈍剣を地面に突き立てた。


「(頼む、間に合ってくれ!)」

「ああ、面倒くさい。………そうだ、こうしよう。隠れる場所があるなら、それをなくしちゃえばいいんだ。《身体強化(フィジカルブースト)―――飛撃・斬撃巨大化・円撃・身体能力向上》」


 身体強化魔法によって強化されたヨミは、居合斬りの姿勢を取り、そのまま注視しなければ目で追いきれない速度で、抜刀し、回転しながら剣を振った。


 次の瞬間、森の木々はすべて切断され、森は丸裸にされて、俺の胴体も斬られていた。


「ぐあっ………!くそっ!」

「あ、いた」


 ヨミはこっちに向かい、再び飛撃を放ってきた。

 俺に向かってくる斬撃はもちろん、俺の避ける先を予測した攻撃まで間をおいて放ってくる。


 もう少し。きっともう少しだ。


「さて、遊びはこれくらいにして、そろそろトドメ………を………?」


 ヨミの言葉はしりすぼみになり、ヨミは調子を確かめるように、体を動かした。


「なにこれ。体が、重い?しかも少しずつ、強く………」


 きた!



『鈍剣ヴァレル』の真骨頂。それは、『重力増加』。

 地面に突き立てることによって、周辺にかかる重力の強さを、段階的に強くする。

 もちろん使用者は対象外。剣を引き抜いても、俺が解除しない限り、増加した重力はそのまま。


「なるほど、重力を操作したんだね。けどボクを吹き飛ばさないってことは、向きを変えることはできない。ただ強くするだけ。しかも一気に強くすることはできない………だんだん見えてきたね」


 だが、まだだ。あの厄災を止めるためには、こんな重力じゃ足りない。

 なんとか、時間を稼がなくては………!


「速度や重さを吸収する神器………『鈍剣ヴァレル』かな?」

「―――!?」


 なぜ。

 なぜ、ヨミがこの神器のことを知っている!?


「驚いた?昔の記憶を少しずつ取り戻してるおかげで、その剣のことも思い出したよ。ボクに与えられる神器の候補の一つだった剣だ。最終的に選ばれたのはこの『魔剣ディアス』だったけどね」


 俺が絶句していると、ヨミは何を思ったのか、左手に持っていた神器『終剣アリウス』を鞘に納めた。


「神器の種さえわかってしまえば、話は簡単だね。じゃ、せめて神器殺しのアリウスは使わないでおいてあげるよ。………じゃ、そろそろ殺すから」


 そう言い、神速でこっちに来たヨミは、刺さっていた俺のヴァレルを引き抜き、こちらに投げてきた。



 ※※※



 戦いは一方的だった。


「うおおお!!」

「遅い。遅すぎる。君自身も、剣も、思考も。何もかもが遅い」


 俺は何百回と切りつけたけど、一度もヨミには当たらず、避けられ、時にはディアスで受け流された。

 俺が行ったわずかな重力増加は、ほとんど効果を成さず、ヨミは軽快に動いていた。


「ほら、どうしたの?ボクを止めるんだよね?そんなんじゃ、一生かかったってボクには当たらないよ」

「………………!」


 だが、おかしい。どうしても腑に落ちない。

 なんで、ヨミは俺を殺さないんだ?


 ヨミの剣速なら、俺を細切れにして殺せる瞬間はいくらでもあったはずだ。

 俺でも「これは死んだ」と思った瞬間は何度もあった。

 なのに、ヨミは俺を殺さなかった。


 おかしい点はもう一つある。

 なんで、ヨミはわざわざ魔剣ディアスを使う?


 俺の鈍剣ヴァレルは、生物以外の物質に対しては、その重量を操ることができる。

 何度も触れている以上、あの魔剣の重量は恐ろしいものになっているはずだ。

 それがわかっているはずなのに、なんでヨミは………。


 違う。()()()()()()

 なんで………ヨミは、重くされてる剣を振ってるのに、()()()()()()()()んだ!?


 そしてそう思った直後、俺はその理由を知ることになる。



「………うん、そろそろいいかな」


 ヨミはそういうと、俺とは全く違う方向に、剣を振った。


 すると、その斬撃は地割れを引き起こし、その先にあった()を切り裂いた。


「は?………は!?」

「うん、いい感じ。いや、君には感謝しなくちゃね。ボクの愛剣、()()()()()()()ありがとう」

「!?」


 まさか………まさか!?

 そういうことか!?


「ボク並みのステータスになるとね。この魔剣ですら、軽く感じちゃうんだよ。やっぱり剣は重みが欲しいよね。けどこれ以上に重い剣なんてないし、諦めてたんだ。でも、ふふっ。そっか、その神器があったんだよね。それさえあれば、ディアスを強化できる」


 冗談じゃない。

 俺は、武器を重くして、相手を追い詰めてるつもりで。

 実際は強化していた、っていうのか?


「その剣はもらうよ。重くできる神器なんて、修行にこれ以上なく最適な神器だ。………けどその前に、付属品(キミ)が邪魔だね?」


 俺は、動けなかった。

 少しずつ、少しずつ、追い詰めてるんじゃないかって。心のどこかで錯覚していた。

 けど違った。俺は、こいつにとって、いつでも殺せる塵芥みたいな存在だったんだ。


「は、はは………ははは………」

「あれ、壊れた?なんで?まあ、なんでもいいか。じゃ、サヨナラ」


 そして、俺にヨミの剣が迫ってきた。


 ああ、俺はこのまま、何も成せないままに死ぬのか。

 人類も救えないままに、こんなところで、あっさりと。




 頭に駆け巡った走馬灯も、もはやほとんどどうでもよかった。

 ただ一つ。好きだった、彼女を除いて。


 千条夜菜さん。リーン・ブラッドロード。

 最後に考えるのは、やっぱり彼女のことだった。


 俺は、前世で彼女を救えなかった。

 だから今世では、救おうと。間違いを正そうと、そう誓っていた。

 けど、その考えは間違いだったんだ。とんだお門違いだった。


 俺は、俺が彼女にとっての『唯一心を許せる人間』に、なりたかっただけだったんだ。

 身勝手で、勇者にあるまじき、下賤な願い。

 しかもその存在は、とっくの昔に別の人間がなってしまっていた。

 そしてその存在は今、俺の体をバラバラにしようとしている。


 ヨミ。俺が目の敵にしていた彼女が、あの人にとっての、特別な存在になってしまっていた。

 俺じゃなかった。彼女の求めた人間は、人間を正そうとする人間じゃなかった。

 同じように、人間を滅ぼそうとしてくれる、ヨミだった。


 もっと早く気づいていれば………俺も、もしかしたら………心を開いてもらえたのかな。



 その自問の答えを見つける前に、俺の意識は途絶えた。



 ※※※



「ほ、法皇猊下!!大変でございます!!がっ………」

「………勇者ゼノがどうかしたのか」

「はっ………そ、それが………勇者様の生命反応が………」

「………消えたのか?」

「………左様にございます」

「………そうか。報告ご苦労。下がれ」

「は?………は、ははっ。かしこまりました」




「………勇者アヴィスは死に、覚醒した力を持つ勇者ゼノもその命を失ったか。なんということだ。まさか、ここまで………」













「あの道具が裏切ったこと以外、()()()()()()()()()()

さて、なんか感想でめっちゃ嫌われてた勇者君も死に、ここでまた一つ、区切りがついた感じです。

次回で、『転生勇者編』は最後となります。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴミクズでGよりうっとおしいカス勇者がヘイトためるだけ溜めてくたばったのがよかったです。
[一言] やっとしつこい勇者死んだかw
[一言] まさかの法皇が女神を利用して神へと至ろうとするとかなら草 ミザリー vs 神へと至ったヨミとリーンのコンビとか4649
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