吸血姫と元勇者と邪神2
うん、一日一回無理です。きっつい。二日に一回に戻します。
「リーンさん、私は感動しました。日本という国に」
いやいきなりどうしたんですか。
「未だ発展を見せていない私の世界がちょっとだけ恥ずかしくなりましたよ。天照ちゃん、すごくうまく世界を運営しているんですね。まさかここまでとは思ってもいませんでした」
いや、ですから何の話ですか。
そしてそれはもしかして、いま机の上に散乱しているコンビニスイーツの袋と何か関係があるんですか。
「そう!コンビニスイーツ!………侮っていました、ここまで美味しいとは。これがこんなリーズナブルなお値段で………日本、何と素晴らしいのでしょう」
まあ、昨今のコンビニスイーツは銘菓店にも負けない美味しさっていうのは結構有名な話ですけど、そんなこと話してる場合じゃないのでは。
覚醒勇者のこととか何とか、いろいろあるでしょう。
「え?では、これ食べないんですか?せっかくいっぱいもらったのに」
え?食べますけど?
※※※
「どうですかヨミ、お味の方は」
「………すごくおいしいです。何とかこれを再現できないか、ずっと考えてるんですけど」
「これ再現出来たら、ヨミはもう剣士引退してお菓子職人になった方がいいと思う。………いやそうじゃなくて」
ヨミも呼んで執り行われた、コンビニスイーツ食べ比べ大会。
いや女子高生か。まあ年齢的には女子高生だけども。
「なんか戦争のヒントくれるために呼んだんじゃないんですか?」
「リーンさん、最近私のことを、道に詰まったときに知恵を授けてくれるRPGゲームの占い師か何かと勘違いしてませんかね?いやまあ、そのために呼んだのは確かなのですけど」
合ってんじゃん。
「ご、ごめんなさいイスズ様。ボクがあそこで勇者を仕留められていれば………」
「いえいえ、あなたが気に病むことではありません。あれは私も予想外でしたから」
「でも、実際今の状況はやばいですよね。覚醒勇者はヨミにしか倒せない挙句、まだ『三柱』は全員健在ですから」
『神子』のルヴェルズ、『宝眼』のヘレナ、『天命』のゲイル。
そして覚醒勇者ゼノ。
四魔神将と同等か、それ以上の実力を持つのが四人。
正直かなり面倒だ。
「特に厄介なのはやはり覚醒勇者。ヨミにしか殺せないだけでなく、レベルアップによってそのステータスは平均四万を上回っています。昼のリーンさんにすら届いていませんが、一般兵にしてみれば十分な脅威。レイン以外の幹部すら相手にならないでしょう。となるとやはり………」
「聖神国との全面戦争より前に、覚醒勇者は潰しておきたいですよね。ヨミが自由に動けるように」
勇者の寿命は、どうせ半年以内に尽きる。けどその半年で、あいつが引き起こせる魔王軍の損害は計り知れない。
多分、人間と私たち魔王軍の戦争は、どんなに遅くともあと一年以内には終わる。それまでに、余計な邪魔者は排除しておかなければならない。
「幸いなことに、今回は最古参の魔王軍幹部であるフランとフルーレティアがこっちに協力してくれています。ですがフランは足に呪いを受けていますし、フルーレティアも前線から遠のいて久しく、全盛期とは言えません。結局、旧聖十二使徒の相手は四魔神将がすることになる可能性が高いでしょう。ルヴェルズに関しては、彼に恨みを持つ彼女たちが突っ込む可能性はありますが」
え、マジで?フルーレティア様ってあれで全盛期より下なの?
「ですからあなた方がやるべきことは、とにかく目立つことです。戦場に積極的に向かい、最速で周辺国家を攻め落としなさい。そうすれば嫌でも勇者を出すしかなくなるでしょう。そこにヨミを向かわせ、フルーレティアの結界でも張れば、勇者は何とかできると思います」
確かに、あいつがヨミと一対一で勝てるとは思えない。というか、ヨミとサシで勝てるのなんて、この世界に魔王様と満月の私、あとはルヴェルズくらいなんじゃないの?
それにしたって、ヨミがレベルアップすればその差は埋まる。だってヨミってこれでも私よりレベル低いし。
「いくら覚醒したところで、彼ではヨミには勝てません。技術が足りませんから。ヨミの剣術は、もう一般の剣士が一度も休まずに八百年以上鍛錬したのと同等の領域に達しています。覚醒勇者の自動回復が追い付けない速度で斬り刻むなどわけないでしょう。そうですよねヨミ?」
「もぐもぐ………」
「ヨミ?あの、最近忙しくて甘いものを求める気持ちはわかりますが、一応神の啓示くらいは聞いてくれませんかね?」
「え?………あ、す、すみません!」
目をキラキラさせてコンビニスイーツをパクつくヨミ。可愛い。
「えっと、何の話ですか?」
「ですから、覚醒勇者の対策」
「ああ、大丈夫です。動きの癖とか速度とか、全部見切りましたし、レベルアップした後のあいつのイメージもできてます。負けることはありません」
「………頼もしいですね。口にリスのように含んだチョコ饅頭さえなければもっと頼もしかったですが」
「いえいえ、ヨミはこれでいいんですよ。可愛いですしこういうマイペースなところが魅力ですし、なによりたまにかっこいいギャップがたまらないじゃないですか」
「リーンさんのヨミへの総評は聞いた覚えがないんですが。………まあ、そうですね。ちゃんと仕事は果たしてくれていますし、これくらいのご褒美があったっていいでしょう」
ヨミは特にシュークリームが気に入ったみたいで、山をかき分けてシュークリームを掘り当てている。
我が家のデザートにシュークリームが追加されるのも遠い未来じゃなさそうだね。
※※※
「ところで、前から思っていたんですけど。ここに魔王様は呼ばないんですか?」
魔王様もイスズ様の眷属だ。ここに介入する権限はあるはず。
「あー、それなんですがね。あなた方のところに上司が介入してきたら落ち着かないだろうと、魔王が言ってましてね」
「別に気にしませんけどね。ねえヨミ」
「うん、別に大丈夫だよ」
「あの、魔王の威厳とかそういう問題あるので、ちょっとはかしこまってあげてください」
そんなこと言われても。
「まあ、これは建前で、本当は恥ずかしいんだと思いますよ。あなた方に見られるのが」
恥ずかしい?
「魔王はフランの呪いによって口調が変えられているせいで、あの口調になると魔王スイッチが入るようになってしまったんですよ。ですからそれが唯一解除される精神世界であるこの神域に来ると………」
来ると?
「とんでもなくだらけるんですよ。疲れた、もうヤダ、魔王めんどいって。まああの子は私との取引で仕方なく魔王になった立場ですからね。気持ちはわかります」
ちょっと見てみたい気もするな。
「ていうかイスズ様、もしかしなくても魔王様が私の祖母だって知っていたでしょう」
「それはもちろん。魔王が直接言うっていうから言いませんでしたが、まさか十二年もかかるなんて思いませんでしたよ。干支一周してるじゃないですか」
干支の概念ないよ、この世界。
「そのたびに私が、『もうすぐリンカに会えますよ』と励ましたり、この間なんてなんて言われたと思います?『リンカの声で頑張ってフィリスちゃんって言ってほしい』とか言われましたよ。神に頼むことじゃないと思いません?」
「めちゃめちゃ面白いですねそれ。で、やったんですか?」
「仕方なく。一応神なので声を変えるくらいはできますし。散々甘やかした挙句、最後に『たまに心がこもってませんでした。七十八点ってところですかね』って言われた時はさすがにイラっとしたので、腹痛になる呪いをかけておきました」
いや仲いいな、あなた方。
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