吸血姫と最古参たち
ちょっと短めです。
「と、いうわけでじゃ。最古参の幹部であるフランとフルーレティアが、一時的に復帰することになった。よくしてやっとくれ」
「はーい、みんなよろしくー!」
「いやちょっと待ってちょうだい」
幹部会議が開かれ、療養中のサクラ君とグレイさんは以外の全員が集められ、フラン様の魔王軍復帰が報じられた。
………それだけのはずだったんだけど。何故か、もう一人の最古参、フルーレティア様までついてきた。
「………ねえフィリス、なんでワタクシまで幹部復帰って話になっているのかしら。了承した覚えはないわよ?」
「仕方がないじゃろう。グレイもサクラも手傷を負い、魔王軍は人手不足なのじゃ。覚醒勇者を倒せないまでも、ヨミが来るまで足止めできるくらいの人材は揃えておかねばならん。我が軍でそれができるのは、今の状況ではリーンとレインだけじゃ。これでは足りんと思ってのう」
「だからって、今は一介のメイドであるワタクシを呼ぶかしらね」
「まあ無理にとは言わんが。じゃが言っておくが、覚醒勇者に万が一ルーズが出会ったら、こやつでは手も足も出ずに殺されるぞ。主はそれを、安全な場所で聞くだけの存在となるわけじゃ。それでも良いというならば」
「やあねフィリス、ワタクシとあなたの付き合いじゃないの。もちろん協力させてもらうわ。ワタクシの力、存分に使ってちょうだい」
ルーズさんを溺愛するフルーレティア様にとって、看過できない話だったらしい。
「あははは、レティ、あんたこんな若い子にお熱なの?なに、ショタコン?」
「ショタ!?我が!?」
「ちょっと、失礼なこと言わないで頂戴!男の「お」の字も知らずに育った単為生殖者!」
「………フラン様自分で自分の子供を作って生んだって噂、マジなのか」
「ええ、本当ですよ。姉様はそういうことを平然とやってのける、頭のおかしい天才ですから」
「ちょっとひどいなー、ティアナ。姉に対するリスポーンてやつが足りないね」
「リスポーン………?」
「………あの、もしかしてリスペクトって言いたいんですかね」
「そうそれ」
………前世の世界では兄弟の法則で、『どちらかがちゃらんぽらんだともう片方がしっかりする』なんて話があった。
なるほど、それは正しいらしい。そんなことを、このエルフ姉妹を見ながらしみじみと感じた。
※※※
「………というわけじゃ。どうせ放っておいても、半年で勇者は死ぬ。じゃが、魔王軍に危害を加えるというならば、その短い寿命もさらに短くなってもらわんとな。ヨミ、もしもの時は任せたぞ」
「お任せください」
「それと、聖十二使徒の第三位未満が廃された以上、魔王軍の兵士を脅かす強さを持つ者は少なくなった。これはチャンスじゃ。一気に聖神国の周辺国家を突き崩し、人類に王手をかける。覚醒勇者、及びヘレナとゲイルにだけは気を付け、侵攻作戦を開始する!」
その後、時間をかけて作戦会議は行われ、朝十時に始まった会議は、休憩を挟んで夜八時まで行われた。
さすがに精神的に参った。癒し………癒しはどこだ………。
「リーン、大丈夫?帰ろ?」
あ、ここにいた。
このまま疲れを装って、胸に倒れこむか。よしそうしよう。
「疲れたあ………………………」
「きゃっ!大丈夫?ほら、よーしよーし」
なるほど、ここが天国か。頭を撫でられながらヨミのそこそこ豊満な胸に倒れこむ。おっぱいいっぱいゆめいっぱいとはまさにこのこと。
「………やべえ、疲れすぎて今のリーンの状態に殺意湧いてきた。俺もあんな風に誰かに癒されてえ………」
「あんた、アラサー独り身だもんね。ご愁傷様」
「てめえに言われたかねえよ!千六百歳超えの独りもんが!」
「アタシは無限の寿命を持つ、そもそも結婚っていう文化がない妖精族だもの」
ヨミの胸を同性として合法的に触れる。これだけで、女の子に生まれてよかったと思うわ。
やばいな。深呼吸してみようか。いや、さすがに気付かれるかな?
「(ねえねえフィリス、あんたの孫、割と大きめの扉開いちゃってない?)」
「(ああ、それはもう九年前からずっとじゃ。あやつのセクハラを見慣れなければ、今の幹部はやっていけんぞ)」
「(八歳からああなのね………。間違いなくリンカの血よ。いつか直接ヨミちゃんの首に牙突き立てて血を吸い始めたりしないか心配だわ)」
「(ああ、それはもうやらかした)」
「(やったの!?)」
やったね。私自身は記憶がないけど、吸血衝動のせいでヨミの血をごくごくと直接飲んだことがある。
すっごくおいしかった記憶だけはある。
「………ティアナ、リーンって昔からあんな感じなん?」
「昔からあんな感じですよ。年々エスカレートしてますね。胸の成長を促すためと言ってヨミさんの胸を揉みしだいたり、間接キス確信犯はよく見る光景です。ああ、ヨミさんにかわいい服を着せたいがために、魔王様の呼び出しを無視しようとして、魔王様に挑み、返り討ちにされたこともありましたね」
「あたしが言うのもあれだけど、あの子大丈夫?」
「想像以上にレベル高かったわ」
うるさいな。
私は同性という立場をフル活用して、ヨミと親交を深めるスキンシップを図ってるだけだっての。
「あ、セクハラで思い出したわ。………ヴィネル、あんたうちのサクラに随分と好き放題やってくれてるんだって?」
「ギクッ!?ちょ、覚えてたんですか!?フランのことだから、聞いてても忘れてると思ってたのに!!」
「セクハラは日常茶飯事、時々貞操も狙ってるらしいじゃん?………ねえ、あんた知ってるよね?あたしがどれだけ手塩にかけて、サクラを育てたか。昔馴染みってことで安心しちゃってたよ、あんたがそーゆー悪魔だってこと忘れてた。ちょっとここらで、そのねじ曲がった性癖、叩き直してあげる必要がありそうね?」
「ちょ、ちょっと待ってくれませんかねえ?フランの本気の攻撃なんか受けたら、私なんかチリ一つ残さず吹っ飛びますよ?いいんですか?私がいなくなったら魔王軍の損失は計り知れませんよ?」
「そーゆー難しいことは、取り敢えずあんたをぶっ飛ばしてから考えるわ」
「そうでしたね、あなたはそういう人でしたね!………ちょっ、レティ、助けてくれませんか?」
「フラン、遠慮することはないわ。今までのこいつの悪行の数々、ここで償わせちゃいなさい」
「がってん」
「レティ!?………あ、ちょ、待って………ひいいい!?」
………何やってんのあの人たち。
「ね、ねえリーン。いつまでボクの胸に頭押し付けてるの?そろそろいい?」
「お構いなく」
「いつまでやっとるんじゃリーン。いい加減離れてやれ。………おい最古参のアホども、お前らもじゃ!さっさと帰れ!!」