転生勇者と宝眼
二日に一回の予定だったんですが、暇ができたので思い切って一日一回に戻そうかと思います。
頑張ります。あ、もう一つの新連載もぜひ。
夢を見た。
前世での光景。俺の初恋の人だった千条さんが、いじめを受けている光景。
今世での光景。大切な仲間たちに、頼りになる聖十二使徒。
そして………リーン・ブラッドロード。俺の思い人にして、人類の殺戮者。人間を憎み、滅ぼそうとする怪物になり果ててしまった少女。
そして、そのすべてを切り裂く、銀髪の厄災。
二本の剣を操り、俺の大切な人たちを次々に斬り刻んでいく。
やめろ、やめてくれ。
あいつを、あの戦神を、止めなければ———
※※※
「………はっ!?」
気がつくと、俺はベッドの上で汗だくになっていた。
二度寝できるような状態じゃなかったので、俺は水差しから水を注いで、一気にあおる。
ここしばらく、ずっと似たような夢を見ている。
俺の大切な人や場所、そういうものがすべて、たった一人の銀髪の少女によって刻まれる夢。
あの後、気絶した俺は医務室に担ぎ込まれ、翌日には目を覚ました。
覚醒勇者としての力の影響か、傷はすぐに癒えて、三日後には戦闘に復帰できるとまで言われた。明日から俺はまた、戦場に出ることになる。
正直………怖い。あの双剣を携えた銀髪の化物が再び襲ってきたらと思うと、それだけで鳥肌が立つ。
魔王軍四魔神将第一席『戦神将』ヨミ。勇者として『覚醒』し、限界を超えた力を手に入れた俺ですら、手も足も出ない………いや、それ以前の問題だった。
紛れもなく魔王軍最強にして………人間。
人間でありながら人間を裏切り、魔王軍に寝返った唯一の存在。
だけど、ただの人間なのに、覚醒した勇者である俺に、何度も致命傷を与えた剣術の天才。
「………人間の過ちによって生み出された厄災、か」
リーンの言葉、かつてミィアさんによって殺された魔王軍の兵士の言葉。
どういう意味だったんだろうか?
今日の昼間、復帰したことと覚醒したことを報告するため、俺は法皇ルヴェルズ様の元を訪れた。
その際、俺はあの方に聞いた。リーンが言っていた、あの質問を。
『法皇様、一つよろしいでしょうか?』
『なんだ?』
『………あなたは、というより聖十二使徒は。かつて、小さな女の子を虐待したことがありましたか?』
『………………………何のことだ?知らんな』
その後、全身に大けがを負って医務室で療養しているゲイルさんと、彼の見舞いに来ていたヘレナさんにも、同じことを聞いてみたけど、知らないという。
ただ、この質問をした際、二人の表情に変化があったのを、俺は見逃さなかった。
ゲイルさんは顔を引きつらせ、ヘレナさんは青くし、少し震えていたようにすら見えた。
※※※
「………結局、ヨミについては何もわからないままか」
ヨミの正体がわかれば、アイツに対する対抗策が見つかるかもしれないと期待したけど、そううまくはいかないか。
けど、ゲイルさんたちの反応で確信した。あの人たちは何かを知っている。
かつてあの人たちが起こした行動が、ヨミという怪物を生み出した可能性は高い。
そんなことを考えながら、もう一度寝ることに挑戦しようかと考えていると、コンコンと俺の部屋の扉がたたかれる音がした。こんな時間に誰だ………?
「………勇者様、起きていらっしゃいますか?私です」
この声は………。
「ヘレナさん?」
「はい。少々お話があり、参りました」
聖十二使徒序列第二位『宝眼』のヘレナさんだった。
なんだか親近感の湧く和服のような服に身を包み、いつもは胸を張って歩いている彼女が、今はなんだかつらそうに見えた。
「だ、大丈夫ですか?気分が悪いんじゃ………」
「大丈夫です、お気になさらず。………中に入っても?」
「あ、どうぞ………」
ヘレナさんを中に招き、お茶を出してお互いに座る。
そんな状況ではないとはいえ、超が付くほどの美人であるヘレナさんを部屋に招いているという状況に、多少居心地の悪さを感じた。
「それで、ヘレナさん。話って………」
「………はい。『戦神将』ヨミについて、私の知るすべてをお話しするために参りました」
それを聞いて、俺は思わず立ち上がりかけた。
やっぱり、聖十二使徒は何かを知っていた。でも、それは俺に聞かれたくないことだったから、隠していたってことだ。
「………この話をするべきかは迷いました。しかし、十二年前のあの出来事を、私はずっと、自らの罪だと思っていました。今でもそう思っています。ルヴェルズ様や各国首脳の命令だったとはいえ、あのような幼子を痛めつけ、壊した。………私はその手伝いをしていました」
「それは一体、どういう意味ですか………?」
「お話、致します。十二年前の狂った計画………『勇者兵器化計画』のことを」
※※※
「………以上が、私の知るすべてです」
すべてを聞き終えた俺は………動けなかった。
『勇者兵器化計画』………俺の二代前の勇者を、道具として利用しようとした、最悪の計画。
そして、その子を壊していたのが、当時から聖十二使徒だった、ヘレナさんやゲイルさん。それに、イーディスさんやノインさん、デューゲンさん、ハサドさんも、全員がその計画に加担していたという。
「まさか、その時の『勇者』が………!?」
「ええ。おそらく、その心を壊された先々代の勇者こそが、ヨミと名乗るあの少女の正体。我々は、サクラ・フォレスターによって殺されたものだと考えていました。ですが………」
実際は捕まっただけであり、そして人間への憎悪を胸中に宿していた彼女は、魔王軍に下った。
「弁解するわけではありませんが、私はあの計画に反対していました。いくらなんでも非人道的すぎると考えたからです。しかし私の言葉は届かず、計画は進められ………そして、今のこのような最悪の結果に」
「………ルヴェルズ様たちはなんて?」
「怒りに満ちていましたよ。ミザリー様に歯向かう人間の存在が許せないのでしょう。………私から言わせれば、ヨミが我らに剣を向けるのは当然です。なりたくもない勇者となり、親に売られ、姉に見放され、理不尽な暴力を幾多も受けてきた。………私が同じ立場でも、人間という種を憎むでしょうね」
………俺も、そう思う。
さっきまで、俺はヨミに対して激しい怒りを覚えていた。なのに今は、あいつが何故、かたくなに人間を憎むのか分かった今では、彼女の気持ちが痛いほどにわかってしまった。
『人間の過ちによって生み出された厄災』。まさにその通りだ。
※※※
『とはいえ、私は聖十二使徒としての責務を放棄する気はありません。私は、この愚かな人間という種族を愛しています。ここには、私の家族も、友人もいる。魔王軍に蹂躙されるわけにはいきません。もし私の前にヨミが現れたら、私は全力で戦います。………勇者様。いえ、ゼノ様。あなたはどうしたいのか、考えておいてください。ヨミを殺せないという判断をしても、私は責めません』
そう言って、ヘレナさんは出て行ってしまった。
ヘレナさんの話によると、ヨミが生まれたと思われる村は、大量の血の跡だけ残して消えていたらしい。
ヨミが元勇者だということはほぼ確定した。………しかもそうだとすると、信じられないことに、彼女は四年前に死んだ聖十二使徒の一人『天女』のミィアさんの、実の妹だという。
そして、ミィアさんはヨミによって殺されたという噂は、俺たちの間でも存在していた。
おそらく、噂は事実なんだろう。人間という種を恨み、憎み、自らの姉と両親まで手にかけた。
人間への憎しみを悟った魔王軍が、当時の勇者を捕まえて心を修復し、魔王軍の戦士として生まれ変わらせ、『ヨミ』という怪物を生み出した。
「………どうすればいいんだ、俺は」
あんなに憎くて憎くて仕方がなかったヨミが、今では憐れに思えてしまう。
信じていたものすべてに裏切られた。ただ、天才だったというだけで。
俺は、次に会ったとき、ヨミに立ち向かう自信が………少しずつ薄れていっている気がした。




