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転生吸血姫と元勇者、人類を蹂躙する  作者: 早海ヒロ
第六章 転生勇者編
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転生勇者と厄災再び

「うおおおお!!」

「多少私の速度を奪ったところで………」


『鈍剣ヴァレル』の力で上乗せされた速度で、俺はリーンに立ち向かう。

 けど、当たらない。すべて読まれているかのように躱される。


「必要以上に無駄に動いてるお前と違って、私は必要最小限の動作で体を動かしてんの。ちょっとこっちを遅くして、そっちが速くなったからって、絶対的なプレイヤースキルの差は縮まんないのよ。そんなそこらの剣術にちょっと毛が生えた程度のもの、ヨミの動きを十年近く見てきた私には当たらないから」

「く、くそっ………」


 生来の身体能力、戦闘のセンス、経験、操る術の数。全てにおいて、格の違いを見せつけられる。

 戦えば戦うほど、その背が遠くなっていく気がする。

 もうわかってる。俺じゃ、彼女には勝てない。


 でも、何故だろう。わかっているのに、体が止まらない。

 ヨミが来る前に逃げるべきなのに、俺はリーンに攻撃を続けている。自棄になったように。


 いや、その理由ももう、わかっているんだ。


「はあああ!」

「………足止めしてる私が言うのもあれだけど、なんで逃げないの?」


 どうしてだ。

 どうして、俺じゃないんだ。


 さっき、リーンはヨミを例外と言った。

 そして、それは本心なんだろう。

 ヨミについて話すリーンの眼は輝いていたから。


 なんで、ヨミなんだ。

 もし俺がその立場なら、俺が彼女の『例外』になっていたかもしれないのに。

 リーンとヨミが信頼し合っているのは、二人が同じ場所にいたあの短い間でも、感じ取れた。


 ああ、そうだ。

 俺は嫉妬してるんだ。ヨミに。

 俺の初恋の人が、人間に向ける唯一の愛情を受けているヨミを。


 醜い嫉妬だ。勇者としてあるまじき思考だ。

 しかも、俺はその黒い感情を、リーンにぶつけている。

 自分でも意味が分からないままに。


「くっそおおおお!!!」

「なんだかわからないけど、まあこっちに乗ってくれんなら好都合だわ。このまま戦闘を引き延ばして時間稼ご。あと五分もかからないでしょ」


 そのまま、初撃以降一度も剣を当てられないまま、数分。

 俺の黒い心はそのままだ。

 でも、やみくもに攻撃していたわけじゃない。


「追い詰めた、ぞ!」

「!………あー、そういうこと。壁際まで追い詰めたかったのね」


 剣で誘導を続け、漸く崖下の壁までリーンを追いやった。

 これでもう、俺の剣から逃げられない。


「殺しはしない。けど、神都まで連行させてもらう!」

「それ、実質死刑宣告だと思うけど。………まいっか」


 リーンは構えを解いた。どうやら諦めたみたいだ。

 俺は彼女を気絶させるため、剣の刃がない部分をリーンに向かって構えた。


「おおおお!!」


 そして、リーンをっ………



 ――――キィィン!!



 俺の剣は、リーンの意識を奪う前に、別の剣に阻まれた。


「こんな攻撃、普通に避けられたよ?別に庇ってくれなくてよかったのに」

「わかってるよ。けど、万が一ってことがあるから。リーンに傷ついてほしくないからさ」

「え、なにそれ、かっこいい………」


 俺の剣を止めたのは、勿論、俺の天敵。


「ヨミっ………!」

「やあ。また会ったね、勇者くん」



 ※※※



「リーン、足止めお疲れ様。こっちはボクに任せて、フラン様たちの援護に行きなよ」

「オッケー。じゃあよろしくね。あ、あとそいつの剣は神器だから、ディアスは使わない方がいいよ」


 それだけ言って、リーンは行ってしまった。


「あ、待っ………」

「おっと。リーンを追うのはやめてよ。ボクが相手してあげるからさ」

「………どけ。俺はお前より、リーンに用があるんだ」

「いやだよ。リーンにはリーンの仕事があるんだ。(人間)の都合で、親友の邪魔をさせるわけないだろ?」


 リーンのいる場所に行けない苛立ち。

 リーンを『親友』と言うヨミへの嫉妬。

 俺の心は、もうどす黒い気持ちでいっぱいだった。


 けど、俺はヘレナさんの話を思い出し、正気に戻った。

 ヨミに対して、憐れみを感じた、あの日の話を。


「………一つ、聞かせてくれ」

「なに?手短にね」

「お前は、元勇者、なのか?」

「うん、そうだよ」


 俺が絞り出した言葉を、ヨミはあっさりと肯定した。


「ヘレナが話してくれたのかな?そうだよ、ボクは君の二代前の勇者。かつて歴代最強候補と呼ばれた、人類の希望だった存在だ。まあ人間が扱いを間違ったせいで、今は魔王軍だけどね」

「『勇者兵器化計画』、か」

「そう。ボクは兵器として、人間たちに利用されていた。望んでもいなかったのに。勇者になんてなりたくなかったのに、ボクは壊された。リーンが止めてくれなかったら、今もそうだっただろうね」


 俺の言葉に、ヨミは凄絶なはずの過去を、サラリと話した。


「もしかして、ボクが苦しんでるとでも思った?憐れみでも抱いてくれたのかな?生憎だけど、そんなものいらないよ。その苦しみがあったからこそ、今のボクがあるわけだからね」

「………あの狂った計画に関しては、俺だって思うことはある。けど、少し。少しくらい、チャンスをくれたって良かったんじゃないのか?人間が、過ちを正すための時間を………」


 そこまで言った瞬間、俺は咄嗟に飛びのいた。

 ヨミの姿が掻き消えたからだ。

 案の定、俺が飛びのく前のところに、ヨミが剣を振り下ろしていた。


「チャンス?チャンスだと?お前たち人間に、そんなことを言う権利なんてない。

 家族に売られ、故郷に裏切られ、一日中痛めつけれれて、罵倒されて、挙句には一度殺されて!それを全く反省していない連中に、チャンスだと!?まして、ボクが受けてきた仕打ちを知らず、何不自由なく大切に育てられたお前が、そんな言葉をほざくな!」


 俺の言葉に激昂したヨミは、そう叫んだ。


「チャンスなんて、魔王様もイスズ様も、何度も与えてきた!それを受け入れず、魔族を見下し続けてきたのはお前たちだ!あんなにやさしい人たちを!ボクを人間だからと差別せず、受け入れてくれたみんなを!………だからもういい。ボクたちは、魔王軍は、イスズ様は、人間を見限った。じゃあボクだって、人間を殺す。もうチャンスも慈悲も与えない。リーンたちと一緒に、ボクは人間を絶滅させる」


 そう言って、ヨミは剣を構えた。


「………俺だって、人間は愚かだと思う。魔族だって、そんなに差別する必要あるのかって、そう思う。………けど、なにも皆殺しにする必要はないはずだ。人間にだって、愚か者なりに命がある。

 だから俺は、人間を内側から変える。滅ぼすんじゃなく、人間を救ってみせる。だから………お前たちは、引っ込んでろ」

「………あっそ」


 俺の言葉を聞いてなお、ヨミは心底つまらないという顔を崩さなかった。

 もう、彼女は絶望し、失望してしまっているのだろう。人間という存在が、これ以上良くなることはないと思っている。


「………どうしても、争わないといけないのか?手を取り合うことはできないのか?」

「できないね。ボクは人間が嫌いだ。嫌いなやつらと手を取り合って仲良くできるほど、魔王軍は心が広くないんだ」


 その言葉を聞き、俺も覚悟を決めた。

 剣を構え、相手を見据える。


「………じゃあ、俺たちは相容れないな。わかった、もうわかった。………俺が勇者として、お前たちを止めてみせる。絶対にっ」


 そこまで言って、俺は気づいた。

 目の前から、ヨミが消えていることを。

 そして。


「剣を抜いたってことは、死ぬ覚悟ができたってことだよね?」


 いつの間にか背後に回っていたヨミ。


 振り向き、攻撃しようとした瞬間。

 そこでようやく、俺は自分の首と手足がすべて切断されていることに気が付いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「親友」じゃなく「恋人(嫁)」って発言してたらあの勇者どうなっただろうね。発狂するかな?
[良い点] ゲームと同じように考えてる、ご都合主義、勇者がはっきりしていてとても読みやすいこと [気になる点] 勇者が来る前にヨミが帰っていたので、タイミングよく助けに来たのが少し「えっ」ってなってし…
[良い点] ん〜。流石勇者(笑)、すごく鬱陶しいですね! [一言] ヨミ、ナイス。スカッとしました!
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