吸血姫と合流
私の目の前で、里が燃えていく。
今日の朝まで平和だった、私の故郷が、瞬く間に消えていった。
今日の朝、今夜の予定について話し合った友達。
今日の朝、笑顔で『また今夜』と言ってくれた両親。
そんな幸せな時間が、一瞬のうちに消えていった。
『リーン、とにかくお前は母さんと共に逃げなさい。私もすぐに追いつく!』
『.......すまない、リーン』
『ここで貴方が逃げるまでの時間を稼ぐ』
『お願い、リーン。私に、娘を守らせて』
いくら手を伸ばしても、お父さんにも、お母さんにも、友達にも届かない。
嫌だ、待って、置いていかないで。
私の.......やっと見つけた、居場所.......!
※※※
「.......はっ!?あっ.......?.......はぁ.......はぁ.......」
吸血鬼の里の跡地に、即席で作った粗末なあばら家。
現在、そこで寝泊まりしている私は、そこで思わず飛び起きた。
.......ダメだ、またこの夢だ。
吸血鬼の里を、人間によって滅ぼされてから、今日で一週間経った。
既に仲間達の遺体の埋葬はほぼ終わって、今はトレーニングに明け暮れる日々だ。
で、朝になったら眠って.......この悪夢を見て飛び起きて、ろくに眠れず、寝付きを良くするために運動して、また疲れ、眠って、また悪夢で飛び起きるというこの悪循環。
これが、一週間続いている。
おかげで、まだ5歳なのに、目の下にクマができてしまった。いや、前世の年齢含めれば20歳超えだけどさ。
多分、ここが件の事件があった現場だってこともあるんだと思う。ここにいると、どうしても、幸せだった時のことを思い出してしまうから。
.......それでも私がここを離れないのは、勿論、理由がある。
私の意識に干渉してきた、イスズ様の言葉。
『意識が戻ったら、魔王軍の迎えが来るまで、数日間お待ちください』
そう、私はずっと、魔王軍の迎えを待っているのだ。
イスズ様の計らいで、私は魔王軍に身を寄せることになった。
『魔王』にも言伝をしてくれたらしいし、本当にあの人いい神様だよね。
人間共が信仰する、女神ミザリーとは偉い違いだよ。いや会ったことないけど、あんな人間量産する女神なんかに、良いイメージ抱けって言う方が無理でしょ。
で、この一週間、ずっと待ってるんだけど.......
「.............遅くない?」
うん、こう言っちゃなんだけど、遅い。
迎えに来てもらう立場で言うことじゃないのはわかってるんだけど、遅い。
普通『数日』って言ったら、三日四日のイメージない?私が間違ってる?
いや、私が仲間を埋葬するための時間をくれるために、長めの期間を取ってくれたのは分かるよ、イスズ様。
でも、一週間は、正直長すぎる。このままだと私、不眠症になっちゃう。
※※※
取り敢えず、最悪の目覚めを振り払うように顔を洗って、いつもの日課の為に外に出た。
.......日課っていうのは、まあ、お墓参りだ。
200人以上の仲間達のお墓を、1つずつ自作した。
この世界のお墓の作り方なんて知らないから、前世の日本みたいな感じで。
お父さんとお母さんのお墓は、私達の家が建っていた所に造った、けど.......その下に、お父さんの遺体は、ない。
あの事件の後、何度も確認したけど、やっぱりお父さんの遺体は見つからなかった。
あの人間の言う通り、今頃は人間の国で晒し者になっているのかもしれない。
.......そう思うと、悔しさや怒りで、また涙が出そうになる。
「.......ダメだ、泣くな」
そうだ、この気持ちを全て、人間への憎悪へ変えろ。
それが、私の特殊職業『復讐者』の力になるんだ。
『復讐者』は、復讐対象に対する憎しみの感情に比例して、対象への優位性が上昇するんだから。
「.............よし、お墓参り全部終わりっと。じゃあ、森に向かうか」
これも私の日課。森に入って、ひたすらにトレーニング。
これでステータスの底上げをして、レベルに依存しない体を手に入れるのだ。
あははっ、待ってろよ人間共。
沢山努力して、お前らを皆殺しにしてやるから。
※※※
「.......今日はこのくらいかな」
森に入って、実に8時間。
時々休憩を挟みながらも、体を鍛えまくった私は、里に戻ってきた。
この1週間、レベルこそ変わらないものの、少しずつステータスは伸びてきている。
それでもレベルアップによる恩恵に比べれば微々たるものだけど、やらないよりはマシだろう。
何せ、仮に一週間で『1』しか上がらなかったとしても、1年続ければ『52』、今の私の、レベル5アップと同じくらいの力がつくのだ。やらない理由はない。
「.............寝るかあ」
お墓参りをして、トレーニングが終わってしまえば、もはや私にやることは無い。
またあの悪夢を見る羽目になるんだろう.......と、半ば確信を抱いて、憂鬱なままあばら家の戸を開け、
「おや、漸くですか?お帰りなさいませ」
「―――っ!?」
超スピードで飛び退いた。
.......あばら家の中に、先客がいた。
一瞬のことでよく見えなかったけど、聞こえてきた声は女性のもの。だけど、魔法という概念が確立されているこの世界では、女性だからと油断するのはバカの極みだ。.......いや私も女だけど。なんなら女児だけど。
最大警戒態勢をとる私を他所に、ゆったりとあばら家から出てきたのは、猛烈な美人だった。
妙齢の美女というのはこんな女性のことを言うのだろうか。10代と言われても、30代と言われても違和感のないような女性。
金髪ロングの髪に小さなティアラを付けてるのが、可愛らしさすら醸し出してきている。
あと、なんだあの胸。うちのお母さんくらいあるぞ。何あれ、スイカ服に入ってる?
「.......何故でしょうか、殿方もいないのにセクハラを受けたような気がします」
.......って、何を批評してるんだ私は!?
敵だったらどうすっ.......
そこで私は漸く、その特徴的な耳に気がついた。
人間よりも遥かに長く、尖ったその耳。その特徴を持つ種族は、前世の世界でもよく知られ、この世界でもまたそのイメージ通りである―――
「.......エルフ?」
「はい、その通りです。貴方は、吸血鬼族のリーン・ブラッドロード様でよろしいですか?」
「.......そうですけど」
いや、何を正直に答えてるんだ私は。
エルフと言えば、前世では人間のチート男主人公のハーレムに入ってる、人間以外の種族ランキングナンバーワン(独断と偏見)じゃないか!!
人間共の手先だったら.......
「初めまして、リーン様。私はハイエルフにして、魔王軍幹部序列第3位、『森林将』ティアナ・フォレスターと申します。魔王様の命により、お迎えに上がりました」
.........................。
.......あ、お迎えの方でしたか。
4/15追記
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6/19追記
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