吸血姫とエルフ
「.......えっと、初めまして、リーン・ブラッドロードです。よろしくお願いします」
「あらまあ、小さいのに礼儀正しいですね。こちらこそよろしくお願いします」
なんか凄い慈愛顔を向けられた。
精神年齢は見た目通りじゃないとか言ったらどうなるんだろうか。
「.......えっと、じゃあ、.......ティアナ、さん?貴方が私を連れていってくれるんですか?」
「はい、お待たせして申し訳ございませんでした。ちょっと最前線で、人間の方々を二、三千ばかり、私の魔法で吹き飛ばしていたもので」
.......おおう。
礼儀正しくて、私みたいな子供(外見)にも丁寧語を使うような完璧超人感溢れる美人でも、やっぱり魔王軍の幹部だな。
めっちゃいい笑顔で凄いこと言ったよこの人。でもいい気味。
「貴方のお話も耳にしております、リーン様。私程度に推し量れるようなものでは無いでしょうが..........辛い思いをされたのですね」
「い、いえ、そんな.......」
.......私のことは、魔王軍で噂になっているのだろうか。
なっているんだろうな。吸血鬼族という「種」が人間によって滅ぼされて、その最後の生き残りなんて、話題性の塊みたいなものだ。
「.......では、そろそろ参りましょう。これから、我々の最重要拠点である、『魔王城』に転移致します。どうぞ、私にお捕まり下さい」
「あ、はい」
「では参ります。《転移》」
瞬間、私の前の景色がぐにゃりと曲がってそのまま消え去り、コンマ1秒後には全く別の景色が広がっていた。
そこはまさしく、ドラ〇エのラスダンみたいな禍々しい城.............じゃなかった。
いや、全体的に黒いんだけど.......なんだろう、どことなく品を感じるというか。勿論空も赤くない。普通に朝方で太陽出てる。
「ようこそ、魔王城へ。我々は貴方を歓迎します、リーン様」
※※※
「魔王城周辺には転移阻害の結界が貼られているので、ここから魔王様のおられる最上階までは、徒歩での移動となります。御容赦を」
そう言って歩き出すティアナさんの後をついて行き、城の中に入る。
こんな簡単に入れちゃって良いのだろうか.......と思っていると、私の思考を読んだようにティアナさんが、「私はある程度結界を突破出来るので」、と補足を入れてくれた。
城の中は、まさに荘厳という感じだった。
適度に調度品が下品でない程度に散りばめられていて、あちらこちらを色々な人達が行き来している。
その人たちの種族はまちまちだが、ただ一つ共通しているのは、『人間ではない』ということだ。
「おおティアナ様、お帰りになられたんですか」
「はい、彼女のお迎えに行っておりまして。仕事に戻ってくださって大丈夫ですよ」
「.......ああ、その子が例の.......分かりました」
やっぱり、私はこの城の中でも噂になっているらしい。
あちこちから私を見る視線を感じるし。
一応、敵意みたいなのは無いみたい。むしろ.......同情とか憐憫とか、そんな雰囲気だ。
「.......煩わしければ、透明化致しましょうか?」
「そんな軽いノリで言うセリフですかそれ.......大丈夫です、全然」
「そうですか、それならば良かったです。貴方の.......というより吸血鬼の件については、魔王軍の間でもかなり噂になっておりまして。その過程で、貴方のこともかなり有名になってしまいましてね」
.......私、そんなに有名になるようなことしただろうか?
表情で私の思考を察したのか、ティアナさんは苦笑して、
「.......普通の5歳の子は、人間を21人も殺せないでしょう?」
などと口にした。
いや、確かにそうだけど...................言われてみればそうだな。
しかし、その事をもう知っているとは、流石魔王軍の情報網、侮りがたしというところか。
「そういった訳で、貴方が多少注目の的になっている事は否めません。煩わしく感じましたら、いつでも言ってくださって結構ですから」
.......やっぱり良い人.......じゃない、良いエルフだな。
それからしばらく歩くと、小さいけどどこか落ち着く.......そう、子供の時に作った秘密基地みたいな、そんな感じの雰囲気がする部屋に通された。
「では、念話で魔王様にご連絡しましたので、もう少々お待ちください。その間、何かご質問等があればどうぞ」
質問.......か。無いわけじゃないけど.......
「.......あの、失礼を承知で言わせて頂きますけど.......その、エルフって、人間に味方してるイメージがあったのですが」
.......言っちゃった。
やっぱり気を悪くするよなー.......でも、好奇心を抑えきれなくて.......
そんな私の思考とは裏腹に、ティアナさんは嫌そうな顔をせず.......むしろ、不思議そうな顔で、
「.......随分と昔のイメージをお持ちなのですね?確かに、私達エルフ族は人間と共存共栄の関係を結んでいたこともありましたが、400年以上も前の事ですよ?」
と答えてくれた。
「.......ああ、なるほど!もしかしてリーン様は、魔王軍に加入しているのが魔族のみというイメージをお持ちでしたか?」
「あ、はい.......だって、魔族の王が束ねているから、『魔王軍』ですよね?」
「いえ、それは違うんですよ。魔王軍というのは.......『人間以外の全ての種族の連合軍』なんです」
「.......え?」
.......え、なに、要するに、人間vsその他全種族の戦争をしてるってこと?
「約500年前、人間がミザリーを狂信し始め、魔族を敵視し始めた頃です。当時の人間は、魔族でない我々に対しても、『ミザリー様こそ絶対だ、ミザリー様以外は神ではない、ミザリー様を信じない者は知的生命体ではない』.......などという、意味不明な暴論を振り撒き、それに逆らう種族を、殺したり、奴隷にしたりなど好き放題を始めました」
「魔族以外にもそんな事を!?」
「その通りです。結果、私達エルフは早々に人間を見限り、イスズ様からその加護を賜わった魔王様に保護を求めることで、生き延びました。それにならい、他の種族も次々と魔王軍に寝返り.......結果、今のような戦局になった訳ですね。今や人間達は、我々エルフを始めとした、正属性に偏っている種族も、『魔族』と定義しているようです」
.............分かってはいたことだけど、本当に救いようがないな、人間。
「それでも、総数で見れば我々を遥かに上回っている当たり、この世界の人間の占める割合が大きすぎるのが分かりますね。.......あ、準備が整ったようです。魔王様のおられる最上階へ、御案内致します」
.......いよいよ、魔王と対面ですか。
前世のRPGの影響で、良いイメージを持ちづらいけど.......
私.......睨み殺されたりしないよね?